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交通事故による傷害を原因としてPTSD発症を認めた地裁判例紹介1

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平成31年 4月18日(木):初稿
○現在、交通事故での傷害を原因としてPTSD(心的外傷後ストレス障害)になったとして損害賠償を求める事案を抱えています。交通事故での傷害を原因としてPTSDとなったとしての請求についての判例を探しています。しかし、交通事故による後遺障害としてPTSDを否認した判例は山のようにありますが、これを認めた判例は、ごくごく少数しかありません。

○PTSDを交通事故の後遺障害として認めた数少ない判例の一つとして平成14年3月27日福岡地裁飯塚支部判決(判例時報1814号132頁)の必要部分を紹介します。事案は、信号待ちで停車中の原告運転の車両に、後方から走行してきた被告運転の車両が追突した本件交通事故により負傷した原告が、本件事故によりPTSD(心的外傷後ストレス障害)になったとして、不法行為に基づく損害賠償を求めたものです。

○判決は、原告はPTSDであるということができるが、障害等級5級の認定基準である終身極めて軽易な労働にしか服することができないとまでは認められず、障害等級7級4号に該当すると認めるのが相当であり、又、原告の考え方の癖等が病状の軽快の遅れにある程度の影響を与えていることは否定できないとして1割の過失相殺をし、約9345万円の請求に対し、約2780万円を損害と認容しました。

○この判決は、残念ながら控訴審平成16年2月26日福岡高裁判決(判時1814号132頁)で、PTSDの後遺障害は否認されましたが、外傷後神経症として、症状固定から10年間、労働能力を35%喪失したとしての逸失利益をは認められました。別コンテンツで紹介します。

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主   文
一 被告は、原告に対し、金2779万7699円及びこれに対する平成10年3月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを10分し、その3を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求

 被告は、原告に対し、金9345万6944円及びこれに対する平成10年3月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
一 本件は、交通事故の被害者である原告が、加害者である被告に対し、交通事故(以下「本件事故」という。)により心的外傷後ストレス障害(以下「PTSD」という。)になったとして不法行為に基づいて損害の賠償を請求した事案である。

二 争いのない事実等
(1)本件事故の発生
ア 日時 平成10年3月20日
イ 場所 大分県日田市石井町三丁目558番地の八 えのき屋酒屋店前路上
ウ 事故態様 原告が普通乗用自動車(被害車両)を運転して信号待ちで停車中、後ろから走行してきた被告運転の普通乗用自動車(加害車両)が追突したもの。被告は、走行中に車の床に落ちたパンを拾うために下を向き、進路前方を見ないで走行したため、直近になって被害車両に気づき、制動措置をとることなく時速50キロメートルないし60キロメートルで追突した。その結果、被害車両の後部は大きく凹損するなど大破した。

(2)治療経過の概要
ア 平成10年3月20日大分県済生会日田病院受診
イ 平成10年3月21日飯塚病院通院
ウ 平成10年3月23日から同年5月2日まで三笠外科医院入院
エ 平成10年5月3日から同年6月11日まで三笠外科医院通院
オ 平成10年5月19日飯塚病院救命センター受診
カ 平成10年5月20日飯塚病院通院
キ 平成10年5月25日から平成11年12月20日まで飯塚病院通院
ク 平成10年6月12日から平成11年9月21日まで金澤整形外科クリニック通院

(3)被告は、加害車両の運転手として不法行為責任を負う。

(4)原告は、自賠責保険の事前認定において、14級10号(局部に神経症状を残すもの。)と認定された。

三 原告の主張
(1)原告は、平成7年5月10日に結婚して以降本件事故に遭うまで専業主婦をしていた。
 原告は、本件事故当日、頭部・頸部打撲の傷害を負い、大分県済生会日田病院で診療を受けた後、翌日、飯塚病院整形外科で検査を受けて頸椎捻挫と診断され、平成10年3月23日から同年5月2日まで三笠外科医院で入院治療を受けた。しかし、原告は、退院後、台所に立つだけでめまいがし、全く家事ができない状況となり,同年5月19日にはめまいがひどく頸椎痛による発熱で救命センターに運び込まれて翌20日飯塚病院整形外科で頸椎捻挫と診断されたが、併せて同月25日には同病院心療内科において、PTSDと診断された。その後、大概、一週間に一回程度の割合で通院している。

(2)原告は、PTSDにより、不眠、集中力低下、動悸、いらいら感が強く、1日中寝ている状態で、自立した日常動作をすることができず、日常生活に大きな支障をきたしている。

(3)原告は、現在でも症状は好転せず、逆に自殺未遂を起こすなど悪化の兆候すらあり、厳格な意味での症状固定ではないが、現状では改善の見込みがあるとはいえないとの判断をもって平成11年12月20日に症状固定とされたのである。
 したがって、症状固定とされた後も現在の症状を悪化させないための治療は必要であり、心療内科への通院を継続している。


         (中略)


第三 当裁判所の判断
一 前記争いのない事実等及び(証拠省略)によれば、以下の事実を認めることができる。

(1)本件事故の態様等
 本件事故は、信号停止していた被害車両に対し、被告運転の加害車両が時速50キロメートルないし60キロメートルで何ら減速することなく追突したものであり、その結果、被害車両は約50メートルほど前方に押し出され、被害車両の後部は大きく凹損して修理不可能で全損扱いとなり、また、事故の衝撃でドアが開きにくくなって、乗車していた原告とその夫は、中からドアを蹴って開け車外に出なければならないほどであった。

 原告は、本件事故当時、運転席におり、バックミラーを通してスピードを落とさずに近づいてくる加害車両を追突されるまでずっと見ていた。

(2)原告の症状の経過等

         (中略)


二 以上認定の事実を前提に、原告の後遺障害の有無、程度について検討する。
(1)原告の通院する飯塚病院心療内科の各医師は、いずれも原告をPTSDと診断している。そして、内藤医師がPTSDの診断についてDSM―〈4〉の基準を用いていることは上記のとおりである。
 ところで、飯塚病院心療内科の各医師の上記診断について、被告は疑問を呈しているが、患者を直接診察している主治医が下した診断であることからすれば、その判断を疑わしめるに足りる特段の事情がないかぎり、主治医の診断は尊重されるべきである。
 そこで、原告の症状について具体的に検討する。

(2)まず、DSM―〈4〉のAの基準についていうに、なるほど、本件事故によって原告が負った傷害の程度については、初診時には意識障害もなく、頸椎レントゲン所見に異常は認められず、他覚症状もなく、傷病名は頸椎捻挫にとどまっているものの、本件事故は、信号停止していた被害車両に対し、加害車両が時速50キロメートルないし60キロメートルで、何ら減速することなく追突してきたものであり、その結果、被害車両は約50メートルほど前方に押し出され、被害車両の後部は大きく凹損して修理不可能で全損扱いとなり、また、事故の衝撃でドアが開きにくくなって、中からドアを蹴って車外に出なければならないほどであったこと、原告は、運転席におり、バックミラーを通してスピードを落とさずに近づいてくる加害車両を追突されるまで見ていたことなどからすれば、DSM―〈4〉のAに当てはまると考えて矛盾はない。
 また、最近では交通事故によってもPTSDが生じることは認められてきている((証拠省略))。

(3)次に、DSM―〈4〉のBの基準についていうに、上記のとおり、熊本県共済農業協同組合連合会からの照会に対する東医師の平成10年7月15日付け回答書には、「本患者さんは、事故後より、車に対し、強い不安が出現し、しばしば事故のことが発作的にflash backする症状が認められ、社会生活、日常生活に大きな影響が出ています。」と記載され、同じく、岡本医師の平成11年3月24日付け回答書にも、「事故の事が急に思い出され、感情的になる等の症状が続いております。」と記載され、証人内藤も、原告から、事故直前の状況を思い出すという訴えを毎回ではないが、何か月おきには聞いている旨証言していること、また、上記一(2)エ記載の事実によれば、原告が、本件事故の事を繰り返し思い出していることが認められるのであって、DSM―〈4〉のBの基準に当てはまると考えて矛盾はない。

(4)DSM―〈4〉のCの基準についていうに、被告は、原告がタクシーを頻繁に利用していることをもって、外傷と関連した刺激の持続的回避はない旨主張しているが、本件事故当時、原告は、運転席に乗車しており、バックミラーを通して加害車両が追突してくる様子を見ていたこと、そして、本件事故後、原告は暫くして、バックミラーの見える運転席には乗ることができなくなり、運転も避けるようになっていることが認められるのであって、原告としては、事故時の状況を持続的に回避するようになっているということができる(C(2))。
 また、上記一認定の各事実に照らせば、C(4)ないし(7)の要件に当てはまるということができ、DSM―〈4〉のCの基準に当てはまると考えて矛盾はない。

(5)上記認定のとおり、原告には薬剤をもってしても、時にコントロール不能な重篤な入眠障害,睡眠障害が存在し、また、加害者を想起することによる易怒性、爆発的な怒りの衝動の存在が認められるのであり、DSM―〈4〉のDの基準に当てはまると考えて矛盾はない。

(6)原告は、上記のような症状が3年以上継続し、そのような症状のため、社会的にも職業的にも重篤な機能障害を引き起こしているということができる。

(7)以上を総合すれば、飯塚病院心療内科の各医師が原告をPTSDと診断したことについてこれを否定しなければならないような事情は認められない。
 これに対し、被告から原告がPTSDに罹患していることを否定する旨の意見書が提出されているが、PTSDの諸症状はストレス因子に遭った直後に発現しないこともあることが当然予定されている(発症遅延)ことや投薬量、療法の選択は当該患者に応じて変化することなどから考えると原告を直接に診断したわけでもない当該意見書を作成した医師の意見には限界があるのであり、むしろ、前示の判断に照らせば、同意見書を直ちに採用することは困難で、他に原告の症状がPTSDに当てはまることを否定するに足りる証拠はない。

(8)以上の点を総合すれば、原告の症状はPTSDであるということができ、具体的には、軽易な労務、日常生活をかろうじて送るのが精一杯な状態といえるが、障害等級5級の認定基準である終身極めて軽易な労働にしか服することができないとまでは認められず、それは、障害等級7級4号(神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができない。)に該当すると認めるのが相当である。

三 損害
(1) 入院雑費 5万3300円
 入院期間(41日間)1日につき1300円とする。
 1300円×41日=5万3300円

         (中略)


(6) 後遺障害逸失利益 1493万3000円
 前示のとおり、原告の後遺障害に関しては、症状固定時(平成11年12月20日)から10年間にわたり、労働能力の56パーセントを喪失したものと認め、平成11年賃金センサス第一巻第一表・産業計・企業規模計・女子労働者・学歴計・全年齢平均賃金345万3500円を基礎に中間利息の控除についてライプニッツ方式で算定する。
 345万3500円×0.56×7.7217≒1493万3000円

(7) 小計 3142万7510円

(8)ところで、被告は、原告の後遺症をPTSDと考える場合にも、それには、原告の不安を身体化(身体症状を訴える。)しやすい性格傾向や人格上の問題が大きく影響していると考えられるので、その寄与割合分として大幅な減額をすべきであると主張するので検討するに、原告の有する素因がPTSDの発症にどの程度関わっているのかについては、これを明らかにする証拠はないが、一方、上記一(4)記載のような原告の加害者に対する気持ちや考え型の癖がその病状の軽快及び治癒の遅れにある程度の影響を与えていることは否定できず、当事者間の損害の公平な負担を図る過失相殺の立法趣旨からすれば、この分について、一定の割合で控除するのが相当であり、その割合は1割が妥当である。
 とすれば、本件事故によって原告に生じた損害は、2828万4759円となる。
 3142万7510円×0.9=2828万4759円

(9)損益相殺
 原告は、本件事故に関し、被告側から、合計298万7060円の支払を受けた((証拠省略))。
 よって、損益相殺後の原告の損害は、2529万7699円となる。
2828万4759円-298万7060円=2529万7699円

(10)弁護士費用 250万円
 事案の内容、認容金額等に照らし、前記金額が相当である。

(11)合計 2779万7699円

四 以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対し、金2779万7699円及びこれに対する平成10年3月20日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから、その範囲で認容し、その余は理由がないから棄却することとする。
(裁判官裁判長 有吉一郎 裁判官 大島明 川上宏)

別紙 DSM―〈4〉の診断基準(APA,1994)3)
不安障害Anxiety Disorder
309.81 外傷後ストレス障害Posttraumatic Stress Disorder

A.患者は、以下の2つが共に認められる外傷的な出来事に暴露されたことがある
(1)実際にまたは危うく死ぬまたは重傷を負うような出来事を、一度または数度、または自分または他人の身体の保全に迫る危険を、患者が体験し、目撃し、または直面した
(2)患者の反応は強い恐怖、無力感または戦慄に関するものである
[注]子供の場合はむしろ、まとまりのないまたは興奮した行動によって表現されることがある

B.外傷的な出来事が、以下の1つ(またはそれ以上)の形で再体験され続けている
(1)出来事の反復的で侵入的で苦痛な想起で、それは心象、思考または知覚を含む
[注]小さな子供の場合、外傷の主題または側面を表現する遊びを繰り返すことがある
(2)出来事についての反復的で苦痛な夢
[注]子供の場合は、はっきりとした内容のない恐ろしい夢であることがある
(3)外傷的な出来事が再び起こっているかのように行動したり、感じたりする
(その体験を再体験する感覚、錯覚、幻覚、および解離性フラッシュバックエピソードを含む、また、覚醒時または中毒時に起こるものも含む)
[注]小さい子供の場合、外傷特異的な再演が行われることがある
(4)外傷的出来事の1つの側面を象徴し、または類似している内的または外的きっかけに暴露された場合に生じる、強い心理的苦痛
(5)外傷的出来事の1つの側面を象徴し、または類似している内的または外的きっかけに暴露された場合の生理学的反応性

C.以下の3つ(またはそれ以上)によって示される、(外傷以前には存在していなかった)外傷と関連した刺激の持続的回避と、全般的反応性の麻痺
(1)外傷と関連した思考、感情または会話を回避しようとする努力
(2)外傷を想起させる活動、場所または人物を避けようとする努力
(3)外傷の重要な側面の想起不能
(4)重要な活動への関心または参加の著しい減退
(5)他の人から孤立している、あるいは疎遠になっているという感覚
(6)感情の範囲の縮少(例:愛の感情を持つことができない)
(7)未来が短縮した感覚(例:仕事、結婚、子供、または正常な一生を期待しない)

D.(外傷前には存在していなかった)持続的な覚醒亢進症状で、以下の2つ(またはそれ以上)によって示される
(1)入眠困難または睡眠維持の困難
(2)易刺激性または怒りの爆発
(3)集中困難
(4)過度の警戒心
(5)過剰な驚愕反応

E.障害(基準B、C、およびDの症状)の持続期間が1か月以上

F.障害は、臨床的に著しい苦痛または、社会的、職業的または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている
◆該当すれば特定せよ:
急性:症状の持続期間が3か月未満の場合
慢性:症状の持続期間が3か月以上の場合
◆該当すれば特定せよ:
発症遅延:症状の始まりがストレス因子から少なくとも6か月の場合
以上:6,935文字

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