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生命保険金を特別受益として持ち戻し対象とした高裁決定紹介1

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令和 1年 7月 3日(水):初稿
○「生命保険金を特別受益として持ち戻し対象とした家裁審判紹介1」の続きで、その抗告審の平成18年3月27日名古屋高裁決定(家庭裁判月報58巻10号66頁)全文を紹介します。

○名古屋高裁決定も、保険契約に基づき保険金受取人とされた妻が取得する死亡保険金等の合計額は約5200万円とかなり高額で、相続開始時の遺産価額の61パーセントを占めること、被相続人と妻との婚姻期間が3年5か月程度であることなどを総合的に考慮すると、保険金受取人である妻とその他の相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存するとして、同条の類推適用により死亡保険金等を持戻しの対象としました。

○酒類の販売業免許が相続財産となるかも争いになりましたが、名古屋高裁決定では、酒類販売免許は、その性質上、譲渡の対象とならず、酒類販売業者につき、相続があった場合、引き続き販売業をしようとする相続人は、その旨を所轄納税署長に申告することにより、その相続のときに販売業免許を受けたものとみなされるにすぎないものであり、相続の対象となるものではないとしました。

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主   文
1 原審判を取り消す。
2 被相続人Dの遺産を次のとおり分割する。
(1)別紙遺産目録第1の1,2,4の不動産を申立人の単独取得とする。
(2)別紙遺産目録第1の3,5の不動産を相手方Bの持分78分の40,相手方Cの持分78分の38の取得とする。
(3)別紙遺産目録第2の1の保険解約返戻金を相手方Bの取得とし,同目録2ないし4の保険解約返戻金を相手方Cの取得とする。
3 申立人は,本決定確定の日から3か月以内に,相手方Bに対し,125万5675円を,相手方Cに対し,97万6758円をそれぞれ支払え。
4 本件手続費用のうち,鑑定人Eに支給した鑑定費用40万9500円は,20万4750円を申立人の,10万2375円を相手方Bの,10万2375円を相手方Cの負担とし,その余の手続費用は原審と抗告審を通じ,各自の負担とする。

理   由
第1 抗告の趣旨及び理由

1 申立人
別紙1即時抗告申立書(写し)のとおり

2 相手方ら
別紙2即時抗告申立書(写し)のとおり

第2 当裁判所の判断
1 相続の開始,相続人及び法定相続分

 被相続人は,平成14年5月31日に死亡し,相続が開始した。
 その相続人は,被相続人と平成11年1月6日に婚姻した妻の申立人,被相続人の先妻との長女の相手方B,長男の相手方Cの3人であり,その法定相続分は,申立人につき2分の1,相手方らにつき各4分の1である。

2 遺産の範囲等
(1)不動産について
 別紙遺産目録第1の1ないし5記載の不動産(以下同目録記載の不動産につき,「1の土地」「4の建物」等という。)は,いずれも被相続人の遺産である。

(2)預貯金について
 被相続人の相続開始時に存在した預貯金は,相続債務の返済のため全額解約済みであるから,遺産分割の対象とすることはできない。

(3)保険解約返戻金について
 被相続人の保険解約返戻金として,別紙遺産目録第2の1ないし4(以下「1の返戻金」等という。)が存在したところ,1及び4の返戻金については,遺産分割の対象とする旨の合意がある。2及び3の返戻金は,相続開始後,相手方Cが受領しているから、遺産の先取りと評価し,これらについても,遺産分割の対象とするのが相当である。

(4)相手方らの主張について
 相手方らは,上記のほか,〔1〕アパートの平成14年6月分家賃42万5339円を収受した現金,〔2〕酒類の販売業の免許,〔3〕同年1月1日から同年5月31日までの療養に関し支給された国民健康保険の高額療養費(少なくとも37万2485円を下らない),〔4〕被相続人の平成14年4月及び5月分の年金7万0133円が遺産分割の対象となると主張する。 
〔1〕につき,相手方ら主張の現金が遺産として現存していることを認めるに足る証拠は存在しない。

〔2〕につき,酒類の販売業免許は,その性質上,譲渡の対象とならず,酒類販売業者につき,相続があった場合,引き続き販売業をしようとする相続人は,その旨を所轄納税署長に申告することにより,その相続のときに販売業免許を受けたものとみなされるにすぎない(酒税法19条)ものであるから,酒類の販売業の免許は相続の対象となるものではなく,これが遺産分割の対象となるとの相手方らの主張は採用することができない。

〔3〕につき,記録によれば,○○市から相手方ら主張の高額医療費が支給されたことが推認できるが,その額及び支給時期,支給された者についてこれを確定する証拠はない。高額医療費は,世帯主に対して支給されることになっているから(国民健康保険法57条の2),被相続人生存中に,請求手続をした分については,被相続人が請求権を有していたというべきであるが,これらが現存している事実は認められないし,当事者間で遺産分割の対象にすることの合意がないから,遺産には含めることはできない。そして,被相続人が死亡した後は,申立人が世帯主としてその請求権を取得したというべきであるから,遺産には該当しない。いずれにしても,高額医療費を,本件において遺産分割の対象とすべきものとは認められない。

〔4〕につき,被相続人の平成14年4月及び5月分の年金請求権あるいは支給された年金が現存していることを認めるに足る証拠は存在しない。

(5)以上によれば,本件遺産分割の対象となる被相続人の遺産は,別紙遺産目録記載の不動産及び保険解約返戻金であり,相続開始時の価額は合計8423万4184円(2091万5000円+4557万1000円+0円+1679万9000円+16万9890円+32万4020円+31万0783円+14万4491円)であり,遺産分割時の価額は合計6697万3485円(1699万円+3593万1000円+0円+1347万9000円+18万3257円+3万1410円+21万4327円+14万4491円)となる。

3 特別受益
 特別受益についての判断は,原審判の「理由」欄の「第1」の「3」に説示のとおりである。ただし,次のとおり付加訂正する。
(1)原審判5頁24行目の「59パーセント」を「61パーセント」と改める。
(2)同6頁4行目の「申立人が」の次に「その収入を被相続人との生活費のために支出することにより,」を加える。
(3)同頁15行目の「受けたのであるから」を「受けており」と改める。
(4)同頁18行目の「評価することができる」の後に「(申立人は,解約返戻金は200万円を超えており,相手方Bは,保険の引き継ぎにより少なくとも200万円の贈与を受けたと主張するが,これを認めるに足る証拠は存在しない。)」を加える。

4 具体的相続分の算定
(1)みなし相続財産顧
 みなし相続財産額は,8423万4184円(本件遺産の相続開始時の合計額)+5154万0846円(申立人の特別受益額)+150万円(相手方Bの特別受益額)+357万2661円(相手方Cの特別受益額)=1億4084万7691円となる。

(2)各人の具体的相続分額
〔1〕申立人
 申立人の具体的相続分額は,1億4084万7691円×1/2-5154万0846円=1888万3000円(円未満四捨五入。以下同じ)
〔2〕相手方B
 相手方Bの具体的相続分額は,1億4084万7691円×1/4-150万円=3371万1923円
〔3〕相手方C
 相手方Cの具体的相続分額は,1億4084万7691円×1/4-357万2661円=3163万9262円

(3)各人の具体的相続分率
〔1〕申立人
 申立人の具体的相続分率は,1888万3000円
8423万4184円=0.22(百分の1未満四捨五入。以下同じ)

〔2〕相手方B
 相手方Bの具体的相続分率は,3371万1923円
8423万4184円=0.40

〔3〕相手方C
 相手方Cの具体的相続分率は,3163万9262円
8423万4184円=0.38

(3)各人の最終的相続分額
〔1〕申立人
 申立人の最終的相続分額は,6697万3485円×0.22=1473万4167円(円未満四捨五入。以下同じ)となる。

〔2〕相手方B
 相手方Bの最終的相続分額は,6697万3485円×0.40=2678万9394円となる。

〔3〕相手方C
 相手方Cの最終的相続分額は,6697万3485円×0.38=2544万9924円となる。

5 遺産分割についての意見等
 4の建物は1,2の土地上に,5の建物は,3の土地上に存在し,相手方Cは,5の建物の一室に居住している。なお,同建物の一室に居住していた申立人は,原審判後肩書住所地に転居した。
 不動産の分割方法につき,申立人は換価分割を希望し,相手方らは代償金が多額とならないことを条件として,3の土地及び5の建物の取得を希望している。
 また,申立人は,4の返戻金につき,相手方Cの反対により解約手続をすることができないため,保険料が控除されているものであるから,遺産分割時価額を相続開始時価額と同額として,相手方Cに取得させるべきであると主張する。

6 当裁判所の定める分割方法
(1)不動産について
 上記不動産の利用状況や当事者の意見によれば,1,2の土地及び4の建物を申立人の単独取得とし,3の土地及び5の建物を相手方Bにつき78分の40,相手方Cにつき78分の38の共有取得とするのが相当である。

(2)保険解約返戻金について
 保険解約返戻金については,1の返戻金を相手方Bの取得とし,2ないし4の返戻金を相手方Cの取得とするのが相当である。

(3)代償金について
 上記によれば,申立人の取得額は1699万円,相手方Bの取得額は,2552万1719円,相手方Cの取得額は2446万1766円となるから,申立人は,相手方Bに対し,代償金126万7675円を,相手方Cに対し,代償金98万8158円をそれぞれ支払うべきである(なお,申立人は前記特別受益に該当する多額の生命保険金を受領しており,代償金の支払能力を有するものと認められる。)。

7 結論
 以上の次第で,上記と結論を異にする原審判を取消した上,遺産を分割し,代償金の支払を定めることとし,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 野田武明 裁判官 丸地明子 鬼頭清貴)

(別紙)
遺産目録

第1 不動産
1 ○○市○○町1丁目××番× 宅地56.19平方メートル

2 ○○市○○町1丁目××番× 宅地112.03平方メートル
(1)1と2の土地合計で2091万5000円
(2)1と2の土地合計で1699万円
((1)は相続開始時の価額であり,(2)は遺産分割時の価額である。以下同じ)

3 ○○市○○町2丁目×番 宅地405.09平方メートル
(1)4557万1000円(2)3593万1000円

4 ○○市○○町1丁目××番地× 家屋番号××番×
木造瓦・亜鉛メッキ鋼板葺2階建倉庫
1階 65.60平方メートル
2階 30.57平方メートル
(1)0円(2)0円

5 ○○市○○町2丁目×番地 家屋番号×番
鉄筋コンクリート造陸屋根4階建共同住宅店舗
1階 198.58平方メートル
2階 218.78平方メートル
3階 206.87平方メートル
4階 93.83平方メートル

(1)1679万9000円(2)1347万9000円

第2 保険解約返戻金
1 ○○火災海上保険株式会社
(1)相続開始時価額 16万9890円
(2)遺産分割時価額 18万3257円

2 □□海上火災保険株式会社
(1)相続開始時価額 32万4020円
(2)解約時価額 3万1410円

3 △△火災海上保険株式会社
(1)相続開始時価額 31万0783円
(2)解約時価額 21万4327円

4 ○△生命相互保険会社
(1)相続開始時価額 14万4491円
(2)遺産分割時価額 14万4491円
以上:4,890文字

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