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不動産所有者なりすまし詐欺で弁護士に責任を認めた地裁判例紹介1

平成31年 3月 7日(木):初稿
○弁護士や司法書士が、不動産所有者なりすまし詐欺に加担したとして責任を追及される例は結構あるようです。判例時報2392号に紹介された平成30年9月19日東京高裁判決の原審平成29年11月14日東京地裁判決(ウエストロージャパン)の必要部分を2回に分けて紹介します。弁護士と司法書士が被告となりましたが、司法書士は責任を免れましたが、弁護士に6億4800万円の支払が命じられています。

○事案は、次の通りです。
・本件不動産が、訴外D、訴外b社、原告会社、訴外c社と順次売却された
・本件不動産につき、弁護士である被告Y1が訴外D及び訴外b社の代理人として所有権移転登記手続を申請
・司法書士である被告Y2が訴外b社及び訴外c社の代理人として訴外b社・原告会社間の売買を省いた中間省略登記である所有権移転登記手続を申請
・両申請は連件申請として同時に申請されたところ、提出された資料に偽造があるとして同申請が不受理となった
・原告会社から被告Y1に交付された金員も消失
・原告会社は、被告Y1(弁護士)・Y2(司法書士)の注意義務違反を主張して、被告らに対し、共同不法行為に基づく損害賠償を求めた
・被告Y1の履行補助者は生年が異なる印鑑登録証明書2通が存在したなどの状況で本件印鑑証明書の真偽を自ら調査確認する義務を怠ったなどとして、被告Y1の責任を認め6億4800万円の支払を命じた
・被告Y2は、その職務を果たしていないことが明らかであるなどの特段の事情は認められないこと等から、被告Y2の責任は否定


○被告Y1(弁護士)、被告Y2(司法書士)の責任判断部分は別コンテンツで紹介します。被告Y1(弁護士)は、72歳で、軽度の認知症の状態にある旨の診断を受け,さらに,平成29年7月3日時点で,「自己の財産を処分するには、援助が必要な場合がある。(補助相当)」,見当識は「まれに障害が見られる」,「他人との意思疎通できる」などの診断を受けたと認定されています。

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主   文
1 被告BことY1は,原告に対し,6億4800万円及びこれに対する平成27年9月11日から支払い済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを2分し,その1を被告BことY1の,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告らは,各自,原告に対し,6億4800万円及びこれに対する平成27年9月11日から支払い済みまで年5%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が,別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)について,同不動産の所有者と称する者と原告への売主との間の売買契約,同売主と原告との間の売買契約,原告と転売先との売買契約がそれぞれ締結された上,これらの売買を原因とする所有権移転登記手続の申請(連件申請)がされ,これに伴い,原告は,本件不動産の転売先から受領した売買代金相当額を被告BことY1(以下「被告Y1」という。)に送金したが,同申請は,提出された資料に偽造があるとしてこれが不受理となった上,同被告に交付した金員も消失したため,原告が転売先に上記金員等を返還しなければならない義務を負ったとして,被告らに対し,上記事態に陥ったのは,上記登記申請手続を代理した弁護士である被告Y1(前件の代理人)及び司法書士である被告Y2(後件の代理人。以下「被告Y2」という。)が,専門職としての有資格者に要求される注意義務に違反し,申請書類の不備を見落としたことによるものであるとして,共同不法行為に基づき,転売先に返還しなければならない金員相当額及びこれに対する上記金員の送金日(不法行為時)の翌日から支払い済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求める事案である。

         (中略)

第3 争点に対する判断
1 認定事実

 前記前提事実に,下記に掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められ,これに反する的確な証拠はない。

(1) 本件法律事務所の状況
ア 被告Y1は,元々,自らが開設したh法律事務所のパートナー弁護士を務めていたが,平成20年ないし21年ころ,同じ事務所の他のパートナー弁護士から引退を勧告されたことに反発し,同事務所の執務室を移動し,かつては同事務所で働いていたCが持ち込む事件の処理などをしていた。そして,被告Y1は,平成26年ころ,再び,上記弁護士から弁護士を引退するよう勧告を受けたことから,同事務所を出ることにし,本件法律事務所を開設した。

 Cは,被告Y1の本件法律事務所開設に賛同し,同事務所の賃貸物件を探したり,事務員,勤務弁護士などの手配を行った。
 その後,本件法律事務所では,被告Y1名義で事件処理を行うものの,主にCが仕事の依頼を受け,その処理を差配するようになり,Y1は,Cから指示された案件の訴訟活動を担当し,裁判所に出頭して,訴訟活動を行っていた。なお,平成29年3月1日時点で被告Y1が担当していた訴訟案件は,別紙1記載のとおり,31件であった(以上につき,乙12,23,被告Y1,弁論の全趣旨)。

(2) 本件売買契約に至る経緯
ア 平成27年4月ころ,Cのもとに,株式会社eの代表取締役であるG(以下「G」という。)から本件不動産の売買に関する話が持ち込まれた。その後,本件不動産は,株式会社f(以下「f社」という。)や株式会社g(以下「g社」という。)がこれをb社から買い受ける旨の契約を行うことで交渉が進められていたが,結局,これらの買主候補との取引は成立しなかった。なお,Cは,上記交渉を進めていた平成27年4月ないし5月に自称Dと数回面談して,本人のパスポートの写しや住民票を受領し,被告Y1も,同年5月ころにDと面談した。また,自称Dは,同年8月4日,東京法務局所属のH公証人(以下「H公証人」という。)と面談し,甲山D名義のパスポート(以下「本件パスポート」という。)を提示した上,本件不動産売買に関する登記申請を被告Y1に委任する旨の委任状に自ら署名押印し,H公証人により,その旨の公正証書が作成された(甲8,21ないし24,乙11,17,証人C,被告Y1)。

イ Eは,原告から,本件不動産の購入について依頼を受けていたところ,g社との取引が不成立となった平成27年8月18日,Cに連絡し,本件不動産の購入を強く希望した。
 そこで,Cは,これに応じることにし,E及び原告代表者と面談して,同人らに対し,Dのパスポートや,Dの生年が大正13年となっている印鑑登録証明書(以下「本件印鑑証明書」という。),Dの本人確認をした公正証書の写しを交付した(甲8,25,乙11,証人C,原告代表者)。

ウ その後,本件不動産の売買については,登記名義人であるDからb社に,b社から原告に,原告からc社に売買する形を取ることになり,平成27年8月7日付けでD・b社売買契約書(甲9)が作成された上,同年9月3日付けで,b社・原告間売買の契約書(甲3)が作成された。同売買契約は,b社を売主,原告を買主,d社を媒介業者,立会人を被告Y1とするものであり,立会人欄には,被告Y1の記名及び押印(実印)がある(甲3,7,25)。

エ c社の第一営業本部執行役員部長であったI(以下「I」という。)は,被告Y2に対し,b社から原告に対する所有権移転登記手続(原告・c社間売買については中間省略登記)を依頼するとともに,平成27年9月4日,原告代表者から受領した本件登記申請に必要な書類の写しを送付した(甲26,被告Y2,弁論の全趣旨)。

オ Cは,平成27年9月7日,本件法律事務所に自称Dを招き,原告代表者,c社のI,d社のE,G及び被告Y2ほか立会の下,自称Dと面談し,本件登記申請に添付する資料がそろっているかどうかの確認をした(甲25,丙6)。
 この時,自称Dは,本件不動産の登記済証を所持していなかったが,出席者に対し,本件パスポートを提示した。なお,自称Dは,同日,東京法務局所属の公証人J(以下「J公証人」という。)と面談し,本件パスポートを提示した上,本件不動産売買に関する登記申請を被告Y1に委任する旨の委任状(以下「本件委任状」という。)に自ら署名押印し,J公証人によりその旨の公正証書が作成された(甲11)。

 また,同会合の際,自称Dが,大正13年生まれだと述べたため,Cが,g社との取引を進めていた際に受領したDの印鑑登録証明書(甲16,平成27年7月26日発行のもの)は,生年が大正15年となっていることを指摘したところ,G又は自称Dが,生年を平成13年とする本件印鑑証明書(甲8,平成27年7月27日発行のもの)を取り出したため,同証明書をその場でコピーした。しかし,上記各証明書には,いずれも,通常はコピーをした際に印字される「複写」の文字が出なかった。これに対し,被告Y2が疑問を呈したため,Eにおいて本件申請までに正式な書類を整えることになった(甲25,乙11,証人C,原告代表者,被告Y2,弁論の全趣旨)。

カ Cは,平成27年9月8日,渋谷法務局に対し,上記二通の印鑑証明書について「不正登記防止の申し出」が出ていないかを問い合わせたところ,そのような申し出は出ていないことが確認された。また,Eは,同日,Cに対し,生年を大正13年とする本件印鑑証明書を改めてコピーしたところ,「複写」の文字が出たため,これを登記申請に用いたい旨伝えたところ,Cはこれを了承した。(甲8,11,乙11,証人C,弁論の全趣旨)

キ 原告は,平成27年9月10日,c社との間で,原告・c社間売買契約書を締結した。同売買契約には,売主又は買主が同契約に定める債務を履行しないとき,その相手方は,自己の債務の履行を提供し,相当の期間を定めて催告したうえ,この契約を解除することができる旨,同解除に伴う損害賠償(違約金)は,売買代金の10%である6810万円とする旨,売主の債務不履行により買主が解除した場合には,売主は,受領済みの金員に違約金を付加して買主に支払う旨(同契約14条)が定められていた(甲10,25)。

(3) 本件登記申請の状況
ア Y2は,平成27年9月10日,被告Y1名義で作成された本件前件申請書及び自らが作成した本件後件申請書の添付書類の内容を点検した上で,両申請書を提出して本件登記申請をした(甲11,12,被告Y2)。

イ 本件前件申請書は,被告Y1が,D及びb社の委任を受け,D・b社間売買の所有権移転登記を申請するものであり,被告Y1の記名,押印(実印)がある。また,同申請書には,添付資料として,登記原因証明情報,公証人の認証が付された本件委任状,本件印鑑証明書などが添付されていた(甲11)。

(4) 本件登記申請後の状況
ア 原告は,本件登記申請がされた平成27年9月10日,被告Y1の預かり口銀行口座に,原告の転売先であるc社から受領した売買代金6億7900万円のうち6億4800万円を,本件売買契約の代金名下に振り込んだ(本件送金。甲4ないし6,13,乙5,原告代表者)。

イ Cは,同日中に,上記金員のうち3億9500万円をb社に,1億円をKなる人物に,7000万円をGに,3600万円をCが代表を務める株式会社iに,200万円を本件法律事務所に,Lなる人物に2000万円振り込み,1500万円については,現金で引き出した(乙5ないし10,証人C)。

ウ その後,本件登記申請は,本件前件申請の書類として添付された本件印鑑証明書に偽造があったとの理由で,却下された(甲25,26,弁論の全趣旨)。

(5) 原告とc社間の和解について
 原告とc社は,平成27年12月14日,c社が,原告の債務不履行を理由に原告・c社間売買を解除すること,原告は,同解除により,c社から交付を受けた売買代金6億7900万円及び違約金6810万円の支払債務を負担したこと,原告は,c社に対し,上記合計7億4710万円を,以下のとおり分割して支払うこと,原告が同分割金の支払を1回でも遅滞したときは当然に期限の利益を失うこと,原告が上記債務を履行しないときは,直ちに強制執行に服する旨を認諾することなどが定められた公正証書を作成した(甲13)。

ア 平成27年12月21日限り 3000万円
イ 平成28年1月30日限り 1000万円
ウ 平成28年2月から同年4月まで毎月末日限り 各1000万円
エ 平成28年5月及び同年6月まで毎月末日限り 各1億円
オ 平成28年7月末日限り 4億7710万円

(6) 本件登記申請に関する資料について
ア 自称Dは,平成27年9月7日の関係者との前記会合及び同日の公証人との面談に際し,本件パスポートを提示した。同パスポートは,中華人民共和国(CHN)発行で,パスポート番号「〈省略〉」,名義人の姓を「甲山」,名を「D」,生年月日(出生日期)を「○○ ○○ 1924」,性別を「男」,発行日を「12 MAY 2010」,有効期限を「11 MAY 2020」と記載されていたが,本来,旅券番号・国番号・生年月日・有効期限の順で記載される同パスポートの最下段の記載に,「87△△△△」と1987年△△月△△日という生年月日が記載されているなど,偽造のものであった(甲4,7,20)

イ 本件前件申請書に添付された本件印鑑証明書は,Dの生年が「大正13年」と記載され,Dの住所が「東京都武蔵野市□□町j丁目19番17」と記載されており,同申請書に記載された登記義務者の住所である「東京都武蔵野市□□町j丁目19番17号」の記載と齟齬し,また,Dの住民票上の住所とも齟齬するものであった(甲11,17)。

ウ 本件前件申請書に添付されたD名義の委任状には,「甲山D」との署名があるが,同署名の筆跡は,f社との間で交渉していた際に提出されたD名義の売渡承諾書(乙16)や領収書(乙18),g社との間で交渉していた際に提出された売買契約書(甲21)や領収書(甲22)に記載された「甲山D」名義の署名の筆跡と,一見して異なるものであった(甲11)。

(7) 被告Y1の能力について
 被告Y1は,平成23年12月20日(当時72歳),高齢診療科(もの忘れ外来)を受診したところ,言ったことを覚えていない,夜道に迷う,失禁したなどのエピソードが認められ,軽度認知症(血管性)と診断された。その後も,被告Y1は,通院を続け,認知症の診断のためのMMSE(Mini-Mental State Examination)テストを受けていたが,その点数は,30点満点中25点~28点であった。

 また,被告Y1は,平成29年5月1日の時点で,主に注意力障害,意欲低下,記憶障害の症状があり,MMSEの点数は低下していないが,症状は緩徐に進行しており,軽度の認知症の状態にある旨の診断を受け,さらに,平成29年7月3日時点で,「自己の財産を処分するには、援助が必要な場合がある。(補助相当)」,見当識は「まれに障害が見られる」,「他人との意思疎通できる」などの診断を受けた。
 (以上につき,乙22の1の1及び2,23,25)。


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