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民法第910条に関する平成28年10月28日東京地裁判決紹介1

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平成29年 9月 5日:初稿
○亡Dの相続開始後認知によって相続人となった原告らが、亡Dの妻であって亡Dの遺産について既に遺産分割をして、亡D遺産全額を取得していた亡Dの妻である被告に対し、民法910条に基づき、価額の支払を請求した事案において、被認知者が被相続人Dの子で、被認知者以外に被相続人の子がいる場合においては、被認知者は、被相続人の配偶者に対しては、本来、死後認知によってその法定相続分に影響を受けない別個の系列に属する相続人として、民法910条の価額の支払請求をすることはできないものとした平成28年10月28日東京地裁判決(判時2335号52頁)を2回に分けて紹介します。

○以下の民法の規定による請求ですが、子どもが何人居ようが、妻の法定相続分2分の1は変わらないので、法定相続分を取得した妻に対する民法第910条の請求は出来ないことは納得できます。しかし、本件は、法定相続分を超えて全遺産を取得した妻に対する請求であり、法定相続分を超えた部分については、以下の民法規定を適用しても良いような気がします。控訴していますので、その判断が待たれます。
民法第910条(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
 相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続入が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。


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主   文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求等
1 請求

(1)被告は,原告Aに対し,577万円及びこれに対する平成27年6月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被告は,原告Bに対し,577万円及びこれに対する平成27年6月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 本案前の答弁
 本件訴えをいずれも却下する。

第2 事案の概要
 本件は,亡Dの相続開始後認知によってその相続人となった原告らが,亡Dの妻であって亡Dの遺産について既に遺産分割をしていた被告に対し,主位的に民法910条に基づく価額の支払請求として,予備的に不当利得返還請求として,それぞれ577万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成27年6月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提となる事実
(1)亡Dと被告は,昭和54年1月25日に婚姻し,昭和56年○○月○日に長男Eをもうけた(甲2)。

(2)原告A(以下「原告A」という。昭和61年○月○○日生)及び原告B(以下「原告B」という。昭和62年○月○○日)は,訴外F(以下「F」という。)の子である(争いがない。)。

(3)亡Dは,平成20年6月23日,仕事で長期滞在していたタイ国で死亡した(争いがない。)。
 原告らは,平成20年,東京家庭裁判所に対し,東京地方検察庁検事正を被告として,原告らを亡Dの子として認知することを求める訴えを提起し,Eが被告側に補助参加した(甲5)。

(4)被告とEとの間で,平成21年1月7日,別紙物件目録記載の土地及び建物の各持分6分の5(以下「本件遺産」という。)を被告が取得する旨の遺産分割協議が整った(甲3の2,乙7,以下「本件遺産分割協議」という。)。本件遺産について,平成21年2月4日,本件遺産分割協議に基づき,被告に対し,亡Dの持分全部移転登記がされた(争いがない。)。
 本件遺産が,亡Dの遺産の全てである(争いがない。)

(5)東京家庭裁判所は,平成21年10月29日,原告らが亡Dの子であることを認知する旨の判決(以下「本件認知判決」という。)を言い渡した(甲5)。本件認知判決は,東京高等裁判所の判決に対する上告期間が経過した平成22年6月11日に確定した(争いがない。)。

(6)原告らは,平成22年8月2日,東京家庭裁判所に対し,被告及びEを相手方とする遺産分割後の被認知者の価額請求の調停(以下「本件調停」という。)を申し立て,同月11日頃,被告に対し,その呼出状が送達された(甲15の1から4まで)。調停期日が同年11月1日開かれたが,Eは出頭せず,被告と代理人弁護士のみが出頭し,不成立となった(甲6)。

2 争点及び当事者の主張
(1)民法910条に基づく価額の支払請求は,審判事項か訴訟事項か。

【被告の主張】
 民法910条に基づく価額の支払請求は,遺産分割に準ずる請求であるから,審判事項である。
【原告らの主張】
 民法910条に基づく価額の支払請求は,相続回復請求権の一種であり,訴訟事項である。

(2)原告らは被告に対して民法910条に基づく価額の支払請求をすることができるか。
【原告らの主張】
ア 民法910条に基づく価額の支払請求は,相続財産が表見相続人により不法に占有されている場合に真正な相続人が表見相続人に対して相続財産の返還を包括的に請求できる相続回復請求権の一種であると解されるところ,相続回復請求の被告となるのは,現実に相続権を侵害している者である。そうすると,相続回復請求権の一種である同条の価額請求においても,配偶者がその法定相続分を超えて遺産を取得した場合には,被認知者の相続分を現実に侵害している配偶者が価額請求の相手方となることは明らかである。さらに,民法910条は,死後認知前にされた遺産分割を尊重することに趣旨があるから,法定相続分ではなく,現実にされた遺産分割の内容を前提として請求の相手方を決定するのが,民法910条の趣旨及びその法的性質に合致するものである。配偶者が法定相続分を超えて遺産を取得している場合には,配偶者の具体的相続分は被認知者の出現によって影響を受けるのであるから,配偶者が認知によって相続分に影響を受けないとはいえない。

 仮に,何ら遺産を取得していない被相続人の子に対して民法910条の価額の支払請求をした場合,その子は何ら遺産を取得していないのであるから,請求された金額を支払えない可能性が高いし,被相続人の子がこれを支払ったとしても,被相続人の子は,配偶者に対して請求することになるのであるから,結局配偶者がこれを負担することとなり,紛争解決としては迂遠である。

 被告は,本件遺産分割協議により亡Dの遺産の全てを取得しており,原告らの相続分を現実に侵害した者であるから,被告に対する価額請求は認められるべきである。

イ 原告らは,平成20年10月3日,死後認知を求める訴えを提起しており,被告は,本件遺産分割協議を行った平成21年1月7日の時点では,非嫡出子がいる可能性を十分に認識していたものである。そして,原告らが,平成22年8月2日,被告及びEに対し,本件調停を申し立てた際,Eは調停期日には全く出頭せず,被告のみが調停期日に出頭したが,被告が価額の支払請求の相手方ではないとの主張は一切していなかった。
 被告が本件訴訟において価額の支払請求の相手方ではないと主張することは,信義則に反し,許されない。

【被告の主張】
ア 被相続人に,被認知者のほかに子がいる場合には,本件認知判決により相続分が減少するのはEであって,妻である被告の相続分には何ら影響がない。
 したがって,原告らは,Eに対しては民法910条の価額の支払請求をすることができるが,被告はその相手方とならないから,本件訴えは不適法であるか又は理由がない。
 原告らは,何ら遺産を取得していない被相続人の子に対して価額請求すべきであるとすると,請求された金額を支払えない可能性が高い旨主張するが,被認知者は,相続分を基準として(相続分に応じて)分割して請求することができるにすぎないから,被相続人の子が請求額を支払えないとしてもやむを得ない。
 仮に,被告が,民法910条の価額の支払請求の相手方となるとしても,被認知者は,上記のとおり,相続分を基準として分割して請求することができるにすぎないから,被告に対しては侵害された額の2分の1しか請求することはできない。

イ 本件認知判決が確定したのは平成22年6月11日であるところ,被告及びEは,本件遺産分割協議に基づく登記手続をした平成21年2月4日当時においても,原告らの認知の訴えに驚愕し,全面的に否認して争っており,原告らが亡Dの非嫡出子であると認識することはできなかった。
 本件調停の際,被告が請求の相手方に関する主張をしなかったのは,調停手続であったため,単に支払を拒否すれば足りると考えたにすぎず,自分が価額請求の相手方であることを認めていたものではないから,被告が被告適格に係る主張をすることは矛盾するものではなく,何ら信義則に反するところはない。

(3)特別授益について
【被告の主張】
ア 亡Dは,Fに対し,三井銀行等の普通預金口座のキャッシュカードを渡しており,Fは,上記普通預金口座から引き出す方法で,〔1〕昭和61年11月から平成5年2月まで毎月30万円ないし50万円の計2280万円ないし3800万円,〔2〕平成5年3月から平成20年6月までは計8215万4651円の合計1億0495万4651円ないし1億2015万4651円を引出して,原告らの生活費に充てている。

 亡Dは,被告及びEに対しても同程度の送金をしており,亡Dは,タイにおいて月額20万円程度で生活していたから,亡Dは,月額80万円ないし120万円の所得,年額960万円ないし1440万円の所得があった。
 これを,養育費・婚姻費用の簡易算定表と照らし合わせてみると,原告らの養育費は,合計月額10万円程度となり,昭和61年11月から平成20年6月まで(21年8か月)の原告らの養育費は,2600万円が相当である。

 したがって,原告らが上記2600万円を超えて受領した7895万4651円ないし9415万4651円は,「生計の資本としての贈与」として原告らの特別受益に当たる。
 仮に,本件遺産の評価が,原告らが主張するとおり3462万円であったとすると,みなし相続財産は約1億1357万円ないし1億2877万円となり,原告らの具体的相続分額は,マイナスとなる(1億1357万円ないし1億2877万円)×1
6-3947万ないし4707万円)。このように,原告らは具体的相続分をはるかに超える特別授益を得ており,原告らの請求に理由はない。

イ 被告と亡Dとの法律婚は形骸化などしておらず,円満であった上,Fは,原告Aが小学校4年生となった平成8年頃には,亡Dに別れを告げ,それ以後,亡Dと会っていないというのであるから,亡Dと重婚的内縁関係にあったとはいえない。
 亡Dが,送金していた生活費は,Fが使用することができる分を含んでおらず,原告らの分のみである。

ウ 亡Dは,原告らに対して生活保持義務を負うとしても,上記送金額からすれば,原告らは,その義務の範囲を大幅に超えた金額を受領している。
【原告らの主張】
ア Fは,亡Dの内縁の妻であり,原告らは,亡Dの子である。亡Dは,原告らの生活保持義務を負っていたものであり,亡Dは,原告らの生活費を送金していたものであって,その額は亡Dの職業,収入等からして扶養義務の範囲を超えるものではなく,「生計の資本としての贈与」に当たらない。なお,被告は,原告らの養育費として月額10万円を超える送金額は原告らの特別受益である旨主張するが,そもそも,送金期間中の亡Dの正確な収入額は不明であり,簡易算定表に基づく被告の主張は理由がない。

イ 仮に,Fに対する送金が贈与に当たるとしても,受贈者はFであって,原告らではない。

ウ 仮に,上記送金が原告らに対する贈与に当たるとしても,これは原告らへの生活費,学費等に充てるために送金していたものであるから,黙示の持戻免除の意思表示があるというべきである。

(4)被告による本件遺産の取得が不当利得といえるか。
【原告らの主張】
 被告は,本件遺産分割協議により本件遺産を取得しているが,原告らは各6分の1の法定相続分を有しており,本件遺産のうち各6分の1は原告らに帰属すべきものであるから,被告は,法律上の原因なく不法に利益を得て原告らに同額の損失を及ぼしている。

【被告の主張】
 法律上の原因がない旨の主張は争う。原告らは,前記(3)のとおり特別受益があり,具体的相続分を有しないから,損失はない。


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