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交通事故・医療過誤競合原因死亡事故損害賠償二重請求返還認容例3

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平成25年 8月27日(火):初稿
○「交通事故・医療過誤競合原因死亡事故損害賠償二重請求返還認容例2」の続きで、今回は裁判所の判断です。

 裁判所は、「被告は,共同不法行為の法律関係を熟知している法律専門家たる弁護士であったのであるから,a医大からの解決金支払の事実を加害者側に説明し,情報を提供すべき信義則上の義務があることを認識し得たはずであり,それにもかかわらず,あえて説明をしないまま和解したものであって,上記のとおり違法に原告の権利を侵害したことにつき過失があったと認められる。」と結論付けています。
 しかし、被告弁護士の行為は「過失」なんてものではなく、いわゆる「つり銭詐欺」にも等しい「故意」の詐欺行為との厳しい評価も可能です。

○但し、字数の関係でここで解説しますが、a医大からの受領金の6600万円の内、①200万円はa医大固有の慰謝料、②100万円は実母の固有の慰謝料、③300万円はa医大との訴訟についての弁護士費用で、この合計600万円は、加害者側に対する請求とは重ならない部分として、被告弁護士に対する請求金6600万円から控除され、6000万円が平成16年12月21日に支払われて、加害者側に対する損害賠償金9000万円から控除されると認定しています。

○この平成16年12月21日6000万円支払を遅延損害金・元本の順に充当し、平成20年1月31日9000万円の支払によって加害者側は約5036万円を過払いしたことになり、これが加害者側の損害になると認定します。

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第3 裁判所の判断
1 認定事実

 証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
 弁護士である被告は,平成16年6月,被害者の相続人らの代理人として,a医大に対し,医療過誤による損害賠償を請求した(丙1)。その際,被告は,被害者が死亡したことにより相続人らに生じた損害として,交通事故による損害(医療関係費,休業損害,入院慰藉料,物的損害等の死亡と因果関係のない損害)は含まないものとして,前記第2の2(3)①の損害内訳のとおりの損害賠償を請求した。

 被告は,平成16年12月10日,被害者の相続人ら3名と相続人でない被害者の実母の代理人として,a医大との間で示談書(丙3)を取り交わし,①a医大が相続人らと実母に対し,被害者がa医大総合医療センターに入院中に死亡したことについて遺憾の意を表し,一切の解決金として6600万円の支払義務があることを認め,平成16年12月15日限り被告の預金口座に振り込んで支払うこと,②a医大と相続人ら及び実母は,示談の存在及び内容を第三者に開示しないこと,などを合意し,平成16年12月21日,a医大から被告の預金口座に6600万円が振り込まれた。解決金の一部は,相続人でない実母も受け取った。

 被告は,平成18年12月4日,相続人らの代理人として加害者に対し,第2の2(4)①のとおり,損害賠償請求訴訟を提起した(甲6)。この訴訟で被告は,a医大からの解決金の支払を損害額から控除せず,別紙損害計算書のとおりの合計1億0133万6688円の損害賠償とこれに対する平成16年1月5日(交通事故の日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

 この訴訟において,原告の顧問弁護士でもあった加害者の訴訟代理人は,当初,弁論準備手続期日において,医療過誤が介在していることを指摘し,a医大に訴訟告知をする予定である旨主張した。しかし,加害者の訴訟代理人が訴訟告知をしないまま訴訟が進み,さいたま地方裁判所第2民事部は,平成19年12月13日,別紙和解案(甲14)のとおり,和解案を提示した。裁判所の和解案では,「損害てん補」の欄に「0」と記載されており,a医大からの解決金の支払を控除していないことが明らかであった。

 第2の2(4)②,③のとおり,被告は,平成19年12月25日,相続人ら3名の訴訟代理人として,加害者の訴訟代理人との間で,加害者が相続人らに損害賠償金として9000万円を支払う旨の訴訟上の和解を成立させ(甲7),平成20年1月31日,加害者が加入していた自動車総合保険の保険者である原告から賠償金9000万円の支払を受けた。被告は,加害者に対する損害賠償請求訴訟を提起し,訴訟上の和解を成立させ,賠償金の支払を受けるまでの間,加害者側の訴訟代理人に対してはもちろん,裁判所に対しても,a医大からの解決金の支払の事実を明らかにしなかった。

2 被告の行為の違法性,権利侵害及び過失について
 上記認定事実によれば,被告は,相続人らと実母の代理人として,a医大との間で,医療過誤について6600万円の解決金の支払を受ける示談を成立させて,被告の預金口座に振り込ませたこと,それにもかかわらずa医大から解決金の支払を受けたことを加害者に明らかにすることなく,加害者の訴訟代理人との間で訴訟上の和解を成立させ,和解で支払うこととされた損害賠償金9000万円を被告の預金口座に振り込ませて原告に支払わせた事実が認められる。

 ところで,民法1条2項は,権利の行使及び義務の履行は,信義に従い誠実に行わなければならない旨を定め,民事訴訟法2条は,当事者は,信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならないと定めている。そして,民法719条1項は,共同不法行為者の責任として,数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負うことを定め,民法442条1項は,連帯債務者の一人が弁済をしたときは,他の連帯債務者の債務も消滅することを前提として,弁済した連帯債務者が,他の連帯債務者に対し負担部分について求償権を有することを定めている。

 そうすると前記争いのない事実(第2の2(1),(2))のとおり交通事故と医療過誤が競合して被害者の死亡の原因となった本件の場合,被害者の死亡による損害については,原則として,民法719条1項の共同不法行為ないしこれに準ずる法律関係として,交通事故の加害者の損害賠償債務と医療過誤による損害賠償債務とが連帯債務となり,交通事故の加害者は,被害者の死亡による損害の賠償が医療過誤に基づきされたときは,その部分について債務を免れることになる。

 そして多数発生している交通事故の事例において,加害者において医療事故の可能性を疑うことがあり得るとしても,現実に医療過誤が認められ医療機関による損害賠償あるいは交通事故の加害者から医療機関への求償請求がされることは,社会的には稀な事例である。交通事故の加害者やその訴訟代理人の立場において,被害者側から何ら説明がないときでも,医療事故による損害賠償がされていることを予測して賠償の有無を積極的に問い合わせたり調査したりすることを期待することは,極めて困難であるといわなければならない。まして,本件の場合には,裁判所も,医療過誤による損害賠償の可能性を全く考慮に入れないまま和解案を提示しているのであり,法律専門家である弁護士の被告は,そのことを和解案の内容から当然に知ることができた。

 このような事実関係及び社会的背景事情からすれば,上記のとおり共同不法行為の連帯債務関係に関する法律を熟知している弁護士である被告としては,訴訟上の和解により和解契約を締結するに際し,民法及び民事訴訟法に定める信義則上の義務として,医療過誤による連帯債務の弁済の事実を知らないことが訴訟経過から明らかな契約の相手方である加害者ないしは裁判所に対し,a医大からの解決金の支払の事実を説明し,その情報を提供すべき義務があるというべきである。したがって,この義務を怠って訴訟上の和解を成立させ,和解に基づく損害賠償金の支払を受けたときは,その行為は不法行為としての違法性を有する。

 この場合,和解をしなければ支払うことがなかったといえる部分,すなわち,和解により支払った損害賠償額のうち,交通事故により加害者が負うことになった本来の損害賠償債務から解決金の支払により消滅した連帯債務の部分を控除した損害賠償債務の残額を超える部分については,加害者に代わって損害賠償をした保険会社である原告の権利を侵害したものとして,その損害を賠償すべき義務がある。

 そして被告は,共同不法行為の法律関係を熟知している法律専門家たる弁護士であったのであるから,a医大からの解決金支払の事実を加害者側に説明し,情報を提供すべき信義則上の義務があることを認識し得たはずであり,それにもかかわらず,あえて説明をしないまま和解したものであって,上記のとおり違法に原告の権利を侵害したことにつき過失があったと認められる。


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