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労災給付金についての控除前相殺説批判反対意見再掲載

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平成27年 1月29日:初稿
○現在、交通事故損害賠償請求事件で訴因減額による減額部分相殺を、労災給付金控除前に行うか、控除後に行うべきかについて争いのある事案を抱えています。私は、「過失相殺と損益相殺等の前後関係-過失相殺対象損害範囲2」記載の通り、過失相殺についても、控除後相殺説が正当と確信しています。まして、訴因減額については、控除後相殺説が当然で、控除前減額説は理論的あり得ないと考えています。しかし、なかなか裁判官に理解して頂けません。

○過失相殺を行う場合の、判例タイムズ解説での控除前相殺説、控除後相殺説等の学説を紹介します。
控除前相殺説
社会保険者が給付した額を限度として国の求償権に優先権を認める考え方であり、損害総額につき過失相殺をしたあとで社会保険の給付(休業給付)額を控除すべきであるとする。
国は、加害者である第三者に対し、その損害賠償責任の範囲内で、給付額を限度として求償権を有することになる(加藤一郎・季労113号14頁、岩出誠・ジュリ881号141頁、安西愈・労働災害の民事責任と損害賠償下194頁、昭和59年2月28日大阪地裁判決判タ525号223頁等)。

控除後相殺説
損害総額から社会保険の給付額を控除した後の損害額につき過失相殺をすべきであるとする説で、加害者である第三者に対する国の求償権は被害者の過失割合に対応した額に限られることになる(西村健一郎・民商93巻臨時増刊号(2)425頁、城口順二・労旬913号45頁、佐々木一彦・ジュリ増刊総合特集交通事故―実態と法理168頁、福永政彦・民事交通事件の処理に関する研究418頁、西島梅治・保険法(第二版)239頁、昭和61年11月26日浦和地裁判決判時1222号101頁、昭和58年12月27日高松高裁判決民集16巻6号1578頁等)。

差額説
損害総額から給付額を差し引いた差額につき被害者に優先権を認める、すなわち、過失相殺の結果得られた損害額から被害者がこの差額を優先的に取得し、その残額につき国が加害者である第三者に対して求償権を有するとする考え方。この説は、労災保険の社会保障的性格に鑑み、被害者の救済を厚く考え、労災保険法の損害填補性のみを重視すると、過失相殺割合が大きいため、損害賠償額が保険給付額を下回る場合には、政府は適正な保険運営のため被害者から不当利得として返還を求めねばならず、これでは労災保険制度の趣旨に反することになるとする(古賀哲夫・法律時報58巻4号141頁)。

○この判例タイムズ学説の説明は、ちと判りづらいので具体的事案で説明したのが、過失相殺と損益相殺等の前後関係-過失相殺対象損害範囲2」です。復習すると
被害者A、加害者Bで、被害者過失割合40%のところ、Aの全損害は2000万円で労災保険適用で500万円の労災給付金がある場合、AがBに請求できる金額は
控除前相殺説では、
全損害2000万円から過失割合40%部分を差し引いた1200万円から労災給付金500万円を差し引き700万円
控除後相殺説では
全損害2000万円から労災給付金500万円を差し引いた1500万円から過失割合40%部分を差し引いた900万円
となり、両説でAの取得額が200万円の差がでます。

○この200万円は、労災給付金500万円の被害者A過失割合40%の部分です。というのは、労災給金500万円を被害者Aに支払った政府は、加害者Bに求償請求できますが、その範囲はあくまでB過失割合60%部分で300万円だけです。Bは、A過失割合40%部分200万円は求償債務がありません。このBの求償債務とならない労災給付金200万円部分が、控除前相殺説では加害者Bの利益(損害賠償債務消滅)となり、控除後相殺説では被害者Aの利益となります。

○Aが労災給付金を取得できるのは労災保険料を支払っていたからです。ですから、この200万円は当然、Aの利益とすべきです。労災給付金が出なければ、加害者Bは全損害2000万円の事故過失割合60%部分の1200万円の支払義務があります。ところが労災給付金500万円が出たばかりに、加害者Bの支払金は被害者Aに対し700万円、労災給付した政府の求償債務として300万円の合計1000万円だけ支払えば良いことになり、200万円を得します。この200万円の労災給付金はAが労災保険料を支払っていたから出るところ、これが加害者Bの利益となります。そんな馬鹿なことはあり得ないと確信しています。

○ところが、平成元年4月11日最高裁判決は、そんな馬鹿なあり得ない結論を出したのです。極めて不当です。正当な結論は、「過失相殺と損益相殺等の前後関係-過失相殺対象損害範囲4」は、このトンデモ最高裁判決での裁判長伊藤正己裁判官の反対意見です。多数決を得られなかったのが極めて残念です。

ごく簡単に言うと、この最高裁判決は、被害者Aが自ら保険料を支払い国から受領した保険金500万円の内Aの過失割合40%部分の200万円について、国ではなく何ら保険料も支払っていない加害者Bが自ら負担する損害賠償債務の内金として支払ったと評価しているのです。こんな馬鹿なことはあり得るでしょうか。とんでもない判決です。

以下、正当な伊藤正己裁判官の反対意見を再掲載します。

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裁判官伊藤正己の反対意見は次のとおりである。
 私は、上告理由第一についての多数意見に同調することができず、原判決は破棄を免れないと考える。その理由は次のとおりである。

 労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害又は死亡に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、併せて業務上の事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかった労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、適正な労働条件の確保等を図り、もって労働者の福祉の増進に寄与することを目的とするものであり(法1条)、労災保険事業に要する費用に充てるための保険料は事業主から徴収されるが(法24条、労働保険の保険料の徴収等に関する法律15条等)、国庫は右費用の一部を補助することができることとされている(法26条)。

 そして、法12条の2の2第1項は、労働者が、故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡又はその直接の原因となった事故を生じさせたときは、保険給付を行わないこととし、同条2項は、労働者が故意の犯罪行為若しくは重大な過失等により、右のような負傷等又は事故を生じさせるなどしたときは、保険給付の全部又は一部を行わないことができるとし、もって、保険給付を制限する場合を限定している。

 すなわち、法においては、使用者の故意・過失の有無にかかわらず、同項の定める事由のない限り、事故が専ら労働者の過失によるときであっても、保険給付が行われることとし、できるだけ労働者の損害を補償しようとしているということができる。

 以上の点に徴すれば、労災保険制度は社会保障的性格をも有しているということができるのである。政府が労災保険給付をした場合に、右保険給付の原因となった事由と同一の事由について、受給権者の第三者に対して取得した損害賠償請求権が右保険給付の価額の限度において国に移転するものとされるのも、同一の事由による損害の二重填補を認めるものではない趣旨を明らかにしたにとどまり、第三者の損害賠償義務と実質的に相互補完の関係に立たない場合についてまで、常に受給権者の有する損害賠償請求権が国に移転するものとした趣旨ではないと解することも十分可能であるから、当然に法12条の4第1項の規定を多数意見のように解さなければならないものではないというべきである。

 もとより、労災保険制度が社会保障的性格を有することなどから、直ちに、事故により被害を受けた労働者に過失がある場合に国が受給権者の第三者に対して有する損害賠償請求権のうちのいかなる部分を取得するかという問題を解決することはできない。

 しかし、労災保険制度が社会保障的性格を有し、できるだけ労働者の損害を補償しようとしていることは、法12条の4第1項の解釈にも反映させてしかるべきである。右の観点からすると、政府が保険給付をした場合においても、第三者に対する損害賠償請求権の額と右保険給付の額とが相まって、右保険給付の原因となった事由と同一の事由による労働者の損害が全部填補される結果にならない限り、受給権者の第三者に対する損害賠償請求権は国に移転しないと解することも考えられないではないが、そこまで徹底することには躊躇を感ずる。

 私は、労働者に過失がある場合には、政府のした保険給付の中には労働者自らの過失によって生じた損害に対する填補部分と、第三者の過失によって生じた損害に対する填補部分とが混在しているものと理解し、第三者の損害賠償義務と実質的に相互補完の関係に立つのは、右のうち第三者の過失によって生じた損害に対する填補部分であり、したがって、国が取得する受給権者の第三者に対する損害賠償請求権も、第三者の過失によって生じた損害に相当する部分であると解するのが相当であると考える。

 このように解すべきものとすれば、法に基づいてされた保険給付の原因となった事由と同一の事由による損害の賠償額を算定するに当たっては、右損害の額から右保険給付の価額を控除し、その残額につき労働者の過失割合による減額をする方法によるべきことになる。法12条の4第1項が事故の発生につき労働者に過失があるため第三者に対する損害賠償請求権が損害額よりも少ない場合をも念頭において規定されたものであるとは思われない。

 以上のような見解に対しては、損害賠償の理論からすれば、たまたま労災保険給付があったからといって賠償の総額が増えるのはおかしいとの批判がある。しかし、労災保険が純然たる責任保険と異なることは前記のとおりであるから、労災保険が給付される場合とこれが給付されない場合とで、受給権者の受領することのできる金額に差が生ずるのは当然のことであり、右の非難は当たらないというべきである。

 以上のとおりであるので、私は、多数意見に同調することができない。本件において、国は、休業給付のうち、上告人の過失によって生じた損害に相当する部分については損害賠償請求権を取得する余地がなく、第三者である被上告人田辺浩之の過失によって生じた損害に相当する部分について損害賠償請求権を取得するにすぎないから、上告人の休業損害の額から減縮すべき額は後者に相当する部分にとどまるというべきである。

 なお、不法行為による被害者に過失がある場合において、被害者の加害者に対する損害賠償額を定めるにつき、被害者の過失を斟酌するか否か、斟酌するとしてもどの損害につきどの程度斟酌するかということは、裁判所が具体的事案において諸般の事情を考慮し公平の観念に基づいて決定すべきものであり、裁判所の裁量に委ねられているというべきであるが(最高裁昭和27年(オ)第722号同30年1月18日第三小法廷判決・裁判集民事17号1頁、同昭和32年(オ)第877号同34年11月26日第一小法廷判決・民集13巻12号1562頁、同昭和39年(オ)第328号同年9月25日第二小法廷判決・民集18巻七号1528頁参照)裁判所が被害者の過失を一定の割合で斟酌すべきであると判断した以上、過失相殺と労災保険給付の価額の控除の順序の誤りは法令の解釈適用の誤りに当たるというべきである。

 したがって、原判決には法令の解釈適用を誤った違法があり、右の違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるので、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れないところ、原審は上告人の未填補損害が皆無であるとして、弁護士費用相当の損害額につき判断しておらず、右の点について更に審理を尽くさせる必要があるので、本件を原審に差し戻すのが相当であると考える。
 (裁判長裁判官伊藤正己 裁判官安岡満彦 裁判官坂上壽夫 裁判官貞家克己) 

 



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