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遺産分割未了建物単独使用相続人への建物明渡請求を認容した高裁判例紹介2

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平成30年 9月 5日(水):初稿
○「遺産分割未了建物単独使用相続人への建物明渡請求を認容した高裁判例紹介1」の続きで、使用貸借のついて判断部分は、「第一審被告は右のようなかくべつの事情についてなんの主張も立証もしないから、第一審被告は相続財産に属する本件建物について12分の1に相当する共有持分を有するにもせよ、持分の価格の過半数を占める他の共同相続人である第一審原告ら全員からの本件建物の明渡請求を拒みうべきものではない。従つて第一審被告に対しその明渡を求める第一審原告らの本訴請求部分もまた理由あるものとしてこれを認容する相当とする。」としています。

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三、第一審被告の本件土地に関する取得時効の主張について判断する。
 第一審被告は、昭和15年7月11日以降所有の意思をもつて本件土地の占有を継続した旨主張するが、本件土地が第一審被告名義で所有権取得登記が経由され、また第一審被告名義で固定資産税が納付されたからといつて、ただそれだけで右主張事実を認めるにはたりないし、他にこれを認めるにたる証拠はない。反つて、前掲申第四号証、乙第一号証、原審証人前田昇吉、飯田勝郎の各証言、原審での訴訟承継前の原告本人前田A、原審及び当審(第1、2回)での第一審原告本人前田とら、当審での第一審原告本人前田旭治の各尋問の結果を綜合すると、第一審被告は昭和15年7月11日当時にあつては、まだ独身であつて、長男旭治を除くその余の第一審原告らとともに、戸主として一家を主宰するAの家族の一員として本件地上のA所有の建物に居住していたにすぎず、本件土地は昭和23年頃Aが北品川に転居するに至るまでAのみがこれを占有支配していたもので、第一審被告は終戦後において初めて独立した本件土地で営業を開始したことを認めることができるから、その余の点について判断するまでもなく、右取得時効の主張は採用できない。

四、本件土地はA死亡当時同人の所有に属していたというべきところ、Aは昭和33年12月6日死亡し、その妻である第一審原告前田とらと直系卑属であるその余の第一審原告ら7名及び第一審被告が相続をなしたことは当事者間に争がないので、本件土地は、各その相続分に応じて第一審原告前田とらが3分の1、その余の第一審原告ら7名及び第一審被告が各12分の1の持分を有する共有物となつたものといわなければならない。従つて、第一審被告は第一審原告らのため、本件土地についてそれぞれ右持分に応ずる所有権取得登記をなすべき義務あることが明らかであるから、その履行を求める第一審原告らの本訴請求部分は理由あるものとして認容するを相当とする。

五、Aが本件土地の上に所有していた建物が、昭和20年戦災のため焼失したこと、Aが昭和21年本件土地の上に本件建物を建築したこと、本件建物が当初から登記簿上Aの所有名義に保存登記されたことは,いずれも当事者問に争がない。
 第一審被告は、「本件建物は昭和21年9月頃Aが建築して第一審被告に贈与したものである」旨主張し、原審及び当審での第一審被告本人の供述及び当審証人萩谷吉五郎の証言中には、右主張に葬う趣旨の部分があるけれども、前掲甲第三号証、第六号証、第七、第八号証の各1、2、原審証人前田昇吉の証言、原審での訴訟承継前の原告本人前田A、原審及び当審(第1、2回)での第一審原告本人前田とら、当審での第一審原告本人前田旭治の各尋問の結果に照してたやすく信用できない。他に右贈与の事実を認めるにたる証拠はない。反つて、上記のとおり、本件建物は建築の当初からAが建築所有し、自己名義で所有権保存登記がなされている事実と、Aの資産状態、A一家の家庭状況、Aと第一審被告との間の粉争の経過その他上記二において認定した諸事実に徴すると、第一審被告が主張するような本件建物の贈与はなされなかつたことが窺えるので、右主張も採用できない。

六、第一審原告ら主張の使用貸借が成立したかどうかについて判断する。
 前掲甲第3号証、原審証人前田昇吉の証言、原審での訴訟承継前の原告本人前田A、原審及び当審(第1、2回)での第一審原告本人前田とら、原審及び当審での第一審被告本人(但し後記信用しない部分を除く)の各尋問の結果を綜合すると、次の事実を認めることができる。
 Aは本件土地の上に従前所有し居住していた建物が戦災で焼失した後、一時北品川に移つていたが、昭和21年中本件建物を建築し、落成後間もなくこれに居住するようになつた。これよりさき、第一審被告は昭和21年3月頃復員したが、住居がなかつたので、北品川の父のところに同居し、本件建物が完成するや妻子とともにこれに移り、Aとしばらく、同居を続けた。昭和23年頃A夫婦は北品川に転居し、本件建物は第一審被告に無償で使用させ、その後は第一審被告及びその家族のみが本件建物に居住して現在に至つたものである。
 原審及び当審での第一審被告本人の供述中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照してたやすく信用できないし、他に右認定を動かしうる証拠はない。上記認定の事実に徴すると、昭和23年A夫婦が他に転居した頃、Aと第一審被告との間に本件建物についての使用貸借契約が成立したと認めるのを相当とする。

七、第一審原告ら主張の右使用貸借契約の解約の点について判断する。
 前掲甲第6号証、第7、第8号証の1、2、第12号証の1、2、原審での訴訟承継前の原告本人前田A、原審及び当審(第1、2回)での第一審原告前田とらの各尋問の結果を綜合すると、Aは本件土地建物を他に処分し、その売得金のうち相当額を第一審被告に与え且つ自己の負債等を返済し、その残余金をもつてAら夫婦の老後の生活費に充てようと考え、第一審被告に対し本件土地建物の明渡を求めたが、第一審被告はこれを承諾しなかつたので、Aは昭和31年9月14日第一審被告を相手方として東京家庭裁判所に本件土地建物の明渡を求める調停の申立(右調停申立の点は当事者間に争がない)をなしたことを認めることができるのであつて、他に右認定に反する証拠はない。してみると、Aは第一審被告に対し遅くとも昭和31年9月14日頃までには、本件建物についての上記使用貸借契約を解約する旨の黙示の意思表示をなしたものと認めるのを相当とすべく、従つて、同日限り右使用貸借契約は終了したものといわなければならない。

八、Aが昭和33年12月6日死亡したこと、その相続関係並びに共同相続人の相続分については、上記に判示したとおりであるから、本件建物も各相続分に応じて第一審原告前田とらが3分の1、その余の第一審原告ら7名及び第一審被告が各12分の1の持分を有する共有物となつたものといわなければならない。ところで、共有者である共同相続人が持分の価格に従いその過半数をもつて建物管理の方法として相続財産に属する建物を共同相続人の1人に占有させることを定める等かくべつの事情のない限り、持分の価格の過半数に満たない持分を有するにすぎない共同相続人は、その建物にひとりで居住しこれを占有するについて他の共同相続人に対抗できる正当な権原を有するものと解することはできない。

 本件においては、第一審被告は右のようなかくべつの事情についてなんの主張も立証もしないから、第一審被告は相続財産に属する本件建物について12分の1に相当する共有持分を有するにもせよ、持分の価格の過半数を占める他の共同相続人である第一審原告ら全員からの本件建物の明渡請求を拒みうべきものではない。従つて第一審被告に対しその明渡を求める第一審原告らの本訴請求部分もまた理由あるものとしてこれを認容する相当とする。


第二、反訴についての判断。
 本訴について判示したとおり、第一審被告主張の贈与契約がなされたことは認められないので、本件土地が右贈与により第一審被告の単独所有に帰したことを前提として、その所有権に基き、第一原告らに対し本件建物を収去してその敷地たる本件土地の明渡を求める第一審被告の反訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当たること明らかであるといわなければならない。

第三、原判決中右と反対に第一審原告らの各所有権取得登記の請求を棄却した部分は不当であるから、民事訴訟法第386条を適用して、これを取消して右請求を認容することとし、第一審原告等の本件建物の明渡を求める点については、これを認容した原判決は相当であつて第一審被告の本件控訴は理由がないから同法第384条第1項を適用してこれを棄却し、なお第一審被告の反訴請求は理由がないものとして棄却することとし、訴訟費用の負担について同法第96条、第89条、仮執行の宣言について同法第196条第1項を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 村松俊夫 伊藤顕信 杉山孝)

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