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交通事故と医療過誤の共同不法行為についての地裁裁判決紹介

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令和 1年 8月21日(水):初稿
○「交通事故と医療過誤の共同不法行為についての最高裁判決紹介」の続きで、その第一審である平成9年1月30日浦和地裁川越支部判決(民集55巻2号345頁)全文を紹介します。
判決は、被害者Aの死亡は本件交通事故と本件医療過誤が競合した結果発生し、本件交通事故における運転者の行為と本件医療過誤における医師の行為は共同不法行為であるとし、被告病院に、発生した全損害の賠償責任を負わせました。

○別コンテンツでその要旨を紹介しますが、二審平成10年4月28日東京高裁判決(判タ995号207頁、判時1652号75頁)は、各行為が共同不法行為であるとしながら、「個々の不法行為が当該事故の全体の一部を時間的前後関係において構成し、しかもその行為類型が異なり、行為の本質や過失構造が異なり、かつ、共同不法行為とされる各不法行為につき、その一方又は双方に被害者側の過失相殺事由が存する場合には、各不法行為者の損害発生に対する寄与度の分別を主張、立証でき、個別的に過失相殺の主張をできるものと解すべきとしました。

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主   文
1 被告は原告ら各自に対し金2201万0616円及び各内金2001万0616円に対する昭和63年9月14日より支払いずみまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用のうち、原告らと被告との間で生じた分は、これを3分し、その1を原告らの、その余を被告の各負担とし、参加人らと被告との間で生じた分も、これを3分し、その1を参加人らの、その余を被告の各負担とする。
この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事   実
 原告ら訴訟代理人は、「被告は原告ら各自に対し金3491万9809円及び内金3241万9809円に対する昭和63年9月14日より支払いずみまで年5分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決、並びに仮執行の宣言を求め、
 被告訴訟代理人は、請求棄却の判決を求めた。

(当事者双方の主張)
一 原告らの請求原因

1 A(昭和57年1月13日生)は、原告ら夫婦の長男であるところ、昭和63年9月12日午後3時40分頃、埼玉県上福岡市仲二丁目一番八号先路上において、自転車に乗車して走行中、補助参加人B株式会社の従業員である補助参加人Cが運転する普通乗用自動車(タクシー)と接触して、頭部に受傷したため、救急車により被告が経営するD病院(以下「被告病院」という。当時の名称は、「上福岡第二病院」である)へ搬送され、医師Eの診察を受けたところ、同医師は、頭部のレントゲン写真を2枚撮り、化膿止めの処方をしたのみで帰宅させたところ、Aは、同日午後11時過、突然39度3分の高熱を出して容態が急変したので、救急車により三芳厚生病院に搬送されたが、翌13日午前0時45分同病院において、左中硬膜動脈損傷による急性硬膜外血腫により死亡した。

2 医師Eは、被告の代表者であるところ、被告の職務を行うにつき、次のような過失によりAを死亡させたのであるから、被告は、民法44条により、法人としての不法行為責任を負うべきである。
(一) Eは、Aの受傷内容、その程度、及び受傷部位について正確詳細な問診をすることを怠った。
(二) Eが診断した受傷部位は、左頭部打撲挫傷、顔面打撲だけであって、その外の左側胸部打撲、左側肺の軽度圧迫、左右膝蓋内側の打撲傷、左下腿前側の打撲傷を診断しなかった等、受傷部位を正確に把握する義務を怠った。
(三) Eは、Aの受傷後6時間以内にCT検査をしていれば、確実に脳内出血を発見できたのに、CT検査をすべき義務を怠った。
(四) Eは、少なくとも受傷後6時間位被告病院で経過を観察すべきであったのに、これを怠った。
(五) Eは、付き添ってきた母である原告ひとみに対し、頭部内出血の可能性を教え、Aの症状観察を怠らないよう注意すべきであったのに、そのような指示及び忠告をしなかった。

3 被告の不法行為により蒙った原告らの損害は、次のとおりである。
(一) Aの逸失利益 金4183万9618円
 昭和63年の男子全年齢平均賃金年金455万1000円について、生活費を50パーセント控除したうえ、18歳から67歳まで49年間稼動しうるとして、新ホフマン係数により中間利息を控除して計算する。
(算式)
 4,551,000×18.387×0.5=41,839,618

(二) 原告らの慰謝料 金2200万円
 原告ら各自につき金1100万円

(三) 葬儀費 金100万円
 実際に支出した葬儀費の内金100万円について、原告ら各50万円として請求する。

(四) 弁護士費用 金500万円
 原告ら各金250万円
 以上を合計すると、原告ら各自につき、(一)の相続額2091万9809円に(二)ないし(四)を加算した合計金3491万9809円になる。

4 よって、原告らは被告に対し、損害賠償として各自金3491万9809円、及び内金3241万9809円に対する不法行為の後である昭和63年9月14日より支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二 請求原因に対する被告の答弁
請求原因1のうち、Aが自転車で走行中に接触したとの点は知らない。その余の事実は、認める。
同2の主張は、すべて争う。
(一) Eの問診に対し、原告ひとみは、Aが走行中にタクシーと軽くぶつかった旨説明するに終始した。Eはこのように問診義務を尽くしたうえ、Aはタクシーの車体に左顔面・頭部を接触して軽度の傷害を負ったもので、その際の衝撃の程度も軽微であったと判断したものである。
(二) Eは、正確な問診と視診・触診の外、頭部レントゲンの撮影までしたうえ、診察・診断をしたのであるから、「硬膜外血腫」や「硬膜外血腫のおそれ」を診断しなかったとしても、医療水準からして無理からぬことである。
(三) Eは、頭部レントゲン撮影までしたうえ、一定の診断に達したのであるから、さらにCT検査を実施する臨床上の注意義務はない。
(四) 本件においては6時間もの院内観察をする必要がなかった。
(五) Eは、頭部出血の可能性を予見していなかったところ、予見しなかったことについても、過失がなかったから、これを前提として、原告ひとみに対し、症状観察を指導すべき義務もない。

 同3も、争う。
(証拠関係)省略

理   由
一 請求原因1のうち、いずれも成立に争いのない乙第4号証の6乃至8、31、証人Fの証言によると、Aは、20インチ子供用自転車に乗車して走行中、補助参加人C運転のタクシーと接触する交通事故に遭ったことが認められ、右認定に反する証拠がないところ、その余の事実は、当事者間に争いがない。

二 いずれも成立に争いのない甲第1乃至第7号証、第29、30号証、乙第1、2号証、第4号証の11、12、20、24、いずれも原本の存在及びその成立に争いのない甲第8乃至第12号証、第27、28号証、第33号証、第37乃至第40号証、第42、43号証、原告らと被告との間では、成立に争いがなく、補助参加人らと被告との間では、弁論の全趣旨により、真正に成立したものと認められる乙第3号証、証人F、同G(但し、後記信用しない部分を除く)、同Hの各証言、原告田中ひとみ本人尋問の結果、鑑定人Iの鑑定の結果、並びに弁論の全趣旨によると、次の事実を認めることができる。

(1)Aは、頭部を打撲したため、事故後頭が痛いと訴えていた。

(2)原告ひとみは、スーパーで買い物をしていると、近隣の主婦から、Aが交通事故に遭ったことを知らされて、現場に駆けつけたところ、すでに救急車が来ており、救急車に同乗すると、Aは、救急隊の意向により、被告病院に搬送された。

(3)同日午後3時46分被告病院に到着すると、医師Eが待ち受けていて、Aは、自ら歩いて診察室に入った。Eは、Aを立たせたまま診察をし、Aの頭部を視診したうえ、Aの意識が清明であり、元気でもあったので、Aの訴えを単なる傷の痛みと軽信して、軽度の左頭部、顔面打撲挫傷と診断をし、化膿止めの処置をした後、念のため二方向から頭部レントゲン撮影をしたものの、骨折または骨折線を発見することができなかった。

(4)補助参加人Cも、救急車に追尾して被告病院に至ったものの、Eから事故の模様の詳細について質問を受けたことはなかった。

(5)補助参加人Cは、CTを撮ってくれるよう依頼したが、Eは、その必要がないと判断し、Aに対して、明日学校に行ってもよいが、体育は休むようにとだけ注意をして、午後4時30分頃帰宅させた。原告ひとみは、埼玉県東入間警察署に立ち寄った後、Aとともに同日午後5時30分頃帰宅した。

(6)Aは、家に入る前、玄関で嘔吐をしたうえ、食事もしないで眠いといって、寝入ってしまった。原告ひとみは、Eから特別の注意を受けなかったので、ただ疲れているだけと判断をして、Aの異常に気づかなかった。

(7)Aは、同日午後7時頃から冷や汗をかき始め、同日午後11時過ぎになると、39度もの熱を出したので、原告らが異常事態と判断をして救急車を呼び、三芳厚生病院に連れて行ったが、同病院に到着した翌日午前0時45分には、自発呼吸がなく、心電図は平坦な状態ですでに死亡していた。

(8)埼玉医科大学法医学教室による司法解剖の結果、Aの死因は、左側頭部打撲に起因した硬膜外血腫であって、左頭頂骨前下端部に近いところから、前下方に走り、左蝶形骨上端部の端を経て左側頭骨前端を前下方に向かい、岩様部直前に至ってとどまる線状骨折が1条あり、その長さは、頭蓋外面で約7センチメートル、内面で約8センチメートルに達する。

(9)被告は、本件事故当時被告病院の外、近隣で上福岡中央病院も経営していたところ、当時常勤の医師は4名、非常勤の医師は約20名いたが、Eは、消化器外科が専門であり、脳神経外科も診療科目に入っていたものの、脳外科の手術は、被告病院ではせずに、すべて防衛医科大学校付属病院に転送していた。

(10)Aの場合、被告病院を退出した午後4時30分頃に頭部のCT検査を受診しておれば、左側頭部の血腫形成、あるいはその兆しが認められる可能性が大きいうえ、単純レントゲン撮影では識別されなかった頭蓋骨骨折も識別され、適切な左急性硬膜外血腫の診断が可能であった。さらに、遅くとも受傷当日午後7時頃までに血腫除去手術が施行されておれば、Aの救命は可能であったし、その予後も良好であった。

 以上の事実を認めることができ、右認定に反する、成立に争いのない乙第九号証の二、証人千ケ崎裕夫の証言の一部、被告代表者本人尋問の結果の一部は、前掲各証拠と対比して信用することができず、他に右認定を覆すに足りる的確な証拠はない。

三 右認定事実によると、被告の代表者であるEには、被告の職務を行うにつき、Aを最初に診察した際、適切な問診をしないまま、本件交通事故の態様を的確に把握せず、Aに対して頭部CT検査をすることなく、Aの受傷の外観と意識が清明であること、及び頭部単純レントゲン写真のみから、左硬膜外血腫の存在またはその徴候を発見できなかった点、また、Aを帰宅させるに当たり、付き添ってきた母親である原告ひとみに対し、Aが嘔吐をするか、傾眠傾向を示したときは、直ちに来院して適切な処置を受けるよう指示しなかった点に、不法行為上の過失が認められるというべきであるから、被告は、民法44条に従い、補助参加人Cとの共同不法行為者としての責任が免れないといわなければならない

四 そこで、被告の不法行為により、原告らが蒙った損害について検討する。
1 Aの逸失利益 金2302万1233円
 前記認定の事実によると、Aは、本件事故当時6歳の男児であったところ、昭和63年における、男子労働者の産業計・企業規模計・学歴計の年間給与額は、金455万1000円なので、生活費を50パーセント控除したうえ、18歳から67歳まで49年間稼動しうるとして、ライプニッツ式計算法により、中間利息を控除して計算する。
(算式)
 4,551,000×0.5×(18.9802-8.8632)=23,021,233
 原告らは、いずれもAの逸失利益の2分の1一金1151万0616円を相続した。

2 原告らの慰謝料 各金800万円
 補助参加人C及び被告の共同不法行為により、Aを失った精神的苦痛に対する慰謝料は、その両親である原告ら各自につき、金800万円と認めるのが相当である。

3 葬儀費 各金50万円
 原告らが支出した葬儀費用のうち、本件不法行為と相当因果関係に立つ費用は、原告ら各自につき金50万円と認めるのが相当である。

4 弁護士費用 各金200万円
 1ないし3を合計すると、原告ら各自につき金2001万0616円になるところ、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して、各金200万円をもって、本件不法行為と相当因果関係に立つ弁護士費用と認めるのが相当である。

五 以上の次第で、原告らの被告に対する本訴請求は、不法行為に基づく損害賠償として各金2201万0616円、及び内金2001万0616円に対する不法行為の後である昭和63年9月14日より支払いずみまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、正当としてこれを認容し、その余を失当として棄却すべきである。
よって、訴訟費用の負担について、民訴法92条本文、93条1項本文、94条後段、89条を、仮執行の宣言について同法196条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

以上:5,620文字

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