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引きこもり者の安否確認等について特別縁故者該当とした高裁決定紹介

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令和 1年10月24日(木):初稿
○「引きこもり者の安否確認等について特別縁故者該当とした家裁審判紹介」の続きでその抗告審である平成26年5月21日東京高裁決定(判時2271号44頁)全文を紹介します。

○相続遺産総額約3億7875万円もの遺産を残して死亡して相続人不存在の引きこもり者の被相続人について、折りに触れ安否確認を行い,必要な場合には安否確認に立ち会い,被相続人死亡時には,遺体の発見に立ち会って,遺体を引き取り,葬儀を執り行ったことについて、特別縁故者と認めてくれたものの、一審家裁審判の分与額が300万円だけであったことを不服として抗告していました。

○しかし、抗告審決定も、同人と被相続人との縁故関係の濃淡、程度、同人が具体的に被相続人に対して行った行動等や被相続人と父との親子関係の状況等を踏まえと、同人が被相続人の遺体の発見に立ち会い、その遺体を引き取り、親族として葬儀を執り行ったことや、相続財産の総額が約3億7875万円に上るものであったことなどを考慮しても、同人に対して分与すべき財産の額は300万円とするのが相当であるして、抗告は棄却されました。

○確かに、遺産総額が3億7875万2012円もあるのだから、僅か1%にも満たない分与額ではなく、その10%程度の分与額を認めても良さそうなものです。しかし、抗告審も、対人関係を拒絶するようになっていた被相続人と抗告人とが円滑な親族関係にあったとまでは認められず,客観的な事実としても,抗告人と被相続人との実質的な縁故の程度が濃密なものであったとは認められないこと、本件において,抗告人が物理的にも精神的にも被相続人の後ろ盾として恒常的に同人を支え続けてきたとまで認めるのは相当ではないこと等を理由として分与額は300万円に限定しました。

○民法958条の3第1項に定める被相続人と「特別の縁故があった者」として相当額の分与が認められるには、被相続人自身と相当強い人間関係があったことが必要で、単に安否確認や遺体引取・葬儀主催等だけでは、ダメなようです。

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主   文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。

理   由
第1 抗告の趣旨及び理由
 本件抗告の趣旨及び理由は,別紙「即時抗告申立書」(写し)記載のとおりである。

第2 事案の概要
 本件は,平成23年×月×日頃から×日頃までの間に死亡した被相続人(昭和27年×月×日生まれ)の従兄である抗告人(昭和17年×月×日生まれ。抗告人の母であるCが,被相続人の父親であるDの姉である。)が,民法958条の3第1項に定める被相続人と「特別の縁故があった者」(以下「特別縁故者」という。)に当たるとして,相続財産の分与を求めている事案である。

 原審は,抗告人は特別縁故者に該当すると認めるのが相当であるとした上,抗告人の関与の程度その他一切の事情を考慮して,被相続人の財産から抗告人に対して300万円を分与するものとした。

 そこで,これを不服とする抗告人が,
〔1〕事実上,被相続人の唯一の縁故者として,被相続人に代わってその父Dの葬儀を執り行い,Dの死亡後は,引きこもり状態となり、意思疎通を図ることも困難となった被相続人を心配し,近所にも何かあれば連絡をしてくれるよう手配するなどして,物理的にも精神的にも被相続人の後ろ盾として恒常的に同人を支え続けたことを高く評価されるべきである,
〔2〕被相続人の相続財産の大部分はDによって築かれたものであるが,抗告人はDから被相続人の面倒を見てくれるよう依頼されていたもので,今回,特別縁故者として財産の分与を受ければ,ステンドグラス作家として大成したDの功績を残す記念書庫などを設けることも考慮しておりこれらの点も積極的に考慮されるべきである,
〔3〕特別縁故者に対する財産分与の程度を判断するに当たっては,相続財産の数額も一つの積極要素として考慮すべきであるところ,被相続人の相続財産は総額3億7875万円余に上るものであるから,その1%にも満たない300万円では,抗告人が被相続人の特別縁故者であることを実質的に否定するも同然である
などと主張して,本件抗告をしているものである。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,抗告人は民法958条の3に定める被相続人の特別縁故者に該当すると認められ,被相続人の相続財産から300万円を分与するのが相当であると判断する。その理由は,次のとおり原審判を補正するほか,原審判の「理由」に説示されたとおりであるからこれを引用する(ただし,「申立人」を「抗告人」と読み替える。)。 

(原審判の補正)
(1)原審判2頁3行目の「Dが死亡した際,」を「平成18年×月×日にDが死亡した際,」と改める。

(2)原審判2頁19行目の末尾に改行の上,次のとおり加える。
 「キ 平成21年夏頃,抗告人は,被相続人の様子をうかがうため,抗告人の妻と共に被相続人宅を訪れ,被相続人宅の呼び鈴を鳴らしたが,何の応答もなく,被相続人宅に入れなかった。その際,抗告人は,近隣住民から,被相続人宅からゴキブリやヤモリが大量に発生して迷惑しているとの苦情を受けたため,被相続人宅の庭等に防虫剤を撒くなどして,害虫駆除作業を行った。」

(3)原審判2頁20行目の「キ」を「ク」と,同頁25行目の「ク」を「ケ」と,3頁4行目の「ケ」を「コ」と,同頁7行目の「コ」を「サ」と,それぞれ改める。

(4)原審判3頁8行目冒頭から同頁15行目末尾までを次のとおり改める。
 「申立てを行い,同裁判所は,平成24年×月×日にE弁護士をその相続財産管理人に選任した。

シ 相続財産管理人に就任したE弁護士は,被相続人が住んでいた自宅を業者に依頼して片づけたが,その費用は約152万円であり,片付け後の室内を撮影した写真等を見ても,床には腐敗したゴミがこびりついてできたと考えられる多数の汚れがあるほか,台所なども著しく汚れていることが認められるから,被相続人の生前には室内にゴミが散乱するなどして腐敗臭もただよい,著しく不潔な状況であったものと推認される。

ス 被相続人の平成25年×月×日現在の相続財産は,資産については3億7885万3942円の普通預金債権があり,負債としては相続財産管理人に対する10万1930円の立替金債務がある。

(2)上記(1)エないしコの事実に照らせば,抗告人は,被相続人の従兄であり,被相続人に代わってDの葬儀を執り行っただけではなく,同人の死後は,同人の依頼に基づいて,自宅に引きこもりがちとなり,周囲との円滑な交際が難しくなった被相続人に代わり,被相続人宅の害虫駆除作業や建物の修理等の重要な対外的行為を行い,民生委員や近隣と連絡を取り,緊急連絡先として抗告人の連絡先を伝え,時々は被相続人の安否の確認を行っていた上,被相続人の死亡時には遺体の発見に立ち会い,その遺体を引き取り,被相続人の葬儀も執り行ったものであるから,「被相続人と特別の縁故があった者」に該当すると認めるのが相当である。

(5)原審判3頁23行目冒頭から同頁26行目末尾までを次のとおり改める。
 「(3)そこで分与額について検討する。
ア 民法958条の3第1項に基づいて相続財産を特別縁故者に分与するに当たっては,縁故関係の濃淡,程度や期間,相続財産の種類や数額その他一切の事情を考慮して分与すべき財産の種類及び数額を決定すべきものである。

イ 抗告人は,被相続人に代わってDの葬儀を執り行い,Dの死亡後は,ひきこもりにより人との接触を拒絶するようになった被相続人のために,折りに付けて被相続人宅を訪問し,民生委員や近隣住民に被相続人の見守りを依頼したり,被相続人宅の害虫駆除作業や建物の修理等をして,親族としてなし得る最大限の看護,後見を行ってきたし,物理的にも精神的にも被相続人の後ろ盾として恒常的に同人を支え続けたから,高く評価されるべきであると主張している。

 しかし,上記(1)ウないしシに認定のとおり,被相続人は,その母であるFが死亡した平成13年頃には,既に抗告人を拒絶する態度を示すようになり,抗告人においても被相続人との意思疎通を図ることはなく,平成18年×月に被相続人の父であるDが死亡した後は,抗告人が被相続人宅を訪れることさえ拒絶する態度を示し,ゴミに埋もれて劣悪な衛生状態の中でほぼ1人で生活していたものである。そして,抗告人自身の主張によっても,Dが死亡した平成18年×月頃から被相続人が死亡した平成23年×月頃までの約5年間に抗告人が被相続人宅を訪れたと具体的に主張されているのは5~6回で,せいぜい年に1~2回程度であるから,抗告人が頻繁に被相続人宅を訪れて何くれと面倒を見て,物理的にも精神的にも被相続人の生活を支えていたという状況ではなかったといわざるを得ない。

 しかも,被相続人は同年×月×日頃から同月×日頃までの間に死亡したものと推認されているところ,抗告人が○○の保健師から連絡を受けて被相続人宅を訪れたのは同年×月×日のことであり,死後約1か月半程度が経過していたものと認められるから,このことからも,抗告人が被相続人宅を頻繁に訪れて何くれと気を配っていたというものでもないことは明らかである。

 そうすると,そもそも対人関係を拒絶するようになっていた被相続人と抗告人とが円滑な親族関係にあったとまでは認められず,客観的な事実としても,抗告人と被相続人との実質的な縁故の程度が濃密なものであったとは認められないというべきである。仮に,被相続人が抗告人を受入れて何くれと相談する状況にあったならば,特に大きな病気を抱えていたわけではなく,まだ60歳であった被相続人が平成23年×月下旬頃に死亡することは避けられた可能性も否定できないところである。もちろん,抗告人に非があるということではないが,本件において,抗告人が物理的にも精神的にも被相続人の後ろ盾として恒常的に同人を支え続けてきたとまで認めるのは相当ではない。

ウ また,抗告人は,被相続人の相続財産の大部分はDによって築かれたものであるところ,抗告人は,□□家と親密な関係を築き,□□家のことを思う気持ちがあり,□□家の存在とDの功績を後世に残そうとして,その準備を進めているから,被相続人の相続財産が抗告人に託されることは,被相続人の遺志に合致するとも主張している。

 しかし,被相続人の相続財産がDによって築かれた財産の相続によって形成されたとしても,上記認定のとおり,昭和60年頃から被相続人とDとの間に確執が生じ,Dが死亡した際にも被相続人は自ら葬儀を執り行なわなかったことに照らせば,そもそも被相続人において,どの程度まで□□家の存在と功績を後世に残そうという遺志があったのかも判然としないというほかはない。しかも,抗告人においてDの功績を後世に伝えるために尽力するつもりであるといっても,既にDが死亡してから約8年が経過しようとしているのに,現在まで何か具体的に実現したものがあるわけではない上,抗告人は現在72歳で,その実現可能性や継続性に大きな期待をすることは現実的なものとは考えられないことなど,本件に現れている一切の事情を勘案するならば,上記の抗告人の主張を前提として,抗告人に対して高額の財産分与を認めるのは必ずしも相当なものではないというべきである。

エ 上記認定のとおり,本件に現れた抗告人と被相続人との縁故関係の濃淡,程度,抗告人が具体的に被相続人に対して行った行動等や,被相続人と父Dとの親子関係の状況等を踏まえるならば,抗告人が被相続人の遺体の発見に立ち会い,その遺体を引き取り,親族として葬儀を執り行ったことや,平成25年×月×日現在における被相続人の相続財産の総額が3億7875万2012円に上るものであったことなどを考慮しても,被相続人の相続財産から抗告人に対して分与すべき財産の額は300万円とするのが相当というべきである。

2 よって,原審判の判断は相当であり,本件抗告は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 須藤典明 裁判官 小川浩 裁判官 小濱浩庸)

別紙 即時抗告申立書(写し)〈省略〉

以上:5,020文字

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