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遺産分割未了建物単独使用相続人への建物明渡請求を認容した高裁判例紹介1

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平成30年 9月 5日(水):初稿
○「遺産分割未了建物単独使用相続人への建物明渡請求を認容した地裁判例紹介」の続き、その控訴審である昭和38年5月23日東京高裁判決(最高裁判所民事判例集20巻5号977頁)を2回に分けて紹介します。

○被相続人Aの妻及び子である一審原告らが、同じく子である一審被告に対し、本件土地の共有権取得登記手続及び本件建物の明渡しを求めましたが、Aは本件土地買受当時においては、一審被告に対し将来これを贈与しようと考えていたけれども、以後の事情の変化から、結局この贈与契約は履行されなかったとして、Aの死亡に伴い、本件土地は一審原告ら及び一審被告の共有物となったとして、一審被告は、一審原告らに対して、本件土地についてそれぞれの持分に応じた所有権取得登記をすべきとしました。

○本件建物の明渡しについても、共有者である共同相続人が持分の価格に従いその過半数をもつて建物管理の方法として相続財産に属する建物を共同相続人の1人に占有させることを定める等かくべつの事情のない限り、持分の価格の過半数に満たない持分を有するにすぎない共同相続人は、その建物にひとりで居住しこれを占有するについて他の共同相続人に対抗できる正当な権原を有するものと解することはできないとし、本件においては、第一審被告はこのようなかくべつの事情についてなんの主張も立証もしないから、第一審被告は相続財産に属する本件建物について12分の1に相当する共有持分を有していても、持分の価格の過半数を占める他の共同相続人である第一審原告ら全員からの本件建物の明渡請求を拒みうべきものではないので第一審被告に対しその明渡を求める第一審原告らの本訴請求部分もまた理由あるものとしてこれを認容しました。

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主   文
原判決中主文第二項及び第三項を取消す。
第一審被告は別紙物件目録(省略)第一記載の土地につき、第一審原告前田とらのため3分の1、その他の第一審原告らのため12分の1ずつの各所有権取得登記手続をなせ。
第一審被告の控訴並びに反訴請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は第1、2審とも(反訴の分を含む)第一審被告の負担とする。
第一審原告らにおいて金150万円の担保を供するときは、原判決中主文第一項に限り、仮りに執行することができる。

事   実
 第一審原告ら訴訟代理人は、昭和36年(ネ)第647号事件につき「主文第一項前段及び第二項同旨並びに訴訟費用は第1、2審とも第一審被告の負担とする」との判決並びに原判決中第一審原告ら勝訴の部分(原判決主文第一項)に限り仮執行の宣言を求め、同第669号事件につき主文第三項前段同旨の判決を、反訴につき「主文第三項後段同旨及び反訴の費用は第一審被告の負担とする」との判決を求め、第一審被告訴訟代理人は、昭和36年(ネ)第647号事件につき「本件控訴を棄却する」との判決を、同第669号事件につき「原判決中第一審被告敗訴の部分を取消す。第一審原告らの請求を棄却する。訴訟費用は第1、2審とも第一審原告らの負担とする。」との判決を求め、予備的反訴として「第一審原告らは第一審被告に対し別紙物件目録第二記載の建物を収去して同目録第一記載の土地を明渡せ。」との判決を求めた。
当事者双方の陳述した事実上の主張は、左記のほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

第一審原告ら訴訟代理人は次のとおり述べた。
一、第一審被告主張の反訴請求原因事実のうち、別紙物件目録第二記載の建物(以下本件建物という)が第一審原告ら及び第一審被告の共有に属することは認めるが、その余の点は否認する。同目録第一記載の土地(以下本件土地という)は第一審原告らが本訴で主張するように、第一審原告ら及び第一審被告の共有に属するもので、第一審被告が単独に所有するものではない。

二、本件土地が第一審被告の単独の所有に属するものとしても、第一審原告らは第一審被告の承諾のもとに、本件土地のうえに本件建物を共有しているものである。

三、第一審被告が亡前田Aから本件土地の贈与をうけたものであるとしても、当時第一審被告とAとの間には、Aのために建物の所有を目的とし、期間の定めなく且つ無償の地上権設定契約が締結された。Aは右地上権に基いて、昭和15年6月7日以降本件土地のうえに自己の建物を所有しこれに居住してきたが、昭和20年戦災のため右建物が焼失したので、昭和21年本件建物を建築して居住し、その家族(第一審原告旭治を除くその余の第一審原告ら及び第一審被告)をこれに同居させた。Aが昭和25年頃品川区北品川四丁目718番地に移転した後は、第一審被告が本件建物に居住するようになつたが、その所有権は従前どおりAに属し、同人死亡後は、相続人である第一審原告ら及び第一審被告の共有に帰したものであり、その敷地である本件土地に対する上記地上権も、右と同じく第一審原告ら及び第一審被告の共有となつたものであるから、第一審原告らの本件土地の占有は正当な権原に基くものである。

第一審被告訴訟代理人は次のとおり述べた。
一、第一審原告ら主張の催告並びに契約解除の意思表示のなされたことは認める。

二、仮りに、本件建物が第一審被告の単独所有に属するとの主張が認められず、第一審原告ら及び第一審被告の共有に属するものであるとするならば、第一審原告らはその敷地である本件土地を占有するなんの権原もないから、第一審被告は本件土地の所有権に基いて、第一審原告らに対し本件建物を収去して本件土地の明渡を求めるため、当審で上記のように反訴請求をなす。

三、第一審原告ら主張の地上権設定契約締結の事実は否認する。
当事者双方の証拠の提出、援用及び認否は、左記のほかは、原判決の摘示と同一であるから、これを引用する。(証拠省略)

理   由
第一、本訴についての判断。

一、前田Aが南斎と号して桑樹匠を業としていたこと、第一審原告前田とらはその妻、その余の第一審原告ら七名及び第一審被告らはその子で、次男である第一審被告のみは東京美術学校を卒業し同じ業を営んでいること、Aが昭和15年6月6日訴外東京建物株式会社(以下東京建物という)から本件土地を代金1万4655円70銭で第一審被告の名義を用いて買受け、第一審被告名義にその所有権移転登記を経由したことは、いずれも当事者間に争がない。

二、第一審被告は、「本件土地はAが買受けた頃、第一審被告がAから贈与を受けたものである。」旨主張するので判断する。原審証人高橋寿子、川島りん、高田太助、鈴木新太郎、前田清太郎、当審証人萩谷吉五郎の各証言並びに原審及び当審での第一審被告本人の供述中には、第一審被告の右主張事実に副う趣旨の部分があるけれども、後記各証拠に照してたやすく信用することができない。
 いずれも成立に争のない甲第四号証、第五号証の一及び三、乙第七号証の一ないし四、第八号証の1、2、原審証人前田昇吉、川島りん、高田太助、鈴木新太郎、前田清太郎、当審証人萩谷吉五郎の各証言、原審での訴訟承継前の原告本人前田A、原審及び当審での第一審被告本人、当審での第一審原告本人前田旭治の各尋問の結果を綜合すれば、次の事実を認めることができる。

 第一審被告は幼少の頃からAの仕事に興味を持ち、大正12年3月小学校を卒業するとすぐにAの仕事の修業に入り、仕事のかたわら築地の工芸学校夜間部に通学し、昭和4年頃には木工芸に関しては大体一人前となつた。昭和4年頃Aの勧めもあつて、第一審被告は彫刻家である訴外関根聖雲の指導を受けたが、将来桑樹匠たる美術家として大成することを志し、昭和5年東京美術学校彫刻科に学び昭和10年同校を卒業した。このような経過で、親族もこぞつて第一審被告はAの後継者であると認めるようになり、Aは自己のよい後継者を得たことを喜んで第一審被告に期待をかけ、第一審被告もまたその期待に応えてその業に専念した。また、Aは本件土地ほか一筆の土地を東京建物から買受けるに当り、その資金が不足したため、訴外株式会社日本勧業銀行から金1万5千円を借り受けたが、その際第一審被告はAとともにその連帯債務者となつた。

 しかし、上記認定の諸事実があるからといつて、後記認定の諸事実に対比して判断すると、ただそれだけでは第一審被告主張の贈与がなされたことを認めるには足りないし、その他にこれを認めることのできる証拠はない。
 反つて、いずれも成立に争のない甲第一号証の一ないし三、第二号証の一、第四号証、第五号証の一及び三、第六号証、第九号証の一ないし三、第11号証、第12号証の1、2、第13号証、原審証人余川仙、飯田勝郎、前田昇吉、原審での訴訟承継前の原告本人前田A、原審及び当審(第1、2回)での第一審原告本人前田とら(但し原審の分は訴訟承継前で証人として、以下たんに第一審原告本人という)、当審での第一審原告本人前田旭治、原審及び当審での第一審被告本人(但し上記信用しない部分を除く)の各尋問の結果と右認定事実とを綜合すると、次の事実を認めることができる。(一)Aは第一審原告とらとの間に、六人の男子(第一審原告旭治、同正男、同昇吉、同健吾、同博吉及び第一審被告)と二人の女子(第一審原告都喜子、同繁子)をもつた子福者で、戸主として一家を主宰していたものであるが、長男である第一審原告旭治はAの仕事になんの興味も持たず、大正13年頃中等学校2年を中退して森岡商店に勤務し、昭和14年5月頃にはAと別居するに至り、他の子供らもそれぞれAの仕事と関係のない方面に進み、上記認定のとおりAは第一審被告に仕事を継がせようと考えていた。

Aは東京建物から本件土地を買受けた当時、本件土地に居住しここを営業の場所として使用していたものであつて、本件土地はAの仕事を継続するために必要な土地である関係上、Aとしては本件土地を将来適当な時期に仕事の後継者となるべき第一審被告に贈与する考を有していたけれども、その当時ただちに右贈与をする意思は全く有していなかつた。Aは本件土地を買受けるに当り、買主として自ら売主側と売買代金額の決定その他の折衝をなし、自己を買主と表示した売買契約書を作成したもので、その所有権取得登記は自己名義で経由することになんのさしさわりもなかつたが、当時は旧民法による長子相続制度のもとにあつたので、自己名義に所有権取得登記を経由するならば、いずれは家督相続により本件土地は長男旭治(第一審原告)のみの所有に帰し、そのため将来仕事の後継者となるべき第一審被告が本件土地に居住して営業を継続するのに支障を生ずべきことをうれいた結果、本件土地の実体上の所有権は自己に保留し、いずれは仕事の後継者たるべき第一審被告に将来において贈与する意図のもとに、家人に相談することもなく、右のような趣旨で名義のみを第一審被告の名を用いることとして、東京建物から直接第一審被告名義に所有権取得登記を経由した。

Aが本件土地の上に所有し居住していた建物は昭和20年戦災のため焼失(右罹災の点は当事者間に争がない)したので、Aは昭和21年その跡に本件建物を新築し第一審被告と同居したが、すでに老令に及び仕事も思うようにできなくなつたので、昭和25、6年頃本件土地建物を他に処分して生活方針の切替を図つたが、第一審被告に反対され、さらに昭和30年頃には生活費を捻出するために本件土地の空地の部分にブロツク式モルタル塗の貸事務所を建築することを計画し、その資金を貸す人もあつたので、その建築許可の手続を経たけれども、第一審被告の同意がえられなかつたので、右計画も実現の運びに至らなかつた。かくて、Aと第一審被告は次第に不仲となり、昭和31年9月Aは本件土地が自己の所有であることを主張し、上記計画の実現を図るため、第一審被告を相手方として東京家庭裁判所に家事調停の申立をなしたが、不調に帰した(右調停の点は当事者間に争がない)ので、本訴を提起し第一審に係属中死亡するに至つたものである。

 前掲甲第2号証の1、第3号証、第11号証、成立に争のない乙第4号証、原審証人飯田勝郎、前田昇吉の各証言、原審及び当審(第二回)での第一審原告本人前田とら、原審での訴訟承継前の原告本人前田Aの各証言を綜合すると、次の事実を認めることができる。(二)Aは本件土地とともに東京建物からこれに隣接する宅地13坪四勺を買受け、本件土地と同様第一審被告名義に所有権取得登記を経由し、右地上に本件建物に接して建物を建築所有していた。右隣接の土地は最も価値のある角地であるが、Aは昭和24年3月31日金策のため訴外飯田勝郎に対し地上の建物とともに右土地を売却したが、その際買主との売買交渉はもつぱらAがこれに当り、所有名義が第一審被告となつていた関係上、Aから第一審被告に対し、所有権移転登記に必要な書類に調印を求めたのに対して、第一審被告は異議なくこれに応じ、右土地が自己の所有に帰しているものであるなどとは少しも主張しなかつた。原審及び当審での第一審被告本人の供述中右認定に添わない部分は前掲各証拠に照してたやすく信用できない。

 また、前掲甲第4号証、成立に争のない乙第1号証、原審証人余川仙、前田昇吉の各証言、原審及び当審での第一審原告本人前田とら、原審での訴訟承継前の原告本人前田A、当審での第一審原告本人前田旭治、原審及び当審での第一審被告本人の各尋問の結果を綜合すると、次の事実を認めることができる。(三)、Aは戦災にあうまでは、本件土地のほかに数戸の貸家等を有していたが、六男二女の子福者であり且つ多数の雇人を使つていた関係で、その生活はけつして豊かでなく、子女の多くは中等学校卒業又は中退の程度でそれぞれ職に就き又は他に嫁したが、第一審被告は苦しい家計のなかでAから学資をうけて上記のように美術学校を卒業したのであり、Aが戦災にあつてからは、本件土地のAの財産のうちの主要部分を占めるものとなつたこと、第一審被告を除くその余の男子は、順次父Aと別居しそれぞれ独立の生計を営むようになつたけれども、Aはこれらの子供等に対し特に財産を分与したことはなかつた。

 さらに、いずれも成立に争のない甲第6号証、第7、第8号証の各1、2、原審証人余川仙、前田昇吉の各証言、原審での訴訟承継前の原告本人前田A、原審及び当審(第二回)での第一審原告本人前田とら、当審での第一審原告本人前田旭治の各尋問の結果を綜合すると、次の事実を認めることができる。(四)Aは本件土地を他に処分しようとして、第一審被告の反対にあい紛議を生じたため、訴外宮脇次郎が仲裁した結果、昭和27年8月中第一審被告は父Aに対して同月からA死亡に至るまで毎月2万円宛の生活費を支給することを約し、同時にAは第一審被告が右契約を確実に履行したときは、将来本件土地とともにその地上の本件建物を第一審被告に譲渡し且つ他の兄弟姉妹らから異議を述べないようにすることを約し、その旨の誓約書(甲第六号証)を作成した。しかるに、第一審被告はAに対し右約定の生活費を数ケ月分支給したのみで、その後の支払を滞つたので、Aは昭和29年12月8日第一審被告に到達した内容証明郵便をもつて、7日以内に延滞分を支払うべく、もし右期間内にこれを支払わないときは、右契約を解除する旨の意思表示をなしたが、第一審被告はその支払をしなかつたので、右契約は解除された。

 上記認定の(一)ないし(四)の諸事実に徴して判断すると、Aは本件土地買受当時においては、第一審被告に対し将来適当な時期にこれを贈与しようと考えていたけれども、それはAが内心そのように考えていたにとどまり、その後Aの資産状態が悪化し且つ第一審被告と折合が悪くなつたために、Aは当初の考を変え、第一審被告に対する本件土地贈与の意思をすてるに至つたので、右贈与契約はついに実現されなかつたものと認めるのを相当とする。従つて、第一審被告が本件土地の贈与を受けたとする右主張は採用することができない。


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