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県立高校体育祭騎馬戦落馬重大後遺障害損害賠償約2億円認定判例紹介2

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平成27年10月13日(火):初稿
○「県立高校体育祭騎馬戦落馬重大後遺障害損害賠償約2億円認定判例紹介1」の続きで、平成27年3月3日福岡地方裁判所判決(ウエストロー・ジャパン、LLI/DB判例秘書)の裁判所の判断部分を3回に分けて紹介します。

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第3 当裁判所の判断
争点(1)(本件義務違反があったか)について
(1) 認定事実

 前記前提事実に加え,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。(特に年を記載しない場合,それは平成15年のことである。)
ア 本件騎馬戦の実施が決定された経緯(乙14,証人D)
 a高校においては,例年体育祭の競技種目として騎馬戦が採用されていた。
 a高校は,平成14年9月8日に行われた平成14年度の体育祭までは,騎馬戦のルールに大将落としを採用していたが,同日,校長は,平成15年の体育祭で行う騎馬戦においては,一騎打ちのルールを採用するよう指示した。
 a高校の保健体育科教員らは,5月30日,平成15年の体育祭の騎馬戦において一騎打ちのルールを採用することを確認した。
 8月25日,同年の体育祭において騎馬戦を実施することが正式に決定された。

イ 事前の練習等について
(ア) 9月4日午前11時から,a高校多目的ホールに騎馬戦に出場する全選手,審判予定者の教師及び関係教師が集まり,本件騎馬戦に関する講習会(以下,単に「講習会」という。)が行われた。(乙5の1,乙6の2枚目)
 講習会においては,体育科主任で騎馬戦の担当であったE教諭(以下「E教諭」という。)が,本件騎馬戦のルールを説明するとともに,一部の生徒に騎馬を組ませて具体的な事例を示しつつ,騎馬戦の危険性について説明をした。このとき,原告X1は騎馬を組んでいない(原告X1本人)。
 その後,同日の午前11時40分頃から,グラウンドにおいて,騎馬の入退場や整列隊形等の確認,審判の担当騎馬や審判の位置確認等が行われた(乙5の1)。
 その際,生徒達に対戦相手の騎馬と組み合う,実戦形式の練習はさせていない(争いなし)。

(イ) 同月5日,平成15年度体育祭の予行演習が行われた。
 同日午前8時35分から,審判予定教師及び関係教師がグラウンドに集まり,E教諭が,騎馬戦申し合わせ事項(乙7)に基づき,再度騎馬戦のルールや安全の確保につき説明した。
 このとき,本件騎馬戦のルールのうち勝敗の判定基準につき,騎手の頭部がその水準を下回ったら負けとなる高さを,騎手の腰部から,馬(3人で騎馬を組み,騎手を乗せる役割の生徒のことである。以下同様。)の腰部へと引き下げる変更がされた。(乙12の8頁)

 当該変更の結果,本件騎馬戦に関しこの場で申し合わせられたルール及び安全確保の体制は,下記ウのとおりとなった。
 同日午前11時40分から,騎馬戦の全選手,審判予定教師及び関係教師が参加して,移動の仕方,対戦相手の騎馬の確認及び審判位置や判定位置等の確認を行ったが,この際も実戦形式での予行演習は行われていない。(乙5の2,乙6の3枚目)

ウ 本件騎馬戦のルール及び審判員の配置等(乙7,8)
(ア) 競技方法は一騎打ち
(イ) 競技時間は2分間
(ウ) 馬及び騎手に対する殴る蹴る等の暴力行為,騎馬の押し引き及び体当たり以外の攻撃,後ろに下がる逃げ又は横若しくは後ろからの攻撃を行った場合,失格とする。
(エ) 以下のいずれかに該当した場合,その騎馬は負けとなる。(以下「本件敗北条件」ということがある。)
 騎馬が崩れたとき(馬のうち1人でも足の裏以外が地面に着き,又は明らかに正常な騎馬の形をしていないときのことである。)。
 馬の腰部より下に騎手の頭が下がったとき。
(オ) 騎手は,ラグビーのヘッドキャップを着用する。
(カ) 組み合う2騎の騎馬1組ごとに,教員1人を審判員として配置する。対戦は,審判員の側で行う。

エ 本件騎馬戦の開始から本件事故に至る経緯(乙12の11頁,原告X1本人)
 9月7日午後1時40分頃,本件騎馬戦が始まった。原告X1が騎手を務める騎馬と,相手方の騎馬は互いに接近し,騎手同士が組み合った。試合が進むにつれ,原告X1は自分の騎馬が劣勢であると感じ,落ちないように相手の騎手の胴にしがみついて引き分けに持ち込もうとし,双方の騎手の頭部が馬の腰部より高い位置にあり双方の騎馬がともに本件敗北条件を満たしていない状態で膠着状態に陥った。その後,原告X1及び相手の騎手は,審判員が待機していない方向に落下したため,審判員は原告X1を受け止めることができず,原告X1は肩,首及び頭を地面で強打した。

(2) 本件義務の内容及び程度について
ア 騎馬戦一般ないし本件騎馬戦の性質
 そもそも騎馬戦とは,通常3名が手を組んで馬を作り,その上に1名の騎手が乗って1騎の騎馬を構成し,一定の勝敗条件の下で他の騎馬と優劣を競う競技である。勝敗条件としては,騎手が身につけた帽子若しくは鉢巻を取られ又は風船を割られた側を負けとするもののほか,騎手が落馬し又は騎馬が崩れた側を負けとするものが考えられる。

 いずれの型の勝敗条件を採用するにせよ,複数名の人間が組むそれ自体安定した体勢とはいい難い騎馬が,少なくとも2騎,騎手同士互いに手の届く範囲で攻防を繰り広げる以上,馬の接触,騎手の落馬,騎馬の崩壊等の危険が生じうることは容易に想定できる。中でも後者の型は,騎手の落馬又は騎馬の崩落といった事態を生じさせることを競技の目標とするものであるから,このような危険の発生が当然に予定されているものといわざるを得ない。

 ここで,本件敗北条件をみるに,騎馬が崩れたときという条件はもちろんのこと,騎手の頭部が馬の腰部を下回ったときという条件も,それが充足されたときの騎手の体勢は,正常であれば馬が組む手に乗る騎手の脚部が位置する高さであるところの馬の腰部よりも騎手自身の頭部が低くなるというものであって,騎手の落馬に直結する可能性が極めて高いから,本件騎馬戦は,騎馬の崩壊又は騎手の落馬といった事態の発生が当然に予定される後者の型に属するものというべきである。

 加えて,騎馬戦は,例えばサッカー,野球及びバスケットボール等のスポーツと異なり,学校教育における通常の授業の種目として取り入れられることはまずなく,年に一度の運動会や体育祭の本番又はそれに向けた練習で経験するか否かという頻度でしか行われない競技であるから,生徒が騎馬戦に習熟しているといった事態は通常想定し難い。現に,a高校においてこれを上回る頻度で騎馬戦を実施していたといった事実は,何ら主張立証されていない。

 このように,本件騎馬戦は,本件敗北条件のために騎手の落馬や騎馬の崩落といった事態が発生する蓋然性が極めて高度であったにも関わらず,実際に落下する生徒の側において騎馬戦におけるこのような事態に対処する経験をさほど積んでいないという性質の競技であったといえ,かつ,こうした事情は,体育祭における騎馬戦の実施を決定し,また本件敗北条件を含むルールを設定した指導担当教諭らにおいて当然に認識し得たものである。
 したがって,本件騎馬戦の実施に当たっての本件義務の内容及び程度は,このような本件騎馬戦の性質を踏まえて検討するべきものである。

イ 本件騎馬戦の実施に当たっての本件義務の内容及び程度
 上記の本件騎馬戦の性質,とりわけ騎手が落下する高度の蓋然性を有していることを踏まえれば,本件騎馬戦を体育祭で実施するに当たり,騎手の落下に起因して生徒の生命身体の安全が害される事態を防止するために,校長及び指導担当教諭らが果たすべきであった本件義務には,少なくとも以下の内容が含まれる。
(ア) 生徒に対し,騎馬戦の危険性及び安全確保の手段を指導する義務
 騎手が落下する蓋然性が極めて高い競技であることを生徒に周知するとともに,競技中は騎手同士が互いの体に手を掛けて組み合っており,そのままでは手を地面につく等の危険回避行動が取れないことから,落馬時には必ず互いに手を放して,危険回避行動に移るべきことを繰り返し指導する。

(イ) 生徒に十分な事前練習,とりわけ落下時の危険回避行動の練習をさせる義務
 授業等の時間を用いて,騎馬戦に参加する全ての生徒に,事前に十分な練習をさせる。
 特に,騎手が落下した際に危険回避行動を取れるよう,落ち方につき段階を踏んで入念な練習をさせるべきである。
 具体的には,最初は畳やマットの上等転落時の危険が相対的に小さい場所で騎馬を組ませ,1騎の状態で騎手が転落時に取るべき行動を反復練習させる。次に,2騎を組ませた状態から,転落時に騎手が互いに手を放して危険回避行動を取る,その一連の動作を反復練習させる。騎手が危険回避行動に慣れるに従い,場所をグラウンドに移し,あるいは実戦形式を取り入れるなど,実際の体育祭に近い環境で練習させる,といった方法が考えられる。

(ウ) 本件騎馬戦の審判員を務める教員に対し,危険防止措置を取って生徒の負傷を防止できるよう指導,訓練する義務(前記第2の1(3)ア(イ))

(エ) 審判員を危険防止措置が取れるよう配置し,また生徒に受傷の危険が発生した場合には審判員をして危険防止措置を取らせる義務(前記第2の1(3)イ)
 本件敗北条件の下で実施される騎馬戦における騎手が落下する態様としては,騎馬の崩落に伴う下方向への落下と,騎馬の形が維持された状態であっても,騎手が互いに相手の頭部を馬の腰部より下に下げようともみ合う過程でバランスを崩すことによる左右いずれかの方向への落下が想定される。そして,騎手は,足場が不安定な状態で,馬から落ちないよう相手から掛かる力に抵抗して反対の方向に力を入れる上,馬は,騎手の落下を避けかつ騎馬が崩れないように,騎手の動きに合わせるため力ずくで体勢を変化させるから,それらの力の均衡が崩れれば,騎手がもみ合っていた側とは反対の方向に急に落下することも十分に考えられる。
 したがって,審判員が危険防止措置を取ることにより騎手の落下に伴う危険から生徒を守ろうとする場合には,そもそも騎手が落馬するおそれの低い段階で勝敗を決し対戦を止めるか,又はこのように急激な落下方向の変化が生じた場合にも生徒を受け止められるよう,対戦する騎馬1組に対し複数の審判員を配置することが求められていたというべきである。

(3) 校長及び指導担当教諭らが本件義務に違反したこと
ア 前記認定事実のとおり,本件騎馬戦に先立ち,参加する生徒全員に対してa高校が実施した練習又は説明は,9月4日の講習会及び同月5日の予行演習のみであった。講習会においては,E教諭が代表の生徒に騎馬を組ませて騎馬戦のルールや危険性の説明を行ったものの,原告X1を含む大半の生徒は騎馬を組むこともなく,また実戦形式の練習は行われなかった。また,予行演習においても,移動の仕方や審判の配置,判定位置等の確認こそ行われたものの,実戦形式での演習は行われなかった。
 この程度の説明ないし練習の機会では,本件騎馬戦に参加する生徒,とりわけ騎手を務める生徒が,転落の危険を正しく認識し,かつそれに対処する能力を身につけるのに十分でないことは明らかであって,校長及び指導担当教諭らは,生徒に対して安全確保の手段を指導し,かつ生徒に十分な事前練習をさせる義務に違反したものである。

イ また,本件騎馬戦においては組み合う2騎の騎馬に対し1名の割合で審判員が配置されていたが,1名では,騎馬同士がもみ合うなかで騎手の落下する方向が急に変化し,審判員が予測した側とは反対の方向に落下した場合に騎手を受け止めることができないから,危険防止措置を取り得るよう複数の審判員を配置する義務に違反している。


(4) 以上に対し,被告は,高校生である生徒には騎馬戦における騎手転落の危険性の認識及び相当程度の危険回避能力があり,それを前提とすれば本件義務の履行としては被告が実施した練習及び説明で十分であったと主張する。
 しかしながら,高校生が一般に落下の際の頭頸部受傷の危険性及び落下時に手をつく等により危険回避できることを認識しているとしても,騎手は落下する直前まで相手の騎手と組み合っており,しかも自分が先に落下しないよう相手の騎手から最後まで手を離さないでおこうとする傾向の強い騎馬戦の競技中,落下までの僅かな時間で相手から手を放して危険回避行動に移る能力を有しているとまではいえない。
 また,被告は,本件騎馬戦のルールを大将落としから一騎打ちに変更し,殴る蹴る等の暴力行為を禁止し,かつ騎手にはラグビーのヘッドキャップの着用を義務付けることで本件義務を果たしたと主張する。
 しかしながら,当該ルールの変更により,3騎以上の騎馬が入り乱れることにより生じる危険を低下させることができても,2騎の騎馬が互いに相手の騎手の体勢を崩そうと組み合うことにより騎手が落下する危険性は変わらない。また,騎手や馬に暴力行為を禁じても,本件敗北条件の下では,騎手同士が体勢を崩すためにつかみ合う以上,騎手が落下する危険性は何ら減少しない。さらに,ラグビーのヘッドキャップは,その構造上,頭頂部,こめかみ,額及び耳の周辺を保護する機能を有するものではあるが,騎手が頭から落下した場合に頚部に掛かる負荷を著しく減らすものではないから,ヘッドキャップの着用義務付けによって騎手が落下する危険に対処する義務を履行したとは到底評価できない。

(5) 小括
 以上のとおり,本件事故は,校長及び指導担当教諭らにおいて,事前に生徒に騎馬戦の危険性及び転落時に取るべき安全確保の手段を指導し,かつ十分な練習をさせる義務に違反し,更に本件騎馬戦に当たり,騎手が落下する方向が急激に変化したとしても審判員が危険防止措置を取ることができるように,対戦する騎馬1組に対し複数の審判員を配置する義務に違反したことにより発生したというべきである。

2 争点(2)(原告X2及び原告X3との関係で被告が安全配慮義務を負うか)について
 高等学校における教育は保護者がその子に対して受けさせる義務を負う義務教育課程ではない上,一般に高等学校の生徒は意思能力を有するから,本件において,a高校へ在籍することにより被告との間で在学関係という特別な社会的接触関係に入ったのは,原告X1であって,その父母である原告X2又は原告X3ではないというべきである。
 したがって,被告は,原告X2及び原告X3との関係においては原告X1に対する安全配慮義務違反に基づく賠償責任を負わず,国家賠償請求権に基づく責任のみが問題となる。


以上:6,019文字

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