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死因贈与土地は民法第922条相続財産に該当するとした高裁判例紹介

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令和 1年 7月20日(土):初稿
○「死因贈与土地は民法第922条相続財産に該当しないとした地裁判例紹介」の続きで、その控訴審平成8年7月9日東京高裁判決(判時1572号56頁、判タ915号259頁)全文を紹介します。

○高裁判決は、推定相続人が被相続人から死因贈与を受けた不動産は、死因贈与につき仮登記を取得していても、限定承認がされた場合の「相続によって得た財産」に当たるとし、一審判決を取り消しました。

○推定相続人が不動産について死因贈与を受ける契約を被相続人との間で結び、仮登記を取得していた場合であつても、限定承認の手続では受遺者は右不動産を固有財産であると主張することはできないとしました。

○被相続人の債権者にしてみれば、相続人が限定承認をして、債務を相続財産のみに限定して債務を免れ、死因贈与と称して実質相続財産のみを取得できるは、本来被相続人が支払うべき債務は支払わずに、その財産だけを取得するもので、余りに虫が良すぎると思うのは当然です。高裁判決は、この余りに虫の良すぎることは許されないとしたもので、妥当な結論と思われます。

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主   文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人らの請求を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。 

事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判

一 控訴人
 主文同旨

二 被控訴人ら
 控訴棄却

第二 事案の概要
 事案の概要は、次のとおり付加するほかは、原判決記載のとおりである。
(控訴人の当審における主張)
 原判決は、死因受贈者であり限定承認者である被控訴人らと相続債権者である控訴人は対抗関係に立ち、相続に先立ち仮登記を取得した被控訴人らは死因贈与による所有権の取得を控訴人に主張できるから、本件土地は民法922条の相続によって得た財産に含まれない固有財産であると判断した。
 しかし、これは、被控訴人らが、相続人としての資格と死因受贈者としての資格を併有し、しかも限定承認している事実、及び限定承認者は相続債務につきその全部を承継することを全く考慮しなかったもので、判断を誤ったものである。本件土地は民法922条の「相続によって得た財産」に含まれ、被控訴人らと控訴人は対抗関係に立たず、当事者の関係に立つというべきである。

 控訴人の権利と被控訴人らの権利には有償、無償の本質的な差異があることや、相続債権者が受遺者に優先することが明定されている民法931条の趣旨をふまえれば、単なる対抗関係として判断できないことは明らかである。また、原判決が、本件死因贈与が子である被控訴人らへの扶養を含むから、被控訴人らが本件土地の所有権を主張することについては公平の観点から許されないとすべき事情もないとしている点も何ら根拠がなく、被控訴人らが仮登記に基いて第三者ではなく自らに対し本登記をした利己的行為、被控訴人服部佐知子が相続財産に属する預金を引き出した行為を、法定単純承認とみなすべき処分に該当するとせず、右各行為を相続財産の管理、保存行為と認定した点も失当であるといわなければならない。

(被控訴人らの当審における主張)
 本件死因贈与については、被相続人服部庸一の死亡前に始期付所有権移転仮登記がなされており、死因贈与者の死亡と同時に所有権移転の効力が生じ、本件土地は民法922条の「相続によって得た財産」の範囲からは離脱することになるもので、右仮登記に基き本登記が経由されたときは、仮登記の順位保全の効力により、死因受贈者はすべての相続債権者に優先することになる。

 また、本件死因贈与の目的である本件土地は特定物であり、特定物の遺贈には民法931条は適用されないから、特定物の死因贈与に同法の適用がないことは明らかである。本件相続について、限定承認の効力を否定するような、単純承認とみなすべき事由も存在しない。

第三 当裁判所の判断
一 当裁判所は、本件土地は民法922条の「相続によって得た財産」に該当し、控訴人が東京法務局所属公証人家弓吉己作成昭和62年第308号の執行力ある公正証書正本に基き平成6年11月29日に本件土地に対してした強制執行は適法であって、被控訴人らの本訴請求は棄却すべきものと判断する。その理由は次のとおりである。

 限定承認の手続は、相続債務が相続財産を超過するいわゆる債務超過又はその可能性がある場合に、相続債権者間において公平に相続財産を分配する手続であって、一種の清算手続である。限定承認がなされると、限定承認者は「相続によって得た財産」の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済することとされ(民法922条)、同法929条、930条の規定によって債権者に弁済した後でなければ、受遺者に弁済することができないとされ(同法931条)、受遺者は相続債権者に劣後する地位に置かれている。

 これは遺贈は無償行為であることに加え、権利変動の効力発生が遺贈者の死亡にかかり、遺贈者の生前は取消(撤回)が自由であること(民法1022条)によるものである。ところで、死因贈与も無償行為であり、しかもその権利変動は贈与者の死亡にかかっており、民法1022条は方式に関する部分を除いて死因贈与に準用されるものと解されるので、死因贈与の取消(撤回)も贈与者がその生前自由になしうるものである(仮登記後に死因贈与が取り消されれば、その仮登記は抹消すべきものである)。そうであるとすると債務超過を念頭においた清算手続である限定承認において、遺贈と死因贈与とを別異に扱うべき合理的理由はないものといわなければならない。

 そして、死因贈与には、贈与者の死亡を始期とする期限付贈与と贈与者の死亡当時受贈者が生存することを条件とする停止条件付贈与とがあるが、いずれにせよ、贈与者の死亡によって初めて権利変動の効力が生じるものであり、贈与の対象物は被相続人の死亡の時まで贈与者である被相続人の財産に帰属していたものである。

 特定不動産の死因贈与について仮登記がなされ、贈与者の死亡後に本登記がなされたとしても、右不動産は贈与者の死亡時、すなわち相続開始の時に贈与者から受贈者に権利が移転するのであり、まさに、相続財産を減少することによって、死因贈与に基づく権利移転の効果が生ずるのである。法律効果の発生を当事者の死亡にかからせることのない、始期付き又は停止条件付きの法律行為について仮登記がなされ、始期の到来又は条件成就が偶々行為者の死後発生し、仮登記に基づく本登記がなされた場合には、仮登記の順位保全の効力により、仮登記の対象である不動産は、相続開始時点においてすでに相続財産から離脱したものとして取り扱われるが、これは、当該法律行為の効果が行為者の死亡とかかわりがないことによるものであり、行為者の死亡により効果の発生する死因贈与の場合とは事態が異なるものということができる。

 したがって、被控訴人らのような推定相続人が被相続人との間で被相続人所有の不動産について死因贈与を受ける契約を結び、その仮登記を取得しても、一種の清算手続である限定承認の手続では、右の不動産を相続財産から離脱した財産であって、被控訴人らの固有財産であると主張することはできず、右の不動産は、民法922条の「相続によって得た財産」に該当し、相続債務の引当てになるものと解するのが相当である。


二 したがって、被控訴人らの請求を認容した原判決は不当で、本件控訴は理由がある。
 よって主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 篠田省二 裁判官 淺生重機 裁判官 小林登美子)

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