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相続放棄をした相続人らを特別縁故者と認めた審判例全文紹介

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平成26年 4月 8日(火):初稿
○「相続財産管理人の実務-特別縁故者の要件等」で特別縁故者審判例を紹介していましたが、相続放棄をした相続人が特別縁故者として相続財産の全部の分与が認められた珍しい審判例として平成25年11月22日神戸家庭裁判所尼崎支部審判(LLI/DB、判例秘書)を紹介します。
被相続人が会社の30億円近い多額の連帯保証債務があり、相続放棄をしましたが、この連帯保証債務が会社新代表者に引き継がれて免除されたという特殊事情があったものです。

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主   文
1 申立人X1に対し,被相続人の相続財産から別紙物件目録記載の各不動産および相続財産管理人管理の現金から相続財産管理人の報酬その他管理費用を控除した残額の2分の1を分与する。
2 申立人X2に対し,被相続人の相続財産から相続財産管理人管理の現金から相続財産管理人の報酬その他管理費用を控除した残額の2分の1を分与する。

理   由
第1 申立ての趣旨

1 申立人X1に対し,被相続人の相続財産のうち別紙物件目録記載1の不動産を分与する。
2 申立人X1および同X2に対し,相続財産清算後の残余金を2分の1の割合にて分与する。

第2 当裁判所の判断
1 一件記録によると,以下の事実が認められる。
(1) 被相続人の相続人不存在

 被相続人は,平成18年1月9日,死亡した。被相続人の推定相続人は被相続人の妻である申立人X1,被相続人の長男である申立人X2であったが,いずれも,被相続人の債務超過を理由に相続放棄の申述をした。被相続人の兄弟もその後相続放棄の申述をし,その結果被相続人の相続人が不存在となり,平成19年12月7日,相続財産管理人が選任された(当庁平成19年(家)第1799号)。当庁において相続財産管理人の請求により相続人捜索の公告を行い,平成24年11月30日,相続人として権利主張する者のないまま,催告期間が満了した。

(2) 申立人と被相続人の関係
ア 被相続人と申立人X1は,昭和45年11月9日婚姻し,昭和48年○月○○日に両名の間に長男である申立人X2が生まれた。
 昭和49年12月,被相続人は申立人の現住所(○○市(以下略))の土地を購入し,1,2年後に家屋を建てて家族で転居した。被相続人は昭和63年6月に自宅(家屋番号:○○市(以下略))を再築し,以後もそこで家族で暮らしてきた。

イ 被相続人は昭和47年ころからA株式会社(以下「A」という。)に勤務し,その後同社の代表者に就任した。

ウ 申立人X2は,平成8年3月に大学卒業後,平成10年8月にAに入社した。その後健康を害して退職し,平成16年ないし17年以後は実家に戻り,被相続人や申立人X1と同居していた。

エ 被相続人は平成10年5月,C型肝炎と診断された。以後2週間に1回病院に通院し,申立人X1が付き添った。平成12年2月以降,被相続人は肝ガンを発症し,大阪赤十字病院に入退院を繰り返した。平成18年1月9日までの治療期間中,入院日数合計は160日を超えた(疎12の1の1から3まで)。入院中,申立人X1は被相続人に付き添った。
 並行して平成14年4月9日から平成17年12月12日までの間,被相続人は○○協立リハビリテーション病院に通院し,通院日数合計は409日だった(疎12の2)。通院に申立人X1が付き添い,申立人X2も車を運転して送迎した。
 平成17年以後,被相続人は自宅療養することが多かった。入浴,トイレなどの介助を申立人X1と申立人X2が協力して行った。
 平成17年,被相続人は生体肝移植を検討していた。申立人X2は自身の肝臓を提供することに同意し,京都大学付属病院で適合検査を受けた(疎19の4)。ガンが転移していたため,結局移植は断念された。
 平成17年8月25日から同月30日まで,被相続人は徳島市の病院に入院して温熱療法を受けた。入院手続は申立人X1が行った。
 被相続人は,平成18年1月1日大阪赤十字病院に入院し,同月9日死亡した。

オ 申立人X1が喪主となり被相続人の葬儀を執り行った。葬儀や墓地などの費用は申立人X1が負担した。

カ 被相続人は,死亡当時,住宅ローンのほか巨額のAの連帯保証債務を負っており,負債総額は29億7000万円に達した。申立人らは,被相続人の死後,Aの会計担当者から話を聞くなどしてその旨を知り,申立人ら代理人弁護士に委任して平成18年3月31日当庁に相続放棄申述を行い,平成18年4月21日受理された。

(3) 被相続人の相続財産
 相続財産は,別紙物件目録記載の各不動産および相続財産管理人名義の預金で管理する現金8243万0060円(ただし平成25年9月16日現在の残高)である。別紙物件目録記載1の土地は,被相続人が生前申立人X1に贈与した自宅土地建物(○○市(以下略)の宅地とその地上建物)に隣接する土地で自宅敷地前の道路部分に当たる。相続開始当時被相続人が負っていたAの巨額の連帯保証債務は,現在のAの代表者が債務を肩代わりしたことにより現在までに免除された。

(4) 相続財産管理人の意見
 相続財産管理人は,申立人らを特別縁故者と認め,相続財産から相続財産管理人の報酬および将来発生が見込まれる管理費用を控除した残りの大部分の分与がなされるべきと述べる。

2 判断
(1) 本件は,被相続人の妻および長男である申立人らが債務超過を理由に相続放棄し,被相続人の兄弟らも相続放棄したことで相続人不存在となり相続財産管理人が選任されたが,被相続人の負っていた会社の連帯保証債務がその後免除されたことにより相続財産が残存する状態となり,これについて申立人らが特別縁故者による相続財産分与を求めた事案である。

(2) 申立人らは,相続開始後に被相続人が巨額の連帯保証債務を負っていたことを知って申立人代理人弁護士に相談のうえ相続放棄申述をしたものであり,当時の状況においてこの相続放棄申述はやむを得ない選択であったといえる。

(3) 特別縁故の実情について,申立人X1は妻として長年被相続人と生計を共にし,かつ被相続人の肝炎が判明しさらに肝ガンを発症してからは入通院の付き添い,自宅療養中の介助など被相続人の全面的な看護を担ったといえる。申立人X2も,同居の家族として被相続人の療養看護に協力したことが認められる。

(4) 被相続人は申立人X1に自宅の土地建物を贈与しており,家族である申立人らが生活に困らないように財産を分与したいと考えていたことが推認できる。

(5) 以上のとおり,相続放棄は当時の状況からやむを得ない選択であったといえ,申立人らは家族として被相続人と生計を共にし,被相続人の療養看護にも努めたことが認められる。これによれば,申立人らはいずれも,民法958条の3第1項の特別縁故者にあたるといえる。
 分与すべき財産は,前記縁故の内容に加え,被相続人の負債が現在までになくなっていること,申立人らに財産を分与する被相続人の意思が推認できることを考慮し,現在相続財産管理人が管理する相続財産から相続財産管理人に対する報酬その他管理費用を控除した財産全部を申立人らに分与することが相当である。具体的な分与内容として,申立人X1が自宅土地建物を贈与されていることを考慮し,別紙物件目録記載の不動産すべてを申立人X1に分与し,相続財産管理人管理の現金から相続財産管理人の報酬その他管理費用を控除した残額を法定相続分に従い2分の1ずつ各申立人に分与することとする。


(6) 結論
 以上により,相続財産管理人Bの意見を聴いたうえ,主文のとおり審判する。
  平成25年11月22日
 神戸家庭裁判所尼崎支部 家事審判官 山本由美子

別紙     物件目録(省略)
以上:3,201文字

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