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建物内賃借人自殺の責任範囲に関する判例全文紹介3

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平成22年 3月24日:初稿
○建物内賃借人自殺の責任範囲に関する判例全文紹介続きです。

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第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(Bの債務不履行の有無)について

(1)賃貸借契約における賃借人は,賃貸目的物の引渡しを受けてからこれを返還するまでの間,賃貸目的物を善良な管理者と同様の注意義務をもって使用収益する義務がある(民法400条)。そして,賃借人の善管注意義務の対象には,賃貸目的物を物理的に損傷しないようにすることが含まれることはもちろんのこと,賃借人が賃貸目的物内において自殺をすれば,これにより心理的な嫌悪感が生じ,一定期間,賃貸に供することができなくなり,賃貸できたとしても相当賃料での賃貸ができなくなることは,常識的に考えて明らかであり,かつ,賃借人に賃貸目的物内で自殺しないように求めることが加重な負担を強いるものとも考えられないから,賃貸目的物内で自殺しないようにすることも賃借人の善管注意義務の対象に含まれるというべきである。

(2)したがって,賃借人であるBが本件203号室を賃借中に同室内で自殺したことは,本件賃貸借契約における賃借人の善管注意義務に違反したものであり債務不履行を構成するから,Bを相続した被告Y1には,同債務不履行と相当因果関係のある原告の損害を賠償する責任がある。

2 争点(2)(被告Y2の連帯保証責任の範囲)について
(1)被告Y2が,原告に対し,平成17年10月13日,本件賃貸借契約に基づくBの原告に対する債務を連帯保証すると約束したこと(本件連帯保証契約)は,当事者間に争いがなく,また,上記1で認定・判断したとおり,賃借人であるBが本件203号室を賃借中に同室内で自殺したことは,本件賃貸借契約の債務不履行を構成し,これによるB(被告Y1)の原告に対する損害賠償債務が,本件賃貸借契約に基づくBの原告に対する債務であることは明らかであるから,被告Y2には,本件連帯保証契約に基づき,賃借人であるBが本件203号室を賃借中に同室内で自殺したことと相当因果関係にある原告の損害について,被告Y1と連帯して,賠償する責任がある。

(2)これに対し,被告Y2は,本件連帯保証契約の責任範囲は,賃料不払などの通常予想される債務に限られ,賃借人であるBが自殺したことにより生じる損害賠償債務は含まれないと主張しているが,被告Y2作成の連帯保証人確約書(甲3)には,被告Y2が主張するような責任範囲を限定する趣旨の記載はなく,かえって,「一切の債務」につき連帯保証人として責任を負う旨の記載があることが認められるのであるから,被告Y2の主張は採用できない。

3 争点(3)(原告の損害)について
(1)Bが本件203号室内で自殺したことによる原告の損害としては,そのこと自体による本件建物の価値の減少や,賃貸が困難となることにより生じる将来賃料の得べかりし利益の喪失が考えられるが,本件では,原告は,Bが自殺した当時,本件203号室を含む本件建物を売却する予定があったわけではないから,将来賃料の得べかりし利益の喪失について検討すれば足りると考える。

(2)自殺があった建物(部屋)を賃借して居住することは,一般的に,心理的に嫌悪感を感じる事柄であると認められるから,賃貸人が,そのような物件を賃貸しようとするときは,原則として,賃借希望者に対して,重要事項の説明として,当該物件において自殺事故があった旨を告知すべき義務があることは否定できない。

 しかし,自殺事故による嫌悪感も,もともと時の経過により希釈する類のものであると考えられることに加え,一般的に,自殺事故の後に新たな賃借人が居住をすれば,当該賃借人が極短期間で退去したといった特段の事情がない限り,新たな居住者である当該賃借人が当該物件で一定期間生活をすること自体により,その前の賃借人が自殺したという心理的な嫌悪感の影響もかなりの程度薄れるものと考えられるほか,本件建物の所在地が東京都世田谷区という都市部であり,かつ,本件建物が2階建10室の主に単身者を対象とするワンルームの物件であると認められること(甲5,6の1・2,弁論の全趣旨)からすれば,近所付き合いも相当程度希薄であると考えられ,また,Bの自殺事故について,世間の耳目を集めるような特段の事情があるとも認められないことに照らすと,本件では,原告には,Bが自殺した本件203号室を賃貸するに当たり,自殺事故の後の最初の賃借人には本件203号室内で自殺事故があったことを告知すべき義務があるというべきであるが,当該賃借人が極短期間で退去したといった特段の事情が生じない限り,当該賃借人が退去した後に本件203号室をさらに賃貸するに当たり,賃借希望者に対して本件203号室内で自殺事故があったことを告知する義務はないというべきである。

 また,本件建物は2階建10室の賃貸用の建物であるが,自殺事故があった本件203号室に居住することと,その両隣の部屋や階下の部屋に居住することとの間には,常識的に考えて,感じる嫌悪感の程度にかなりの違いがあることは明らかであり,このことに加えて,上記で検討した諸事情を併せ考えると,本件では,原告には,Bが本件203号室内で自殺した後に,本件建物の他の部屋を新たに賃貸するに当たり,賃借希望者に対して本件203号室内で自殺事故があったことを告知する義務はないというべきである。

(3)以上を前提に検討すると,原告は,Bが本件203号室内で自殺した後に,本件203号室をさらに賃貸するに当たり,賃借希望者に対して本件203号室内で自殺事故があったことを告知しなければならず,そうすると,常識的に考えて,心理的な嫌悪感により,一定期間,賃貸に供することができなくなり,その後賃貸できたとしても,一定期間,相当賃料での賃貸ができなくなることは,明らかである。

 ところで,証拠(甲8の2)によれば,原告は,Bの自殺から約3か月後の平成19年1月15日に,本件203号室を,期間2年,賃料月額3万5000円,共益費及び管理費なし,敷金なし,サブリース目的との約定で賃貸した事実が認められるが,将来の逸失利益の認定においては,口頭弁論終結時までに発生した事実も推認の材料とすることはあるにしても,口頭弁論終結時までに発生した事実から直接的に認定するものではないから,上記認定の事実自体から直ちに原告の具体的な逸失利益を認定することはできない。

 そして,当裁判所としては,上記(2)で認定・判断した諸事情に,上記で認定した事実をも参考とし,これらを総合的に検討した結果,本件では,本件203号室を自殺事故から1年間賃貸できず,その後賃貸するに当たっても従前賃料の半額の月額3万円での賃貸しかできず,他方で,賃貸不能期間(1年間)と一契約期間(2年間)の経過後,すなわち自殺事故から3年後には,従前賃料の月額6万円での賃貸が可能になっていると推認するのが相当であると考える。

 そうすると,原告の逸失利益(中間利息をライプニッツ方式により年5%の割合で控除することとする。)は,1年目が68万5656円(6万円×12か月×0.9523),2年目が32万6520円(3万円×12か月×0.9070),3年目が31万0968円(3万円×12か月×0.8638)であるから合計132万3144円となる。

(4)他方で,原告には,Bが本件203号室内で自殺した後に,本件建物の本件203号室以外の部屋を新たに賃貸するに当たり,賃借希望者に対して本件203号室で自殺事故があったことを告知する義務があるとはいえず,また,本件建物の各部屋は都市部にある主に単身者用の賃貸物件であることからすれば,その賃借人として想定されるのは,本件建物の周辺の住民など本件203号室内で自殺事故があったことを知り得る者に限られず,さらに,Bが本件203号室内で自殺したことを本件建物の周辺の住民以外の者も知っていると認めるに足りる特段の事情も認められないから,本件203号室内で自殺事故があったことにより,本件建物の本件203号室以外の部屋の賃貸に困難を生じるとは認められない。したがって,本件建物の本件203号室以外の部屋について原告の逸失利益は認められず,本件建物の205号室に関して現実に賃料の減収が生じているとしても,これはBの自殺と相当因果関係のある損害とは認められない。

4 以上によれば,原告の請求は,主文第1項で述べた限度で理由があるからその範囲内で認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
 (裁判官 杉山順一)

以上:3,573文字

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