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職業画家を考慮し自賠責等級12級で労働能力喪失率50%認めた判決紹介

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平成29年 6月14日(水):初稿
○画家の後遺障害についての損害賠償請求事件を扱っていますが、自賠責では併合第11級と認定されたものを、等級認定は併合12級としながら、画家という職業に与える影響等を考慮して労働能力喪失率を12級の14%ではなく、50%(自賠責等級基準では第7級56%と8級45%の中間)を認定した平成18年6月16日大阪地裁判決(自動車保険ジャーナル・第1698号)の損害認定判断理由部分を紹介します。


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第三 争点に対する判断
1 被告の過失、過失割合


(中略)

2 損害額
(1) 治療費、投薬費 69万7490円

 治療費及び投薬費の額が少なくとも69万7490円であったことは当事者間に争いがない。被告はC病院の治療費が13万5,940円であったと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(2) 休業損害 254万6005円
ア 証拠(略)によれば、平成12年の原告の画家としての売り上げが851万円であったことが認められる。原告が売り上げの立証のため提出する証拠(略)は、筆跡も別々であり、記載内容について原告の供述との整合性も認められることから、信用性は認められる。

 これに対し、経費については十分な立証がなされたとはいえないし、証拠(略)によれば、新築祝いに原告の絵をプレゼントしている工務店勤務の者から依頼を受けていると思われる画商に売り上げの多くを依存していること、平成12年度の確定申告はしばらくぶりになされたものであり、申告所得額も275万円と低額であったこと、平成12年度以前には絵の売り上げは年間600万円程度であったことが認められ、自分の作品を売って生活できるようになったとはいえ、原告は画家としてはまだ無名であって、売り上げも継続的な購入が期待できる顧客は少ないうえ、特定の顧客への依存度が高く、今後も同様の売り上げを確保できるかははっきりしていないことに鑑みれば、売り上げの60%にあたる年収510万6000円を基礎収入として採用するのが相当である。

イ 証拠(略)によれば、症状固定の診断がなされた平成13年7月31日時点でも、右肩の可動域制限や右手の握力の低下があり、リハビリも継続中で、画家としては稼働できなかったことが認められるが、症状固定時においてもリハビリを継続しており、本件事故から症状固定まで6か月という期間に転職することも期待できないことからすると、本件事故から症状固定までの間は100%稼働できなかったと認めるのが相当である。

ウ 基礎収入を年収510万6000円として、本件事故から症状固定日までの182日間100%稼働できなかったとすると、以下の計算式により、休業損害は上記金額となる。
 510万6000円÷365×182

(3) 傷害慰謝料 80万円
 傷害慰謝料を80万円とすることについては、当事者間に争いはない。

(4) 後遺障害逸失利益 1814万6213円
ア 証拠(略)によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 原告は、本件事故による後遺障害について以下のような診断を受けた。
a 傷病名
 右肩・肘・膝打撲傷、右膝後十字靱帯損傷、右肩関節外傷後関節拘縮、右上肢不全麻痺

b 自覚症状
 右手が思うように使えない、絵をかけない、書字困難、箸・包丁・銛・金槌が使えない、右肩・右膝の不安定、階段を下りるときに疼痛、脱力感、駆け足不能、自転車で少しの上り坂がこげない、500m以上の連続歩行で疼痛出現

c 他覚症状
 握力 (右)16.5㌔㌘ (左)37.0㌔㌘
 ピンチ力(栂指示指側面) (右)1.2㌔㌘( 左)7.8㌔㌘
 ピンチ力(栂指示指指先) (右)0.4㌔㌘ (左)5.0㌔㌘
 徒手筋力テスト 肩関節屈伸・内外転(右)4-、(左)4
 上腕周囲径( 右)29.0㌢㍍、(左)29.0㌢㍍
 前腕周囲径 (右)26.5㌢㍍、(左)26.5㌢㍍
 右手栂指・示指・中指々尖知覚鈍麻(+)
 第5・6頸髄神経領域に低下
 作業療法による精査で手指巧級運動検査で(右)5分21秒、(左)4分と右で遅延持続力テストで右上肢挙上1分15秒(左3分以上)で遂行不能
 箸作業は従来右利きにも拘わらず、右手障害期間が長く利き手交換練習により左手の操作性が勝っていた、右では小さいものや重いものを箸でつまむことが不能、持久力に乏しく検査中短時間で右上肢に脱力感を生じた
 頸椎X線にて第4-7頸椎椎体後方から骨棘(+)
 EMGにて右三角筋・橈側手根伸筋に脱神経電位を軽度認める
 右膝は前後不安定性を認め、MRIにて後十字靱帯損傷認め、関節液の貯留も認める

d 関節機能障害
 別紙関節機能障害のとおり。

(イ) 原告は、自動車損害賠償責任保険における後遺障害等級認定において以下のとおり、認定された。
a 結論
 自動車損害賠償責任保険等級併合第11級
b 理由
 右肩関節運動機能は腱板損傷後の拘縮として、運動機能障害第12級6号。
 右手指症状は、神経系統の障害として、第12級12号。

(ウ) 原告は、高校卒業後、D短期大学英米語学科に通いながら、美術研究所に5年間研修生として通い、デッサンを学んだ。大学卒業後は家業であった小中学校への教科書以外の教材等卸売業の仕事を行いつつ、絵画の勉強をしていた。その間、絵画を展覧会に出展したり、絵画教室で絵を教えたりもしていた。
 そして、50歳を過ぎたころ、家業を廃業し、絵画のみで生計を立てるようになった。

 原告は平成13年には、美術年鑑に登録し、1号あたり、4万5000円という値段設定がなされていた。この値段設定は年々上がっていく仕組みになっていた。

(エ) 本件事故後、原告は利き手である右手に思うように力が入らなくなり、職業画家として絵を描くことはできなくなってしまった。現在は左手で絵をかけるように訓練中である。
 また、右足に体重がかけられず、歩行も短距離しかできず、立ち続けることも5分くらいしかできない。


(ア) 右膝関節について
 証拠(略)によれば、本件事故直後の診断では右膝の痛みについて医師への訴えがなされていたが、その後は、平成13年3月2日に膝の痛みに関する訴えがなされているが、同月9日、診療録には右膝について腫脹なし、関節可動域制限は全稼働、不安定性なしとの記載がなされ、同月16日には自転車に2時間乗った旨が報告されており、同年7月31日の時点では右膝の痛みもなくなっていた旨の診断がなされたが、その後、平成15年3月17日にC病院においてMRI検査が行われ、同月25日、右膝後十字靱帯損傷の診断がなされていることが認められるが、このような経緯に鑑みれば、右膝に関しては、平成13年7月31日の時点で痛みもなく、可動にも問題がない状態であったと判断せざるを得ないのであって、その後平成15年に右膝後十字靱帯損傷の診断がなされたとしても、本件事故との因果関係は認めがたい。

(イ) 右手指の症状について
 証拠(略)によれば、前記アで示された原告の右手指の症状については、神経学的所見として筋力低下や知覚障害、筋電図の異常所見がみられ、事故の態様からすると右腕神経叢不全損傷の可能性も否定できないことが認められ、これらの事実に照らせば、局部に頑固な神経症状を残すものとして12級12号に該当すると認められる。

(ウ) 右肩関節について
 証拠(略)によれば、本件事故後、原告は右肩の疼痛を訴え、関節可動域にも制限があり、平成13年7月31日では右肩関節の可動域は左肩関節の4分の3まで制限されていたが、平成15年3月25日の検査では、外転の可動域が改善したため可動域が4分の3までは制限されていないことが認められるが、可動域制限以外に他覚的所見が認められないことからすると、右肩については局部に神経症状を残すものとして14級10号に該当すると認められる。

ウ 前記アによれば、原告は画家としての能力を喪失していると認められ、原告の年齢、経歴、後遺障害の程度を考えると、原告が就くことができる職業もかなり限られることを考慮すれば、喪失した労働能力の割合は一般的な事例と比較して大きく評価するのが相当である。しかしながら、右手指、右肩の機能も一部失われたに留まり、身体全体の機能のかなりの割合が未だ維持されていることを考慮すれば、労働能力喪失率は50%と認めるのが相当である。

エ 労働能力喪失期間については、画家としての作業の身体能力への依存度が低いことは確かであるが、もともと、画家としての作業が可能であるか否かとは別に、継続してゆくことが困難な職業であり、原告については、顧客は個人的なつながりのある者に限られており、作業が可能な状態であれば当然に画家としての職業を全うできる蓋然性までは認められないから、平均余命の2分の1にあたる9年間と認めるのが相当である。

オ 基礎収入は休業損害の場合と同様である。

カ 以上を前提に逸失利益を計算すると、下記の計算式により、上記金額となる。
 510万6000円×(1-0.5)×7.1078

(5) 生活介護費費用
 生活介護費については、後遺障害の等級に関係なく、受傷の内容及び程度、被害者の年齢等から、必要性を判断すべきであるが、原告は利き手が思うように動かなかったり、連続歩行が困難であったりという状況はあるが、右膝の障害については本件事故との因果関係は認められず、右手の障害については、障害の程度に鑑みて、介護が必要な程度に達しているとは認められないから、生活介護費費用は認められない。

(6) 後遺障害慰謝料 390万円
 前記(4)で認定した後遺障害を等級で表すと併合12級ということになるが、右手指の後遺障害により、現在訓練を継続中ではあるものの、画家としての能力を喪失している現状に鑑みれば、後遺障害慰謝料は390万円と認めるのが相当である。

(7) 増額慰謝料
 後遺障害逸失利益は前記(4)のとおりであり、これによって画家としての能力喪失分は評価されているから、増額慰謝料は認められない。

3 損益相殺
 以上を合計すると、その額は2608万9708円となる。原告が合計547万8722円の支払いを受けていることは当事者間に争いがないが、それ以上の支払いを受けている事実を認めるに足りる証拠はないから、前記損害額から支払われたと認められる額を控除すると、残額は2061万0986円となる。

4 弁護士費用 200万円
 本件の認容額や事件の内容など諸般の事情を考慮すれば、原告に対する弁護士費用は200万円と認めるのが相当である。

5 結論
 以上より、原告の請求は、2261万0986円及びこれに対する平成13年2月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。
 よって、主文のとおり判決する。
以上:4,454文字

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