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弁護士の説明義務に関する平成25年4月16日最高裁判決全文紹介1

平成25年12月 5日:初稿
○債務整理に係る法律事務を受任した弁護士が、特定の債権者の債権につき消滅時効の完成を待つ方針を採る場合において、この方針に伴う不利益等や他の選択肢を説明すべき委任契約上の義務を負うとされた平成25年4月16日最高裁判決(判時2199号17頁)全文を3回に分けて紹介します。弁護士業務についての重要な示唆を含みますので、補足意見を含めての全文を紹介します。

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主  文
 原判決を破棄する。
 本件を福岡高等裁判所に差し戻す。 
 
理  由
 上告代理人○○○○の上告受理申立て理由について
1 本件は,弁護士である被上告人に債務整理を依頼した第1審原告亡Aの相続人である上告人が,被上告人に対し,債務整理の方針についての説明義務違反があったことなどを理由として,債務不履行に基づき慰謝料等を損害賠償として求める事案である。

2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 弁護士である被上告人は,平成17年6月30日,Aから,消費者金融業者に合計約250万円の債務があるなどとして,その債務整理について相談を受けた。被上告人は,債務の返済状況等を聴取した後,Aに対し,過払金が生じている消費者金融業者から過払金を回収した上,これを原資として他の債権者に一括払による和解を提案して債務整理をすること,債務整理費用が30万円であり,過払金回収の報酬が回収額の3割であることなどを説明し,被上告人とAは,同日,債務整理を目的とする委任契約を締結した。

(2) 被上告人は,利息制限法所定の制限利率に従い,Aが債権者に弁済した元利金の充当計算をしたところ,B(当時の商号はC)及びDに対してはまだ元本債務が残っているが,E,F及びGに対しては過払金が発生していることが判明した。
 そこで,被上告人は,平成17年9月27日までに,Aの訴訟代理人として,E,F及びGに対して過払金返還請求訴訟を提起し,その後,上記3社とそれぞれ和解をして,平成18年6月2日までに,合計159万6793円の過払金を回収した。

(3) 被上告人は,上記3社から回収した過払金により,B及びDに対する支払原資を確保できたものと判断し,平成18年6月12日,B及びDに対し,「ご連絡(和解のご提案)」と題する文書を送付して,元本債務の8割に当たる金額(Bについては30万9000円,Dについては全ての取引を一連のものとして計算した9万4000円)を一括して支払うという和解案を提示した。上記文書には,「御社がこの和解に応じていただけない場合,預った金は返してしまい,5年の消滅時効を待ちたいと思います。」,「訴訟等の債権回収行為をしていただいても構いませんが,かかった費用を回収できない可能性を考慮のうえ,ご判断ください。」などと記載されていた。
 Bは上記の内容による和解に応じたが,Dはこれに応じなかった。

(4) 被上告人は,平成18年7月31日頃,A方に電話をかけ,Aに対し,回収した過払金の額やDに対する残元本債務の額について説明したほか,Dについてはそのまま放置して当該債務に係る債権の消滅時効の完成を待つ方針(以下「時効待ち方針」という。)を採るつもりであり,裁判所やDから連絡があった場合には被上告人に伝えてくれれば対処すること,回収した過払金に係る預り金を返還するがDとの交渉に際して必要になるかもしれないので保管しておいた方が良いことなどを説明した。

 また,被上告人は,その頃,Aに対し,「債務整理終了のお知らせ」と記載された文書を送付した。同文書には,Dに対する未払分として29万7840円が残ったが消滅時効の完成を待とうと考えているなどと記載されていた。

(5) 被上告人は,平成18年8月1日,回収した過払金合計159万6793円から過払金回収の報酬47万9038円及び債務整理費用30万円の合計77万9038円,Bに支払った和解金等を差し引く経理処理を行い,残額の48万7222円から振込費用を控除した残金をAに送金した。

(6) 被上告人は,平成21年4月24日,Aに対し,消費者金融業者の経営が厳しくなったため以前よりも提訴される可能性が高くなっており,12万円程度の資金を用意できればそれを基に一括して支払う内容での和解交渉ができるなどと説明したが,Aは,被上告人が依頼者から債務整理を放置したことを理由とする損害賠償請求訴訟を提起されたとの報道等を受けて,被上告人による債務整理に不安を抱くようになり,同年6月15日,被上告人を解任した。

 Aは,上告代理人に改めて債務整理を委任した。上告代理人は,Aの代理人としてDと交渉し,平成21年12月17日,AがDに対して和解金50万円を分割して支払う内容の和解を成立させた。

(7) Aは,平成22年3月16日,本件訴訟を提起したが,第1審係属中である平成23年3月20日に死亡し,その妻である上告人が本件訴訟に係るAの権利を承継した。

3 原審は,上記事実関係等の下において,債務整理の方針についての説明義務違反の有無について,Aが,被上告人から上記2(1)及び(4)に記載の内容等の説明を受け,被上告人の採る債務整理の方針に異議を述べず,その方針を黙示に承諾したと認められることなどからすれば,被上告人が上記説明義務に違反したとは認められないと判断して,上告人の請求を棄却した。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 本件において被上告人が採った時効待ち方針は,DがAに対して何らの措置も採らないことを一方的に期待して残債権の消滅時効の完成を待つというものであり,債務整理の最終的な解決が遅延するという不利益があるばかりか,当時の状況に鑑みてDがAに対する残債権の回収を断念し,消滅時効が完成することを期待し得る合理的な根拠があったことはうかがえないのであるから,Dから提訴される可能性を残し,一旦提訴されると法定利率を超える高い利率による遅延損害金も含めた敗訴判決を受ける公算が高いというリスクをも伴うものであった。

 また,被上告人は,Aに対し,Dに対する未払分として29万7840円が残ったと通知していたところ,回収した過払金から被上告人の報酬等を控除してもなお48万円を超える残金があったのであるから,これを用いてDに対する残債務を弁済するという一般的に採られている債務整理の方法によって最終的な解決を図ることも現実的な選択肢として十分に考えられたといえる。

 このような事情の下においては,債務整理に係る法律事務を受任した被上告人は,委任契約に基づく善管注意義務の一環として,時効待ち方針を採るのであれば,Aに対し,時効待ち方針に伴う上記の不利益やリスクを説明するとともに,回収した過払金をもってDに対する債務を弁済するという選択肢があることも説明すべき義務を負っていたというべきである。


 しかるに,被上告人は,平成18年7月31日頃,Aに対し,裁判所やDから連絡があった場合には被上告人に伝えてくれれば対処すること,Dとの交渉に際して必要になるかもしれないので返還する預り金は保管しておいた方が良いことなどは説明しているものの,時効待ち方針を採ることによる上記の不利益やリスクをAに理解させるに足りる説明をしたとは認め難く,また,Dに対する債務を弁済するという選択肢について説明したことはうかがわれないのであるから,上記の説明義務を尽くしたということはできない。そうである以上,仮に,Aが時効待ち方針を承諾していたとしても,それによって説明義務違反の責任を免れるものではない。

5 以上によれば,原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そこで,損害の点等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官田原睦夫,同大橋正春の各補足意見がある。


以上:3,336文字

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