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股関節機能障害と将来人工骨頭置換術可能性に関する参考判例紹介

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平成29年 4月15日(土):初稿
○現在、交通事故で大腿骨頚部骨折の傷害を受け、頚部骨折は治癒するも大腿骨骨頭部一部に壊死を発症した事案を扱っています。後遺障害等級は下肢の「関節の機能に障害を残す もの(以下「単なる機能障害」という。)(第12級)」と「1下肢を1センチメートル以上短縮したもの」(第13級)の併合第11級を認定されていますが、大腿骨骨頭部一部壊死及びこれに伴い将来の人工骨頭置換術の可能性があることについて後遺障害評価が全くなされていません。

○この事案についての参考判例を探しており、右股関節機能障害を残し、将来における人工骨頭置換術を受ける蓋然性が高いとまでは言えなくてもその可能性があることを考慮し、後遺障害慰謝料は550万円が相当であると認めた平成20年6月23日千葉地裁判決(交民集41巻3号740頁)の一部を紹介します。股関節機能障害の後遺障害等級認定について解説されています。


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主  文
1 被告は、原告に対し、880万3422円及びうち817万1082円に対する平成15年7月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを10分し、その7を原告の、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求

 被告は、原告に対し、2574万6931円及びうち2511万4591円に対する平成15年7月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
 本件は、自転車を運転していた原告が、被告が運転していた普通乗用自動車との間で交通事故に遭ったとして、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき後記損害2511万4591円及び自賠責既払分323万9360円に対する当該交通事故の日である平成15年7月19日から平成19年6月14日まで年5分の割合による確定遅延損害金63万2340円並びに損害に対する当該交通事故の日である平成15年7月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 
                       (中略)

第三 当裁判所の判断
1 争点(1)(原告の後遺障害の程度)について
(1) 右股関節の機能障害について

ア 証拠(甲8、乙4)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア) 下肢の機能障害は、その程度により、「下肢の用を全廃したもの(第5 級)」、「関節の用を廃したもの(第8級)」、「関節の機能に著しい障害を残すも の(以下「著しい機能障害」という。)(第10級)」、「関節の機能に障害を残す もの(以下「単なる機能障害」という。)(第12級)」に分類される(甲8)。

(イ) 関節の機能障害は、原則として主要運動(各関節における日常の動作に とって最も重要なもの)の可動域の制限の程度によって評価すべきであり、一定の場 合には参考運動の可動域制限の程度によって、関節の機能障害を評価する(甲8)。
 股関節の場合、主要運動は、屈曲・伸展と外転・内転であり、参考運動は、外旋・内旋である(甲8)。屈曲・伸展などのように、同一面にある運動については、両者の可動域の角度を合計した値をもって関節可動域の制限の程度を評価する(甲8)。
 可動域の運動測定は、他動運動によることが原則である(乙4)。また、可動域の機能障害の認定は、障害の残存した側(患側)の可動域を測定し、原則として、障害の残存していない側(健側)の可動域とを比較して行う(乙4)。

(ウ) 股関節の機能障害の認定において、主要運動のいずれか一方の可動域が健側の関節可動域角度の2分の1以下に制限されているときは「著しい機能障害」、4分の3以下に制限されているときは「単なる機能障害」と認定する(甲8、乙4)。
 ただし、主要運動の可動域が2分の1又は4分の3をわずかに上回る場合に、当該関節の参考運動が2分の1以下又は4分の3以下に制限されているときは、「著しい機能障害」又は「単なる機能障害」と認定する。この「わずかに」とは、原則として5度とするが、股関節の屈曲・伸展などについて、「著しい機能障害」に当たるか否かを判断する場合は10度とする(甲8)。

イ 原告の右股関節は、前記争いがない事実等(5)のとおり、主要運動(他動)のうちの外転・内転については、健側の65度に対して患側が40度であるから、患側が健側の4分の3(48.75度)以下に制限されているし、主要運動(他動)のうちの屈曲・伸展についても、健側の150度に対して患側が115度であるから、患側が健側の4分の3(112.5度)に5度を加えた117.5度を下回っており、参考運動である外旋・内旋が前記争いがない事実等(5)のとおり、健側の90度に対して患側が20度であるから、患側が健側の2分の1(45度)以下に制限されているから、「単なる機能障害」に当たる。

 しかし、著しい機能障害に当たるかについては、主要運動(他動)のうちの外転・内転については、患側の40度は健側の64度の2分の1(32.5度)に5度を加えた37.5度を2.5度上回るものであるし、屈曲・伸展についても、患側の115度は健側の150度の2分の1(75度)に10度を加えた85度を上回るものであるし、原告が訴える主訴も多くは関節痛であるから、「著しい機能障害」に相当するような障害に当たると認めることはできない。

ウ 原告は、労災認定基準の「わずかに」とは、原則として5度とされており、この「原則として5度」とは、飽くまでも一つの目安として提示したにすぎず、主要運動と参考運動の可動域制限を総合して評価すべきことを明らかにしたものであると主張するが、労災認定基準は、参考運動を考慮する場合についても明確に定めているのであるし、原告が訴える症状は痛みが主であることに照らせば、この原則をあえて適用しないことが相当であるとまではいえない。

エ 原告は、原告の右股関節の可動域は、原告の症状が悪化する可能性が高いこと、人工骨頭置換術が多くの危険を伴い、かつ、症状を改善できるものではないことに照らせば、将来的には、健側の2分の1以下に制限される可能性が高く、その際には、「1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの」とされるとも推測されると主張する。

 しかし、証拠(甲4、7)によれば、丙川春男医師は、人工骨頭の置換術は、「手術を行なうのは年数ではなく股関節痛や重度のADL制限といった症状で適応となります。人工骨頭置換術がどうしてもという際は65歳以上での施行が望しいとされています。」という表現を取るにとどまっており、あいおい損害保険株式会社も「将来、骨頭壊死が進行した場合、人口(人工の誤記)骨頭の置換手術が必要であるとの事でした。」と条件を付した表現を取るにとどまっていることが認められ、これらに照らせば、人工骨頭置換術が必要かつ施術の蓋然性が高いとまで認めることはできないし、この症状は、関節の機能障害に吸収されるものであるから、この点を考慮することはできない。

オ 以上によれば、原告の右股関節機能障害は、後遺障害等級表(平成14年4月1日以降平成16年6月30日までに発生した事故に適用する表)別表(以下 「別表」という。)第2の第12級7号の「1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」に当たると解するのが相当である。

(2) 原告の右股関節痛が、別表第12級12号「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当することは争いがない。

(3) 原告の前記(1)の「単なる機能障害」は、機能障害であり、前記(2)の右股関節痛は、神経系統の機能の障害であり、系列を異にするが、これらは通常派生する関係にあるものと認めることができるから、原告の後遺障害は、別表第12級にとどまるものというべきである。

2 争点(2)(治療費等)について
(1) 治療費 408万2400円
 証拠(甲10)によれば、治療費408万2400円を認めることができる。

(2) 入院雑費 17万7000円
 原告は、前記争いがない事実等(4)のとおり、118日間入院しており、1日当たりの入院雑費は1500円を認めるのが相当であるから、入院雑費は17万7000円と認めるのが相当である。

(3) 通院交通費等 7万9,540円(甲11)
 証拠(甲11)によれば、通院交通費等は7万9540円と認めることができる。

(4) 文書料 1万0,500円
 証拠(甲12)及び弁論の全趣旨によれば、文書料は1万0500円と認めることができる。

(5) 将来の手術について
 原告は、将来における人工骨頭置換術の治療費及びそれに伴う入院雑費をも治療費等として請求する。
 しかし、人工骨頭置換術は、前記1(1)エのとおり、必要かつ施術の蓋然性が高いとまでは認めることはできないから、同手術に伴う治療費及び入院雑費を損害として認めることはできない。

             (中略)

5 争点(5)(入通院慰謝料304万円)について
(1) 原告の受傷の部位・程度、治療状況、治療期間(入院日数実118日、通院期間約15か月・実39日)を考慮すると入通院慰謝料は280万円が相当である。

(2) 原告は、将来における人工骨頭置換術についての入通院慰謝料に考慮すべきであると主張する。
 しかし、人工骨頭置換術は、前記2(5)のとおり、必要かつ施術の蓋然性が高いとまでは認められない。
 したがって、原告の前記主張を採用することはできない。

6 争点(6)(後遺障害慰謝料690万円)について
(1) 原告の現在の症状は、前記争いがない事実等(10)の内容であること、原告の後遺障害は、前記1のとおり、別表第10級に近いものでもあること、原告が将来人工骨頭置換術を余儀なくされる可能性があることも考慮すると、後遺障害慰謝料は550万円と認めるのが相当である

(2) 原告は、被告は、事実を故意にゆがめ、責任を回避しようとし、不当な応訴態度を取っており、慰謝料に考慮すべきであると主張する。
 しかし、被告の応訴態度が、特に慰謝料を加重すべきような内容のものであると認めることはできない。
 したがって、原告の前記主張を採用することはできない。

以上:4,274文字

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