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夏目漱石の草枕-情に棹さす-とは

平成20年10月29日(水):初稿
○有名な夏目漱石の草枕の冒頭部分を暗記用コンテンツとして追加します。
司法修習時代、弁護教官から弁護士のあるべき姿は「濁流に棹さして流されず」であると教えられ、当時は、「棹さす」を「逆らう」、「抵抗する」と言う様な本来の意味と逆にとらえ、弁護士の仕事は余の濁流の渦の中に入るものであるが、そこで濁流に抵抗して決して流されないようにすべきとの意味と思い込んでいました。

しかしこの思い込みは誤解でした。「棹さす」とは、本来「流れに棹さす」として表現されてきたもので、その昔、船の船頭さんが水の流れに棹をさして、その流れを上手く利用して船を動かしたことから由来するもので、流れに乗って順調に推移するとの意味であると、弁護士10年目位になって漸く知りました。

有名な夏目漱石の草枕の冒頭「智に働けば‥‥」は、人間関係は、智即ち理屈・知識ばかりに拘っていると角が立ち、かといって人情に溺れると流され、自分の意思を貫こうとすると却って気を遣わなければならず窮屈になると言う様な意味でしょうか。

弁護士は「濁流に棹さして流されず」とは、濁流の渦の中に身を投じ,その流れに乗ってもあらぬ方向に流されないように気をつけなさいと言う意味で、「逆らう」、「抵抗する」より遙かに深い意味がありました。

草枕は,その内容と言い、リズム感と言い、正に名文と思いますが、「霊台方寸のカメラに澆季溷濁の俗界を清くうららかに収め」なんて難しい表現があり、サッパリ判らず、その意味もシッカリ勉強する必要があります(^^;)。

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 山路(やまみち)を登りながら、こう考えた。

 智(ち)に働けば角(かど)が立つ。情(じょう)に棹(さお)させば流される。意地を通(とお)せば窮屈(きゅうくつ)だ。とかくに人の世は住みにくい。

 住みにくさが高(こう)じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟(さと)った時、詩が生れて、画(え)が出来る。
 人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣(りょうどな)りにちらちらするただの人である。ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。

 越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、寛容(くつろげ)て、束(つか)の間(ま)の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降(くだ)る。あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故(ゆえ)に尊(たっ)とい。

 住みにくき世から、住みにくき煩(わずら)いを引き抜いて、ありがたい世界をまのあたりに写すのが詩である、画(え)である。あるは音楽と彫刻である。こまかに云(い)えば写さないでもよい。ただまのあたりに見れば、そこに詩も生き、歌も湧(わ)く。着想を紙に落さぬとも鏘(きゅうそう)の音(おん)は胸裏(きょうり)に起(おこ)る。丹青(たんせい)は画架(がか)に向って塗抹(とまつ)せんでも五彩(ごさい)の絢爛(けんらん)は自(おのず)から心眼(しんがん)に映る。

 ただおのが住む世を、かく観(かん)じ得て、霊台方寸(れいだいほうすん)のカメラに澆季溷濁(ぎょうきこんだく)の俗界を清くうららかに収め得(う)れば足(た)る。

 この故に無声(むせい)の詩人には一句なく、無色(むしょく)の画家には尺(せっけん)なきも、かく人世(じんせい)を観じ得るの点において、かく煩悩(ぼんのう)を解脱(げだつ)するの点において、かく清浄界(しょうじょうかい)に出入(しゅつにゅう)し得るの点において、またこの不同不二(ふどうふじ)の乾坤(けんこん)を建立(こんりゅう)し得るの点において、我利私慾(がりしよく)の覊絆(きはん)を掃蕩(そうとう)するの点において、――千金(せんきん)の子よりも、万乗(ばんじょう)の君よりも、あらゆる俗界の寵児(ちょうじ)よりも幸福である。

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