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遺産預金法定相続分払戻請求拒否を不法行為とした判例紹介1

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平成28年11月18日(金):初稿
○「遺産として預貯金しかない場合の特別受益控除-62年ぶり判例変更か?」記載の通り、昭和29年4月8日最高裁判決(民集8巻4号819頁)の遺産預貯金当然分割説の縛りが、解かれそうだとの専らの噂ですが、この噂によって、金融機関が、ここ数年認めるようになった法定相続分での預金払戻を、また渋るようになったとの噂もあります。

○法定相続分での預金払戻を拒否され、拒否した銀行に対し、支払拒否を不法行為に該当するとして損害賠償を求めたところ、原審で払戻請求のみ認容されたため損害賠償請求部分につき控訴した事案において、被控訴人は、相続開始により控訴人及び二女が法定相続分2分の1の割合に従って本件預金債権を当然に分割取得し、法律上控訴人の本件払戻請求を拒絶できないことを十分認識しながら到底正当化されない不合理な理由により頑なに払戻拒絶をし、不要であるはずの本訴を提起させて控訴人に損害を与えたとして不法行為の成立を認め、原判決を変更して賠償請求を一部認容した平成26年3月20日大阪高裁判決(金法2026号83頁)を3回に分けて紹介します。

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主  文
1 原判決主文第2項を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人は,控訴人に対し,7万円及びこれに対する平成24年12月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 控訴人のその余の損害賠償請求を棄却する。
2 訴訟費用は,第1,2審ともに被控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨

1 原判決主文第2項を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,20万円及びこれに対する平成24年12月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 事案の要旨

 本件は,Bが被控訴人(京都支店)に開設した同女名義の普通預金口座に係る預金債権について,平成15年9月8日のBの死亡による相続開始により法定相続分2分の1の割合で上記預金債権を分割取得したBの三女の控訴人が,被控訴人に対し,①平成24年8月11日現在の上記普通預金残高130万0628円の2分の1である65万0314円及びこれに対する催告の後である平成24年12月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,②被控訴人が上記普通預金の払戻しを拒絶したことは不法行為を構成するとして,20万円(慰謝料10万円と弁護士費用10万円との合計)及びこれに対する遅くとも不法行為が成立した日である同日から支払済みまで前同様の遅延損害金の支払を求めた事案である。

 原審は,控訴人の上記①請求を認容し(原判決主文第1項),上記②請求を棄却した(同第2項)。これに対し,控訴人が上記②請求を棄却した部分を不服として控訴した(被控訴人は,上記①請求の認容部分に対し控訴ないし附帯控訴しなかった。)。
 したがって,上記①請求の当否は,当審における審判の対象外である。

2 前提事実及び争点
 これらの点については,後記3のとおり当事者双方の当審における補充主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第2の1及び2のとおりであるから,これを引用する。ただし,3頁1行目の「同決定は」から2行目の「確定した」までを「同決定は確定した」に,同4行目の「代理人」を「控訴人訴訟代理人弁護士中川郁子(以下「中川弁護士」という。)」にそれぞれ改め,5頁4行目の「被告以外の金融機関」の次に「(三菱UFJ信託銀行,住友信託銀行及びゆうちょ銀行)」を加える。

3 当事者双方の当審における補充主張
(1) 控訴人

ア 国が公認し,社会的制度として国民に利用されるように運営されている預金制度は,それが私企業の経営によるものであっても,預金制度自体が社会的責任を負った国の制度であり,金融機関は,国民が安んじて預金制度を利用できるように運営し,機能させる重大な義務を負っているといわなければならない。したがって,その金融機関の判断は,国の確立された法秩序に従ったものでなければならない。

 確立された判例(最高裁昭和29年4月8日第一小法廷判決・民集8巻4号819頁,最高裁昭和30年5月31日第三小法廷判決・民集9巻6号793頁)があるにもかかわらず,正当な理由なく60年近くも上記判例に抵抗し続け,上記判例を遵守した行動をしている国民に全く不必要な預金払戻請求訴訟の提起を強要し続け,その結果として裁判手続を追行するための種々の負担との比較で訴訟提起を諦め,預金払戻しを断念せざるを得ないような国民を多く生んでいるメガバンクの我欲な組織的行為が,我が国の法秩序であり正義に適したものであるのか,それとも裁判所があえて容認するのかということが,本件で問われている基本的視点である。

イ 上記アの判例は,可分債権である銀行預金債権は,相続開始と同時に当然に法定相続人に応じて分割債権になると解し,共同相続人各人からの法定相続分に応じた分割請求を認め,銀行は支払を拒めないと判示するが,銀行実務は,古くから銀行預金債権の相続につき合有説に立ち,遺言又は相続人全員の同意を要求している。法と正義に基づく裁判官の判断は,本来,銀行実務の指標と考えられるはずであるのに,銀行実務は頑なに上記判例に背を向ける。しかしながら,銀行は,上記アのとおり,少なくとも法秩序として確立された判例理論に従うべき義務があり,それが我が国における法秩序の基本である以上,判例を無視して合有説を貫き,預金の払戻しを拒絶する銀行の姿勢は,法秩序に対する挑戦であって反社会的行為というほかない。

ウ 現在,多数の金融機関は,上記アの判例に従って共同相続人の1人からの預金の分割払戻請求に応じており,現に,B名義に係る三菱UFJ信託銀行,住友信託銀行及びゆうちょ銀行の預金について,上記各銀行は,控訴人からの分割払戻請求に応じているのであって,預金の払戻しを拒絶したのは被控訴人のみである。

 したがって,仮に被控訴人が昔流の護送船団方式の考え方に基づいて他行と同一行動が無難という判断をしているとしても,現在まで預金の分割払戻請求を拒絶し続けている被控訴人は,業界の流れさえ無視しているといわざるを得ず,その時代遅れの誤った判断(故意・過失,違法性)の程度は著しく大であり,いっそう反社会性が著しいといわなければならない。

(2) 被控訴人
ア 金銭債務の不履行があったとしても,直ちに不法行為の要件である権利利益の侵害があったものと認められるわけではない。民法は,金銭債務の履行遅滞による損害賠償については,法定利率(それを超える約定利率を定めている場合には当該利率)による賠償のみを予定しており,それ以上の金額の損害賠償請求は認められない(同法419条1項,2項)。すなわち,金銭債務の不履行について債権者に生じた損害については,債務不履行責任を負わせることのみが予定されており,他の権利ないし法益の侵害を伴うような極めて例外的な場合に限り,不法行為が成立するにすぎない。このことは,大審院明治44年9月29日判決・民録17輯519頁や最高裁昭和48年10月11日第一小法廷判決・裁判集民事110号231頁において一般論として明示されている上,かかる考え方は,金融機関による預金払戻しの拒否の場面でも当然に妥当するものであることは,幾つもの裁判例において確認されている。

イ 被相続人名義の預金の相続について第三者の立場にある金融機関は,遺言の存否,相続人の範囲,遺産分割の合意の有無等,預金を正当な権限のある者に払い戻すために必要な情報を自ら正しく認識し,把握することは不可能である。それゆえ,金融機関が後日の紛争を回避するため,共同相続人の署名押印又は遺産分割協議書の提示等の確認を求めることは極めて一般的かつ合理的な取扱いである。そして,共同相続人間に遺産相続について争いがある場合には,払い戻すべきでない相手方に対して預金を払い戻す等といった事態とならないよう,預金の払戻しに異議がないか他の共同相続人の意思を確認する等して慎重に払戻手続を進める必要性は,金融機関にとってより高いのである。

ウ 本件預金に関し,Bの共同相続人である控訴人とCとの間に現に遺産相続争いがあったのであるから,慎重に払戻手続を進める必要性が高い事案であり,控訴人からの本件預金の分割払戻請求に対し,被控訴人がCの同意を求めたことは何ら不合理ではない。
 また,被控訴人は,Cの意思を確認しようとしたが,控訴人の代理人弁護士によれば,遺産分割審判書に記載されたCの米国の住所に書面を送付したり,同審判手続におけるCの代理人弁護士に問い合わせる等したが,Cとは全く連絡が取れないとのことだったのであり,本件預金の分割払戻請求に関してCの意思を確認することができない状況であった。このような状況下で,控訴人による本件預金の分割払戻請求に応じることは,Cから払い戻すべきでない者に預金を払い戻した等の指摘を受ける等して,被控訴人が無用な紛争に巻き込まれる懸念を払拭することができない。そこで,被控訴人は,本件預金の分割払戻請求に関してCの意思を確認すべくCへの連絡方法を模索していたところ,控訴人が本件訴訟を提起したものである。

 以上の経過からすれば,被控訴人の上記一連の対応は合理的なものであって,控訴人が主張するような法秩序への挑戦等というような批判を受けるべき筋合いにはない。また,本件預金の分割払戻請求の拒否について,公序良俗に違反する等といった被控訴人の違法性を基礎付ける事情は存しないし,控訴人の権利利益の侵害や賠償すべき損害の発生も認められない。被控訴人が控訴人の引用する判例に抵抗し続け,国民に全く不必要な預金払戻請求訴訟の提起を強要したことなどもない。主張の相違から結果として訴訟を提起することになったとしても,そのこと自体はやむを得ないことであり,訴訟において両当事者が主張立証のために一定程度の労を要したとしても,これまたやむを得ないことであって,本件訴訟が係属したことをもって,控訴人に金銭をもって賠償すべき損害が生じたとはいえない。


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