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地下1階部分賃借人の地上1階部分看板設置認容最高裁判例紹介

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平成25年 8月21日:初稿
○権利濫用という一般条項の適用で賃貸借契約に関する上告受理申立が認められた珍しい最高裁判決を紹介します。
平成24年4月9日最高裁判決(判時2187号26頁)です。
事案概要は以下の通りです。
・Yは昭和39年頃から繁華街に位置する地上4階・地下1階建物の地下1階部分を賃借しそば屋経営
・Yは建物所有者Aの承諾を得て地上1階入口付近に看板・装飾及びショーケース(本件看板等)を設置
・平成22年1月Aは本件建物全体をBに売却し、同年4月BはXに転売
・Xは、所有権に基づきY占有建物部分の明渡・賃料相当損害金支払と本件看板等の撤去を求める訴え提起
・原審平成24年6月28日東京高裁判決は、建物部分は賃借権存続を理由に棄却するも本件看板等については、借地借家法第31条の建物に含まれず賃借権の範囲外で対抗力がなく、且つXの撤去要求は権利濫用に当たらないとして撤去命ずる


○これに対しYは、Xの本件看板等撤去要求は権利濫用に当たることを理由に上告受理の申立をして、最高裁はYの主張を認めました。事案を一見してYの方に歩があるあることが明白で、原審の東京高裁の判断が明らかに不当と思われます。しかし、希に3人のベテラン裁判官で構成する高裁でもおかしな判決をすることがあります。

○「上告審手続の経験とその備忘録」に「同年の上告受理事件総数2247件の73.7%が審理期間3ヶ月以内で終局し、96.4%が上告不受理決定で終局」と記載しているとおり、上告受理申立が通る可能性は100件の内3.6件だけですが、本件はその3.6件の内に入りました。
 最高裁は、「(Yの)本件看板等は,本件建物部分における本件店舗の営業の用に供されており,本件建物部分と社会通念上一体のものとして利用されてきたということができる。上告人において本件看板等を撤去せざるを得ないこととなると,本件建物周辺の繁華街の通行人らに対し本件建物部分で本件店舗を営業していることを示す手段はほぼ失われることになり,その営業の継続は著しく困難となることが明らか」との理由で、Xの請求は権利濫用に該当すると断定しており至極妥当な判決です。

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主 文
 1 原判決中,上告人敗訴部分を破棄する。
 2 前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
 3 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。 
 
理 由
 上告代理人安藤順一郎,同安藤秀男の上告受理申立て理由第8について
1 本件は,建物の地下1階部分を賃借して店舗を営む上告人において,同建物の所有者の承諾の下に同建物の1階部分の外壁等に同店舗のための看板等を設置していたところ,同建物全部を譲り受けた被上告人が,上告人に対し,所有権に基づき,地下1階部分の明渡し及び賃料相当損害金の支払を求めるとともに,上記看板等の撤去をも求める事案である。
 なお,原判決中,地下1階部分の明渡請求及び賃料相当損害金の支払請求をいずれも棄却すべきものとした部分は,被上告人が不服申立てをしておらず,当審の審理判断の対象となっていない。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 原判決別紙物件目録記載1の建物(以下「本件建物」という。)は,渋谷駅周辺の繁華街に位置する地上4階,地下1階の建物である。

(2) Aは,昭和34年から本件建物を所有していた。

(3) 上告人は,昭和39年頃から本件建物の地下1階部分(以下「本件建物部分」という。)でそば屋(以下「本件店舗」という。)を営業しており,遅くとも平成8年9月までに本件建物部分についての賃借権を得た。

(4) 上告人は,本件店舗の営業開始以降,Aの承諾を得て,本件店舗の営業のために,原判決別紙看板目録記載の看板,装飾及びショーケース(以下「本件看板等」という。)を設置した。その設置箇所は,本件建物の1階部分の外壁,床面,壁面等であり,いずれも地下1階の本件建物部分へ続く階段の入口及びその周辺に位置していた(なお,記録によれば,本件看板等の一部は本件建物に固定されているが,分離は可能であるものとうかがわれる。)。

(5) Aは,平成22年1月,本件建物をBに売却した。

(6) Bは,平成22年4月,本件建物を被上告人に転売した。その際に作成された売買契約書には,本件建物の賃借権の負担等が被上告人に承継されること,本件建物に看板等があることなどが記載されていた。

3 原審は,本件建物部分の賃借権には本件看板等の設置権原は含まれていないとした上で,被上告人による本件看板等の撤去請求が権利の濫用に当たるような事情は見受けられないとして,同請求を認容した。

4 しかしながら,権利の濫用に関する原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 前記事実関係によれば,本件看板等は,本件建物部分における本件店舗の営業の用に供されており,本件建物部分と社会通念上一体のものとして利用されてきたということができる。上告人において本件看板等を撤去せざるを得ないこととなると,本件建物周辺の繁華街の通行人らに対し本件建物部分で本件店舗を営業していることを示す手段はほぼ失われることになり,その営業の継続は著しく困難となることが明らかであって,上告人には本件看板等を利用する強い必要性がある。

 他方,上記売買契約書の記載や,本件看板等の位置などからすると,本件看板等の設置が本件建物の所有者の承諾を得たものであることは,被上告人において十分知り得たものということができる。また,被上告人に本件看板等の設置箇所の利用について特に具体的な目的があることも,本件看板等が存在することにより被上告人の本件建物の所有に具体的な支障が生じていることもうかがわれない。
 そうすると,上記の事情の下においては,被上告人が上告人に対して本件看板等の撤去を求めることは,権利の濫用に当たるというべきである。


5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中,上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の本件看板等の撤去請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は是認することができるから,上記部分に関する被上告人の控訴を棄却すべきである。
 (裁判長裁判官 岡部喜代子 裁判官 田原睦夫 裁判官 大谷剛彦 裁判官 寺田逸郎 裁判官 大橋正春) 

以上:2,678文字

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