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賃料増減額確認請求訴訟物に関する平成26年9月25日最高裁判決全文紹介

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平成27年 1月30日:初稿
○「賃料増減額確認請求訴訟物に関する平成26年9月25日最高裁判決要旨紹介」の続きで、判決全文を紹介します。


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主  文
 原判決を破棄する。
 本件を東京高等裁判所に差し戻す。 

理  由
 上告代理人○○○○ほかの上告受理申立て理由(第4を除く。)について
1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 承継前被上告人は,昭和48年10月16日,第1審判決別紙1物件目録記載の建物部分(以下「本件建物部分」という。)につき,当時の所有者であるAとの間で,期間を昭和49年1月1日から20年間とし,賃料を月額60万円とする旨の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し,その頃,本件建物部分の引渡しを受けた。

(2) その後,本件賃貸借契約について,賃貸人の地位の移転及び賃料(以下「本件賃料」という。)の改定が繰り返され,平成6年1月1日以降の本件賃料は月額300万円とされていたところ,承継前被上告人は,平成16年3月29日,当時の賃貸人であるBに対し,本件賃料を同年4月1日から月額240万円に減額する旨の意思表示をした(以下,同日の時点を「基準時1」という。)。
 そして,承継前被上告人は,平成17年6月8日,同年2月9日に本件賃貸借契約の賃貸人の地位を承継した上告人X1を被告として,「本件賃料が平成16年4月1日から月額240万円であること」の確認等を求める訴訟(以下「前件本訴」という。)を提起した。

(3) 他方,上告人X1は,平成17年7月27日,承継前被上告人に対し,本件賃料を同年8月1日から月額320万2200円に増額する旨の意思表示をした(以下,同日の時点を「基準時2」という。)。
 そして,上告人X1は,平成17年9月6日,前件本訴に対し,「本件賃料が平成17年8月1日から月額320万2200円であること」の確認等を求める反訴(以下「前件反訴」といい,前件本訴と併せて「前件訴訟」という。)を提起した。

(4) さらに,上告人X1は,前件訴訟が第1審に係属中の平成19年6月30日,承継前被上告人に対し,本件賃料を同年7月1日から月額360万円に増額する旨の意思表示をした(以下,この意思表示を「本件賃料増額請求」といい,同日の時点を「基準時3」という。)。
 これに対し,承継前被上告人は,本件賃料増額請求により増額された本件賃料の額の確認請求を前件訴訟の審理判断の対象とすることは,その訴訟手続を著しく遅滞させることとなるとして,裁判所の訴訟指揮により,上告人X1が,前件訴訟における反訴の提起ではなく,別訴の提起によって上記確認請求を行うよう促すことを求める旨記載した上申書を裁判所に提出した。

(5) 結局,上告人X1は,前件訴訟において,本件賃料増額請求により増額された本件賃料の額の確認請求を追加することはなかった。そして,前件訴訟の第1審は,平成20年6月11日,前件本訴につき,「本件賃料が平成16年4月1日から月額254万5400円であること」を確認するなどの限度で承継前被上告人の請求を認容し,前件反訴についてはその請求を全部棄却する旨の判決をした。

 上記判決に対し上告人X1が控訴したが,控訴審は,平成20年10月9日に口頭弁論を終結した上(以下,この口頭弁論の終結時点を「前件口頭弁論終結時」という。),同年11月20日,上告人X1の控訴を棄却し,上記判決は,同年12月10日に確定した(以下,確定した上記判決を「前訴判決」という。)。

2 本件は,上告人X1及び平成23年4月28日に同上告人から本件賃貸借契約の賃貸人の地位を承継した上告人X2が,承継前被上告人に対し,本件賃料増額請求により増額された本件賃料の額の確認等を求める事案である。本件賃料増額請求が前件口頭弁論終結時以前にされていることから,本件訴訟において本件賃料増額請求による本件賃料の増額を主張することが,前訴判決の既判力に抵触し許されないか否かが争われている。なお,被上告人は,原審の口頭弁論終結後である平成25年3月21日,承継前被上告人を吸収合併し,本件訴訟の訴訟手続を承継した。

3 原審は,前記事実関係の下で,次のとおり判断し,上告人らの請求を棄却した。
 賃料増減請求により増減された賃料額の確認を求める訴訟の訴訟物は,当事者が請求の趣旨において特に期間を限定しない限り,形成権である賃料増減請求権の行使により賃料の増額又は減額がされた日から事実審の口頭弁論終結時までの期間の賃料額であると解されるところ,前件訴訟において,承継前被上告人は,基準時1から前件口頭弁論終結時までの賃料額の確認を求め,上告人X1は,基準時2から前件口頭弁論終結時まで(ただし,終期については基準時3と解する余地がある。)の賃料額の確認を求めたものと解されるから,本件訴訟において,上告人らが,本件賃料増額請求により本件賃料が前件口頭弁論終結時以前の基準時3において増額された旨主張することは,前訴判決の既判力に抵触し許されない。

4 しかし,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 借地借家法32条1項所定の賃料増減請求権は形成権であり,その要件を満たす権利の行使がされると当然に効果が生ずるが,その効果は,将来に向かって,増減請求の範囲内かつ客観的に相当な額について生ずるものである(最高裁昭和30年(オ)第460号同32年9月3日第三小法廷判決・民集11巻9号1467頁等参照)。

 また,この効果は,賃料増減請求があって初めて生ずるものであるから,賃料増減請求により増減された賃料額の確認を求める訴訟(以下「賃料増減額確認請求訴訟」という。)の係属中に賃料増減を相当とする事由が生じたとしても,新たな賃料増減請求がされない限り,上記事由に基づく賃料の増減が生ずることはない(最高裁昭和43年(オ)第1270号同44年4月15日第三小法廷判決・裁判集民事95号97頁等参照)。

 さらに,賃料増減額確認請求訴訟においては,その前提である賃料増減請求の当否及び相当賃料額について審理判断がされることとなり,これらを審理判断するに当たっては,賃貸借契約の当事者が現実に合意した賃料のうち直近のもの(直近の賃料の変動が賃料増減請求による場合にはそれによる賃料)を基にして,その合意等がされた日から当該賃料増減額確認請求訴訟に係る賃料増減請求の日までの間の経済事情の変動等を総合的に考慮すべきものである(最高裁平成18年(受)第192号同20年2月29日第二小法廷判決・裁判集民事227号383頁参照)。したがって,賃料増減額確認請求訴訟においては,その前提である賃料増減請求の効果が生ずる時点より後の事情は,新たな賃料増減請求がされるといった特段の事情のない限り,直接的には結論に影響する余地はないものといえる。

 また,賃貸借契約は継続的な法律関係であり,賃料増減請求により増減された時点の賃料が法的に確定されれば,その後新たな賃料増減請求がされるなどの特段の事情がない限り,当該賃料の支払につき任意の履行が期待されるのが通常であるといえるから,上記の確定により,当事者間における賃料に係る紛争の直接かつ抜本的解決が図られるものといえる。そうすると,賃料増減額確認請求訴訟の請求の趣旨において,通常,特定の時点からの賃料額の確認を求めるものとされているのは,その前提である賃料増減請求の効果が生じたとする時点を特定する趣旨に止まると解され,終期が示されていないにもかかわらず,特定の期間の賃料額の確認を求める趣旨と解すべき必然性は認め難い。

 以上の事情に照らせば,賃料増減額確認請求訴訟の確定判決の既判力は,原告が特定の期間の賃料額について確認を求めていると認められる特段の事情のない限り,前提である賃料増減請求の効果が生じた時点の賃料額に係る判断について生ずると解するのが相当である。

(2) 本件についてこれをみると,前記事実関係によれば,前件本訴及び前件反訴とも,請求の趣旨において賃料額の確認を求める期間の特定はなく,前訴判決の前件本訴の請求認容部分においても同様であり,前件訴訟の訴訟経過をも考慮すれば,前件訴訟につき承継前被上告人及び上告人X1が特定の期間の賃料額について確認を求めていたとみるべき特段の事情はないといえる。
 そうであれば,前訴判決の既判力は,基準時1及び基準時2の各賃料額に係る判断について生じているにすぎないから,本件訴訟において本件賃料増額請求により基準時3において本件賃料が増額された旨を主張することは,前訴判決の既判力に抵触するものではない。

5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上の見地を踏まえて本件賃料増額請求の当否等を審理させるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 なお,裁判官金築誠志の補足意見がある。
 裁判官金築誠志の補足意見は,次のとおりである

 賃料増減額確認請求訴訟の訴訟物は,当事者が請求の趣旨において特に期間を限定しない限り,形成権である賃料増減請求権の行使により賃料の増額又は減額がされた日から事実審の口頭弁論終結時までの期間の賃料額であるとする原審の見解(以下,この見解を「期間説」という。)は,同訴訟が継続的な法律関係である賃貸借契約の要素としての賃料額の確認を求めるものであること,既判力の基準時までの期間の法律関係が確定され紛争解決の目的により資すること,確認の利益も現在の法律関係を確認の内容として含み問題が少ないことなどからすると,自然な考え方であるように思われるかもしれない。

 しかし,訴訟物をいかなる形で設定するかは処分権主義に服するものであるから,第一義的には原告の意思によることになるところ(したがって,原告が期間を特定して賃料額の確認を求めた場合は,確認の利益が認められる限り,適法である。),前件訴訟でも採られているような賃料増減額確認請求訴訟において一般的に見られる形の請求(増減請求時「から」あるいは「以降」の賃料額の確認を求め,特に期間を限定していない請求。以下「一般的形態の請求」という。)をした場合,通常,原告が期間説を念頭に置いて訴えを提起しているものと理解すべきかどうかは,甚だ疑問である。また,裁判所も,期間説に従って訴訟指揮をしているのが通常かというと,そうとはいえないように思われる。実務は,常に意識的ではないかもしれないが,賃料増減請求が効果を生じた時点の賃料額が訴訟物という考え方(以下,この考え方を「時点説」という。)の下に運用されていることが多かったのではないかと推察される。現に,前件訴訟においても,法廷意見にあるとおり,第1審係属中に本件賃料増額請求がなされたが,賃借人から,同請求により増額された賃料額の確認請求を前件訴訟の対象とすることは訴訟手続を著しく遅滞させることになるとして,裁判所の訴訟指揮により別訴を提起するよう促すことを求める旨記載した上申書が提出され,結局,本件賃料増額請求により増額された賃料額の確認請求が追加されることはなかった。

 そして,前件訴訟の請求を本件賃料増額請求時までの期間に限定するよう裁判所が促した事実等もうかがわれないのである。こうした前件訴訟の経過は,一般的形態の請求の訴訟物は口頭弁論終結時までの期間の賃料額であって,本件賃料増額請求が前訴判決の既判力によって遮断されるなどとは,裁判所を含めて考えていなかったことを示しているように思われる。賃料増減額確認請求の理由の有無は,現行賃料が合意等により定まった時から,増減請求時までの事情に基づいて判断され,請求後の事情は考慮されないのであるから,請求後の期間が,争いの対象として当事者に意識されることは,少ないのではなかろうか。また,一般的形態の請求に対する判決の主文において,賃料額を確認した期間の終期として口頭弁論終結日が記載された例のあることを寡聞にして知らないが,確認判決において確認された内容の基本的な要素が明示されないというのは通常あり得ないことで,このことも,上記のような実務における一般的な意識の有り様を裏付けているのではないだろうか。

 一旦定まった賃料額は,別個の合意の存在や賃料増減請求が効果を生じたことが認められない限り,契約当事者を拘束し続けるのであるから,継続的契約たる賃貸借契約の要素である以上期間のあるものとして確認しなければ意義が薄いということはないであろう(なお,請求の趣旨や判決主文で,増減請求の日「から」あるいは「以降」の賃料額の確認を求める旨記載するのは,その日が始点という性格を有することを示しているだけのものと理解できると思う。)。確認の利益の点については,過去の法律関係であっても,紛争の解決に資する確認の利益が認められるものであれば,確認の対象とすることが許されると解されているが,上記のように,一旦定まった賃料額は,別の合意等が認められない限り継続的に当事者を拘束するのであるから,時点説を採っても,確認の利益は肯定されるであろう。紛争解決機能の点についても,賃料増減請求の効果が生じた始点での賃料額について既判力が生じていれば,それに引き続く期間の賃料額に形式的には既判力が及んでいないとしても,上記と同様の理由から,実質的にその機能に差が生じるようなことはほとんど考えられないのではないかと思う。

 このように,理論的には,期間説を採るべき必然性はなく,時点説を採ることに支障はないと考えるが,さらに,期間説の難点として,賃料増減額確認請求訴訟の係属中に新たな増減請求がされた場合に,手続上煩わしい問題が生じる可能性があるように思う。増額訴訟中更に増額請求がされた場合や減額訴訟中更に減額請求がされた場合は,前の請求について後の請求時までに期間を限定することになるであろうから,審理の状況に従って,後の請求に係る賃料額確認を,前の請求に係る訴訟の中で処理するか,別訴にしてもらうか,いずれの方法を採ることも困難ではないであろうが,例えば,減額確認請求訴訟中に増額請求がされたような場合は,原告の意思に反して終期を付すように求めることはできないであろう。その結果,遮断効を避けるための反訴の提起を許さざるを得ないことになれば,審理の長期化要因となることは避けられない。その点,時点説は,新たな増減請求がされても,特段の措置を講ずることなく別訴にまわすことができ,審理の複雑化を避けることができる。また,賃料増減額確認請求訴訟は,調停前置であるが,最初の増減請求の結果の賃料額が決まらない限り,新たな増減請求について調停を進めることは困難であろうから,提起を許さざるを得ない上記の反訴のようなものについては調停前置が機能しないおそれがあるのではなかろうか。

 以上の次第で,時点説が,実務の運用上,簡明,便宜であって,理論的にも問題はなく,これを採用することが相当と考えるものである。
 (裁判長裁判官 横田尤孝 裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志 裁判官 白木勇) 

 
以上:6,298文字

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