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仮差押手続懈怠等を理由に弁護士が着手金等返還を求められた判決全文紹介1

平成27年 9月15日:初稿
○債権回収事件を受任した弁護士が委任契約上の善管注意義務に違反して債務者の資産に対する仮差押命令申立てを行わなかったことにより債権回収が不能となった等として、依頼者から債務不履行に基づく損害賠償として既払着手金95%と回収不能額の5%相当額の合計約400万円の返還請求を求められて訴訟になった事案についての平成25年3月28日東京地裁判決(判例時報2238号32頁)全文を3回に分けて紹介します。

○判決は、依頼者の弁護士に対する請求の殆どを棄却していますが、弁護士としてはお客様である依頼者から業務内容について不満を持たれ、訴えまで提起され、更に裁判途中で和解もできず、判決にまで至り、判決全文が公刊判例集に掲載されることは、極めて、恥ずかしいことです。たとえ判決で勝訴しても、大変な失態であることに変わりありません。

○何故、お客様に訴えを提起されるまでに不満を持たれたのかのついて、もって他山の石とするため、判決全文を3回に分けて紹介し、私の感想等を別コンテンツで備忘録として残します。この判決は控訴され、平成25年12月16日東京高裁判決(判時2238号19頁)で控訴棄却となっています。

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主   文
1 被告は,原告に対し,2万4870円及びこれに対する平成23年12月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,404万5500円及びこれに対する平成23年12月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,弁護士である被告に債権回収に係る法律事務を委任した原告が,被告に対し,被告が委任契約上の善管注意義務に違反して債務者の資産に対する仮差押命令申立てを行わなかったことにより債権回収が不能となったなどと主張し,債務不履行による損害賠償請求権に基づき,債権回収が不能となった金額の約5パーセントに当たる300万円の賠償及びこれに対する請求日の後の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,上記債務不履行を理由として委任契約を解除したと主張し,不当利得返還請求権に基づき,既払いの着手金の95パーセントに当たる99万7500円の返還及びこれに対する解除日の後の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払を求め,委任契約に基づき,予納した委任事務処理費用のうち委任事務処理に使用しなかった金額として4万8000円の返還及びこれに対する請求日の後の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 争いのない事実等(証拠により認定した事実は,各項の末尾に当該証拠を摘示した。)
(1) 当事者
ア 原告は,神奈川県内で歯科医業を営む歯科医師である。
イ 被告は,第二東京弁護士会所属の弁護士である。

(2) 原告は,A(以下「A」という。)から5798万円を詐取されたことから,原告及び被告は,平成22年6月1日,原告が被告に対し,Aに対する債権回収に係る法律事務を委任し,被告がこれを受任する旨の委任契約(以下「本件委任契約」という。)を締結した。
 本件委任契約に際し原告及び被告が作成した委任契約書(以下「本件委任契約書」という。)には,事件等の表示として「債権回収事件」,受任範囲として「示談折衝,その他(内容証明作成)」,着手金として「105万円(税込)」,実費として「原告が費用概算として5万円を予納する。被告は事件終了時に実費の清算を行い,清算書を原告に交付する。予納金に不足が生じたときは原告は追加預託をする。」との各記載がある。(甲1)

(3) 原告は,被告に対し,平成22年7月6日,本件委任契約に基づき,着手金として105万円を支払い,委任事務処理に係る実費として5万円を予納した。

(4) 被告は,本件委任契約に基づき,Aとの間で債務弁済交渉を行い,平成22年6月13日,Aをして債務承認書(以下「本件債務承認書」という。)を作成させ,署名押印させた。本件債務承認書には,以下の条項が記載された。(甲3)

第一(債務承認)
 金5800万円 也
 私は,X1に対し,本日現在,上記金額の債務があることを承認します。

第二(弁済期)
 下記の約定に従い,第三記載の口座に振り込む方法により,返済いたします。
 1 平成22年6月30日限り,金100万円
 2 平成22年7月30日,8月31日,9月30日の各月末限り,金員を振り込む。
  ただし,9月30日限り,合計金500万円ないし金1000万円
 3 平成22年10月以降,上記一の返済が完了するまで,毎月末日限り,金50万円ないし金100万円

第三(振込先口座)
  三菱東京UFJ銀行 新橋支店
  普通口座 ○○○○○○○
  ベンゴシY1アズカリキン
  「弁護士Y1預り金」名義(以下「本件指定口座」という。)」

(5) Aは,本件債務承認書に基づき,本件指定口座に,平成22年6月29日,同年7月29日及び同年8月31日に各100万円,合計300万円を振り込んで支払った。しかるに,Aは,同年9月以降,本件債務承認書に基づき金員を支払わなかった。(乙4)

2 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 本件委任契約の委任事務の範囲,被告の善管注意義務違反の有無

(原告の主張)
ア 本件委任契約の委任事務の範囲
 原告は,知人のB(以下「B」という。)からC弁護士を紹介され,同弁護士から,債権の取立てに強い弁護士として被告の紹介を受けたものであること,被告は,約6000万円の債権を回収できることを前提に着手金を定めたことなどから,被告は,原告から,本件委任契約の委任事務として,仮差押え等を含む法的な債権の取立手続も受任した。

イ 被告の善管注意義務違反
 被告は,善良なる管理者の注意義務をもって依頼者である原告の法律上の権利及び利益を擁護し損害を防止するのに必要な最善の弁護活動をする義務を負うところ,被告の事務処理には,以下のとおり,本件委任契約上の善管注意義務に違反する債務不履行があった。
(ア) 本件債務承認書作成に係る義務の不完全履行
a 被告は,本件委任契約に基づき,Aと交渉した際に,債務弁済公正証書を作成するか,当該債務が貸金債務であるか,あるいは不法行為に基づく損害賠償債務であるかなど債務の内容を明らかにし,分割弁済についての分割金の額と各弁済期を定め,遅延したときの期限の利益の喪失及び遅延利息などを定めた債務承認書を作成すべき義務があった。


b しかるに,本件債務承認書の内容は,第二の2第1段に金額の記載すらしない杜撰なものであるとともに,第二の2ただし書及び同3は金額が不確定であり,これでは,被告は,上記aの義務を完全に履行したとはいえない。
(イ) 平成22年7月7日以後,仮差押え等の法的手段を講じるべき義務の不履行
a 原告は,Bと共に,平成22年7月7日,被告に対し,「差押するなり,公正証書を取るなり,マスコミを使うなりしてもっと積極的な処理をしてほしい。」と申し向け,被告は,「そのようにします。」と回答し,仮差押え等の法的手段を講じることについて承諾した。したがって,被告は,本件委任契約に基づき,同日以後,仮差押え等の法的手段を講じるべき義務があった。
 なお,同日の面談に際し,被告は,原告に対し,仮差押命令申立てに及ぶとAが弁済意思を失ってしまう危惧があることや民事保全手続における保全の必要性の要件を充足しない可能性があることといった説明を全く行わなかった。

b しかるに,被告は,同日以後も仮差押え等の法的手段を講じず,漫然と放置した。これは,上記aの義務に違反するものである。

(ウ) Aと連絡が取れなくなった平成22年9月上旬の段階で,依頼者である原告に報告を行い,仮差押え等の法的手段を講じるべき義務の不履行
a 被告は,本件委任契約及び依頼者に対して事件の帰趨に影響を及ぼす事実を報告する弁護士の義務(弁護士職務基本規程36条)に基づき,Aと連絡が取れなくなった平成22年9月上旬の段階で,直ちに依頼者である原告に報告を行い,速やかに仮差押え,犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律による口座凍結などの法的手段を講じるべき義務があった。

b しかるに,被告は,Aと連絡が取れなくなった事実を同年10月まで原告に報告せず,漫然とAとの約定を信頼して,Aと連絡が取れなくなっても約1箇月間何らの法的手段も講じなかった。これは,上記aの義務に違反するものである。

(被告の主張)
ア 本件委任契約の委任事務の範囲について
 本件委任契約に係る案件がB及びC弁護士からの紹介であったことは認め,約6000万円の債権を回収できることを前提に着手金を定めたことは否認する。本件委任契約の委任事務は,本件委任契約書に記載のとおり,示談折衝及び内容証明作成に限定されるのであり,仮差押命令申立て等の法的手続は,委任事務に含まれない。

イ 被告の善管注意義務違反について
(ア) 本件債務承認書作成に係る義務の不完全履行について
a 原告が主張する債務承認書を作成すべき義務については,その努力義務を負うとの限りで認めるが,その余は否認する。債務承認書作成には,債務者であるAの同意が条件になるから,被告は,弁護士とはいえ,Aの意思に反して債務承認書の作成を実現することは不可能であるからである。

b 本件債務承認書が杜撰であるとの評価は争う。
 被告は,本件委任契約に基づき,それまで原告との関係で不誠実な対応しか採ってこなかったAを大阪から東京の被告事務所へ呼び寄せて,原告が隣室で協議の会話を聞き取れる状況下で,Aと債務弁済交渉を行い,主意的には,不誠実な債務者であるAに債務総額を承認させることを目的としつつ,副意的には,債務の支払方法を確認させることを目的とした。被告は,Aに,債務総額が遅延損害金を含め少なくとも5800万円に上っていること及びこれを本件債務承認書に記載することを承諾させた。しかし,債務の支払方法については,Aが,弁済原資が枯渇しているなどと言を左右して確定的な支払方法を提示しない状況が続いたことから,被告は,次善の策として,Aに,平成22年6月30日限りで100万円の支払を約束させ,その後は,各月末限りAが弁済原資を工面できる額の支払を約束させ,同年9月末日には,最低でも500万円ないし1000万円を支払うことを約束させ,早期の回収額の極大化を企図したものである。
 したがって,被告は,本件委任契約に基づく債務承認書作成努力義務を十分に履行した。

(イ) 平成22年7月7日以後,仮差押え等の法的手段を講じるべき義務の不履行について
a 平成22年7月7日,原告が被告に対し,仮差押命令申立手続への着手,債務承認に係る公正証書の作成及びマスコミを利用した債権回収を依頼した事実は認め,これに対して被告が「そのようにします。」と無留保で承諾したこと及び同日以後被告がAに対する債権回収事務を漫然と放置したことは否認する。

b Aは,本件債務承認書に基づき,平成22年6月末日,100万円を弁済した。かかる状況下において,仮差押命令申立てに及ぶとAが弁済意思を失ってしまう危惧があり,民事保全手続における保全の必要性の要件を充足するといえるのかという論理的問題が存在した。被告は,同年7月7日の原告との会合の場で,原告に対し,上記の各点を丁寧に説明し,原告はこれを了解したことから,その後,被告は,保全手続に着手しなかった。
 なお,原告は,同月末日及び同年8月末日に,Aから本件債務承認書に基づき各100万円の弁済を受けている。

(ウ) Aと連絡が取れなくなった平成22年9月上旬の段階で,依頼者である原告に報告を行い,仮差押え等の法的手段を講じるべき義務の不履行について
a 被告に原告に対する報告義務違反が存在する旨の主張は否認ないし争う。
 平成22年9月末日から同年10月末日までの間は,Aの動向をうかがいつつ弁済を督促する期間であった。その間,Aが被告からの連絡に対して応答を行わない場合も存在したが,これのみをもって,即時にAが詐欺行為を働いたと判断することは拙速であり,よって,その約1箇月間,被告が原告に対する報告を行わなかったことが,本件委任契約に基づく何らかの債務不履行を構成することはない。

b 被告は,仮差押命令申立手続への着手を承諾しておらず,被告に仮差押命令申立手続に着手する義務はない。
 被告は,同年9月末日分の支払が滞った後,Aへのファクシミリ又は電話での接触を試みたが,もはやAからの応答は得られないと判断し,同年10月20日,原告に対し,今後の方針協議を目的としてファクシミリ書面を送付し,仮差押命令申立手続に係る説明と原告の意向確認を行った。これを受け,原告は,被告に対し,同月28日,ファクシミリ書面を送付し,「被告の判断ミスと信頼性に欠けると判断いたしました」との回答を行い,その結果,仮差押命令申立手続を実施するには至らなかった。このような事実経過に鑑みれば,被告は,Aと連絡が取れなくなった直後に仮差押命令申立手続に入るべく準備を進めたものの,原告自身の意思に基づきこれに及ばなかったものである。したがって,原告の主張には理由がない。

c 犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律による口座凍結などの法的手段を講じるべき義務があるとの主張は否認ないし争う。
 同口座凍結要請は,詐欺犯等悪質な刑事犯罪による被害者の緊急迅速な救済を図ることを目的とした制度であり,同制度の利用にあたっては,弁護士としての高度な職業倫理に基づき,果たして対象口座名義人は真に詐欺犯であるか否かを十分に見極めることが肝要であって,債務者を安易に詐欺犯と断じて口座凍結要請を行うようなことがあれば,対象口座名義人に対する不法行為を形成することになりかねない。

 本件で,Aは,同年6月から同年8月の末日には,それぞれ100万円を弁済していたこと,同年9月29日に弁済日程を確認するために被告がAに対して送付したファクシミリ書面に対して,Aは,直ちに弁済猶予を要請する回答を行い,残債務の弁済意思自体は明示していたことに鑑みれば,同年9月分の返済を怠ったことを理由としてその遅滞直後に口座凍結措置を執るとなれば,それは債権回収という民事上の債務不履行をめぐる紛争の解決手段に同措置を供したとの誹りを免れないのであり,もはや本来の口座凍結措置の制度趣旨を逸脱した運用となる。
 したがって,被告には,Aと連絡が途絶えた直後に犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律による口座凍結措置を執る義務はなかった。


以上:6,165文字

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