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みなし単純承認解釈ミスで弁護士に損害賠償義務を認めた判例紹介2

平成29年 3月25日:初稿
○「みなし単純承認解釈ミスで弁護士に損害賠償義務を認めた判例紹介1」の続きで、裁判所の判断部分です。
被告の弁護士は損害金を合わせると3000万円近い金額の支払いを命じられていますが、弁護士賠償保険に入っていなかったら大変な状況となります。また、弁護士賠償保険に入っていたとしても遅延損害金がどこまで保険金として認められるか興味あるところです。

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第3 争点に対する判断
1 認定事実

 前記第2の1の前提事実,証拠(各項掲記のもののほか,甲22,乙9,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
(1) Eは,幼い頃,両親が離婚し,母であるDが米国人と再婚して渡米したため,祖父母であるB・C夫婦の自宅(本件不動産)において,育てられた。その後,Bが別居したため,Cは,孫のEと二人暮らしをしていた。
  Bは,平成21年1月30日頃,Eに対して本件不動産を贈与する旨の贈与契約書を作成した。(甲10)

(2) 被告は,平成24年2月13日にBが死亡した後,知人からCを紹介され,相続について相談を受けるようになり,同年3月26日に開かれたBを偲ぶ会において,Cから原告を紹介された。
 被告がBの相続財産の調査をしたところ,Bに数千万円の債務があり,債務超過の状態にあることが分かり,被告は,その旨をCに説明したところ,Cから,同居していたEもまだ大学院生であり,Cの収入も少ないため,自宅(本件不動産)を離れることは困難であり,本件不動産を確保したいと相談され,原告やDとも連絡を取りながら,その対応に当たることになった。

(3) 被告が所属していた法律事務所では,所属弁護士と事務員がインターネット上で情報を共有し記録化できるシステム(アズワン)を採用していたところ,事務員であるHは,同年4月16日,Cの案件の懸念事項として,「贈与登記をすることが単純承認にならないか,要検討。裁判例とコンメンタールを調査しましたが,登記義務者として登記に応じることが単純承認とみなされる,という明確な記述は見つかっていません。贈与登記をすることによるリスクを相続人らに事前に説明し,了解を得る必要があります。」と書き込んだ。(乙4)

(4) 被告が所属していた法律事務所の事務員であるIは,同年6月5日,原告に対し,東京家庭裁判所において,Bの相続放棄の期間を伸長する旨の申立てが認められたこと,本件不動産については,贈与契約書によるEへの贈与の手続を進めていることを報告する電子メール(以下「メール」という。)を送った。(甲7)

(5) Hは,同月12日,アズワンにおいて,「6/11 Cさん,Eさんの委任状,Cさんの印鑑証明書を受領しました。先週末に,Y1先生からCさんとX1さんに電話をし,贈与登記を行うことのリスクについて説明してもらいました。単純承認とみなされるリスクを覚悟した上でやる,ということになりました。Dさんへの説明はまだです。」と書き込んだ。(乙5)

(6) Hは,同月21日,原告に対し,本件不動産の所有権移転登記手続について,Dにも準備をお願いしていたが,日本に在住していないことや米国の市民権を取得しているため,手続に必要な書類をそろえることが難しいことが判明したこと,そこで,法務局と協議し,Dのみ先に相続放棄をすれば,原告とCだけで所有権移転登記手続をすることができること,Dも相続放棄するということで被告がその手続を受任したこと,原告の相続放棄も行うと,相続人の範囲が変わってしまい,CとBの母が相続人となるため,Dのみ相続放棄の手続をすることを報告するメールを送った。

 これに対し,原告は,同月22日,Hに対し,「相続の件,承知致しました。まだ,相続放棄はいたしません。」と記載したメールを返信した。
 また,原告は,同年7月13日,Hに対し,本件不動産の「登記が完了すれば,家(山口)の心配が無くなるので,少し負担が減ります。母,甥も同じだと思います。」と記載したメールを送信した。(甲8,乙2,7)。

(7) 原告は,Aから提起された訴訟に関し,平成25年12月2日,被告に対し,「Y1先生に相続手続きをお願いした当初は,こんなにも大変なことになるとは思っていませんでした。」と記載したメールを送ったところ,被告は,同日,原告に対し,「訴訟については,最終的には土地建物の贈与を受けたEさんのほうでいくらかの金銭をAに支払い,和解することになると思います。何ら利益も得ていないX1さんには負担がいかないような解決を,と思っております」と記載したメールを返信した。(甲19)

 また,原告は,同月5日,被告に対し,「昨夜は御説明ありがとうございました。主人も,何故私だけが対象となったのか(姉は除外となったのか),ずっと腑に落ちなかったようなので,説明して頂けて助かりました。1日考えましたが,やはり自己破産には抵抗があります。先生も御指摘されたように,私は何の利益も受けていませんし・・・。敗訴にならないように,御力を貸してください。」と記載したメールを送った。
 これに対し,被告は,同月6日,原告に対し,「破産について納得がいかないお気持ち,わかります。いずれにせよ,うまく和解できれば不要なことですから,今は裁判の行く末を見守ってください。」と記載したメールを返信した。(甲21)

(8) 原告は,平成26年3月25日にAとの間の敗訴判決を受け,同月31日,被告に対し,「判決を不服とし更に争っても勝つ見込みは低いことから,訴えずに和解の道をY1先生にお願いしたいと思います。これ以上こじらせて,Aとの和解の道が絶たれるのは困るので。ただ,今回の判決の結果から,もう一つの所から訴えられたりはしないかという懸念があります。そのことを思うと更に高裁まで戦った方が良いのかな・・・と思う気持ちもあります。先生はどの様に思われますか。和解の話ですが,甥が認めなくても話しを進めてください。」と記載したメールを送った。

 これに対し,被告は,同日,「K(旧・K’)は倒産しており,Bさんに対する債権はLという会社に譲渡されています。この会社からは全く請求も来ておらず,このまま放置していればいずれは時効により消滅しますのでじっと時間が経過するのを待つのが賢明です。また,今回の訴訟の結果はLには伝わりませんから,控訴してもしなくても同じです。とにかく,Eさんに就職してもらい,働きながら返すように促し続けます。」と記載したメールを返信した。(甲16)

(9) 原告は,同年7月25日,被告に対し,「基本的には不動産名義変更に署名してしまうと相続放棄は無効になってしまうのですか?」と質問するメールを送ったところ,被告は,同月27日,「当時,無効かどうかの裁判例は存在せず,登記名義を変更しても大丈夫かは難しい判断でした。法的には半々くらいの可能性だと認識していました。」,「しかし,名義変更せずにBさん名義のままで相続放棄してしまえば,自宅を失うことは確実でした。仮にAのように,相続放棄が無効だという債権者が現れても,その債権者と個別に交渉すれば大丈夫だろうとも思いました。したがって,Cさんとの間で,リスクはあるけどやってみよう,という話になりました。X1さんには,そのあたりの説明が,私からは不十分だったかもしれません。すみませんでした。」と記載したメールを返信した。(甲9)

2 争点1(説明義務違反の成否)
(1) 弁護士は,依頼者に対し,善良なる管理者の注意義務をもって依頼案件の処理を行う義務があり,依頼者から複数の依頼があった場合に一方の依頼が他方の依頼と整合せず,他方の法的効果を無効なものにしないかどうかを確認し,そのおそれがある場合には依頼者に対して適切な説明をして,依頼者に損害を与えないようにすべき義務を負っているというべきである。

(2) これを本件についてみると,前記第2の1の前提事実及び前記1の認定事実によれば,
①Cは,山口市内にある自宅(本件不動産)において孫のEと二人暮らしをしていたところ,別居中のBが多額の負債を抱えて死亡したこと,
②Bは,生前に本件不動産をEに贈与する旨の契約書を作成していたところ,Cは,今後も自宅に住み続けたいと考え,弁護士である被告に相談し,被告は,原告やDとも連絡を取りながら,その対応に当たることになったこと,
③被告は,Bの相続人が本件不動産について所有権移転登記手続をした場合,単純承認をしたものとみなされる可能性は半々程度であり,仮にその後にされた相続放棄が無効であると主張する債権者が現れても,当該債権者と個別に交渉すれば,問題は回避されると考え,一方,先に相続放棄をした場合には,Bの母や妹という第二次相続人,第三次相続人がいるため,手続が遅れ,その間に債権者に本件不動産を差し押さえられることをおそれたこと,
④被告は,Dについては,米国に居住しているため,本件不動産の所有権移転登記手続に必要な書類をそろえることが難しいと判断して,先に相続放棄することとし,原告からも了解を得たこと,
⑤原告も,Eに対する本件不動産の所有権移転登記手続がされることによって,Cの自宅が確保されこの点についての心配がなくなると考えていたこと,
⑥本件不動産の所有権移転登記手続の後に,原告及びCは,Bの相続を放棄する旨の申述をしたが,Bの債権者であるAが当該相続放棄は無効であるとして債務の履行を求める訴訟を提起し,東京地方裁判所は,Aの主張を認めて,原告及びCが敗訴したこと,
⑦原告は,同判決について控訴するか否か悩み,被告に相談したが,被告は控訴を勧めなかったこと
の各事実を認めることができる。

(3) 以上のとおり,被告も,Bの相続人が本件不動産について所有権移転登記手続をした場合,単純承認をしたものとみなされる可能性は半々程度であると考えていたのであり,前記1(3),(5)のとおり,当時,被告の法律事務所の情報共有手段として使われていたアズワンにおいても,事務員が平成24年4月16日に「贈与登記をすることが単純承認に当たらないか,要検討。」,「贈与登記をすることによるリスクを相続人らに事前に説明し,了解を得る必要があります。」と書き込み,同年6月12日には「先週末に,Y1先生からCさんとX1さんに電話をし,贈与登記を行うことのリスクについて説明してもらいました。単純承認とみなされるリスクを覚悟した上でやる,ということになりました。」と書き込んでいることからすると,被告は,原告に対して電話で,単純承認とみなされる可能性は半々程度あるが,本件不動産を確保するためには先に所有権移転登記手続をしておく必要があるという程度の説明はしたものというべきであり,リスクについておよそ説明しなかったと認めることはできない。

(4) しかしながら,民法921条1号本文が相続財産の処分行為があった事実をもって当然に相続の単純承認があったものとみなしている主たる理由は,本来,かかる行為は相続人が単純承認をしない限りしてはならないところであるから,これにより黙示の単純承認があるものと推認し得るのみならず,第三者から見ても単純承認があったと信ずるのが当然であると認められることにある(最高裁昭和40年(オ)第1348号同42年4月27日第一小法廷判決・民集21巻3号741頁参照)。

 したがって,「処分」とは,財産の現状・性質を変ずる行為をいい,法律行為のみならず事実行為でもこれに当たるというべきところ,本件において,被相続人であるB名義の本件不動産について相続人である原告やCがEに所有権移転登記手続をすることは,Bの債権者を含む第三者に対する対抗要件をEに具備させ,所有権の移転を確定的に完了させるものであり,一方,Bの債権者の立場からすると,本件不動産を差し押さえる可能性を失うものの,単純承認をしたとして原告やCに対して債権を行使できると信ずるのも当然と認められる行為というべきである。

 そうだとすると,このような相続人が行う所有権移転登記手続は,既に発生している所有権移転登記義務の履行にすぎないということはできず,これをもって同号ただし書の「保存行為」に当たるとはいえないから,同号の「処分」に当たるというべきである。

 以上のように判断される可能性は,本件不動産について所有権移転登記手続がされた当時においても,相当高いものであったというべきであり,だからこそ,Aが原告及びCに対して提起した求償金請求事件においても同様に判断され,被告は,同訴訟において,原告及びCの訴訟代理人をしていたものの,控訴することもなく,同判決は確定しているのである。

 なお,この点,被告は,本人尋問において,控訴しなかった大きな理由は原告が控訴提起手数料を負担できなかった旨を供述したが,前記1(8)のとおり,判決後の原告と被告とのメールでのやり取りでは,そのような記述は見られず,これが主たる理由であったとは認められないというべきである。
 そうだとすると,被告において,単純承認とみなされる可能性は半々程度であると考えたこと自体,見通しを誤ったものといわざるを得ず,そのような見通しの下に原告に対してされた説明もリスクの大きさという点で不十分なものであったというべきである。

(5) また,前記1(7),(9)のとおり,被告は,原告に対し,Aのように,相続放棄が無効だという債権者が現れても,その債権者と個別に交渉すれば大丈夫だろうとも思いましたと伝え,また,Eにおいていくらかの金銭をAに支払い和解することになるとの見通しを伝えていることからすると,単純承認とみなされた場合においても,Eがいくらかの金銭を支払えば債権者と和解できると考えていたというべきであるが,遅延損害金を含めると原告及びCに対して各2500万円を超える債権を有するAは,結局,和解には応じておらず,原告が金銭的な負担をしない和解が成立する見込みがあったとは考え難く,この点の被告の見通しも適切なものとはいえない。

 以上の点に,被告が原告に対する説明は電話でされたというものであり(前記1(5)),被告も,原告に対し,「Cさんとの間で,リスクはあるけどやってみよう,という話になりました。X1さんには,そのあたりの説明が,私からは不十分だったかもしれません。すみませんでした。」と記載したメールを送っていること(同(9)),Aから訴訟を提起された後の原告と被告とのやり取りを見ても,原告は,被告に対し,原告に相続手続を依頼した当初は,こんなにも大変なことになるとは思っていなかったとし,自己破産には納得がいかないと伝えていること(同(7))を考え併せると,被告は,本件不動産を確保したいというCの意向に捉わられ,Eに対して本件不動産の所有権移転登記手続をすることによって直接利益を受けることのない原告の立場に十分配慮せず,本件不動産の所有権移転登記手続をすると単純承認をしたものとみなされ,その場合にはBの債権者から多額の債務の支払を求められ,自己破産も余儀なくされるというおそれを,現実性のあるものとして原告に理解させる説明をしていなかったと認めるのが相当であり,仮にそのような説明を受けていれば,原告としては,先に相続放棄をしていたものというべきである。

(6) 以上のとおり,被告は,弁護士として依頼者である原告に十分な説明をすべき義務を怠ったものであり,これによって原告に生じた損害を賠償すべき責任があるというべきである。

3 争点(2)(過失相殺の適否)
 被告は,仮に被告の説明に不十分な点があったとしても,原告においてより詳細な説明を求めるべきであったと主張するほか,原告は,Aとの間において債務の減額交渉を怠ったと主張する。
 しかしながら,本件においては,相続財産である不動産について相続人が所有権移転登記手続をすることによって単純承認をしたものとみなされるかどうか,みなされた場合に当該相続人が自己破産に至るおそれがどの程度あるかという点が問題となっており,法律の素人が判断できるものではなかったというべきであるから,弁護士である被告は,そのリスクを適切に判断し,法律の専門家として素人である原告が正確に理解できるよう説明すべき義務を負っていたというべきであって,原告においてより詳細な説明を求めるべきであったとして過失相殺をすることが相当であるということはできない。

 また,前記1(7),(8)のとおり,原告は,Aとの和解交渉を被告に依頼していたのであり,原告において債務の減額交渉を怠ったと認めることはできない。
 被告は,本件訴訟において原告の請求が全額認容された後に原告とAとの間において同金額よりも減額された和解が成立すれば,被告は,原告の出えん以上の損害賠償義務を負うことになり,そのような結果は,損害の公平な分担とはいえない旨主張するが,本件訴訟において原告の請求が全額認容され,これを被告が原告に賠償金を支払った場合に,Aが原告に対して減額した和解に応ずる可能性があるとは考え難く,被告の上記主張も,採用することができない。

4 原告の損害
 原告は,被告の債務不履行により,相続放棄の機会を失い,確定判決により,Aに対して828万4206円及びこれに対する平成12年6月28日から支払済みまで年14%の割合による金員の支払債務を負うことになったものであるから,同額は原告に生じた損害というべきである。
 また,弁護士の善管注意義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権は,これを訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権であるということができるから,当該弁護士費用は,事案の難易,請求額,認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り,上記注意義務違反と相当因果関係に立つ損害というべきである。本件の事案における上記事情を斟酌すると,本件において相当と認められる弁護士費用の額は,原告が請求する252万6000円を下ることはない。


5 結論
 以上のとおり,原告の請求は理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第31部  裁判官  永谷典雄
以上:7,554文字

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