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準消費貸借契約旧債務立証責任に関する昭和43年2月16日最高裁判決紹介

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平成29年10月10日(火):初稿
民法第588条(準消費貸借)
消費貸借によらないで金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において、当事者がその物を消費貸借の目的とすることを約したときは、消費貸借は、これによって成立したものとみなす。

との規定について、消費貸借の目的である「金銭その他の物を給付する義務」いわゆる旧債務についての立証責任は、請求する者(通常は原告)、請求される者(通常は被告)のいずれにあるかという問題があります。具体的には、例えば売買代金100万円について、準消費貸借契約を締結した場合、売買代金100万円の存否について、請求する者と請求される者いずれに立証責任があるかという問題です。

○これについては原告説・被告説の両説がありますが、昭和43年2月16日最高裁判決は、被告説を取り、準消費貸借契約において、旧債務の不存在を事由として右契約の効力を争う者は、旧債務の不存在の事実を立証する責任を負うとしています。準消費貸借契約が成立した場合には、いわゆる証書の書換が行なわれることが通例であり、立証の難易の点より、旧債務不存在の事実を主張する者にその事実の立証責任を負担さすことが当事者の公平にかなうというのがその理由です。なお、この判決は、主張責任についてはどのような見解をとるか明らかにしていません。

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主   文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理   由
 上告代理人中田義正の上告理由第一の1、2について。<省略>
同第一の三について。
 準消費貸借契約は目的とされた旧債務が存在しない以上その効力を有しないものではあるが、右旧債務の存否については、準消費貸借契約の効力を主張する者が旧債務の存在について立証責任を負うものではなく、旧債務の不存在を事由に準消費貸借契約の効力を争う者においてその事実の立証責任を負うものと解するを相当とするところ、原審は証拠により訴外居藤と上告人間に従前の数口の貸金の残元金合計98万円の返還債務を目的とする準消費貸借契約が終結された事実を認定しているのであるから、このような場合には右98万円の旧貸金債務が存在しないことを事由として準消費貸借契約の効力を争う上告人がその事実を立証すべきものであり、これと同旨の原審の判断は正当であり、論旨は理由がない。
同第一の四について。<省略>

上告代理人○○○○の上告理由
第一、原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな証拠方則に違反し法令違背をしている点があるから、破棄を免れない。
原判決は、甲第二号証誓約書と題する書面、甲第一号証公正証書作成嘱託代理委任状の成立を認め、この書証によつて金98万円也の準消費貸借契約が成立しているものであると認め、これを前提とし、準消費貸借契約を否定しその前提となる基本債権債務の存在を争う者はその者に立証責任が存するが債務者たる上告人に於てその立証がなされないので右準消費貸借は有効に成立したものと認める趣旨の判示に及んでいる。然しながら右判示には次の如き誤りが存する。

三、原判決は右準消費貸借契約の前提となる基本債権債務の内容が不明でも、その基本債権の存在を争う債務者にその立証責任があるが、上告人はその立証を果していないと断じている。
上告人は借金は一口の借金を返済しては又借れるといつたことを繰り返していたもので残元金は7万円にすぎないものであると主張し、その趣旨の証言もある、これに対し被上告人は旧債権は「不知」であると答弁している。

判例に於て、右の如く立証責任を債務者に負わせた趣旨のものも存在するのであるが、如何なる場合にも、債権者は基本債権の内容を立証、明らかにする義務はなく債務者のみその立証責任を負うという趣旨の判例ではないと思料する。
イ 準消費貸借契約が極めて明確に書面化され,疑の余地のない様な場合その成立を争う債務者はもとよりその立証を果さねばなるまい。本件の如く債務者に於て一応の立証をなし、反面準消費貸借契約の成立について明確を欠く疑のあるものは、債権者に於て基本債権を明確にする義務があらねばなるまい、特に、数口の貸金債権あり数枚の右に明らかな借用証書が存在するならば債権者は易々としてそれを提出して事実を示し得るのである。本件の場合、当初より一枚の借用証書しか存在せず、債権者は基本債権は不知であると苦しい答弁をしていることに着目すべきである。債権者は不知という、然らば債務者がその不存在を立証せよとその責任を全面的に負担せしめることは正しくない。

元来、仮に数口の貸金を一口にまとめて準消費貸借契約をした場合は一口の借用証書を差入れ、既存の借用証書は返すのが常道である。本件の場合返された借用証書は当初借用した一枚のみであつて、他は借り替えた時もすべて返されておらない。居藤の遺族は所持しており立証はた易い。然し当初から数口の借金は存在しないのである。この様な場合真実発見の途は債権者にも準消費貸借契約の成立を立証する意味に於ても、基本債権の内容を明らかにする一応の立証義務と釈明をする義務があると謂わねばならない。債権者に於てその主張が正しければそれを明らかにすることは易々として可能である状況もあろう、この場合債権者はその内容を釈明しその準消費貸借の成立を立証すべきである。本件の場合、真に数口の貸金があつてこれを一口にしたものなら、数枚の借用証書の返されていないのを提出し得ざるはずである。債権者は「不知」の一語のみである。これでこと足り、争あれば債務者に於て立証せよとなすことの不当を指摘するものである。

ロ 債務者が準消費貸借を否認する場合その主張を立証するのはもとよりである。然し、基本債権の不存在の立証は、例えば売掛代金の如きなら帳簿上の立証も可能であるが、借金をしてなかつたとの立証は概ね人証、しかも極内輪の限られた者の供述証言によるより外途がない。本件もその一例である。

ハ 本件の場合、債務者は基本債務不存在について一応の立証をしている、而して一方債権者は「不知」というのみで、その主張が事実であるならば立証し得なければならないのに立証しない。この様な場合債権者は結局準消費貸借契約の成立の立証不充分として処理するのが至当であると信ずる。

以上の理由により原判決を破棄し下級裁判所へ差戻し審理を尽す様判決ありたい。
(その他の上告理由は省略する。)

 
以上:2,644文字

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