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交通事故と非骨傷性脊髄損傷との因果関係を認めた判例紹介1

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平成27年 5月28日:初稿
○現在、非骨傷性脊髄損傷の診断を受けながら、器質性傷害ではないとの理由で後遺障害等級第14級しか認められない事案について、非骨傷性頚随損傷と事故の因果関係を認めた判例を探しています。非骨傷性頚随損傷とは、頚椎に骨折や脱臼がなく頚椎の配列が正常であるにもかかわらず、頚随のみが障害を受けることで上下肢・体幹の麻痺が生じるものです。

○非骨傷性の意味は「脊柱の構造的安定に破綻をきたすような骨折や脱臼をともなわないもの」と定義されており、X線写真では骨性変化は認められません。MRIやCTで信号変化が認められて非骨傷性と診断されます。交通事故後の非骨傷性頚随損傷は、事故による骨折・脱臼がないため事故との因果関係が不明とされ、器質性傷害と認められず、後遺障害としては14級止まりも多いようです。

○この非骨傷性頚随損傷について自賠責では後遺障害と認定されなかったものを事故との因果関係を認めた平成25年5月30日仙台地裁判決(自保ジャーナル・第1905号)判断理由部分を紹介します。


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第三 当裁判所の判断
 当裁判所は、①原告の頸髄不全損傷は本件事故と相当因果関係を有し、別表第二の第7級第4号に該当する、②右肩腱板断裂及び右肩関節周囲炎は本件事故と相当因果関係を有するものの、後遺障害には該当しない、③原告の既往症・素因により原告の一定の損害額のうち4割を減額するのが相当である、と判断する。その理由は、次のとおりである。
 なお、認定事実は、括弧書きで摘示した証拠及び弁論の全趣旨により認める。
1 頸髄不全損傷について
(1) 裁判所が認定した事実

ア 既往症
(ア) 原告は、以前から腰椎ヘルニアの持病を有し、腰痛、睡眠時の両手の痺れ、右下肢の痺れを覚えていたところ、平成15年8月19日午前7時頃、雨に濡れた勤務先会社のロビーで滑って転倒し、腰部を打った後に頭頂部及び後頭部付近を床にぶつけ(以下「前件転倒事故」という。)、J病院において、頭部外傷及び頸椎捻挫(頸椎症〔頸椎ヘルニア、C5/6〕及び腰椎症〔腰椎ヘルニア〕)の診断を受けた。
 その際、5/6頸椎間で加齢性(変形性)の骨棘が存在し、これによる脊髄圧迫・狭窄が著明であった。原告は、前件転倒事故の後約1ヶ月で職場に復帰した。

(イ) その後、原告は、両上下肢のしびれ、口唇の痺れを訴え、J病院からC病院への転院を希望し、転院先の同病院における診察において、平成16年3月23日、前件転倒事故後に左顎の痺れ、頸椎伸展時の息苦しさ及び上肢の脱力感を新たに覚えるようになった旨を訴え、同病院の己川医師から、原告には元々存在した頸髄症症状が転倒後悪化した可能性があると診断されていた。その後、原告は、C病院において、平成16年10月、主に右半身の運動障害(原告の母親によると生まれつき右半身の動きが悪かったと原告が説明したこと)について、診察を受けた。

 そして、原告は、前件転倒事故による頸椎捻挫の後遺症状について平成16年3月23日に症状固定と診断され、労働者災害補償保険法施行規則第14条別表1の後遺障害等級第14級第9号(「局部に神経症状を残すもの」)に該当するとの認定を受けた。

(ウ) Kクリニックへの通院
 原告は、平成18年10月から平成19年6月まで、Kクリニックにおいて、高脂血症、高血圧症、脂肪肝、心身症、頸肩腕部症候群及びうつ病の傷病名により、通院治療を受けていた。

(エ) Lクリニックへの通院
 また、原告は、平成18年12月から平成19年3月にかけて、Lクリニックにおいても診察を受けていた。

イ 本件事故の状況
 原告は、派遣先のN会社において清掃作業に従事していたが、平成19年6月12日午後0時50分頃、通勤のために自動車を運転中、国道a号の信号機により交通整理の行われている片側3車線(右折レーンを含めると片側4車線)の交差点において、右折待ちをしていた原告車両が右折可の青色矢印信号に従って交差点に進入を開始したところ、黄色信号から赤色信号に変わった後に交差点に時速約60㌔㍍の速度で直進進入してきた対向車である被告車両に左斜め側方から自車前部左角部付近に激しく衝突され、原告車両の前部が大破する事故に遭った。その際、主に左斜め側方からの衝突であってエアバッグが作動しなかったため、原告はシートベルトに胸部を強打し、胸部や両脚部をハンドルやダッシュボードに激しく強打し、頸部挫傷、肺挫傷、胸骨骨折、左肋骨(第9、第10)骨折、両膝挫傷、右下腿打撲等の傷害を負った。

ウ D病院における治療状況(平成19年6月12日から同月26日まで)
 原告は、本件事故後、救急車で運ばれたD病院を受診し、丙川医師に対し、既往症として頸椎症、うつ病及び高脂血症があると告げ、検査診察を受けたところ、胸骨骨折が確認されたものの、その他の骨折についてははっきりしないと診断され、腱反射、病的反射及び筋力については「正常」であって、知覚についても痺れがないと確認され、「頸椎捻挫、肺挫傷、両膝挫傷、胸骨骨折、肋骨骨折の疑い」と診断され、入院することなく帰宅した。

 しかし、帰宅後も原告の痛みは強く、平成19年6月14日の受診時には「胸が息すると苦しい」と強く訴え、同月17日には「昨日から、左側胸痛が増している。」旨を訴え、同月19日の受診時には、「左肋骨周囲にさし込むような痛みがある。食事もとれない。夜も眠れない。」と訴えた。これに対し、丙川医師は、「かなりきている。うつ気味。胸部外傷については精査上、所見なし そのわりに症状つよいようだ。」などとカルテに記載し、本件事故から約2週間後の同月26日になってようやく再度のレントゲン検査の結果、左第9、第10肋骨骨折であると診断した。

 しかし、原告は、D病院における上記の診療に不安を感じ、自ら希望してEクリニックへ転院したが、丙川医師作成の紹介状の「傷病名」欄には「交通外傷(シートベルト損傷、ダッシュボード損傷)、左肋骨骨折」とのみ記載され、自ら診断していた頸椎捻挫の傷病名を記載していなかった。

エ Eクリニックにおける治療状況(平成19年6月28日から同21年6月12日まで)
 原告は、平成19年6月28日、Eクリニックを受診し、問診票の「しびれる」に○を付し、頸部痛、左胸部痛、右下肢痛及び右母趾の痺れを訴え、右母趾の背屈力低下、右下腿から母趾の知覚低下がみられ、肋骨固定術、投薬及びリハビリを受けた。

 そして、原告の握力は、平成19年9月13日時点においては右手が15㌔㌘、左手が17㌔㌘であったが、同年10月2日時点においては右手が13㌔㌘、左手が12㌔㌘と増悪し、平成20年1月12日時点においては右手が8㌔㌘、左手が10㌔㌘に増悪した。

 そして、Eクリニックの平成20年1月12日のカルテには「頻尿、排便我慢できないことも」と記載された。もっとも、平成20年8月31日の終診時には、膀胱直腸障害について「無」と記載されていた。
 そして、Eクリニックの医師は、C病院宛ての平成19年10月22日付け紹介状において、「投薬、リハビリで打撲の痛みは軽快してきていますが、現在、右肩の挙上困難(腱板は精査しておりません)、両手の脱力(ものをポロッと落としてしまう)、右下腿のしびれ、右母趾の背屈力低下が残存しております。MRIでは、L4/5のヘルニアと狭窄、C5/6での脊髄の圧迫がみられます。」と記載した。

オ C病院における治療状況(平成19年10月25日から同年11月7日まで)
 原告は、平成19年10月25日から同年11月7日までC病院において治療を受けたが、紹介によりF病院へ転医した。

カ F病院における治療状況(平成19年11月13日から同21年10月14日まで)
 原告は、F病院において、MRI検査の結果、右肩腱板断裂と診断され、平成20年4月22日に入院し、25日に肩腱修復手術を受け、同年6月13日に退院し(入院日日数53日)、その後のリハビリテーション等を経て、平成21年3月18日にその残存症状が固定した。

 他方、頸椎脊髄の専門医であるF病院脊髄外科部長の丁山医師は、平成21年1月14日、原告について頸椎症性脊髄症ないし変形性頸椎症と診断し、原告の傷病名として「頸部脊髄症(頸髄症)(自賠外)」とカルテに記載した。そして、同医師は、原告に対し、手術の適応があるが、事故後しばらく経ってからの痺れの出現や、平成21年に入ってからの増悪に照らし、本件事故との関連性を証明することが難しい旨を説明し、事故による受傷の治療として手術できるかどうかについては弁護士と相談して判断したい旨を述べていた原告に対し、「一般的に事故後増悪したものは事故のせいとはいえない。自賠か健保かはっきりしないと手術はできない。」旨を説明した上で、原告から同年7月6日手術の予約を受け付けた。しかし、同年6月12日、夫が退職してF病院への通院が難しくなったのでC病院へ転院したいとする原告の希望により、上記手術予定がキャンセルされた。そこで、丁山医師は、同病院外来担当医宛てに上記の経過を記載した同日付け診療情報提供書を作成した。

キ C病院における治療状況(平成21年7月16日から平成21年10月5日まで)
 C病院の戊田医師は、平成21年7月16日、原告を再診し、その訴えによると、現在の頸部重苦感、両手・右下肢の脱力、右第1趾の知覚鈍麻は、交通事故を契機に非骨傷性脊髄損傷を発症したものと考えられる旨の診断をした。

 そして、戊田医師は、平成21年10月5日、原告の頸部重苦感、両手の脱力、右膝脱力、両中指~手掌のしびれ、右第1趾の感覚鈍麻、排尿障害(非骨傷性脊髄損傷)の後遺症状が固定したものと診断した。

(2) 当裁判所の判断
 当裁判所は、本件事故と原告の両手や右足の脱力、手のシビレ、排尿障害の各神経症状との間には相当因果関係があるものと判断する。すなわち、前記認定のとおり本件事故の直後からシビレや脱力がみられ、排尿障害などの神経症状の発現にまで徐々に進行したのであって、たとえ本件事故以前から腰椎ヘルニアの持病を有し、前件転倒事故時の頸椎捻挫により後遺障害等級第14級第9号(「局部に神経症状を残すもの」)に該当する後遺症状を残していたとしても、自然的経過として本件事故に遭わなくとも現在と同様の症状が出現していたであろうとまで認めるに足りる具体的証拠はない。また、前記認定のとおり本件事故時の激しい衝突により原告が肺挫傷、胸骨骨折、肋骨骨折及び右肩腱板断裂等の傷害を負う程の外力を受け、側方からの衝突のためエアバッグが作動しなかったこともあって、頸部にも相当の負担のかかったことが推認される。そうすると、本件事故と原告の両手や右足の脱力、手のシビレ、排尿障害の各神経症状との間には相当因果関係があるものと認めるのが相当である。

 これに対し、被告は、原告の症状が外傷起因性のものであれば、治療を受けることで経時的に改善されるのが一般的病態であるとした上で、原告の症状は経時的に悪化の一途を辿っており、かかる症状の推移は原告の症状が本件事故によるものでないことを強く推認させる旨主張する。

 しかし、治療を受けることにより経時的に改善されるというのが一般的病態であるというのは、裏を返して言うと患者の病態等によっては例外もあり得るということであるし、その症状悪化について素因や心因的要素の寄与がある場合にはそれらによる減額が考慮されることはあっても、本件事故と原告主張の後遺症状との間に相当因果関係がないとまではいえない。よって、被告の上記主張は採用することができない。

(3) 後遺症の障害等級
 原告の頸部重苦感、両手の脱力、右膝脱力、両中指ないし手掌のしびれ、右第1趾の感覚鈍麻、排尿障害の各後遺症状については、平成21年10月5日、その非骨傷性脊髄損傷の症状が固定したものと診断された。
 そうすると、原告の上記後遺症状は、別表第二の第7級第4号の「神経系統の機能に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に該当すると認めるのが相当である。


(中略)


(13) 既往症・素因による減額
 前記認定のとおり、①原告は、平成15年以前から腰椎ヘルニアの持病を有し腰痛、睡眠時の両手の痺れ、右下肢の痺れを覚えていたこと、②平成15年(本件事故の約4年前)の前件転倒事故時の頸椎捻挫によって後遺障害等級第14級第9号(「局部に神経症状を残すもの」)に該当する後遺症状を元々有しており、Kクリニックにおいては頸肩腕部症候群の傷病名についても通院治療を受けていたから、前件転倒事故時の後遺症が残存していたものと認められること、③原告は平成19年の本件事故以前にうつ病及び心身症に罹患し、メンタルクリニックにおいても治療を受けており、増悪化の一途をたどる原告の症状及び治療経過に鑑みても、原告の上記既往症の存在とその経年変化による自然増悪及び心因的要素が相当程度に影響しているものと推認するのが相当であることに照らせば、原告主張の一定の損害額については民法722条の類推適用により4割の減額をするのが相当である。そして、その減額対象とすべき損害額は、3650万1841円(前記3(1)原告負担の治療費8万614円、(7)後遺症逸失利益2124万1481円、(8)入通院慰謝料220万円、(9)後遺症慰謝料1051万円、(11)アの右肩腱板断裂損傷以外の治療費131万3402円、(11)イのタクシー代111万200円及び(11)ウ医療装具代金4万6144円の合計額)とするのが相当である。
 3650万1841円×(1-0.4)=2190万1104円

14) 過失相殺後の総損害額 2805万1001円
 2190万1104円(過失相殺後の前記3(1)、(7)~(9)、(11)アの一部、同イ及びウ)+(2)通院付添費46万2,000円+(3)入院雑費7万9500円+(4)通院交通費2万9202円+(6)休業損害437万2910円+(11)アのうち右肩腱板断裂損傷の治療費合計120万6285円=2805万1001円 

(14) 既払金控除等
ア 治療費等の元金充当 367万6031円
 前記のとおり、被告の任意保険会社から各医療機関に対し支払われた次の合計367万6031円は、本件事案の事実経過に鑑み、それぞれ全額を元金に充当するのが相当である。
 2805万1001円-367万6031円=2437万4970円

イ 障害基礎年金の元金充当 269万1828円
 また、原告は、本件事故後の平成22年9月16日に年額124万7900円の障害基礎年金の支給決定を受け、平成25年3月25日までに総額269万1828円の障害基礎年金を受給したから、これを上記損害金のうち逸失利益の部分に充当するのが相当である。
 2437万4970円-269万1828円=2168万3142円

ウ 被告の任意保険会社から原告に対して損害賠償金2168万3142円の一部として支払われた332万7010円については、原告の主張に従い、先に遅延損害金に充当すると、別紙「裁判所充当計算表(裁判所認定)」記載のとおり、平成21年8月20日時点の残債務額が2077万3590円になる。

(15) 弁護士費用 200万円

(16) 総損害額 2277万3590円
 そうすると、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害金2277万3590円及びこれに対する最後の内金支払日の翌日である平成21年8月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求権を有する。

第四 結論
 以上によれば、原告の被告に対する請求は、上記支払を求める限度で理由があるからその限度で認容することとし、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。なお、仮執行免脱宣言は相当ではない。(口頭弁論終結日 平成25年4月11日)

仙台地方裁判所第1民事部 裁判官 齊木教朗
以上:6,626文字

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