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弁護士の説明義務に関する平成25年4月16日最高裁判決全文紹介2

平成25年12月 5日:初稿
○「弁護士の説明義務に関する平成25年4月16日最高裁判決全文紹介1」の続きで補足意見の前半です。

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裁判官田原睦夫の補足意見は,次のとおりである。
 本件訴訟では,依頼者から債務整理について受任した弁護士の依頼者に対する説明義務の有無及びその内容,並びに債権者に対し「時効待ち」の方針を採ることの適否が問題となっているところ,それらの諸点について,本件事案に即して以下に補足的に意見を述べる。

1 債務整理の依頼を受けた弁護士の説明・報告義務について
(1) 受任時における説明義務について

 弁護士は,法律事務の依頼を受ける依頼者に対しては,委任契約締結過程における信義則上の義務の一環として,依頼を受けることとなる事務の内容に関して説明義務を負うものであるが,その受任する事務の内容は,一般に法律事務としての専門性が高く,またその事務の性質上受任者に一定の裁量権を伴うことが前提とされるところから,その受任時において,その委任契約の締結に伴う種々の問題点について説明すべき義務を負っているものというべきである。以下,その具体的内容についてみてみる。

ア 依頼者から債務整理の依頼を受けた弁護士は,その受任に当たり,当該事案に応じて適切と認められる法的手続(例えば破産,個人再生,特定調停,私的整理等)について,依頼者の資力や依頼者自身の対応能力等に応じて適切な説明をなすべき責任がある。

イ その説明に当たっては,それらの各手続に要する時間やコスト,依頼者自らが行うべき事務等の負担の内容等,メリット・デメリット(破産手続を選択する場合の免責の見込みの有無,免責を受けられない場合の就業制限等の制約内容,個人再生手続を選択する場合の履行の見込み,各手続と保証人等関係者への影響の有無,程度等)を説明することが求められる。

ウ 依頼者が経済的に困窮しているような場合には,法律扶助手続の制度の説明も含まれるというべきである。

エ なお,本件記録を見る限り,被上告人が本件受任時に上記の説明義務を尽くしていたかという点については,大きな疑義が残る。

(2) 受任後の説明義務について
 弁護士は,依頼者から法律事務の委任を受けた後は,途中経過についての報告義務を免除するなどの特段の合意がない限り,委任契約における善管注意義務の一環として,適宜に受任事務の遂行状況について報告し,説明すべき義務を負うものというべきである。殊に,委任事務の内容が財産の管理にかかわるものである場合,その財産管理の状況を適宜に報告すべきことは委任事務の性質上当然と言えよう。

 そして,債務整理は,財産管理に係る事務であるから,債務者から途中経過の報告義務を全面的に免除する旨の明示の意思表示を受けている等の特別の事情のない限り,受任者として受任事務の区切り毎に報告・説明すべき義務があるものというべきである。

 殊に,過払金返還請求は,積極財産の処理である以上,かかる義務が存するのは当然である(民法644条による直接の効果であり,同法645条の請求による報告義務とは別の義務である。本件では原審までの審理過程において,委任者の自己決定権との関係について双方が主張を闘わしているが,それとは直接関係しないものというべきである。)。
 なお,上記の報告・説明義務の内容には,受任時以降の事案の進展状況に応じたその後の見通し,対応等に関する説明義務が当然に含まれるものというべきである。

2 受任事務の遂行にかかる善管注意義務について
(1) 受任事務の遂行と裁量権の行使について

 一般に弁護士の受任する法律事務の遂行においては,弁護士業務の専門性との関係上,委任契約に特段の定めがない限り受任者たる弁護士に一定の裁量権が認められていると解することができる。
 しかし,その裁量権の行使に当たっては,専門家としての善管注意義務を尽くして行使すべきものであって,その行使の際に専門家として通常考慮すべき事項を考慮せず,あるいはその行使の内容が,専門家たる弁護士が行うものとして社会的に許容される範囲(それは,弁護士倫理上許容される範囲と必ずしも一致するものではない。)を超え,その結果依頼者外の関係者の権利を侵害するに至る場合には,善管注意義務違反が問われることとなる。

(2) 受任事務の適宜遂行義務について
 受任者は,その受任事務を,その事務の性質上社会的に許容される期間内に適切に処理すべき義務を受任者としての善管注意義務の内容として求められる。
 その履行が,その事務の性質上通常求められる期間を超えた場合には,債務不履行責任を問われることとなり,また,弁護士倫理違反として懲戒処分の対象となり得る。

3 本件における「時効待ち」手法の選択と善管注意義務について
(1) 債務整理における「時効待ち」手法の選択の可否について
ア 債務整理における債権者に対する誠実義務

 債務整理を受任した弁護士が,その対象となる債権者に受任通知及び債務整理についての協力依頼の旨を通知した場合には,債権者は,正当な理由のない限りこれに誠実に対応し,合理的な期間は強制執行等の行動に出ることを自制すべき注意義務を負担し,それに違反する場合には不法行為責任を負うものと解されている(東京高裁平成9年6月10日判決・高裁民事判例集50巻2号231頁)こととの対応上,かかる通知を発した弁護士は,その対象となる債権者に対して,誠実に且つ衡平に対応すべき信義則上の義務を負うものというべきである。

 そして,受任弁護士の債権者に対する不誠実な対応の結果,債権者との関係が悪化し通常の対応がなされていれば適宜の解決が図れたのにも拘ずその解決が遅れ,その結果,依頼者がその遅延に伴い過分な負担を負うこととなった場合には,当該弁護士は依頼者に対して債務不履行責任を負うことがあり得るといえる。

 上記で述べたところからすれば,受任した弁護士が一部の債権者と示談を進め乍ら,他の債権者との交渉をすることなく「時効待ち」を行ったり,債権者と誠実な交渉を行うことなく一方的に示談条件を提示し,その条件以外では示談に応じることを拒み,他の債権者とのみ交渉を行うようなことは許容されないと言わねばならない。


以上:2,597文字

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