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みなし単純承認解釈ミスで弁護士に損害賠償義務を認めた判例紹介1

平成29年 3月24日:初稿
○弁護士であるY(被告)に,亡父の相続放棄の申述及びその所有不動産の所有権移転登記手続を委任したX(原告)が,相続放棄よりも所有権移転登記を先行させたため,単純承認をしたものとみなされ,その後にした相続放棄が無効になったとし,Yは,このことを適切に説明しこれを制止すべき善管注意義務に違反したなどと主張して,弁護士Yに対し,債務不履行に基づく損害賠償として,相続した亡父の株式会社Aに対する債務相当額並びに弁護士費用及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、この請求を全て認容した平成28年8月24日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン、LLI/DB判例秘書)全文を2回に分けて紹介します。

○弁護士の依頼者に対する弁護過誤の類型は
①不誠実型,
②単純ミス型,
③知識不足・技能不足型

があり,①及び②については,弁護士の依頼者に対する責任が肯定される割合が高いとされていますが、③については依頼者からの請求が認められるのは比較的難しいとされています。

○①及び②については,過誤の性質から,注意義務違反と結果との因果関係が比較的明確ですが、③については,弁護士の職務遂行上,その裁量が要請される場面が多いことがその理由です。本件は,以上の三類型の③に該当するとの解説もありますが、私はむしろ②単純ミス型と思っております。請求額全額が弁護士に支払を命じられましたが、他山の石とすべき事案です。

○当事者の関係は次の通りです。
 F
 |
 B(被相続人)____妻C
       |___
       |   |                
       D   X(原告)
       |
       E

***************************************

主   文
1 被告は,原告に対し,828万4206円及びこれに対する平成12年6月28日から支払済みまで年14%の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告に対し,252万6000円及びこれに対する平成27年2月26日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 主文と同旨

第2 事案の概要等
 本件は,弁護士である被告に亡父の相続放棄の申述及びその所有不動産の所有権移転登記手続を委任した原告が,相続放棄よりも所有権移転登記手続を先行させたため,単純承認をしたものとみなされその後にした相続放棄が無効になったとし,被告は,このことを適切に説明しこれを制止すべき善管注意義務に違反したなどと主張して,被告に対し,債務不履行に基づく損害賠償として,相続した亡父の株式会社A(以下「A」という。)に対する債務相当額(828万4206円及びこれに対する平成12年6月28日から支払済みまで年14%の割合による遅延損害金)並びに弁護士費用(252万6000円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成27年2月26日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提事実(争いのない事実のほかは,掲記の証拠により認める。)
(1) 当事者等

ア 原告(昭和49年生まれ)は,B(以下「B」という。)とC(以下「C」という。)の二女である。
 D(以下「D」という。)は,BとCの長女であり,米国に居住している。E(昭和61年生まれ。以下「E」という。)は,Dの長男である。
 Bは,平成24年2月13日に死亡したが,その相続人は,妻であるC,子であるD及び原告の3人であった。Bが死亡した当時,Bの母Fが存命しており(平成25年9月7日死亡),また,Bには3人の妹がいた。(甲2)

イ 被告(昭和53年生まれ)は,平成19年に弁護士登録をし,弁護士として活動している。被告は,平成24年当時,G法律事務所に所属していた。
 H(以下「H」という。)及びI(以下「I」という。)は,その当時,G法律事務所において事務員として働いていた。

(2) 相続放棄期間の伸長手続
 原告,C及びDは,平成24年4月,Bの相続放棄の期間を伸長する旨の申立てを被告に委任し,東京家庭裁判所に同申立てをしたところ,同裁判所は,Bの相続について承認又は放棄をする期間を同年11月13日まで伸長する旨の審判をした。

(3) Dの相続放棄の申述
 Dは,Bの相続放棄の申述を被告に委任し,同年7月10日,東京家庭裁判所において,Bの相続を放棄する旨の申述をした。

(4) B名義の不動産の所有権移転登記手続
 Bは,山口市内に自宅の土地建物(以下「本件不動産」という。)を所有しており,生前,Eに対して本件不動産を贈与する旨の贈与契約書を作成していたところ,原告及びCは,Eに対する所有権移転登記手続を被告に委任し,同月17日,平成21年1月30日贈与を原因とする本件不動産の所有権移転登記手続をした。

(5) 原告及びCの相続放棄の申述
 原告及びCは,Bの相続放棄の申述を被告に委任し,平成24年8月31日,東京家庭裁判所において,Bの相続を放棄する旨の申述をした。

(6) Aによる訴訟提起
 Aは,平成25年に東京地方裁判所において,Bが平成3年11月21日にJ保険相互会社から2700万円を借り入れ,Aがこれを保証し代位弁済したと主張し,原告及びCに対し,求償金の残額として各828万4206円及びこれに対する平成12年6月28日から支払済みまで年14%の割合による遅延損害金の支払を求める訴えを提起した。

 Aは,同訴訟において,原告及びCが本件不動産についてした所有権移転登記手続の申請行為が,Bが行った生前処分の履行として,相続財産の処分に当たり,単純承認をしたものとみなされるため,原告及びCの相続放棄は無効であると主張し,原告及びCは,被告にその訴訟追行を委任してこれを争ったが,東京地方裁判所は,平成26年3月25日,Aの主張を認め,その請求を全額認容する判決を言い渡した。(甲15)
 原告及びCは,同判決に控訴せず,同判決は確定した。

2 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 被告に原告に対する説明義務を怠った善管注意義務違反が認められるか
ア 原告の主張

 被告は,原告が相続放棄よりも所有権移転登記手続を先行させるとその後にした相続放棄が無効になるおそれがあることを適切に説明し,これを制止すべき善管注意義務があったにもかかわらず,被告は,これを怠ったばかりか,自ら進んで所有権移転登記手続を先行させることを提案し,そうしなければ当該不動産を確実に失うとの虚偽の説明をした。

 また,被告は,Dについてのみ先に相続放棄をさせたが,これによって,原告の負担することになる債務額は2倍になることを原告に説明し,その危険を回避させる説明を怠った。

イ 被告の主張
 Cは,本件不動産において,長年,孫のEと暮らしており,Bは本件不動産をEに贈与する旨の契約書を作成していたが,所有権移転登記がされておらず,Bには相当の負債もあったため,Cは,Eのために自宅である本件不動産を守りたいと被告に相談していた。

 被告は,本件不動産についてEに対する所有権移転登記手続をすれば,単純承認をしたものとみなされる可能性は半々程度と考えており,平成24年6月8日頃,原告及びCに対し,それぞれ電話で,①原告,C及びDが相続を放棄した場合,Bの母が二次相続人となるが,同人は認知症であるため,放棄に時間を要すること,更に,三次相続人のBの妹が相続の放棄をするにも時間を要すること,その後,相続財産管理人が選任されたとしても,Eに対する贈与契約書の真正が問題となり,訴訟となる可能性もあること,その間に債権者が先に仮差押えや差押えをする可能性が高く,本件不動産を守ることは厳しいことを説明したほか,②相続放棄に先立って所有権移転登記手続をした場合には,その後の相続放棄が有効と認められず,債権者から請求を受けてしまうリスクがあること,しかし,全員が相続放棄するよりは本件不動産を守れる可能性が高いこと,仮に債権者から請求を受けた場合には,債権者と個別に和解交渉することは可能であり,原告及びCに財産がないのであれば,最悪,破産手続開始の申立てをすることも考えられることを説明した。

 被告は,原告に対し,Dについてのみ先に相続放棄をすることを説明しており,その結果,相続債務を残った相続人で負担することは,原告も当然に理解していた。
 その結果,原告もCも,本件不動産を守ることを望み,相続放棄に先立って本件不動産について所有権移転登記手続をすることを了解した。

(2) 過失相殺が認められるか(仮定抗弁)
ア 被告の主張

 仮に被告の説明に不十分な点があったとしても,原告は,被告に対してより詳細な説明を求めるべきであった。
 また,原告は,Aとの間において債務の減額交渉を怠っているから,原告の被告に対する損害賠償請求については,過失相殺がされるべきである。
 本件訴訟において原告の請求が全額認容された後に原告とAとの間において同金額よりも減額された和解が成立すれば,被告は,原告の出えん以上の損害賠償義務を負うことになるが,そのような結果は,損害の公平な分担とはいえず,許されない。

イ 原告の主張
 原告は,本件不動産の所有権移転登記手続を先行させた場合のリスクについて,被告から全く説明を受けていなかった。仮に何らかの説明を受けていたとしても,法律の専門家である被告は,法律の素人である原告が正確に理解できるまで説明する義務があったから,過失相殺を認めるべきではない。
 被告は,Aとの間において原告に何らの負担のないような和解成立の期待を抱かせていたものであり,また,原告には和解交渉する資力もなく,Aとの間で和解交渉をすることもできなかったから,この点を捉えて過失相殺をすることもできない。

以上:4,064文字

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