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借主の履行補助者が自殺した場合の責任肯定判例紹介2

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平成23年11月22日(火):初稿
○「借主の履行補助者が自殺した場合の責任肯定判例紹介1」の続きで、裁判所の判断です。

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第3 当裁判所の判断
1 貸室において本件のような入居者の自殺という事故があると、少なくともその直後においては、通常人からみて心理的に嫌悪すべき事由(いわゆる心理的瑕疵)があるものとして、当該貸室を他に賃貸しようとしても、通常の賃料額で賃貸することは難しく、通常の賃料額よりもかなり減額した賃料額で賃貸せざるを得ないのが実状であると推察される。なお、当該事故があったことを隠して賃貸しようとすれば、一旦は通常の賃料額で賃貸借契約を締結することができる可能性があるものの、かくては、後に真実が判明して賃借人から瑕疵担保責任の追及(民法559条、570条、566条)等をされるおそれがあるから、上記推察は左右されない。

 そして、証拠(甲10、11)及び弁論の全趣旨によれば、実際にも、原告は、本件貸室を、被告から明渡しを受けて修繕した後、本件事故があったことを告げた上で平成13年6月1日から2年間の約定で他に賃貸したが、その賃料については、従前の月額4万8000円の半額強の月額2万8000円とせざるを得なかったこと、本件事故がなければ、上記賃料は従前と同様に月額4万8000円程度とすることができたであろうことが認められ、これを覆すに足りる的確な証拠はない。
 そうすると、原告は、本件事故があったために、上記2年間について1年当たり24万円(1か月当たり2万円)の得べかりし利益を喪失するという損害を受けたということができる。

2 ところで、前記前提事実によれば、被告は、原告に対し、本件賃貸借契約上の債務として、善良なる管理者の注意をもって本件貸室を使用し保存すべき債務(賃貸借契約書第5条、民法400条)を負っていたというべきであり、その債務には、本件貸室につき通常人が心理的に嫌悪すべき事由を発生させないようにする義務が含まれるものと解するのが相当である。

 しかるに、被告は、上記債務について、履行補助者たるDが本件貸室において通常人が心理的に嫌悪すべき事由たる自殺をしたことにより、不履行があったものと認められ、かつ、その債務不履行について被告の責めに帰すことのできない事由があるものとは認められない。なお、被告は、Dは被告の履行補助者でないとか、Dの故意過失をもって被告の故意過失と同視することはできないと主張するが、採用することができない。

3 以上によれば、原告は、被告の債務不履行によって、少なくとも、上記1のとおり2年間について1年当たり24万円の得べかりし利益を喪失するという損害を受けたということができる。
 ここで、原告は、本件貸室の賃料は10年間にわたって通常の賃料額よりも減額せざるを得ない旨主張する。

 しかしながら、本件のような貸室についての心理的瑕疵は、年月の経過とともに稀釈されることが明らかであり、本件貸室が大都市である仙台市内に所在する単身者用のアパート(本件建物)の一室であること(甲2、10、1及び弁論の全趣旨)をも斟酌すると、本件貸室について、本件事故があったことは、2年程度を経過すると、瑕疵と評することはできなくなる(したがってまた、原告において、他に賃貸するに当たり、本件事故があったことを告げる必要はなくなる。)ものとみるのが相当である。
 他に、原告が被告の債務不履行によって上記認定の損害を超える損害を受けたと認めるに足りる証拠はない。

4 和解契約の成否について
 前記前提事実に証拠(甲5ないし8、12、乙1)及び弁論の全趣旨を併せると、本件賃貸借契約の合意解約に当たり、原告は、当初(平成13年1月17日ころ)、被告に対し、原状回復費用68万9010円及び本訴請求に係る288万円の支払を催告したが、被告が、後者は認めず、前者について50万2635円の限度で認める旨の回答をしたところ、これを受けて、被告に対し、前記第2の1(6) のような「解約精算明細書」を送付したこと、そして、これに従って被告が原告に対し46万4710円を支払ったことが認められる。

 しかしながら、上記事実から直ちに被告主張のような和解契約が成立したものとみることはできず、他に、本件全証拠を検討してみても、原告が本訴請求に係る288万円の損害賠償請求権を放棄したと認めるに足りる証拠はない。

5 以上の次第で、原告は、被告の債務不履行によって、平成13年6月からの2年間、1年当たり24万円の得べかりし利益を喪失するという損害を受けたというべきであるが、その損害の平成13年2月末日時点における現価を民法所定の年5分の割合による中間利息を控除して算出すると、前半の1年間分が22万5882円、後半の1年間分が21万3333円(合計43万9215円)となる。

6 よって、原告の請求は、43万9215円及びこれに対する平成13年3月1日(催告後であり、本件賃貸借契約終了の日の翌日)から商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容し、その余は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法64条本文、61条を、仮執行の宣言につき同法259条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判官 貝阿彌誠)


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