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過怠約款付分割支払債務消滅時効起算点についての地裁裁判例紹介1

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平成30年11月23日(金):初稿
○「過怠約款付分割支払債務消滅時効起算点についての最高裁判例紹介」の続きです。
この最高裁判決より古い地裁判決ですが、金銭消費貸借の返済につき、割賦金を2回以上期日に支払わないときは、債務者が期限の利益を失い、直ちに債務を完済すべき旨の特約が存在している場合においては、債権者は割賦金の弁済が2回怠られた時点から全額請求することができるようになるため、債権者がたとえ請求しなくとも、消滅時効は、2回分の割賦金の支払が怠られた日から全額につき時効が進行したものであると解するのが相当であるとした平成39年8月15日東京地裁判決(判時392号54頁)を紹介します。

○期限の利益喪失約款には、「債務者が分割金の支払を2回分怠った時は、期限の利益を喪失し、債権者は残債務全額の支払を請求できる」との例と「債務者が分割金の支払を2回分怠った時は、当然に期限の利益を喪失し、債務者は残債務全額を直ちに支払う」との例があります。

○昭和42年6月23日最高裁判決での約款は、その控訴審判決理由中に「控訴人ら連帯債務者が前記半年賦払その他の約定に違反したときは、琉球銀行の請求により、償還期限にかかわらず直ちに残債務の全部または一部を弁済すること、との約定があつた」とされており、前者の例です。したがってその結論を認める余地があります。

○しかし、平成39年8月15日東京地裁判決での約款は「A及び原告が右割賦金を2回以上期日に支払わないときは、同人等は期限の利益を失い直ちに右債務を完済しなければならない」とされて、後者の例と思われ、その結論は妥当です。

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主  文
1、被告から原告に対する東京法務局所属公証人松角武忠作成昭和29年第1475号金銭消費貸借契約公正証書に基く、元金98万円およびこれに対する損害金債権をこえる部分の強制執行はこれを許さない
2、原告のその余の請求は棄却する。
3、訴訟費用は原告の負担とする。
4、本件につき当裁判所が昭和38年10月18日になした強制執行停止決定は、右元金98万円およびこれに対する損害金債権の強制執行に関する部分につき、これを取消し、その余の部分につきこれを認可する。
5、前項に限り仮に執行することができる。

事  実
第一、原告の請求の趣旨

1、被告から原告に対する東京法務局所属公証人松角武忠作成昭和29年第1475号金銭消費貸借契約公正証書に基く強制執行は、これを許さない。
2、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。

第二、原告の請求の原因
一、被告から原告に対する債務名義として右公正証書(以下本件公正証書という)が存在し、右公正証書には次のような記載がある。すなわち、
(1) 訴外Aは昭和29年11月1日被告から金100万円を昭和29年12月から昭和34年4月までの間に毎月28日限り別紙弁済表のとおり割賦弁済すること、元金を期日に返済しないときは完済まで年3割の損害金を支払うことの約で借受けた。
(2) 原告はAの被告に対する右債務につき連帯保証した。
(3) A及び原告が右割賦金を2回以上期日に支払わないときは、同人等は期限の利益を失い直ちに右債務を完済しなければならない。
(4) 原告は直ちに強制執行を受くべきことを認諾した。

二、しかし原告はAの同債務につき連帯保証人となつたことはなく、本件公正証書はAが原告の代理人となつて作成しているが、原告は、同人に右代理権を与えたことはなく、Aが原告不知の間に無断で原告の印鑑証明書の交付を受けこれを悪用し、無権限で作成したものであるから、本件公正証書は原告に対しては無効である。

三、仮に右主張が認められないとしても、本件債務は時効により消滅したものである。すなわち、Aは木工業を営み、被告は履物商を営み、いずれも商人であるところ、Aは右木工営業のために被告から前記100万円を借受けたものであるから、本件公正証書に基く、金銭消費貸借契約におけるAの債務は、商行為によつて生じたものであるので、その消滅時効の期間は5年であるところ、前記のとおり右貸金債務については、債務者は前記割賦金を2回以上支払わない時は期限の利益を失い、直ちに右債務を完済すべき旨約していたが、A及び原告は右割賦金のうち昭和30年2月及び3月に支払うべき2回分の支払をしなかつたので、右貸金債務は同人等が期限の利益を失つた昭和30年4月1日より全額につき消滅時効が進行し、昭和35年3月31日限り時効によつて消滅したものである。

 仮に右主張が認められないとしても、Aの右貸金債務のうち昭和33年3月までに割賦弁済すべき分は、被告が本件公正証書に基き強制競売の申立をなした昭和38年4月22日当時、すでに時効により消滅しているものである。
 したがつて、主債務者たるAの債務が消滅した以上、その限度で保証人たる原告の債務も消滅したものというべきである。

四、よつて、原告は被告に対し、本件公正証書の執行力の排除を求めるため本訴に及ぶものである。

第三、被告の答弁及び抗弁
一、請求棄却の判決を求める。

二、請求原因第一項は認める。同第二項は否認する。同第三項中被告が履物商を営んでいるものであることは認めるが、その余の事実は否認する。Aが商人であるということは当初これを認めたが、右自白は真実に反し、かつ錯誤に基くものであるからこれを撤回する。同人は大都社松本木工有限会社の代表取締役であって、個人で営業しているものではないから、商人ではない。仮に右自白の撤回が許されないとしても、被告が右Aに本件金員を貸与したのは営業のためにしたものではなく、個人的友誼に基いてしたものであるから本件貸金債務は商事債務ではない。

三、Aは昭和29年4、5月頃息子である原告所有の東京都大田区○○三丁目四番地所在、家屋番号同町四番の12、木造スレート亜鉛メツキ鋼板交葺二階居宅兼作業所一棟建坪41坪8合3勺、2階22坪6合6勺(以下本件建物という。)を担保として訴外藤原与市から借りていた金員の返済資金捻出のため、被告に金員の貸与方を懇願したので、被告はAに金100万円を貸与したところ、Aは右金員をすぐ返すという約であるにかかわらず、すぐ返さないのみならず、同年6月中旬頃さきに被告に対し右貸金債務担保のため預けた右建物の権利書の返還を要求したが、被告がこれを拒絶するや、Aは保証書を偽造して右建物に抵当権を設定して藤原与市から金員を借受けるという不信行為をしたので、同年10月末頃A及び原告の住居である本件建物において訴外中村猪之吉の斡旋で被告及びA並びに原告等同席の上右貸金債務の弁済方法について協議した結果、Aは同年11月1日付で被告に対し右貸金債務を準消費貸借の目的とすることを約し、本件公正証書記載のような約定をなし、なお原告の代理人として原告がAの債務につき連帯保証する旨約し、その旨の本件公正証書を作成したものであるが、原告はAに対し右連帯保証契約をなし、右公正証書を作成するにつき代理権を明示的に又は少くとも黙示的に与えていたものである。

四、仮に右主張が認められないとしても、被告が昭和38年4月23日本件公正証書に基き東京地方裁判所に原告所有の本件建物に対する強制競売の申立をなし、同裁判所が翌24日右強制競売開始決定をなしたところ、原告は同月下旬頃被告に対し本件連帯保証債務を承認していることを前提として、右債務を分割して支払うから右競売を猶予して欲しいと右競売の延期を懇願したものであるから、原告はAの無権代理行為を追認したものである。
 仮に右主張が認められないとしても原告は同年5月21日本件連帯保証債務を承認していることを前提として大森簡易裁判所に被告を相手方として右連帯保証債務につき減額支払猶予の民事調停の申立をしたものであるから、原告はAの無権代理行為を追認したものである。

五、Aは、昭和29年12月8日及び昭和30年1月28日の2回にわたり被告に対し本件貸金債務を承認して前記割賦弁済金として各金1万円を支払い、昭和31年5月3日、昭和34年4月17日及び昭和36年1月26日それぞれ被告が本件貸金の支払を催告した際被告に対し本件貸金債務を承認して、その弁済猶予を求めたものであるから、本件貸金債務の時効は右Aの承認により中断されたものである。しかして、主たる債務者であるAについて生じた時効中断事由は連帯保証人である原告にもその効力を及ぼすものであるから、原告の請求は理由がない。

第四、被告の抗弁に対する原告の主張
一、被告の自白の撤回には異議がある。

二、第三の3、4の事実は否認する。同五の事実中Aが被告主張の日に各金1万円を支払つたことは認めるが、その余の事実は知らない。

第五、証拠≪省略≫

理   由
一、原告主張の請求原因第一項の事実は、当事者間に争いがない。

二、原告は、本件債務につき訴外Aの連帯保証人となつたことなく、本件公正証書はAが原告の代理人となつて作成しているが、原告はAに代理権を授与したことはないと主張するけれども、成立に争のない乙第1号証及び証人Aの証言によれば、本件建物はAがその出捐により建築したものであるが、登記簿上その所有名義は長男である原告のものとしたものであること、しかして、Aがその代表取締役をしている大都社松本木工有限会社が右建物において木工業を営んでいること、右会社はA及びその一族で経営しているいわゆる同族会社であり、その実態はAの主宰のもとに原告が手伝をして木工業を営んでいる個人企業にひとしく、原告はAが本件建物を担保として他から金融を受け、原告の代理人として原告が連帯保証人となる旨約することを承認していたものであることが認められ、

この事実と≪証拠省略≫を綜合すれば、Aは昭和28年頃本件建物に抵当権を設定して訴外藤原与市から金銭を借受けていたが、昭和29年4、5月頃その返済を迫られていたので、その返済資金に充てるため被告に金員の貸与を懇願してきたので、被告はAに対し約金100万円に近い金員を貸与したところ、Aは右金員をすぐ返すという約であるにかかわらず、これを返さないのみならず、同年6月中旬頃さきに被告に対し右貸金債務担保のため預けた右建物の権利書の返還を要求してきたが被告がこれを拒否するや、Aは保証書をもつて右建物に抵当権を設定して再び藤原与市から金員を借受けるという不信行為をしたので、同年10月末頃A及び原告の住居である本件建物において訴外中村猪之吉の斡旋で被告及びA並びに原告等同席の上、右貸金債務の弁済方法について協議した結果、Aは同年11月1日付で被告と右貸金の元利合計金100万円を準消費貸借の目的とし、本件公正証書記載のような契約を締結し、なお、原告の代理人として原告がAの右債務につき連帯保証をする旨約し、その旨の本件公正証書を作成したものであること、原告は右Aに対し右連帯保証契約をなし、右公正証書を作成するにつき代理権を授与していたものであることが認められる。

 右認定に反する証人A及び原告本人の各供述は前顕各証拠に対比し、措信しがたく、他に右認定に反する証拠はない。
 しからば、原告はAの被告に対する前記貸金債務につき連帯保証債務を負担するに至つたものであり、本件公正証書も有効に成立したものというべく、原告の前記主張は失当である。

三、次ぎに原告はAが被告に対し負担する本件債務は商事債務として時効により消滅したと主張するので、この点につき判断する。
 先ず、原告はAが商人であると主張し、被告は当初これを認めたが、後にこれを取消し、原告は右取消に異議を述べるけれども、右被告が原告のAが商人であることの主張を認めるとの陳述は、事実に対する自白でなく、法律判断に対する意見にすぎないから裁判所を拘束するものでなく、当事者においてこれを取消し得るものと解すべきであるところ、前記乙第1号証及び証人Aの証言によれば、Aは大都社松本木工有限会社の代表取締役であつて法律上個人で営業をしているものでないことが明らかであるから、右Aは商人とはいえないけれども、被告が履物商を営む商人であることは、当事者間に争いがないから、被告がAに対し前記金員を貸与した行為は、商人が営業のためしたものと推定すべく、他に右推定を覆すに足りる証拠はない。したがつて、Aの被告に対する本件貸金債務は商行為によつて生じたものであり、その消滅時効期間は5年というべきである。

 しかして、本件債務については、A及び原告が前記割賦金を2回以上期日に支払わないときは、同人等は期限の利益を失い、直ちに右債務を完済すべきことの特約があつたものであるが、このように債務者が2回割賦弁済を怠れば直ちに全額弁済すべき旨の特約がある場合には、債権者は右割賦金の弁済が2回怠られたときは、そのときから全額請求することができるようになるのであるから、たとえ請求しなくとも、消滅時効は、この時から進行するものと解すべきである。けだし、消滅時効は、権利を行使し得る時から進行すべきものであり、割賦弁済に右のような約款をつけることは、債権者を有利な地位に置くものであるから、時効について不利益となるのが公平であるからである。

 ところで、Aが被告に対し昭和29年12月28日及び昭和30年1月28日各金1万円を支払つたが、その後前記割賦金の支払がなされていないことは当事者間に争がないか、本件債務は昭和30年2月及び3月に支払わるべき2回分の前記割賦金の支払が怠られた同年3月29日から全額につき時効が進行したものである。

四、そこで被告の時効中断の抗弁につき判断する。
 Aが被告に対し昭和29年12月28日及び昭和30年1月28日の2回にわたり前記割賦弁済金として各1万円を支払つたことは原告も認めるところであり、右争のない事実に被告本人尋問の結果を併せ考えれば、Aは本件債務の存在を承認して右各弁済をしたものであることが認められる。また≪証拠省略≫によれば、Aは昭和34年4月17日頃及び昭和36年1月26日頃、被告が本件債務の弁済を催告した際、被告に対し右債務の存在を承認したうえ、その弁済猶予を求めたことが認められる。他に右認定に反する証拠はない。

 したがつて、Aが被告に対し負担する前記貸金債務は右債務の承認により時効中断されており、主たる債務者であるAについて生じた時効中断事由は、連帯保証人である原告にも、その効力を及ぼすものであるから原告が被告に対し負担する本件連帯保証債務も時効中断され、時効は完成していないものといわなければならない。よつて、この点に関する原告の主張も理由がない。

五、ところで本件債務のうち元金2万円が弁済されていることは前記のとおり当事者間に争がないから、被告の原告に対する本件公正証書に基く元金98万円及びこれに対する損害金債権をこえる部分の強制執行は違法であるから、その不許を求める限度で原告の本訴請求は理由があるので、これを認容し、その余の請求は理由がないので、これを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第89条第92条、強制執行停止決定の認可、取消及びその仮執行の宣言について同法第560条、第548条を適用して、主文のとおり判決する。


以上:6,267文字

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