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遺産預貯金当然分割説の見直し平成28年12月19日最高裁判決全文紹介3

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平成28年12月22日:初稿
○「遺産預貯金当然分割説の見直し平成28年12月19日最高裁判決全文紹介2」の続きです。



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裁判官木内道祥の補足意見は,次のとおりである。
私は多数意見に賛同するものであるが,以下のとおり,私見を付加しておきたい。

多数意見は,遺産分割の仕組みが共同相続人間の実質的公平を図ることを旨として相続により生じた相続財産の共有状態の解消を図るものであり,被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましいことを前提に,預貯金が現金に極めて近く,遺産分割における調整に資する財産であることなどを踏まえて,本件で問題となっている各預貯金債権の内容及び性質に照らし,上記各債権が共同相続人全員の合意の有無にかかわらず遺産分割の対象となるとしたものであると理解することができる。

私は,以上の点に加えて,預貯金債権は,その額面額をもって価額と評価することができることからしても,共同相続人全員の合意の有無にかかわらず遺産分割の対象となると考えるものである。

遺産分割の審判においては,各相続人の具体的相続分の算定と取得財産の決定という二つの場面で,個別の相続財産の価額を評価することが求められる。前者については,被相続人が相続開始時において有した財産,遺贈や生前贈与として持ち戻される財産の価額に基づいて,寄与分を考慮した上で,各相続人の具体的相続分の価額及び割合が算定される(民法903条,904条の2)。後者については,遺産分割時に存在する財産をその時点の価額で評価した上で,各相続人の具体的相続分の割合に応じて,各相続人が取得する財産が定められる。

しかるに,債権については,その有無,額面額及び実価(評価額)について共同相続人全員の合意がある場合を除き,一般的に評価が困難というべきである。そのため,債権を広く一般的に遺産分割の対象としようとすると,各相続人の具体的相続分の算定や取得財産の決定が困難となり,遺産分割手続の進行が妨げられ,その他の相続財産についても遺産分割の審判をすることができないという事態を生ずるおそれがある。共有状態にある相続財産については各相続人の権利行使が制約されることを考慮すると,このような状態はなるべく早く解消されるべきである。

遺産分割の審判においては,共同相続人間の実質的公平を図るために特別受益の持戻しや寄与分の考慮を経て具体的相続分を算定して遺産分割が実現されるところ,債権を広く一般的に遺産分割の対象としようとして具体的相続分の算定が困難となり,その他の相続財産についても遺産分割の審判をすることができず,相続財産に対する各相続人の権利行使が制約される状態が続くことは,遺産分割審判制度の趣旨に反する。

したがって,額面額をもって実価(評価額)とみることができない可分債権については,上記合意がない限り,遺産分割の対象とはならず,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるものと解するのが相当である。なお,民法903条,904条の2は,同法第5編第3章第3節「遺産の分割」の前に位置するが,遺産分割の基準である具体的相続分を算定するためのものであるから,遺産分割の対象とならない上記可分債権は,これらの規定にいう「相続開始の時において有した財産」には含まれないと解される。

これに対して,預貯金債権の場合,支払の確実性,現金化の簡易性等に照らし,その額面額をもって実価(評価額)とみることができるのであるから,上記可分債権とは異なり,これを遺産分割の対象とすることが遺産分割の審判を困難ならしめるものではない。
したがって,預貯金債権は,共同相続人全員の合意の有無にかかわらず,遺産分割の対象となると解するのが相当である。

裁判官大橋正春の意見は,次のとおりである。
私は,原決定を破棄し,本件を原審に差し戻すとの多数意見の結論には賛成するものであるが,その理由については考えを異にするので,意見を述べたい。

1 多数意見は,原決定による遺産分割の結果が著しく抗告人に不利益なものであり,その原因は預貯金債権が遺産分割の対象とならなかったことにあると考え,これを解決する方策として,判例を変更して,普通預金債権及び通常貯金債権は最高裁昭和27年(オ)第1119号同29年4月8日第一小法廷判決・民集8巻4号819頁にいう「可分債権」に当たらないとするものであると理解することができる。

しかし,多数意見の立場は,問題の設定を誤ったものであり,問題の根本的解決に結び付くものでないだけでなく新たな問題を生じさせるものといわなければならない。預貯金債権を準共有債権と解したとしても,他の種類の債権について本件と同様に不公平な結果が生ずる可能性は依然として残されている。例えば,本件と,被相続人が判決で確定した国に対する国家賠償法上の損害賠償請求権を有していた事案とで結論が異なるのが相当なのかという疑問が生ずる。

2 問題は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割される可分債権を遺産分割において一切考慮しないという現在の実務(以下「分割対象除外説」という。)にあるといえる。これに対して,私は,可分債権を含めた相続開始時の全遺産を基礎として各自の具体的相続分を算定し,これから当然に分割されて各自が取得した可分債権の額を控除した額に応じてその余の遺産を分割し,過不足は代償金で調整するという見解(以下「分割時考慮説」という。)を採用すべきものと考える。

その理由は,次のとおりである。
遺産の分割は,遺産全体の価値を総合的に把握し,これを共同相続人の具体的相続分に応じ民法906条所定の基準に従って分割することを目的とするものであり(最高裁昭和47年(オ)第121号同50年11月7日第二小法廷判決・民集29巻10号1525頁参照),ここにいう「遺産全体」が相続開始時において被相続人の財産に属した一切の権利義務(同法896条)を指すことには疑問がない。したがって,遺産分割とは,相続開始時において被相続人の財産に属した一切の権利義務を具体的相続分に応じて共同相続人に分配することであるといえる。

これに対して,分割対象除外説は,遺産を構成する個々の相続財産の共有関係(同法898条)を解消する手続が遺産分割であると捉え,かつ,可分債権について共有関係が生じないと解して,可分債権は遺産分割の対象とならないものとする。しかし,個々の相続財産の共有関係を解消する手続は,遺産全体を具体的相続分に応じて共同相続人に分配するという遺産分割を実現するための手続にすぎないのであるから,この意味における遺産分割の適切な実現を阻害する分割対象除外説を採用することはできず,分割時考慮説が正当なものと考えられる。

分割対象除外説によれば,遺産分割時に預貯金が残存している場合には,具体的相続分に応じた分配をすることができるのに対し,共同相続人の1人が被相続人の生前に無断で預貯金を払い戻した場合には,被相続人が取得した損害賠償請求権又は不当利得返還請求権について具体的相続分に応じた分配をすることができない。これに対して,分割時考慮説によれば,後者の場合においても具体的相続分に応じた分配をすることができ,結果の衡平性という点においてより優れている。

また,遺言をしない被相続人の中には法律の規定に従って遺産分割が行われることを期待した者がいると考えられるところ,法律の専門家でない一般の被相続人としては,遺産を構成する債権が可分債権であるか否かによって結果は異ならないと期待していたと考えるのが自然である。したがって,分割対象除外説は被相続人の期待に反する結果を生じさせるものということができる。

分割時考慮説を採用することにより,家事審判事件が増加し,家庭裁判所の負担が増加することが考えられる。しかし,家庭裁判所の実務では当事者の合意を前提に可分債権を遺産分割の対象とすることがかなりの範囲で行われていること,分割時考慮説と分割対象除外説とで極端な結論の違いが生ずるのはまれで,多くの場合には具体的相続分と法定相続分の乖離は小さいと推測されることなどからすると,家庭裁判所における適正な事務処理を阻害するような著しい負担の増加はないであろうと考える。

よって,分割対象除外説に基づく原決定を破棄し,分割時考慮説に基づき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すのが相当であると考えるものである。

3 最後に,普通預金債権及び通常貯金債権を準共有債権とすると,問題の根本的解決にならないばかりか新たな不公平を生み出すほか,被相続人の生前に扶養を受けていた相続人が預貯金を払い戻すことができず生活に困窮する,被相続人の入院費用や相続税の支払に窮するといった事態が生ずるおそれがあること,判例を変更すべき明らかな事情の変更がないことなどから,普通預金債権及び通常貯金債権を可分債権とする判例を変更してこれを準共有債権とすることには賛成できないことを指摘しておきたい。

(裁判長裁判官 寺田逸郎、裁判官 櫻井龍子、裁判官 岡部喜代子、裁判官 大谷剛彦、裁判官 大橋正春、裁判官 小貫芳信、裁判官 鬼丸かおる、裁判官 木内道祥、裁判官 山本庸幸、裁判官 山崎敏充、裁判官 池上政幸、裁判官 大谷直人、裁判官 小池 裕、裁判官 木澤克之、裁判官 菅野博之)
以上:3,862文字

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