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後遺障害等級第14級で労働能力喪失率14%を認めた判決紹介2

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平成29年 1月11日(水):初稿
○「後遺障害等級第14級で労働能力喪失率14%を認めた判決紹介1」の続きで裁判所の判断部分です。


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第三 当裁判所の判断
1 損害及びその額

(1) 治療費 86万1365円
 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、症状固定日までにBクリニック及びCクリニックに支払われた治療費は86万1365円であり、同金額が本件事故と因果関係のある損害であると認められる。

(2) 通院交通費 4万4210円
 本件事故による通院のための交通費として4万4210円を要したことについては当事者間に争いがなく、同金額が本件事故と因果関係のある損害であると認められる。

(3) 休業損害 65万2840円
 原告は、本件事故前、整体業及びアルバイト勤務をしていたことが認められるが、アルバイト勤務先からの収入額及び本件事故によって同勤務先を休業したことを裏付ける証拠は提出されていない。
 整体業については、原告は、本件事故による治療のため業務に支障をきたし、出張施術の中止を余儀なくされたなどの影響があり、本件事故後の売上げも減少していることが認められる。原告は個人事業者であるところ、休業時においても支出せざるを得なかった固定費は、本件事故と因果関係のある損害であるといえることから、本件事故前年である平成23年分の売上げ(収入)から固定費(租税公課、損害保険料、減価償却費、利子割引料、地代家賃)以外の経費を控除した金額である156万7703円を基礎収入とし、症状固定日までの通院日数である152日分の休業損害を認める。
 (計算式)
 156万7703円÷365=4295円
 (円未満切り捨て、以下同じ)
 4295円×152日=65万2840円

(4) 逸失利益 315万9404円
ア 原告の職業は、前記のとおり整体業であり、アルバイトによる収入も得ていたところ、個人事業者の逸失利益における基礎収入は、申告所得によることが相当であるが、原告の職業は、患者数等に影響され、年による変動があって安定しているとはいえないから、本件事故前5年間の年間所得金額(青色申告特別控除額65万円は所得金額として考慮すべきである。)の平均額をもって基礎収入とすることが相当である。
 本件事故前の5年間(平成19年から平成23年まで)の所得平均額は146万8032円である。


(ア) 証拠(略)によれば、本件事故による車両同士の衝撃で原告車が押され、回転して縁石に左タイヤが衝突して停止し、原告は、衝突の衝撃でハンドルを握っていた手首に衝撃を感じたこと、原告は、その後、受診したBクリニックで「頸椎捻挫、外傷性頸部症候群、左手根間靱帯損傷、左手関節TFCC損傷」と診断されていることが認められる。

(イ) 戊田医師作成の後遺障害診断書によれば、原告には頸部痛、左手関節の疼痛及び可動域制限(他動で背屈が健側の3分の2、掌屈が健側の3分の1等)が認められ、同医師は、障害内容の緩解の見通しはほとんどないとの見通しを示している。
 また、Cクリニックにおいては、「左尺側手根骨屈筋腱炎、外傷性左上腕骨外側上顆炎」と診断されているが、同クリニック己川五郎医師の作成した後遺障害診断書によっても、左前腕回外制限があり、左手関節の可動が悪く、痛みもあり、左手関節の機能障害として可動域制限(他動で背屈が健側の8分の7、掌屈が健側の4分の1等)が認められ、ほぼ症状固定されているとされている。

(ウ) 自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)の後遺障害等級認定手続においては、原告の左手関節の疼痛については、他覚的に神経系統の障害が証明されるとは捉えられず、左手関節、左前腕の機能障害についてはその原因となる客観的所見に乏しいとされ、頸部及び左手関節ともに他覚所見のない神経症状としてそれぞれ14級9号に該当するとして併合14級とされており、また、同認定に対する異議申立においても、左手関節部画像上、明らかな左手根問靱帯損傷やTFCC損傷の外傷性所見は認められず、可動域制限の増悪についてもこれを裏付ける医学的所見が認められないとされ、併合14級との認定は相当であると判断されている。

 しかしながら、本件事故直後から原告の診察をしているBクリニックの戊田医師は、原告の左手首の受傷につき、傷病名を左手関節TFCC損傷とし、運動時の疼痛・疼痛出現部位からTFCC損傷によるものが強く疑われるとの診断をしており、画像診断を行ったD病院の放射線科医師も、平成25年5月28日、平成26年7月17日のMRI画像においていずれもT2WI軽度高信号があるとの所見を示し、TFCC損傷疑いとの診断をしている。TFCC損傷は、一般的なレントゲン検査では写りにくく、MRIの診断能が高いとされ、T2強調像、脂肪抑制T1強調像で損傷部や変性部の形態に合わせて本来低信号であるTFCC内の高信号として描出されるところ、かかる症状及びMRI所見から、戊田医師は左手関節TFCC損傷の診断に至っており、原告について左手関節のTFCC(三角線維軟骨複合体)損傷が生じた可能性は否定できない。

(エ) 原告の職業は、整体師であるところ、原告は、本件事故による左手首の後遺障害により、左手首を掌屈すること、下方に力を入れることが困難となり、患者に対する矯正施術に支障を来している。手技によるアジャスト(矯正)の施術ができないため、テープ療法やエアー電気器具など手技以外の方法を用いらざるを得ず、手技による施術を希望する患者にも応えられないこともあり、本件事故後、整体院としての売上げが減少していることが認められる。

(オ) これらを総合し、原告の職種、就労内容、後遺障害の部位、内容、程度等にかんがみると、頸部の神経症状が残存していることに加え、左手関節の疼痛及び可動域制限が整体師である原告の労働能力に対する影響は小さいものであるとはいえず、原告の後遺障害による労働能力喪失率は14%とすることが相当である。


ウ 原告は、症状固定時37歳であり、労働能力喪失期間は67歳までの30年間(ライプニッツ係数15.3724)である。
 (計算式)
 146万8032円×14%×15.3724=315万9404円

(5) 慰謝料
ア 通院慰謝料 123万円
 原告の傷害の部位、程度、治療状況、通院状況(通院期間約9ヶ月、実通院日数152日)を考慮すれば、通院慰謝料としては123万円が相当である。

イ 後遺障害慰謝料 200万円
 前記(4)のとおり原告の職業における後遺障害の影響は小さいものとはいえないことのほか、本件後遺障害の部位、内容、程度等にかんがみると、後遺障害慰謝料としては200万円が相当である。

(6) 小計 794万7819円

(7) 過失相殺
 本件は、一方交差道路に一時停止規制のある交差点において、左折しようとした被告車と優先道路を直進していた原告車との衝突事故であるところ、原告について1割の過失相殺をすることについて当事者間に争いがない。

(8) 損害のてん補 92万2394円
 被告保険会社により治療費及び通院交通費として合計92万2394円が支払われている。

(9) 弁護士費用 62万円
 本件事案の内容、訴訟の経過、訴訟活動、認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用の額としては、62万円が相当である。

(10) 合計 685万0643円

2 被告保険会社に対する直接請求
 被告乙山と被告保険会社との間の自動車総合保険契約の約款において「被告乙山の担する法律上の賠償責任が発生した場合は、損害賠償請求権者たる原告は、被告保険会社が被告乙山に対して支払責任を負う限度において、被告保険会社に対し、被告乙山が原告に対して負担する法律上の損害賠償責任を負う金額を請求することができること(約款①)」「原告が被告乙山に対する損害賠償請求権を行使しないことを被告乙山に書面で承諾した場合は、被告保険会社は前記金額を原告に直接支払うこと(約款②)」が定められていることは当事者間に争いがない。

 自動車対人賠償責任保険は、契約によって定められた事故の発生により被保険者が第三者に対する損害賠償責任を負担したことにより被る損失をてん補する責任保険の一種であり、本件においても、約款①において「原告は、被告保険会社が被告乙山に対して支払責任を負う限度において」被告保険会社に対して損害賠償を請求することができるとされているところ、原告が被保険者である被告乙山に対して乙事件の訴えにより損害賠償請求し、被告乙山がこれを争っていることからすれば、被告乙山が負担する損害賠償の額が確定しないにもかかわらず、原告が被告保険会社に対して直接請求することはできないというべきである。

 したがって、原告の被告保険会社に対する請求は、被告乙山に対する損害賠償額が確定することを前提とすべきであり、本件においては、被告乙山に対する乙事件の判決が確定したときに原告の被告保険会社に対する請求(甲事件)が認められるというべきである。なお、自動車総合保険契約の約款には、被保険者と損害賠償請求権者との間で判決が確定したときは、それを支払条件として被告保険会社に対する直接請求をすることができるとの条項があり(顕著な事実)、通常は、被保険者に対する判決が確定したときには同条項による請求をすればよいのであるから、さらに原告が被告乙山に対する請求権を行使しないことを書面で承諾することを条件とする必要はないとも考えられるが、原告が被告保険会社に対し、約款②により原告が被告乙山に対する損害賠償請求権を行使しないことを被告乙山に書面で承諾することを条件とした請求をし(原告の被告乙山に対する損害賠償請求の請求額が確定した後、原告が被告乙山に対する請求権を行使しないことを書面で承諾したうえ被告保険会社に対する請求権を行使することは妨げられないと考えられる。)、被告保険会社も積極的にこれを争っていない本件においては、被告乙山に対する乙事件の判決確定とともに、さらに「原告が被告乙山に対する損害賠償請求権を行使しないことを被告乙山に書面で承諾すること」を条件とした請求を認めることが相当である。

第四 結論
 以上によれば、原告の請求は、被告らに対し(但し、被告保険会社に対する請求に関しては、原告の被告乙山に対する乙事件の判決が確定し、原告が被告乙山に対する損害賠償請求権を行使しないことを被告乙山に書面で承諾することを条件として)685万0643円及びこれに対する平成24年5月27日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。なお、原告の被告保険会社に対する請求について仮執行宣言を付すのは相当でないからこれを付さないこととする。
(口頭弁論終結日 平成27年9月29日)
  仙台地方裁判所第2民事部 裁判官 高取真理子
以上:4,520文字

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