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髄液漏れ一審判決否認を覆した名古屋高裁平成28年12月21日判決紹介

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平成31年 1月25日(金):初稿
○後遺障害認定につき、「Xは、本件事故によって全身に受けた強い衝撃により、頸椎椎間板が損傷して、C6左側神経根が圧迫され、少なくとも左頸、左肩、左肘、左手母指の痛みと痺れが現在に至るまで継続するとともに、頸椎部、腰椎部の髄液が流出する低髄液圧症候群をも発症したが、低髄液圧症候群による頭部痛や腰痛等の症状はC病院のC医師による2回のブラッドパッチ治療を経て緩解し、B整形外科において平成26年3月3日の治療を最後に完治したものであって、結局、同日以降、頸椎椎間板の損傷(C6左側神経根の圧迫)による左頸、左肩、左肘、左手母指の痺れと痛みが残存しており、かかる症状は「局部に頑固な神経症状を残すもの」として等級表12級13号の後遺障害に該当する」と12級13号後遺障害を認定した平成28年12月21日名古屋高裁判決(自保ジャーナル・第2010号)の必要部分を紹介します。

○この判決は、「髄液漏れ一審判決否認を覆した名古屋高裁平成29年6月1日判決全文紹介1」で紹介した判決と同じ藤山雅行裁判長が、その半年前に出したものです。保険会社側から上告受理申立されて、平成29年6月16日、受理しないとの最高裁決定により確定しています。

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主   文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人は、控訴人に対し、784万6394円及びこれに対する平成23年5月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを9分し、その1を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
3 この判決の主文第1項(1)は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判

1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は、控訴人に対し、888万4739円及びこれに対する平成23年5月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
(4) 仮執行宣言

2 被控訴人
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人の負担とする。

第二 事案の概要
1 本件は、被控訴人(当時71歳)運転の自動車(以下「被控訴人車」という。)が店舗の屋外駐車場から道路に出る際、出入口前の自転車通行の可能な歩道を左方から右方へと通りかかった控訴人(当時63歳)運転の自転車(以下「控訴人車」という。)の右側部に衝突した交通事故(以下「本件事故」という。)により、控訴人が後遺障害12級となる人身傷害を負ったと主張して、被控訴人に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条に基づき、損害賠償金888万4739円及びこれに対する本件事故日である平成23年5月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原判決は、控訴人に後遺障害はなく、傷害部分に限定してなされていた示談も有効であって、既に損害賠償金は支払済みであるとして、控訴人の請求を棄却したところ、控訴人が控訴した。

         (中略)


3 争点(1)(後遺障害の内容・程度)について
(1) 低髄液圧症候群の発症及び治癒について

 被控訴人は、控訴人が本件事故直後に起立性頭痛を訴えた形跡はなく、自賠責保険の認定においても、頸部MRIミエログラフィー画像上、明らかな脳脊髄液の漏出所見は認められないとされている上、その他の診断書等においても低髄液圧症候群の裏付けとなる他覚的所見に乏しいなどと主張して、低髄液圧症候群の発症を否定する。

 しかしながら、前記2(3)アに認定のとおり、控訴人は、既に本件事故日直後から低髄液圧症候群の兆候の1つである「ふらつき」の症状を訴え、点滴を受けると一時的にそれが治まるといったことを繰り返していたところ、本件事故日の10日後である平成23年5月23日には明確に頭痛や腰痛を訴えるなどしており、丙川医師においても、既にこの頃より「IH」と診療録に記載したり、「硬膜損傷」と診断書に記載したりし、また、遅くとも7月1日以前には他院でのブラッドパッチ治療を勧めるなどしているのであって、控訴人の愁訴や症状から、控訴人の低髄液圧症候群の可能性を具体的に認識していたものと認めることができ、B整形外科の診療録には、その後も低髄液圧症候群の兆候を示す記載が随所に認められるところである。

 それにもかかわらず、丙川医師が控訴人に対し、他院でブラッドパッチ治療につき直ちに実施するように強く勧めることまでしなかったのは、同治療は相当程度の痛みを伴うものであり、他の症状に対する治療を先行させつつ、硬膜が自然に塞がることを期待してのことであったとも推察され、対症療法的ではあるが、控訴人に対し、ソルデム点滴、ラクテック点滴を行うなどして様子を見ていたものと考えられる。

 なお、控訴人が明確な頭痛を訴え始めたのは、上記のとおり本件事故日の10日後であり、それ自体は必ずしも事故直後であるとはいえないが、これは、控訴人が本件事故により他の多数箇所に激しい痛みや痺れが生じていた上、安静臥床している時間が長かったために、起立性の頭痛を明確に感じるのが遅れたにすぎないものと解され、本件事故直後に起立性の頭痛が生じていなかったとは断定できない。

 そして、前記2(3)イ、ウに認定のとおり、脳神経外科を専門とし低髄液圧症候群の治療に秀でていると目される戊田医師が「MRミエログラフィーにて頸椎部、腰椎部にて硬膜外側に髄液と関連をもつ形で液体貯留の所見があり、漏出した髄液が貯っている」旨を診断している上、戊田医師による2回のブラッドパッチ治療を経て、丙川医師において起立性頭痛や腰痛が実際に完治したものと判断されている。もっとも、損害保険料率算出機構自賠責損害調査事務所が平成25年1月8日付けで作成した「後遺障害等級認定票」(以下「本件等級認定票」という。)の理由欄には、「提出のMRミエログラフィー画像上、明らかな脳脊髄液の漏出所見は認められず、」などとの記載があり、被控訴人もこれを根拠として控訴人の脳脊髄液減少症を否定している。

 しかし、本件等級認定票の上記理由欄の記載は、いかなる専門家がいかなる関与をしてされたものであるか全く不明であって、仮に医師が関与してこのような記載がされたものであったとしても、それは単にその医師がMRIの画像を正しく読み取る能力に欠けていたというにすぎない可能性は高く、この程度の記載によって、専門医であり控訴人を直接診療した戊田医師の画像所見を否定することは困難というべきであり、その他に戊田医師の画像所見を疑うべき事情はうかがわれない。したがって、MRI画像に関する本件等級認定票の記載及びこれに沿う被控訴人の主張は採用することができない。

 以上からすると、控訴人は、当裁判所に顕著な別紙記載の日本脳神経外傷学会の診断基準にいう前提基準の2及び大基準の3に当たることから、本件事故により低髄液圧症候群を発症したことが認められ、かつ、平成25年11月23日までに実施された2回のブラッドパッチ治療を経て、平成26年3月3日には完治したものと認めることができる。

 なお、被控訴人は、控訴人が後遺障害の事前認定において、低髄液圧症候群ではない傷害により非該当の認定を受けたため、その後の平成24年3月にC病院でブラッドパッチ治療を受け、同年8月に低髄液圧症候群を加えて前記の事前認定に対する異議を申し立てたが、平成25年1月に再び非該当の認定を受けたため、その後の同年11月、再びブラッドパッチの治療を受けたなどとして、控訴人の強い賠償金目的のために低髄液圧症候群の病名が真実に反し事後的に作出されたかのような主張をし、確かに、控訴人の丙川医師に対する申入れの際の言動には、被控訴人が主張するとおりに誤解されかねない箇所がないではない。

 しかし、これまでに述べた諸点からすると、本件事故直後から、控訴人に低髄液圧症候群の兆候があり、それが間もなく顕在化して症状が継続していたことは明らかというべきであり、その後相当に時間を要したものの最終的に完治したものと認められるから被控訴人の上記主張は採用し難い。

(2) 頸椎椎間板損傷(C6左側神経根の圧迫)について
 被控訴人は、控訴人の頸椎椎間板の突出は、前記2(1)に認定のとおり、本件事故以前の平成11年12月4日に発生した事故によるものであって、控訴人の頸部等の痛みや痺れについては、既に上記事故により14級10号の認定を受けた後遺障害にすぎず、本件事故によるものではない旨主張する。
 しかしながら、上記のとおり控訴人に後遺障害を生じさせた交通事故は、本件事故より10年以上前のものであって、それ以後本件事故までの間に、平成14年と平成15年に相次いで交通事故により受傷しているものの、いずれも控訴人に過失はない事故であって後遺障害もなく、それ以後も8年以上にわたり控訴人が交通事故に遭って受傷したり保険金を受領したりした事実は認められない上、上記のとおりかつて認定を受けた14級10号の後遺障害は、その程度や内容及び控訴人の供述からして、本件事故までの間に、少なくとも控訴人の自覚症状としては既に消滅していたものと認められる。むしろ、前記2(3)アないしウに認定のB整形外科における一連の診療経過からすると、本件事故直後から今日に至るまで、少なくとも控訴人が継続して治療を受けていると認められる左頸、左肩、左肘、左手母指の痛みと痺れの症状は、既往症によるものではなく、本件事故を原因とするものと考えるのがそもそも自然である。

 そして、控訴人に対する診療を直接行ってきた丙川医師の意見書によれば、神経学的に見て、前回の事故による頸部受傷に伴う頸部痛、左上肢・左第5指の慢性的痺れの症状は左C7神経根が圧迫された症状であるのに対し、左手母指の痺れはC6神経根の圧迫の症状であるというのであり、同医師は、平成23年11月30日までの段階でこれと同旨の診断を数種類の検査結果とMRIの画像をも踏まえて行っているところであって、このような丙川医師の所見を否定すべき客観的証拠も信頼できる医学的所見も存しない。なお、本件等級認定票には、「左上肢症状と整合する脊髄・神経根への明らかな圧迫も認められない」などと記載されているが、前記のとおり信用するに足りる根拠がなく採用し難い。

(3) 以上のとおりであるから、控訴人は、本件事故によって全身に受けた強い衝撃により、頸椎椎間板が損傷して、C6左側神経根が圧迫され、少なくとも左頸、左肩、左肘、左手母指の痛みと痺れが現在に至るまで継続するとともに、頸椎部、腰椎部の髄液が流出する低髄液圧症候群をも発症したが、低髄液圧症候群による頭部痛や腰痛等の症状はC病院の戊田医師による2回のブラッドパッチ治療を経て緩解し、B整形外科において平成26年3月3日の治療を最後に完治したものであって、結局、同日以降、頸椎椎間板の損傷(C6左側神経根の圧迫)による左頸、左肩、左肘、左手母指の痺れと痛みが残存しており、かかる症状は「局部に頑固な神経症状を残すもの」として等級表12級13号の後遺障害に該当するものと認められる。

 そして、上記頸椎椎間板の損傷(C6左側神経根の圧迫)による痛みや痺れの諸症状のみに限定すれば、平成23年11月30日頃に既にそれ以上の治癒が見込めない状況となっていた可能性も高いが、これと低髄液圧症候群は共に脊髄系統での受傷であって、これらによる痛みや痺れなどの症状は重複し又は輻輳して顕れていたと考えられ、頸椎椎間板の損傷による諸症状のみを切り離して捉えることはできないから、控訴人の後遺障害の全体としての症状固定日は、低髄液圧症候群が完治した平成26年3月3日と認めるのが相当である。


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