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時効完成後の債権回収-昭和37年8月29日仙台高裁秋田支部判決復習

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平成30年10月26日(金):初稿
○「時効完成後の債権回収-昭和41年4月20日最高裁判例復習」の続きでその原審(控訴審)である昭和37年8月29日仙台高裁秋田支部判決(最高裁判所民事判例集20巻4号715頁)全文を紹介します。

○この昭和37年8月29日仙台高裁秋田支部判決の判決文は、センテンスが長々と続く、悪文の典型で、大変判りづらいものです。第一審昭和35年9月28日秋田地裁湯沢支部判決(最高裁判所民事判例集20巻4号712頁)では、「被告より原告に対する、東京法務局所属公証人石川音次作成の第8万8779号債務弁済契約公正証書に基く、強制執行は許さない。」との主文が、「債権額金7万8000円及びこれに対する昭和24年5月29日から支払済に至るまで年1割の割合による金員を超える部分については許さない。」と変更されています。

○その理由は、本件債務は、商行為によつて生じたもので5年の商事時効の適用を受け、昭和24年8月30日から起算して5年を経過した同29年8月29日を以て時効により消滅したところ、被控訴本人は、昭和33年3月7日付の手紙で、控訴人に対し本件借用金を元金だけにまけて貰いたい、そうして呉れると、同年中に何とかして4、5回位に分割してこれを支払うべき旨を控訴人に申し送り、本件債務を承認しており、商事債務が5年の時効によつて消滅することは商人間に周知されているから、商人たる被控訴人は本件債務が5年の商事時効の適用を受けること及び既にこの期間の経過したことを知りながら、本件債務を承認し、以て時効の利益を放棄したものと推定するのが相当であるとしています。

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主   文
原判決を次のとおり変更する。
控訴人から被控訴人に対する東京法務局所属公証人石川音次作成の第8万8779号債務弁済契約公正証書に基づく強制執行は、債権額金7万8000円及びこれに対する昭和24年5月29日から支払済に至るまで年1割の割合による金員を超える部分については許さない。
被控訴人その余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを5分し、その1を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事   実
控訴代理人等は、原判決を取り消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人等は、本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とするとの判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張及び証拠の提出、援用、認否は、被控訴代理人等において、
(一)被控訴人は終戦当時には製材統制法により独立の営業が不可能であつたため父国太郎の経営する製材店の従業員として父の許に寄食していたが、昭和21年7月県知事から現在の肩書住所に工場を設け、製材業を営むことの許可を得、越えて、同23年3月工場をも竣工し、横手労働基準監督署の検査を受けて開業し、爾来父から独立して製材及び製品販売業を営んで来た木材商であるから、翌24年中木材商たる被控訴人と控訴人との間に締結された本件金員貸借契約は商行為であり、従つて、右契約に基因する本件債務は5年の時効によつて消滅したものである。

(二)被控訴人は控訴人に対し元金にまけて月賦払にして呉れるなら必ず返済する旨条件付の弁済を申入れたことはあるが、これは無条件なら何と云われても支払えないという趣旨であつたのだから、か様な申入が債務の承認にならないことは勿論である。又被控訴人が昭和33年6月上旬頃控訴人に薪を送つたのは、これより先同年3月10日付はがきで控訴人から薪(俗に切落しと称するもの)一車を送れば、元金にまけて月賦弁済にしたい旨の被控訴人の申入を受け入れる用意があると答えたので、前示条件付弁済の示談の承諾を求めるための贈物という意味で送つたのにすぎないのであつて、本件債務の弁済として送つたのではない。

(三)被控訴人は控訴人から現金7万8千円を借り受けたものではなくして、訴外柴田が被控訴人に対して有していた債権を控訴人が同訴外人から譲り受けた上、被控訴人との間でこれを準消費貸借に改めたものである。

(四)控訴人の後記主張事実はこれを否認する旨陳述し、甲第10乃至第13号証、第14乃至第16号証の各1、2、第17号証を提出し、当審における証人尾久為造の証言、被控訴本人の供述を援用し、従前乙第2号証及び同第4号証の各1、2の成立を認めていたのを撤回して何れもその成立を否認し、同第7、8号証の各一中郵便局のスタンプ及び同第17号証中被控訴人の署名捺印だけを認め、爾余の部分並びに同第5号証の1、同第7、8号証の各2の成立を否認し、同第12、13号証は不知と述べ、同第5号証の2、3、第6号証、同第9乃至第11号証、同第14乃至第16号証の各1、2の成立を認め、控訴代理人等において、本件公正証書(乙第1号証)の金10万9080円の内訳は被控訴人が借り受けた金7万8000円、これに対する昭和24年5月29日から月5分の割合による3ケ月分の利息、控訴人が被控訴人から支払を受けるために被控訴人方に赴いた旅費旅館宿泊料、及び公正証書を作成するために要した手数料、弁護士を代理人として依頼した費用等である旨陳述し、乙第5号証の1乃至3、第6乃至第9号証、第10、11号証の各1、2を提出し、当審における控訴本人の供述を援用し、甲第12、13号証は不知と述べ、同第10、11号証、同第14乃至第16号証の各1、2、同第17号証の成立を認めた外、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理   由
控訴人が昭和34年7月25日東京法務局所属公証人石川音次作成の第8万8779号債務弁済契約公正証書の執行力のある正本に基づき、金227万1490円の債権を有するとして、被控訴人所有の有体動産に対し強制執行をしたことは当事者間に争がない。

ところで、成立に争のない乙第1号証の右公正証書には、被控訴人は昭和24年5月29日控訴人から借り受けた金10万9080円の債務の存在することを認め、この元金を同年8月29日限り返済すべく、期日にこれを返済しないときは、遅延日数に応じ日歩70銭の割合による損害金を支払うべきことを約し、控訴人はこれを承諾した旨の記載が存在しており、この借用元金及びこれに対する違約損害金の合算金債務が本件債務名義の基本債務になつていることが、同証により明かであるから、先ずこの債務が果してその全部について有効に発生したものであるかどうかについて考察する。

前顕乙第1号証、成立に争のない同第3号証並びに原審及び当審における被控訴本人及び当審における控訴本人の各供述の一部を綜合すれば、被控訴人は終戦の少し前頃訴外柴田寅蔵から木材製品の注文を受け前渡金を受け取つたが、その一部を履行した後原木の入手が困難であつたため、残部の履行ができないでいたところ、昭和24年5月29日自宅に柴田の来訪を受け、同訴外人から右の履行遅滞を責められ、且つ前渡金中不履行分に相当する金員の返還を迫られたので、これを支払うため同日柴田と同道して来ていた控訴人から金7万8000円を弁済期同年8月29日、利息月5分の約で借り受けた上、柴田に対する債務の弁済を了したこと(被控訴人は控訴人から現金7万8000円を借り受けたものではなくして、訴外柴田が被控訴人に対して有していた債権を控訴人が同訴外人から譲り受けた上、被控訴人との間でこれを準消費貸借に改めたものである旨主張するけれども、これに副う被控訴本人の供述部分は容易に借信し難く、他にこれを認め得べき何等の証拠もない)、

その際被控訴人は控訴人から右の借受金について公正証書を作成するため委任状と印鑑証明書の交付を求められたので,これに応じ、訴外柴田に自己に代つて公正証書を作成することを委任し、且つ自己の署名押印をした白紙委任状及び印鑑証明書を控訴人に交付した結果、同年8月20日前示公正証書(乙第1号証)が作成されるに至つたこと、ところが、右の公正証書の作成に当り控訴人は何等被控訴人の承諾を得ていないにもかかわらず擅に前示借用元金に月5分の割合による貸付当日以降3ケ月分の利息を組み入れ、公正証書作成の手数料、控訴人が右の証書作成方を委任した弁護士に支払つた報酬その他の諸費用をも加算して、あたかも金10万9080円を貸し付け、且つ履行遅滞の場合の違約損害金を日歩100銭とする約定が成立したように虚偽の記載をさせたことを是認するのに充分であり、以上の認定に反する控訴本人の供述部分は信用し難い。

尤も甲第17号証(委任状)中には、「(一)貸借金拾万九千〇八拾也……(六)期限後は元金壱百円につき日歩金七拾銭也の割合により損害を賠償のこと」という記載が存在しているけれども、前述のとおり同証は被控訴人が公正証書作成のため自己の署名押印をして控訴人に交付した白紙委任状であつて、被控訴本人の供述によれば、その後控訴人が被控訴人に無断でこれを補充したものであることを認めることができるので、同証によつては、前段認定を覆すのに足りない。

そうだとすると、前示公正証書中の右のような虚偽の記載部分はすべて無効であり、従つて、本件基本債務はただ前示借用元金7万8000円及びこれに対する昭和24年5月29日以降前示約定利率を旧利息制限法第2条制規の利率に引き直した年1割の割合による利息損害金の限度でだけ有効に発生したのに止まり、爾余の部分は結局発生するに至らなかつたものと判定するのが相当である(約定利率の約定が存在するに止まり、違約損害金に関する特約が成立しなかつたか又は無効である場合には、利息制限法の制限内に引き直した利率によつて損害額を定めるべきである)

そこで、進んで本件債務は被控訴人主張のように時効によつて消滅したかどうかを検討するのに、成立に争のない甲第10乃至第12号証、前顕乙第1号証中被控訴人の肩書職業として製材業と記載されている事実及び被控訴本人の供述を考え合わせると、被控訴人は終戦当時まで父国太郎の経営にかかる製材業の従業員として父方に寄食していたが、昭和21年7月秋田県知事から現在の肩書住所に工場を設け製材業を経営することの許可を得、越えて同23年3月工場をも竣工し、横手労働基準監督署の検査を受けて開業し、爾来父から独立して製材及び製品販売等を営んで来た木材商であることを認めることができ、右認定に反する控訴本人の供述、その他控訴人の全立証によつてもこれを動かすのに足りない。

そうだとすると、本件債務は、被控訴人がその営業のためにした商行為によつて生じたものと推定するのが相当であるから、5年の商事時効の適用を受け、昭和24年8月30日から起算して5年を経過した同29年8月29日を以て時効により消滅したものというべきである。しかしながら、原審における被控訴本人の供述(第1回)により成立を認めることのできる乙第2号証の1、2によれば、被控訴人がその後昭和33年3月7日付の手紙を以て、控訴人に対し本件借用金を元金だけにまけて貰いたい、そうして呉れると、同年中に何とかして4、5回位に分割してこれを支払うべき旨控訴人に申し送つて本件債務を承認したことが看取されるのであつて、元来商事債務が5年の時効によつて消滅することは商人間に周知されているものと認めるべきであるから、反証のない限り商人たる被控訴人は本件債務が5年の商事時効の適用を受けること及び既に右の期間の経過したことを知りながら、前述のように本件債務を承認し、以て時効の利益を放棄したものと推定するのが相当である。被控訴本人の供述によれば同人が単に小学校を卒業しただけにすぎないことが判るけれども、この一事によつては以上の推定を覆すのに足らず、その他時効完成の事実を知らなかつた旨の被控訴本人の供述は当裁判所の信用しないところである。

果してそうだとすると、前示公正証書の執行力の排除を求める被控訴人の本件異議申立は、債権額金7万8000円及びこれに対する昭和24年5月29日以降年1割の割合による金員を超える部分については正当としてこれを認容すべきであるが、爾余の部分は所詮排斥を免れず、以上と異る見解の下に右の異議申立全部を認容した原判決は失当としてこれを変更すべきであるから、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第96条、第92条を適用し主文のとおり判決する。
(昭和37年8月29日 仙台高等裁判所秋田支部)

以上:5,119文字

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