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時効完成後の債権回収-昭和41年4月20日最高裁判例復習

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平成30年10月25日(木):初稿
○ある金融機関担当者から消滅時効期間(商事債権で5年)が経過していることが明らかな債権について催告して回収して良いでしょうかとの質問を受けました。サラ金・クレジット会社・銀行等は不良債権を債権回収会社に債権譲渡し、その債権回収会社から明らかに消滅時効期間が経過している債権の催告書が来たとの相談は日常茶飯事にあります。なかには消滅時効完成が明らかと思われる債権について代理人として弁護士名義での催告書もあります。

○私自身は消滅時効が完成していることが明らかな債権について弁護士名義での催告書の発送を依頼された場合は、丁重にお断りしていますが、この点については、時効期間経過後に債務者が債務を承認した場合は、もはや時効の援用ができなくなるという有名な昭和41年4月20日最高裁判決(判時442号12頁、判タ191号81頁)があり、消滅時効完成後でも催告も問題ないとの考え方もあります。その最高裁判決全文を確認します。

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主   文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理   由
上告代理人○○○、同○○○○の上告理由第一点について。

 論旨は、要するに、上告人が本件債務の承認をしなかつたことを認めうる事情ないし証拠があるのに、原判決が、なんら首肯するに足りる事情の存在について判示することなく、上告人は、該債務が時効によつて消滅したのち、これを承認したと認定したのは、違法であるというにある。
 しかしながら、原審の右認定は、原判決挙示の証拠により肯認しえないことはなく、所論引用の判例は本件に適切でない。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の適法にした証拠の判断および事実の認定を非難するに帰するから、採用できない。

同第二点について。
 論旨は、要するに、原判決が、上告人は商人であり本件債務の承認をした事実を前提として、上告人は同債務について時効の利益を放棄したものと推定するのが相当であるとしたのは、経験則に違背して事実を推定したものであり、この点で原判決は破棄を免れないというにある。
 案ずるに、債務者は、消滅時効が完成したのちに債務の承認をする場合には、その時効完成の事実を知つているのはむしろ異例で、知らないのが通常であるといえるから、債務者が商人の場合でも、消滅時効完成後に当該債務の承認をした事実から右承認は時効が完成したことを知つてされたものであると推定することは許されないものと解するのが相当である。

 したがつて、右と見解を異にする当裁判所の判例(昭和35年6月23日言渡第一小法廷判決、民集14巻八号1498頁参照)は、これを変更すべきものと認める。しからば、原判決が、上告人は商人であり、本件債務について時効が完成したのちその承認をした事実を確定したうえ、これを前提として、上告人は本件債務について時効の完成したことを知りながら右承認をし、右債務について時効の利益を放棄したものと推定したのは、経験則に反する推定をしたものというべきである。

 しかしながら、債務者が、自己の負担する債務について時効が完成したのちに、債権者に対し債務の承認をした以上、時効完成の事実を知らなかつたときでも、爾後その債務についてその完成した消滅時効の援用をすることは許されないものと解するのが相当である。けだし、時効の完成後、債務者が債務の承認をすることは、時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり、相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから、その後においては債務者に時効の援用を認めないものと解するのが、信義則に照らし,相当であるからである。

 また、かく解しても、永続した社会秩序の維持を目的とする時効制度の存在理由に反するものでもない。そして、この見地に立てば、前記のように、上告人は本件債務について時効が完成したのちこれを承認したというのであるから、もはや右債務について右時効の援用をすることは許されないといわざるをえない。しからば、原判決が上告人の消滅時効の抗弁を排斥したのは、結局、正当であることに帰するから、論旨は、採用できない。

同第三点について。
 論旨は、要するに、所論一引用の上告人の主張は、本件当事者間に和解契約が成立し、本件公正証書に表示された債務は消滅し、右公正証書に基づく強制執行は許されないという趣旨であるのに、原審が右主張についてなんら釈明することなく、また、これについて判断しなかつたのは、審理不尽、判断遺脱の違法を犯したものであるというにある。

 しかし、上告人が原審で前記所論一引用のような主張をしていることは記録上明らかであるが、原審における本件口頭弁論の全趣旨をしんしやくしても、右主張が右論旨主張のような趣旨であるとは到底解しえないから、原審の手続に所論の違法はないというべきである。論旨は、ひつきよう、原審で主張しない事実を前提として原判決を攻撃するに帰するから、採用できない。

 よつて民訴法401条、396条、384条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横田喜三郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 長部謹吾 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠 裁判官 下村三郎)

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