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法定相続分遺贈への遺留分請後遺産分割方法を判断した高裁決定紹介

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平成31年 3月 1日(金):初稿
○法定相続分遺贈に対する遺留分請後の遺産分割方法を判断した平成29年12月22日大阪高裁決定(判タ1456号69頁)全文を紹介します。

被相続人_________亡妻D
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 長女(抗告人)   二女(相手方)

○事案概要は以下の通りです。
・被相続人が平成20年死去し、相続人は妻D(1/2)と長女・二女(各1/4)の3人
・妻Dは、自己の法定相続分2分の1を含む全財産を長女に包括遺贈する旨の遺言を残して死去
これにより長女の被相続人遺産の相続分は、4分の3になる
・上記遺贈について二女が長女に対し遺留分減殺請求権を行使
これにより長女相続分の遺留分減殺対象8分の1が二女に戻るので、相続分は長女8分の5,二女8分の3になる
・長女は遺留分減殺請求による権利は遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないから,本件相続における遺産分割の対象は亡妻が相続した相続分2分の1を除く部分に限られるべきと主張
・原審は被相続人遺産の不動産の競売を命じ,その売却代金から競売費用を控除した残額を,抗告人(長女)8分の5,相手方(二女)8分の3の割合で分配する方法で被相続人の遺産を分割する旨の審判
・長女抗告


○長女は居住している遺産不動産を取得し、二女に代償金を支払う分割方法を希望したようですが、鑑定で不動産の時価が約2500万円と評価され、二女の相続分8分の3相当金額は約940万円となり、これを支払うことはできないとして換価分割もやむを得ないとなったようです。

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主   文
1 原審判を次のとおり変更する。
2 被相続人の遺産を次のとおり分割する。
(1) 別紙遺産目録記載1の土地の共有持分,同2の土地及び同3の建物の競売を命じ,その売却代金から競売費用を控除した残額を次のとおり分配する。
ア 抗告人 上記残額から7万1434円を控除した額の8分の5の額
イ 相手方 上記残額から7万1434円を控除した額の8分の3に7万1434円を加算した額
(2) 別紙遺産目録記載4の株式及び同5の定期預金をいずれも抗告人の単独取得とする。
3 手続費用のうち,鑑定人Eに支給した鑑定費用44万4960円は,これを8分し,その5を抗告人の,その3を相手方の負担とし,その余の手続費用は,第1,2審を通じて,各自の負担とする。

理   由
第1 抗告の趣旨

1 原審判を取り消す。
2 本件を大阪家庭裁判所へ差し戻す。

第2 事案の概要
1 本件は,被相続人の共同相続人である相手方が,同じく共同相続人である抗告人に対し,被相続人の遺産の分割を求めた事案である(平成25年○月○日審判申立て,同年○月○日付調停,平成28年○月○日調停不成立,原審判手続再開)。
 原審が,平成28年○月○日,被相続人の遺産である不動産の競売を命じ,その売却代金から競売費用を控除した残額を,抗告人8分の5,相手方8分の3の割合で分配するという方法により,被相続人の遺産を分割する旨の審判をしたところ,抗告人は,これを不服として,即時抗告をした。

2 抗告理由の要旨
 別紙抗告理由書(写し)記載のとおり

第3 当裁判所の判断
 当裁判所は,被相続人の遺産を主文第2項のとおり分割するのが相当であると判断する。その理由は,以下のとおりである。

1 相続の開始及び相続人について
 被相続人は,平成20年○月○日に死亡し,本件相続が開始した。
 相続開始時点における相続人は,被相続人の妻であるD,被相続人と亡Dとの間の長女である抗告人(昭和37年○月○日生)及び二女である相手方(昭和41年○月○日生)であった。
 その後,亡Dは,平成24年○月○日に死亡したので,本件相続に係る相続人は,抗告人と相手方である。

2 相続分の承継及び遺留分減殺請求について
(1) 本件相続の相続開始時点における各相続人の法定相続分は,亡Dが2分の1,抗告人及び相手方が各4分の1であった。
 亡Dは,平成20年○月○日付け自筆証書遺言(以下「D遺言書」という。)により,本件相続の法定相続分2分の1を含む全財産を抗告人に遺贈する旨の遺言をし,同遺言により,抗告人は本件相続に係る亡Dの法定相続分2分の1を承継した。
 D遺言書は,平成25年○月○日,大阪家庭裁判所において検認が行われ,相手方は,同年○月○日付けの書面により,抗告人に対し,遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした。
 亡Dの相続人は,長女である抗告人と二女である相手方の2名であり,その法定相続分は各2分の1であるから,相手方の遺留分の割合は,亡Dの遺産の4分の1となる(民法1028条2号)。
 そうすると,相手方による上記遺留分減殺請求権の行使によって,抗告人が亡Dから承継した本件相続に係る相続分(2分の1)の4分の1に当たる8分の1の相続分が相手方に取り戻されたことになるから,結局,本件相続における各相続人の相続分は,抗告人が8分の5,相手方が8分の3となる。

(2) この点,抗告人は,抗告理由(前記第2,2)の中で,抗告人において亡Dから相手方への生前の贈与があった旨主張しており,相手方の遺留分減殺請求権の行使によって相手方に取り戻される財産の割合は不明であるから,本件相続に係る相続分は確定できない旨主張するが,一件記録によれば,抗告人と相手方は,原審における本件調停手続(平成27年○月○日第15回期日)において,本件相続の相続分について抗告人が8分の5,相手方が8分の3とする旨の合意をしたことが認められ,また,抗告人の主張に係る相手方に対する亡Dの生前贈与を認めるに足りる的確な資料もないから,いずれにせよ抗告人の上記主張は,理由がなく,採用することはできない。

3 遺産の範囲及び評価額について
(1) 本件遺産分割手続において分割の対象となる被相続人の遺産は,別紙遺産目録記載の土地の共有持分,土地,建物,定期預金及び株式である。

(2) 各遺産の評価額は,以下のとおりである。
ア 別紙遺産目録記載1の土地の共有持分 357万円
イ 別紙遺産目録記載2の土地及び同3の建物 2058万円
ウ 別紙遺産目録記載4の株式 0円
エ 別紙遺産目録記載5の定期預金 19万0490円

(3) ところで,一件記録によれば,抗告人と相手方は,原審における本件調停手続(平成27年○月○日第15回期日)において,別紙遺産目録記載1ないし3の不動産が本件相続に係る遺産分割の対象となることを相互に確認しているところ,抗告人は,抗告理由(前記第2,2)において,最高裁判所平成8年1月26日第二小法廷判決(民集50巻1号132頁,以下「最高裁平成8年判決」という。)を引用し,遺言者の財産全部に係る包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は,遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないから,本件相続における遺産分割の対象は,亡Dが相続した相続分2分の1を除いた2分の1の持分に限られるべきである旨主張している。

 しかしながら,D遺言書による抗告人に対する包括遺贈は,本件相続に係るDの相続分を含んでいる点で,そもそも最高裁平成8年判決と事案を異にしているから,相手方が上記包括遺贈に対し,遺留分減殺請求権を行使したとしても,上記包括遺贈の対象とされた本件相続に係る亡Dの相続分がただちに本件相続に係る遺産分割の対象財産としての性質を失うものではないというべきであって,この理は,相続分の譲渡によって共同相続人として有していた一切の権利義務が包括的に譲受人に移転し,以後当該譲受人が遺産分割(遺産分割協議及び遺産分割審判)に当事者として関与する地位を得る(東京高等裁判所昭和28年9月4日決定・高等裁判所民事判例集6巻10号603頁参照)ことに照らしても,明らかであるというべきである(なお,D遺言書による包括遺贈の対象とされた本件相続に係る亡Dの相続分が本件相続に係る遺産を構成する個別財産に対する物権的持分であると解する余地がないではないけれども,D遺言書による包括遺贈の相手方が本件相続の共同相続人である抗告人であり,D遺言書が作成された時点においては,いまだ本件相続の遺産分割がされておらず,亡Dがいかなる財産を相続するのか確定していなかったことに加え,本件相続において誰がいかなる財産を相続するかについては,もとより本件相続の遺産分割によって決められるべきであることなどに照らせば,D遺言書による包括遺贈によって抗告人に遺贈されたものは,本件相続に係る亡Dの相続分であったと解すべきである。)。
 したがって,抗告人の上記主張は理由がなく,採用できない。

4 特別受益及び寄与分並びに具体的相続分について
 抗告人及び相手方は,それぞれ相手方及び抗告人に特別受益があった旨主張するところ,上記主張に係る各特別受益があったことを裏付けるに足りる的確な資料はなく,いずれの主張も採用できない。
 また,抗告人は,自らの寄与分を主張するけれども,そもそも寄与分を定める処分の申立て(民法904条の2第2項,家事事件手続法別表第二の14項)をしていない以上,もとより失当である。
 そうすると,本件相続において,特別受益及び寄与分は認められないから,具体的相続分は,抗告人が8分の5,相手方が8分の3となる。

5 分割に関する当事者の意見について
(1) 抗告人
 抗告人は,現物分割により遺産を取得して代償金を支払うことを希望していたところ,当審において遺産である不動産の鑑定を行った結果,代償金の支払が困難であるとして,株式及び定期預金の取得は希望するが,不動産については,換価分割の方法によることもやむを得ないとしている。

(2) 相手方
 相手方は,不動産の現物分割を希望せず,換価分割により金銭を取得することを希望している。

6 遺産の分割について
(1) 遺産である不動産の現況及び現物分割の可否
 別紙遺産目録記載1の土地は,現在,駐車場として利用されているが,その地積は94.54m2と比較的狭い上,遺産であるのは同土地の3分の1の共有持分にすぎないものであって,前記5の分割についての抗告人及び相手方の各意見も併せ考慮すると,遺産である同土地の共有持分を現物分割することは相当であるとはいえない。

 また,別紙遺産目録記載2の土地は,同3の建物の敷地の一部であり,同3の建物は抗告人の住居として使用されているけれども,前記5の分割に関する当事者の各意見に照らせば,遺産である同土地及び同建物を現物分割することは相当でないから,換価分割の方法によらざるを得ないというべきである。

(2) 遺産である株式及び定期預金について
 別紙遺産目録記載4の株式及び同5の定期預金については,前記5の分割に関する当事者の各意見も考慮すると,いずれも抗告人に単独取得させるのが相当である。

(3) 換価分割
 上記(1)で説示したとおり,本件相続に係る遺産である不動産は,いずれも換価分割するのが相当である。ただし,上記(2)のとおり,別紙遺産目録記載4の株式及び同5の定期預金を抗告人に単独取得させることによる調整を図る必要がある。
 同株式及び同定期預金の評価額の合計は,19万0490円であり,それを本件相続の具体的相続分で案分すると,その8分の3に相当する金額(1円未満四捨五入)は7万1434円となる。そこで,競売による売却代金から競売費用を控除した残額から上記7万1434円を控除した額を具体的相続分に従って案分し,相手方には,案分した額に7万1434円を加算した額を分配するのが相当である。

7 手続費用の負担について
 鑑定人Eに支給した鑑定費用44万4960円は,抗告人が予納したものであるところ,これについては,本件相続の具体的相続分の割合により,抗告人及び相手方にそれぞれ負担をさせ,その余の手続費用については,第1,2審を通じて,各自の負担とするのが相当である。

8 抗告理由について
 抗告人は,前記第2,2のとおり,るる抗告理由を主張するけれども,本件相続に係る遺産分割については,前記1ないし7において説示したとおりであって,上記主張に係る諸点を踏まえても,上記判断を左右するに足りない。

第4 結論
 以上のとおりであるから,前記判断と一部判断を異にする原審判を変更することとし,主文のとおり決定する。
 大阪高等裁判所第10民事部 (裁判長裁判官 河合裕行 裁判官 釜元修 裁判官 植田智彦)
以上:5,116文字

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