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髄液漏れ一審判決否認を覆した名古屋高裁平成29年6月1日判決全文紹介2

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平成29年 8月28日(月):初稿
○「髄液漏れ一審判決否認を覆した名古屋高裁平成29年6月1日判決全文紹介1」の続きです。
名古屋高裁藤山雅行裁判長は、ウィキペディアによると「以前所属した東京地方裁判所行政訴訟専門部(民事3部)では、行政(国)側に対する厳しい判決を連発したため、杜甫の漢詩「国破れて山河在り」になぞらえ、所属する民事3部の名称をもじって「国敗れて3部あり」などといわれていた。」と解説されている有名な裁判官です。

○行政側に厳しい姿勢が、今回は、保険会社側に厳しい判決となりました。右へ習えの判決を下す裁判官が多い中に、信念を持って画期的判決を下す姿勢は大変有り難いところです。このような裁判官が増えることを望むだけです。

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(10)原判決39頁14行目冒頭から40頁10行目末尾までを次のとおり改める。
「控訴人には,本件事故後,左上肢から手指にかけての痛み,脱力,しびれがあったものと認められるところ,前記1(2)ケのとおり,i医師は,控訴人において,握力低下とモーレーテストでの左上肢陽性の所見があったことから,左前斜角筋離断神経剥離術を実施したこと,i医師は,この手術中,前斜角筋の癒着を直接確認したと陳述しており(甲102),その信用性を否定すべき事情は存しないこと,本件事故後約2年半を経過した後に実施された手術であるとはいえ,左前斜角筋の癒着の原因は本件事故以外に考え難いこと,脳脊髄液減少症には胸郭出口症候群が併発する例があるといえるところ,前記のとおり控訴人に脳脊髄液減少症が認められることにも合致すること,実際,上記手術後に不定愁訴が増え完治はしなかったとはいえ,最終的に前記のような症状の軽減又は改善が6割程度認められたといえること,前記1(2)キのとおり,j医師が諸検査を実施したが胸郭出口症候群との確定診断をしなかったとはいえ,j医師が腕神経叢造影検査等において,肋鎖間隙で狭窄所見を認めたことにもむしろ整合し,少なくとも矛盾はしないこと等からすると,控訴人は,本件事故により胸郭出口症候群を発症したものと認められ,これを覆すに足りる十分な証拠はない。」

(11)原判決40頁13行目冒頭から41頁6行目末尾までを次のとおり改める。
「(1)前記2ないし4のとおり,控訴人は,本件事故により,脳脊髄液減少症及び胸郭出口症候群を発症したと認められるところ,前記1(2)ケのとおり,i医師が胸郭出口症候群につき平成22年10月26日を症状固定日と診断していること,同エ(イ)のとおり,k医師が頚部挫傷,腰背部挫傷として平成23年1月29日を症状固定日と診断していることに鑑みると,控訴人の症状固定日は,平成23年1月29日と認めることが相当である。
 被控訴人は,控訴人の症状固定日は平成18年5月24日である旨主張するが,これは控訴人の症状が頚椎捻挫のみであることを前提としたものであるから採用できない。

(2)後遺障害の程度について,控訴人は,脳脊髄液減少症が後遺障害等級表の5級2号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に相当し,胸郭出口症候群が後遺障害等級表の7級4号「神経系統の機能又は精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に相当する旨主張する。

 しかしながら,控訴人は,ブラッドパッチ治療により脳脊髄液減少症が完治したものではないが,その症状が相当程度緩和されたものであり,同治療により認められる効果からすると,今後の治療経過次第では更に緩和が見込まれないではないこと,胸郭出口症候群についても,左前斜角筋離断神経剥離術が施されたために相当程度緩和したものと認められるから,これらの諸事情を総合的に考慮して,控訴人の後遺障害の程度としては,症状固定時である46歳から就労可能年齢の67歳までの21年間のうち,当初の7年間については,後遺障害等級表の9級10号の「神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」に該当し,残り14年間については,12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当するものと認めるのが相当である。

(12)原判決41頁8行目冒頭から44頁8行目末尾までを次のとおり改める。
「(1)治療費 163万1808円
 上記のとおり,控訴人は,本件事故によって脳脊髄液減少症及び胸郭出口症候群を発症したものであるから,これらのために症状固定日である平成23年1月29日より以前に要したと認められるものは,本件事故との相当因果関係がある。

 そうすると,証拠(甲6の1・2,甲7,甲8の1ないし36,甲9,甲16の1ないし17,乙40)及び弁論の全趣旨により,神戸赤十字病院の2万2730円,明舞中央病院の3万3608円,師勝整形外科の6万3590円,遠藤外科・整形外科の53万9180円,みやけ接骨院の1万8480円,名古屋市立大学病院の60万1510円,名古屋リハセン病院の9360円及び熱海病院の34万3350円の合計163万1808円が本件事故と相当因果関係の認められる治療費であると認められる。

(2)入院雑費 11万8500円
 本件事故による傷害を治療するために控訴人が入院した期間は79日であり,日額1500円として,合計11万8500円の入院雑費を損害として認める。

(3)通院交通費 27万1240円
 証拠(甲24の3ないし5・14)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人は,本件事故と相当因果関係のある症状固定までの通院交通費として,遠藤外科・整形外科につき2万4000円,名古屋市立大学病院につき580円,名古屋リハセン病院につき6960円,熱海病院につき23万9700円を要したものと認められ,これらの合計は27万1240円となる。

(4)付添介護費用 0円
 控訴人は,本件事故により高次脳機能障害となったものとは認められず,通院に当たって付添介護を必要としたと認めるに足りる的確な証拠もない。

(5)将来介護費用 0円
 控訴人は,本件事故により後遺障害等級表9級10号相当の後遺障害が残ったものであるが,将来の付添介護の必要性までは認められない。

(6)装具代 0円
 控訴人が,本件事故によって,頚椎装具の費用負担をしたと認めるに足りる的確な証拠はない。

(7)文書料 13万7995円
 控訴人は,本件事故により受傷した後,多数の医療関係機関において受診し又は治療を受けており,それらのカルテ等の書類を取寄せた上で検討吟味しなければ本件訴訟を遂行することはできなかったと認められるから,控訴人が各医療機関から文書を収集するために要した費用のうち控訴人の求める合計13万7995円(甲25ないし32,34。枝番のあるものは枝番を含む。)は,必要性及び相当性の範囲内のものであると認められ,いずれも本件事故と相当因果関係のある損害として認められる。

(8)その他の費用 5460円
 証拠(甲39,控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば,平成17年8月22日に明舞中央病院に通院するために要した宿泊費5460円は,本件事故と相当因果関係のある通院治療のために必要であったことが認められるから,本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
 その余の費用は,本件事故と相当因果関係のある損害であることの主張立証がなく認められない。

(9)休業損害 585万7102円
 前記5(1)のとおり,原告は,本件事故当時,家事労働に従事していたが,本件事故日から症状固定日である平成23年1月29日までの間(1990日),これに従事することが制限されたものと推認される。
 もっとも,その制限の程度は,控訴人の受傷内容に照らし,治療期間中,全く家事に従事することができなかったとは認められず,後記のような後遺障害の程度も考慮すると,治療期間にわたり平均して50%と認めるのが相当である。
 また,その一連の診療経緯からすると,控訴人は,熱海病院において胸郭出口症候群の手術を受けて症状が緩和されるまでに相当の年数を要しており,いわば治療の遅延が認められるともいえるところであるから,損害の公平な分担の見地から,休業期間が500日を超えた以後は,その金額を更に50%減額させるのが相当である。

 そして,休業損害の基礎となる収入は,平成17年賃金センサス女性学歴計全年齢平均賃金343万4400円(日額9409円)と認めるのが相当である。
 以上からすると,控訴人に認められる休業損害は,以下の計算式のとおり,585万7102円となる。
9409円×500日×0.5=235万2250円
9409円×1490日×0.25=約350万4852円(円未満切捨て。以下同様。)
235万2250円+350万4852円=585万7102円

(10)逸失利益 1071万2988円
 前記5のとおり,控訴人の後遺障害等級は症状固定後7年間は9級10号相当で,その労働能力喪失率は35%を認めるのが相当であり,その後の14年間は12級13号相当で,その労働能力喪失率は14%を認めるのが相当である。また,基礎収入は,平成23年賃金センサス女性学歴計全年齢平均賃金である355万9000円を認めるのが相当である。
 したがって,控訴人に認められる逸失利益は,以下の計算式のとおり,1071万2988円となる。
355万9000円×0.35×5.7864〔7年のライプニッツ係数〕=約720万7829円
355万9000×0.14×7.0348[21年のライプニッツ係数12.8212-7年のライプニッツ係数5.7864]=約350万5159円
720万7829円+350万5159円=1071万2988円

(11)入通院慰謝料 250万0000円
 控訴人の受傷内容,治療経過,その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,控訴人に認められる入通院慰謝料は250万円が相当である。

(12)後遺障害慰謝料 500万0000円
 控訴人の後遺障害の内容及び程度,その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,控訴人に認められる後遺障害慰謝料は500万円が相当である。

(13)物的損害など 1万2180円
 車両代金51万円については,控訴人が控訴人車両の所有者であると認めるに足りる証拠はないから,控訴人に上記損害が生じたと認めることはできない(なお,被控訴人が付保する保険会社から車両代は支払済みである(乙7の1,2))。車付属品5万円及び車内の荷物9867円については,本件事故と相当因果関係のある損害と認めるに足りる証拠がない。宿泊キャンセル代1万2180円については,証拠(甲41,77,控訴人本人)及び弁論の全趣旨より認める。

(14)小計 2624万7273円

(15)損害の填補(368万3668円)後の損害額 2256万3605円

(16)弁護士費用 225万0000円
 本件事案の内容,審理の経過,認容額等一切の事情に照らせば,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は225万円と認めるのが相当である。

(17)以上の合計 2481万3605円

(18)一部弁済 133万2255円
 証拠(乙53ないし55)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人が控訴人に対し,平成27年11月13日,原判決が認容した元金として133万2255円及びこれに対する本件事故日である平成17年8月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金として68万2004円の合計201万4259円を任意に支払ったことが認められるところ,上記133万2255円は元金に,上記68万2004円は支払済みまでの遅延損害金にそれぞれ充当されることとなる。

(19)合計 2348万1350円」

(13)原判決44頁10行目冒頭から11行目の「しかし」までを次のとおり改める。 
「前記5のとおり,控訴人の症状固定日は平成23年1月29日であるから,本件訴訟の提起日である平成24年9月3日には未だ消滅時効は完成していない。なお仮に,控訴人の症状固定日が更に早く,被控訴人の主張するとおり平成18年5月24日であったとしても」

第4 結論
 よって,以上と異なる原判決を控訴人の本件控訴に基づき変更し,被控訴人の本件附帯控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第4部 裁判長裁判官 藤山雅行、裁判官 上杉英司、裁判官丹下将克は,異動により署名押印することができない。裁判長裁判官 藤山雅行

以上:5,167文字

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