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低髄液圧症候群発症を否認するも10%労働能力喪失を認めた判例要旨紹介

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平成30年 5月18日(金):初稿
○出合頭衝突の44歳女子の低髄液圧症候群9級主張に対し、疑いがあるにとどまり関係治療費等否認、症状は10年10%労働能力喪失で2割素因減額を適用した平成24年12月17日京都地裁判決(自保ジャーナル・第1894号)要旨を紹介します。

○事案は、44歳女子が乗用車を運転中に被告乗用車に出合頭衝突され、頸椎捻挫等から低髄液圧症候群を発症し、9級10号後遺障害が残存した主張したものです。判決では、厚労省の研究報告書である、「現時点で最も信頼性が高いと考えられる中間報告における低髄液圧症の画像判定基準、画像判断基準に照らすと、原告が低髄液圧症であると確定診断することはできず、その疑いがあるといえるにとどまる。そうすると、原告が本件事故により低髄液圧症となったことは証明されていないと言わざるを得ない(脳脊髄液漏出症又は脳脊髄液減少症であると認めることもできない。)。したがって、脳脊髄液減少症の症状であるとする各症状に係る治療費も、本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない」として否認した。

○休業損害については、原告が「低髄液圧症を発症したと認めるのは困難であるが、症状固定時までに、「頭痛、頭重感、頸~肩背部・腰部痛、左半身の感覚障害(左手親指、示指等のしびれ等)、めまい、動悸、発汗障害等の自律神経症状、集中力低下、記銘力低下、思考力低下、全身倦怠感、冷感、左半身の痛み、耳鳴り、体温調節障害、車の運転が恐ろしくてできない、家事ができない」等、多彩な神経症状等を自覚し、書道教室は一旦止め、家事労働も制限されたが、C病院通院中、症状は徐々に軽減され、平成16年9月のブラッドパッチ施行により頭痛が顕著に改善したことなどを総合考慮し、本件事故の日である平成13年12月4日から平成14年3月4日までの91日間は平均90%、同月5日から平成17年1月5日までの1038日間は平均50%の休業割合を認める」と認定しました。

○逸失利益については、治療により「次第に軽減したとはいえ原告には多彩な神経症状等が残存した。頸椎MRIで異常所見がなく、神経学的異常所見もほとんどないが、3年以上の治療にかかわらずブラッドパッチで頭痛に著効があった以外はめぼしい成果がなく、明らかに難治性であることなどを考慮し、原告は、症状固定時から10年間、労働能力の10%を喪失したものと認める」と認定しました。

○慰謝料については、原告は、「本件事故により通常受けるはずの肉体的苦痛や日常生活、社会生活上の不便、悪影響を相当上回る被害を受け、事故の態様及び当初の受傷内容に比し、多大の精神的苦痛を被ったものと認められる。後遺障害慰謝料の判断に当たり、これらを原告固有の特殊な事情としてすべて捨象することは公平を欠くというべきである。本件に顕れたその他の事情も総合し、後遺障害慰謝料は200万円をもって相当と認める」と認定しました。200万円の慰謝料は赤本基準後遺障害等級13級180万円を少し超えるものです。

○素因減額につき、原告の症状は、「その多彩さ、強固さ、推移及び他覚所見との対比等からして、同事故によって通常発生する程度、範囲を超えており、原告の精神的脆弱性等の内在的要素が症状に寄与していると考えざるを得ないから、素因減額をすることとし、諸般の事情を総合し、減額割合は2割とする」として、素因減額を適用しました。

○この判決で注目すべきは、「現時点では原告が低髄液圧症であったことが客観的には証明されていないとしても、丙川医師が原告を外傷性低髄液圧症候群と診断し、ブラッドパッチを施行したことが、当時の臨床医の一般的な医学水準又は低髄液圧症候群についての一般的知見に照らし、明らかに不合理であったことを認めるに足りる証拠はない。したがって、Jクリニック及びK病院の治療費は、本件事故と相当因果関係のある損害と認める。」とした点です。

○低髄液圧症候群としての治療について、低髄液圧症候群を発症したとは認めませんでしたが、症状固定までの多彩な神経症状について、休業損害を認め、症状固定後は10年間の逸失利益を認め、更に慰謝料金額を考慮すると実質後遺障害等級13級以上を認めています。低髄液圧症候群発症を否認するとその治療は一切損害賠償の対象とならないとする判例も多いところ、この判決は、被害者の状況を考慮した柔軟で合理的な判決と思います。
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