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信頼関係破壊を理由に請負契約全部解除を認めた判例紹介3

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平成29年11月24日(金):初稿
○「信頼関係破壊を理由に請負契約全部解除を認めた判例紹介2」の続きで判決理由文後半です。



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3 請求原因(2)アについて
(1)上記2(1)エで認定のとおり,原告は,平成15年4月22日,被告に対し,別件請負契約の残代金及び本件請負契約の内金として800万円を支払い,同金員のうち,367万5000円は別件請負契約の残代金に,432万5000円は本件請負契約の代金にそれぞれ充当されたものであって,請求原因(2)アの事実が認められる。

(2)この点,被告は,原告から受領した800万円は,別件請負契約の残代金及び倉庫等の追加工事の代金であり,本件請負契約の代金には充当されていないなどと主張し,これに沿う「(物置・倉庫・車庫追加)工事-別途工事」と記載された事業計画書(乙1,30ないし32),被告代表者Bの陳述書(乙41)がある。

 しかし,同証拠によっても,被告が原告から同追加工事を請け負ったこと自体を認めるに足りない。
 そもそも,被告は,本訴当初,別件建物の改装工事に係る下請業者との契約書(乙3)を追加工事の下請契約書と称していたところ,原告の指摘を受け,下請業者も代金も異なる別の下請契約書(乙29)を提出しており,主張それ自体が場当たり的である。

 また,仮に原被告間に同追加工事の合意があれば,工事費用が増加するとともに賃貸物件も追加されることになり,別件建物の賃貸事業の収支に影響してしかるべきところ,上記事業計画書(乙1)の賃貸事業の収支計画は当初の事業計画書(甲5)と同様であるし,別件建物の賃貸借契約(甲7(乙4に同じ))でも、賃貸物件や収支に追加工事の存在を窺わせる記載はない。

 さらに,Hらが300万円以上の支出に対して何らの収入も得られない追加工事に乗り気であったとする被告代表者Bの陳述書の記載(乙41)は極めて不自然である。 
 そうすると,被告の同主張は到底採用できない。

4 請求原因(3)アについて
(1)
ア 設計及び施工を請け負う本件請負契約においては,施主である原告の希望に沿った建物を建築するという契約の目的を達成するため,請負人である被告は,同契約に付随する債務として,本件建物に関する法令上の制限を正確に把握し,これを施主である原告に説明しなければならないのはもちろん,仮に,規制内容の把握の誤りなどから当初の施主である原告に対する説明に不備があった場合,これを直ちに訂正の上,設計変更の必要などを協議すべき義務があったというべきである。

 しかるに,本件土地は,本来,第1種住居地域に指定され,高さ20メートル以内,建ぺい率60パーセント以内,容積率200パーセント以内の制限とされていたに過ぎないが,被告代表者Bは,本件土地がより厳しい制限がされる第1種中高層住居専用地域であると誤解して,地盤面から約10メートルに相当する「3階までしか建てられない。」などと説明し,そのためHらは本件建物を4階以上とすることを断念するに至った。また,被告代表者Bは,本来の法令上の制限を知ったJから説明を求められた際も「RCにしたので後でも積める。」などとはぐらかし,正確な規制内容の説明や設計変更の打診もしていない(上記2ウ(ア)の認定事実)。そうすると,被告が上記付随的債務の履行を怠ったことは明らかである。

 この点,被告は,4階建てとすれば増加する居室に対応する駐車場を確保することができない,本件建物を4階建て以上とすると建築基準法上の日影規制に反することになるなどと主張する。
 しかし,そもそも,建物の階数,駐車場の数,部屋数などは,敷地及び建物の所有者である施主が法令上の制限の範囲内で判断すべきものであり,その正確な説明を欠いた以上,その付随的債務の不履行は否定できない。また,被告の主張する日影規制は第1種中高層住居専用地域の規制であり,その前提を誤っている(乙15,60,61)。本件土地における本来の日影規制(建築基準法56条の2,愛知県建築基準条例)に従えば,規制に抵触する部分はわずかであり(日影図(乙61)によれば,屋外階段部分による日影の一部が日影規制に抵触する程度である。),建物の位置や形状を調整すれば4階建てとすることも可能であった。
 したがって,被告の同主張は採用できない。

イ 設計図書は,工事内容を確定する資料であるし,見積書(内訳書)及び工程表は,工事内容の変更による請負代金の増加額の算定(約款29条2項,甲1)や工事の出来高の算定の基礎資料となる。また,これらの資料は,施主において工事の進捗状況を把握する客観的な指標として請負人による適正な債務の履行を担保するものであり,施主・請負人間に良好な信頼関係を築いていく上で重要な意義を有する。そのため,約款4条は,「請負者はこの契約を結んだのちすみやかに請負代金内訳書および工程表を,監理者に提出してその承認を受ける。」と規定している。原告は監理者を選定していないから,同規定の直接適用はないが,同規定の趣旨からして,設計及び施工を請け負った被告は,本件請負契約に付随する債務として,設計図書,見積書及び工程表を作成したならば,施主である原告に対し,これらを速やかに交付すべき義務があったというべきである。

 しかるに,被告代表者Bは,Hらに対し,本件請負契約締結時,本件建物の概要及び縮尺200分の1の平面図・立面図が記載された書面1枚(甲1)を交付したのみである。契約締結から約2か月後の平成15年5月19日に設計図書が,原告の工事中止の指示があった同年8月8日に見積書及び工程表が交付されたに過ぎない(上記2の認定事実)。そうすると,被告が上記付随的債務の履行を怠ったことは明らかである。

ウ 請負人が,施主に無断で設計内容を変更することは許されないのは当然であって,約款16条は「設計の疑義・条件の変更があった場合,請負,者は,ただちに書面をもって監理者に通知する。」旨規定している。原告は監理者を選定していないから,同規定の直接適用はないが,同規定の趣旨からして,設計及び施工を請け負った被告は,本件請負契約に付随する債務として,設計内容を変更する必要が生じたならば,施主である原告に対し,施工前に変更の内容及び理由を十分説明の上,その同意を得る義務があったというべきである。

 しかし,本件建物は,本件請負契約締結時点にオール電化式で,建築確認申請時点で基礎の工法につき地盤改良であるエスミコラム工法で建築されるとされていたところ,被告は,本件建物の着工前に,原告の同意を得ることなく,ガス給湯器を設置し,基礎工事をセメントミルク工法とする旨の設計変更を行った上,基礎工事の施工に及んだ(上記2の認定事実)のであるから,被告が上記付随的債務の履行を怠ったことは明らかである。

 また,被告代表者Bは,Hらから工事の中止を指示された際,基礎の工法の変更について「いいものを造りたいからです。」などと説明していたが(甲66,乙11),本訴訟の尋問段階になって「最初は硬くて杭が打てないと状況を聞いたんですね。それで,エスミコラムでいいだろうということだったんですけども,端的に言えば,Hさんにお聞きしたように,そこの裏に川が流れている,水車小屋もあったということで,軟らかい地盤だということを言われてたもんで…」などと,Hらの指示により変更した旨供述するに至り,被告の主張もこれに呼応して変遷している。いずれの説明も容易に信用できるものではないが,結局,被告自身の地盤の状態についての見当違いないし見通しの悪さに起因することは明らかである。
そして,このような経緯からすれば,被告代表者Bは,平成15年8月8日にHらから工法変更を指摘された際においても,なお,その場逃れの弁解に終始し,その変更理由を十分に説明しなかったとも認められる。

(2)以上,被告には,〔1〕調査不足から本件土地に対する法令上の制限に関する事実を誤認し,施主である原告の意向に必ずしも沿わない設計をしたばかりか,法令上の制限を知った後もその制限内容の説明や設計変更の打診もしていない,〔2〕契約締結後においても,設計図書,見積書(内訳書,工程表)を速やかに交付しない,〔3〕原告に工事の進捗状況を把握されていなかったことを奇貨とし,自らの見通しの悪さが露見するのを免れ又はその利益を確保するため,施主に無断で設計内容を変更し,施工に及んだなどの付随的債務の不履行がある。

 このような被告の付随的債務の不履行は,施主である原告に対する著しい背信行為で,これにより原被告間の信頼関係は破壊され,施主である原告の意向に沿った建物を建築するという契約の目的の達成自体にも重大な影響を与えている。
 そうとすれば,原告は,かかる付随的債務の不履行による信頼関係の破壊を原因として本件請負契約を解除することができると解するのが相当であり,本訴請求原因(3)イの解除の意思表示により本件請負契約は解除されたということができる。


 この点,被告は,借上事業では,施主のみならず施工業者にも利益をもたらすものであるから,一般の住宅建築のように施主の意思のみを遵守することはできない,契約解除事由は制限的にすべきであるなどと主張する。しかし,被告の付随的債務の不履行は甚だしく,本件請負契約の目的の達成に及ぼす支障は重大であって,これが契約当事者間の信頼関係を破壊したといわざるを得ない。被告の同主張は,建築を請け負った建物の所有者及び施主が原告であることを軽視し,賃貸借契約も将来解消され得ることを看過するものであり,到底採用できない。

5 そこで,解除の範囲について検討するに,建物の建築工事請負契約につき,工事全体が未完成の間に注文者が請負人の債務不履行を理由に同契約を解除する場合において,工事内容が可分であり,しかも当事者が既施工部分の給付に関し利益を有するときは,特段の事情のない限り,既施工部分については契約を解除することができず,ただ未施工部分について契約の一部を解除することができるに過ぎないと解される(最判昭和56年2月17日・裁判集民132号129頁参照)。

 しかし,本件建物の工事は,杭工事が終了し,コンクリート工事に着手された程度であり,解除後も右既工事部分が利用されることはなく,本件土地も第三者に売却された。また,同工事は,法令上の制限について事実を誤認したまま設計がされ,原告の同意なく基礎の工法も変更されたものである。これらの事情からすると,本件請負契約の施主である原告が,本件建物の既工事部分の給付に関し利益を有するということはできず,かかる解除は本件請負契約の全部に及ぶものと解するのが相当である。

6 以上によれば,原告の請求は理由があるからこれを認容すべきである。

第2 反訴について
1 反訴請求原因(1),(2),本訴請求原因(3)イの事実は当事者間に争いがない。

2 反訴抗弁(本訴請求原因(3)ア)につき検討するに,上記第1の4で認定説示したとおり,原告は,被告の付随的債務の不履行による信頼関係破壊を原因として本件請負契約を解除することができると解するのが相当であり,本訴請求原因(3)イの解除の意思表示により本件請負契約は解除されたということができる。
 そうすると,本件請負契約は,約款31条1項に基づき解除されたものとは認められない。


3 以上によれば,被告の反訴請求は理由がないからこれを棄却すべきである。

第3 結論
 よって,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第6部  裁判長裁判官 内田計一 裁判官 安田大二郎 裁判官 高橋貞幹

以上:4,815文字

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