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弁護士費用特約に関する平成28年10月27日東京地裁判決紹介

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平成31年 2月21日(木):初稿
○原告が被告との間で弁護士費用特約が付帯された自動車保険契約を締結していたところ、交通事故で負傷し、その交渉を原告訴訟代理人に委任し、同代理人は同事件を解決したが、被告は弁護士報酬及び実費の支払をしないとして、原告が、被告に対し、保険契約に基づき上記弁護士報酬等を請求した事案で、原告が原告訴訟代理人に対して報酬等を支払ったことはないから、保険金の発生要件を満たさないことは明らかであるなどとして、原告の請求を棄却した平成28年10月27日東京地裁判決(自保ジャーナル2001号116頁)全文を紹介します。

○弁護士費用着手金は受領していますが、報酬金について原告は既払金を含めた合計296万2950円の15%相当額+消費税相当額+実費として48万0490円を請求したところ、被告保険会社は、既払額を控除した金額を経済的利益として報酬は33万1227円とすることを提案し、原告がこれに応じなかったとして全額支払拒否をしたようです。請求を33万円に減額すれば良いところ、48万円にこだわり、全額の支払拒否が認められたようでちと不思議な事案です。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,48万0490円及びこれに対する平成27年11月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が被告との間で弁護士費用特約が付帯された自動車保険契約を締結していたところ,交通事故で負傷し,その交渉を原告訴訟代理人に委任し,同代理人は同事件を解決したが,被告は弁護士報酬及び実費の支払をしないとして,原告が,被告に対し,保険契約に基づき上記弁護士報酬等48万0490円及びこれに対する平成27年11月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求した事案である。

1 前提となる事実
 次の各事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠により認めることができる。
(1)原告と被告は,自動車総合保険契約を締結した。同契約には,弁護士費用特約が付帯されており,同特約では,「弁護士費用等」について「損害賠償に関する争訟について,弁護士,司法書士,行政書士,裁判所またはあっせんもしくは仲裁をおこなう機関(中略)に対して支出した弁護士報酬,司法書士報酬,行政書士報酬,訴訟費用,仲裁,和解もしくは調停に要した費用またはその他権利の保全もしくは行使に必要な手続きをするために要した費用をいいます。ただし,当会社の同意を得て支出した費用にかぎり,法律相談に必要な費用を除きます。」と定義が記載されているほか,同特約には次の各規定がある(以下,この特約を併せて「本件特約」という。)【乙1,争いのない事実】。
ア 1条1項
 当会社は,この特約により,日本国内において発生した偶然な事故により,次の〔1〕から〔3〕までのいずれかに該当する被害が生じたこと(中略)によって,保険金請求権者が賠償義務者に対し被害事故にかかわる法律上の損害賠償請求を行う場合に,保険金請求権者が弁護士費用等を負担することによって被る損害に対して,弁護士費用保険金を支払います。

イ 10条
 当会社に対する保険金請求権は,保険金請求権者が弁護士費用等および法律相談費用を支出した時から発生し,これを行使することができるものとします。

(2)日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)及び被告は,平成26年9月1日,弁護士保険(権利保護保険)の制度運営に関する協定書を作成し,同協定書に基づく協定を締結した。同協定書の7項には,被告は,弁護士報酬についての保険金の支払について日弁連リーガル・アクセス・センターの弁護士報酬算定の基準(以下「LAC基準」という。)を尊重する旨が規定されている【乙2】。

(3)原告は,平成26年11月27日,交通事故で負傷したことから,平成27年9月1日,原告訴訟代理人に訴訟に至る前の交渉(交通事故紛争処理センターに対する申立て)を委任した。そして,同委任契約において,着手金は21万6000円,報酬金は原告が得た金額の15%に消費税を付加した金額とすることが定められた【甲1】。

(4)原告訴訟代理人は,被告に対し,平成27年9月7日付けの請求書にて,相談料1万8000円及び着手金21万6000円の合計22万6800円を請求し,被告はこれを支払った。また,原告は,同年11月9日,原告訴訟代理人を通じて,東京海上日動火災保険株式会社(以下「東京海上」という。)との間で,東京海上が既払額である92万1374円(治療費91万2314円及び通院交通費4万3260円の合計額)を控除した残金として204万1576円を支払うとの内容で合意した(以下,この合意内容を記載した書面を「本件承諾書」という。)。なお,被告は,報酬金及び実費の支払をしていない【甲2ないし甲4,争いのない事実】。

2 争点及び当事者の主張
(1)争点

 本件特約に基づく被告の保険金支払義務の有無

(2)原告の主張
 本件承諾書記載の既払額である92万1374円は治療費と通院交通費の合計額であるが,この法的性質は仮払金であり,原告は,本件承諾書により仮払金であった同額を含めて合計296万2950円を交通事故の損害賠償金として確定的に取得した。原告が被告に対して請求する48万0490円を被告が支払うことについて,うち33万1227円については被告との間で明示の合意があり,うち14万9263円については被告の黙示の合意があったといえる。
 被告は,LAC基準を尊重して弁護士費用を算定すべきである旨を主張するが,このことに合理性が認められない。

(3)被告の主張
 被告による同意及び原告の支出という保険金請求権の発生要件を欠如しているから,被告に支払義務はない。すなわち,本件特約においては,保険金請求権者が,事前に保険者である被告の同意を得た上,弁護士費用等を負担することによって被る損害に対して保険金を支払う旨が定められており,保険者が同意したこと,その上で保険金請求権者が実際に費用を支出したことは,同請求権の発生要件となっているが,原告は上記支出をしていないし,被告が弁護士費用等に同意したこともない。

 被告の担当者は,平成27年11月,原告訴訟代理人から報酬金等の請求書を受領したが,ここに記載された金額は,既払額を含む296万2950円を経済的利益とし,その15%相当額に消費税を付加した金額であったから,被告はこれに同意しかねて既払額を控除した金額を経済的利益として報酬計算してほしい旨を伝えたが,原告訴訟代理人はこれに同意しなかった。被告と日弁連との間で,協定書でLAC基準を尊重することを定めており,LAC基準では,報酬金の計算方法として,弁護士の委任事務処理により依頼者が得られることになった経済的利益の額を基準とし,既払金及び保険会社からの事前支払提示額等を控除することが明示されている。よって,被告が原告の請求に対して同意しなかったことは相当である。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 次の各事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠により認めることができる。
(1)平成26年3月12日付けのLAC基準には,「注意すべきは,この基準は弁護士報酬そのものを算定するための基準というわけではなく,あくまでも保険金支払に関して問題がない範囲の基準を示しているにすぎないものである点である。したがって,個々の弁護士又は弁護士法人が定める報酬基準に従い,この基準を超える報酬に関しては,保険金としてではなく事件依頼者の個人的な負担となることが原則となるために,その点を依頼者個人に対して契約書等において確認をすることが必要である。」との記載があるほか,1条2項において,「実費とは,収入印紙代,郵便切手代,謄写料,交通費,通信費,宿泊費,保証金,供託金及びこれらに準ずるもので,弁護士が委任事務処理を行う上で支払の必要が生じた費用をいい,この実費等は以下に定める弁護士報酬に含まれないものとする。」と記載され,さらに,2条4項1号において,「報酬金は,弁護士の委任事務処理により依頼者が得られることとなった経済的利益の額(既払金,保険会社からの事前支払提示額及び簡易な自賠責保険の請求により支払が予定される部分は控除する。ただし,既払金及び保険会社からの事前提示額に含まれるもの以外の自賠責保険相当部分は,手数料を既に受領した場合を除き,当該弁護士が自賠責保険に請求したか否かにかかわらず,別途,第2条6(1)の基準により手数料方式として請求することができる。)を基準として以下のとおりとする。・経済的利益の額が300万円以下の場合経済的利益の16%(後略)」などと記載されている【乙3】。

(2)原告は,交通事故に遭い,平成26年11月28日から平成27年8月31日まで通院し,その治療費として91万2314円を,通院交通費として4万3260円をそれぞれ要し,上記治療費は,被告が医療機関に直接支払った。また,通院交通費のうち9060円は,同年10月2日までに被告が原告に対して支払った(すなわち,既払額は合計92万1374円である。)。
 そして,被告は,同日,「損害賠償額の内容」と題する書面にて,損害額を296万2950円と算出し,原告に対して支払う保険金として上記既払額を控除した204万1576円と算出した【乙7,乙8】。

(3)原告は,被告に対し,平成27年11月13日付の請求書にて,賠償金296万2950円の15%に消費税を付加した金額である47万9998円の報酬と実費492円の合計額である48万0490円を請求した【甲5】。

(4)被告の担当者は,原告訴訟代理人に対し,平成27年12月2日,原告の経済的利益を考えると,既払額はこれに含まれないため,賠償額からこれを控除した金額の15%に相当する金額に消費税を付加した金額と実費の合計額である33万1227円の保険金を支払うことを検討してほしい旨を伝えた【甲6,乙9】。

(5)原告は,原告訴訟代理人に対し,原告が請求する保険金48万0490円に相当する報酬等を支払っていない【争いのない事実】。

2 検討
 前記前提となる事実及び認定事実によれば,本件特約において,弁護士費用等の金額について被告の同意を得た上で保険契約者が弁護士等に対して現実に報酬等を支払ったことが保険金請求権の発生要件として定められていること,原告は,被告に対し,弁護士に依頼したことにより得られた経済的利益を既払額を包含した金額である296万2950円の15%に相当する金額に消費税を付加した金額と実費の合計額である48万0490円を請求したが,被告は,LAC基準によれば経済的利益は既払額を控除した金額で算出されるとして原告の請求に応諾せず,33万1227円とすることを提案したこと,原告は,現実に原告訴訟代理人に報酬等を支払ったことはないことなどを認めることができる。以上のような事実経過からすると、上記の保険金発生要件を満たさないから,原告の請求を認めることはできない。

 これに対し,原告は,原告の請求に対して被告が明示又は黙示の承諾をした旨を主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。また,原告は,被告が承諾しない根拠としてLAC基準を挙げるが,同基準を尊重して弁護士費用を算定することに合理性はない旨を主張する。

 しかし,LAC基準を尊重して保険金額を定めることは,日弁連と被告とが協定書を作成し,日弁連が関与してこれを定めたのであるから,その内容に合理性がないということはできないし,また,被告は,原告訴訟代理人が原告から受任する前に通院した治療費等に関して直接医療機関に支払うなどしているから,これをLAC基準2条4項1号にいう「既払金」に含まれるとすることが合理性を欠くということもできない。また,LAC基準は,弁護士報酬そのものを算定するものではなく,保険金支払の基準を示すものにすぎない。このような点に鑑みると,LAC基準を尊重して弁護士費用を算定することに合理性はない旨の原告の主張は当を得ない。 

 さらに,これらの点を措くとしても,原告が原告訴訟代理人に対して報酬等を支払ったことはないから,いずれにしても保険金の発生要件を満たさないことは明らかである。
 したがって,原告の主張を採用することはできない。

3 結論
 以上によれば,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第32部 裁判官 澁谷輝一

以上:5,220文字

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