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自由診療と相当診療報酬額についての平成8年10月23日福岡高裁判決紹介2

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平成28年 9月 6日:初稿
○「自由診療と相当診療報酬額についての平成8年10月23日福岡高裁判決紹介1」の続きです。

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二 争点2について
 証拠(〈書証番号略〉証人村川博昭、被控訴人法定代理人惠三(いずれも原審))によれば、次の事実が認められる。
1 被控訴人の父である惠三は、本件事故発生日である平成3年1月27日夜、妻と共に訴外病院に駆け付け、翌日訴外病院の求めに応じて被保険者証を提示したが、控訴人から、任意保険に入っているから安心して治療してほしいと言われていたので、訴外病院事務員にその旨伝えた。惠三は、同年2月初めに再度訴外病院から被保険者証の提示を求められ、その際そのコピーがとられた。

2 控訴人が加入していた任意保険の保険会社である富士火災海上保険株式会社の従業員村川博昭(以下「村川」という。)は、保険金の支払額を抑えるため、同年2月初め訴外病院において、惠三に対し、被控訴人の訴外病院での治療を社会保険による診療として行うよう依頼していたところ、同月22日現在惠三からの社会保険使用の申出がないとの訴外病院の回答に接し、同年3月4日及び同月15日、惠三に対し、被害者である被控訴人にも過失があると社会保険を使用した方が被害者の負担が少なくなるからとの理由を挙げて、社会保険使用の申出を訴外病院にするよう依頼した。そこで、惠三は、同年4月になってから、訴外病院の事務員に対し、入院日に遡及して社会保険を使用するよう申し出たが、遡及使用はできないと言われた。

3 村川は、同年5月22日、保険審査サービス会社に被控訴人の診療の社会保険への切替えの手続を依頼し、同会社の担当者は、同日被控訴人及び惠三に、本渡社会保険事務所長宛の損害賠償請求権の代位行使に異議がない旨の念書を作成してもらい、翌日控訴人に同所長宛の損害賠償金納付確約書を作成してもらった上で、これを同所長に提出した。

 右事実が認められるところ、被保険者証が保険医に提出されることの意義は、保険者と保険医との間に成立した被保険者のための契約(保険医において被保険者のために療養給付を行い、保険者において保険医に対し右給付に関する費用を支払うことを内容とするもの)に対する被保険者からの受益の意思表示であるから、被保険者が被保険者証を保険医に提出する行為は、通常は右受益の意思表示であると解される。

 しかし、惠三は、本件事故の日の翌日、控訴人から任意保険に入っているので安心して治療してほしいと言われ、訴外病院事務員にその旨伝えたのであるから、惠三が被控訴人入院の翌日及び数日後に被保険者証を訴外病院の求めに応じて提示した行為をもって被控訴人に社会保険による診療を受けさせる意思表示であるとみることはできず、被控訴人入院の翌日、被控訴人の法定代理人である惠三及びその妻と訴外病院との間に自由診療契約が締結されたと認められる(被控訴人は前記のとおり昭和49年2月6日生であり、当時未成年者であった。)。

 なお、前記2の事実によれば、惠三は村川の依頼に応じて平成3年4月初めからは社会保険による診療を受けることを検討していたようにうかがえないではない。そして、惠三は、入院日に遡及しての社会保険の使用を申し出ているが、いったん締結された自由診療契約を患者側の一方的意思表示により診療開始時に遡及して解除した上、社会保険診療受益の意思表示をして、当初に遡って社会保険診療契約に切り替えることはできないと解されるところ、訴外病院の事務員から入院日に遡及しての社会保険使用はできないと言われた惠三が、自由診療契約(準委任契約)解除の意思表示及び将来に向けて社会保険による診療を受ける旨の受益の意思表示を被控訴人のために訴外病院に対してしたことを認めるに足りる証拠はない。惠三が前記3のとおり社会保険使用を前提とする手続に協力していたことも、右判断を左右するものではない。

三 争点3について
1 控訴人が被控訴人に賠償すべき治療費は、本件事故と相当因果関係のある範囲に限られるから、被控訴人と同補助参加人との間の自由診療契約において一点単価が合意されたとしても、相当な範囲を超える部分については、控訴人は賠償義務を負わないものである。ところで、本件においては、右合意の事実を認めるに足りる証拠はなく、交通事故損害賠償の視点から、被控訴人と同補助参加人との間の自由診療契約における相当な診療報酬額が決定されなければならない。

2 健康保険法の診療報酬体系は、一点単価を10円とし、診療報酬点数表の点数にこれを乗じて診療報酬を算定するようになっているところ(同法43条ノ9、平成6年厚生省告示第54号による改正前の昭和33年厚生省告示第177号「健康保険法の規定による療養に要する費用の額の算定方法」)、右体系は、利害関係を有する各界の代表委員と公益を代表する委員によって構成される中央社会保険医療協議会(厚生大臣の諮問機関)の答申に基づくものであり(健康保険法43条ノ14、平成4年法律第七号社会保険医療協議会法による改正前の社会保険審議会及び社会保険医療協議会法13条、15条)、その内容には公正妥当性が認められる。

 さらに、証拠(〈書証番号略〉)によれば、交通事故受傷の治療に社会保険診療を施す公的医療機関が相当数あること、健康保険を適用して治療できない病気はない旨述べる学識者も多いこと等の事実か認められることに照らすと、自由診療契約における相当な診療報酬額は、健康保険法の診療報酬体系を一応の基準とし、これに突発的な傷病に適切に対応しなければならない交通事故の特殊性や患者の症状、治療経過等のほか、労災診療費算定基準では、診療単価は一点12円とされていること(〈書証番号略〉)、自由診療の場合、社会保険診療のような税法上の特別措置の適用が認められていないこと等の諸般の事情を勘案して決定されるべきである。

 本件についてこれを見ると、被控訴人は本件事故により右脛骨腓骨開放骨折の傷害を負い、前記認定のとおり訴外病院の担当医師は炎症に対する措置をとりつつ骨接合手術を行い、被控訴人は3か月余の入院及び退院約1年後の抜釘のための再入院を余儀なくされたものであるから、右の各事情を勘案すると、被控訴人の治療に係る診療報酬額については、健康保険の単価の1.5倍(一点につき15円)をもって本件事故と相当因果関係のある損害と認めることができる。

3 証拠(〈書証番号略〉)によれば、被控訴人の治療に必要であった診療報酬点数の合計は17万6149点であったこと、診断書料等その他の費用の合計額は5万9760円であったことが認められるから、控訴人が賠償義務を負う治療費は、右点数に一点単価15円を乗じた264万2235円に右5万9760円を加算した270万1995円となる。

四 争点4(弁護士費用を除く。)について
1 入院雑費 13万2000円
 被控訴人は、合計110日間の入院中、1日当たり1200円の雑費を要したと推認できるから、入院雑費は右金額となる。

2 付添看護料 3万7500円
 証拠(被控訴人法定代理人惠三(原審)、弁論の全趣旨)によれば、被控訴人の母及び祖母が平成3年2月7日に行われた手術の前後15日間被控訴人に付き添って看護したこと、被控訴人は入院中いわゆる完全看護の下に置かれていたが、被控訴人の年齢及び傷害の部位、程度に照らすと右付添看護はやむをえないものであったことが認められるところ、1日当たりの付添看護料は2500円と認めるのが相当であるから、15日間の合計は右金額となる。

3 交通費 3万9150円(争いがない。)

4 宿泊代 18万円
 証拠(被控訴人法定代理人惠三(原審)、弁論の全趣旨)によれば、被控訴人の母は、被控訴人の肩書地に居住しているところ、前記2の付添看護の期間中ホテルに宿泊し、宿泊代として1日当たり1万2000円合計18万円を要したことが認められる。

5 下肢装具代 6万6378円(争いがない。)

6 文書代 800円(争いがない。)

7 慰謝料 170万円
 前記傷害の程度並びに入院及び通院の期間に照らし、被控訴人に対する慰謝料として、170万円が相当である。
 そこで、三記載の治療費に右1ないし7の金額を合計すると、485万7823円となる。

五 争点5について
 証拠(〈書証番号略〉)によれば、被控訴人は原動機付自転車を運転して時速20ないし30キロメートルで交差点に進入したこと、被控訴人の進行道路の幅は交差道路の幅より明らかに広く、控訴人進行車線には一時停止の標識が設置されていたこと、被控訴人進行車線の反対車線は渋滞していたことが認められるところ、被控訴人には、右交差点を右方から横断進行してくる車両のあることを予見し、右方の安全を十分確認すべきであったのにこれを怠った過失があるというべきであり、1割の過失相殺がされるのが相当である。

 そこで、前記損害の合計額に0.9を乗じると、437万2040円(円未満切り捨て)となる。

六 弁護士費用について
 右認容額、本件訴訟の経緯その他の事情に照らすと、被控訴人が訴訟代理人に支払うべき弁護士費用の内50万円は、本件事故と相当因果関係ある損害として控訴人が負担すべきである。

七 結論
 以上によれば、被控訴人の請求は、不法行為による損害賠償金487万2040円及びこれに対する本件事故の日である平成3年1月27日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は失当であることに帰するところ、結論を一部異にする原判決は失当であるから、原判決中控訴人敗訴部分を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担について民訴法96条、89条、92条、94条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官高升五十雄 裁判官古賀寛 裁判官吉田京子)


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