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追突事故での統合失調症発症との因果関係を認めた判例全文紹介4

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平成25年 6月12日(水):初稿
○「追突事故での統合失調症発症との因果関係を認めた判例全文紹介3」の続きです。



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(ク) 逸失利益 579万6,093円(請求4,691万0,383円)
a① 原告の頸部重苦感、両上肢痺れ感については、「局部に神経症状を残すもの」として自賠法施行令別表第二の第14級9号に該当する後遺障害と認められる。
 これに対し、原告は、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として自賠法施行令別表第二の第12級13号に該当すると主張するが、証拠(略)によれば「自覚症状以外、明らかな神経欠落症状(-)」とあること及び同書で「MRIでは第5-6頸椎椎間板ヘルニア像あり」というのも未だ外傷性の異常所見とは認めるに足りないことから、原告の主張は認められない。

② 次に、原告の統合失調症について検討するに、幻覚(幻聴、幻視)、体感幻覚、不安、緊張、攻撃性、被害妄想、不眠、身体症状(頭痛、吐気)、頭痛、不安の症状が昼夜持続し、集中力、作業能力が著しく低下しているため、就労が困難であり、日常生活においても外出が著しく制限され、家庭内でも疲弊した状態であり、今後も症状は持続すると見込まれること及び精神保健及び精神障害者福祉に関する法律45条の保健福祉手帳の障害等級1級(「日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの」)の交付を受けるとともに、国民年金障害基礎年金障害の等級1級10号に該当するとの国民年金裁定通知を受けたことが認められる。

 以上によれば、原告の統合失調症は重度のものと言わざるを得ないが、他方で、ストレスを原因とする非器質性精神障害については、ストレスを取り除き、適切な治療を行うことにより、完治ないし業務に支障の出るような後遺症状の消失を期待できるとの知見があるから、原告においても本件交通事故に関する係争が落着すれば、ストレスから解放されて症状の改善を期待できると考えられる。

 以上の事情を総合考慮すると、原告の統合失調症については、自賠法施行令別表第二の第9級10号「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当程度に制限されるもの」に該当するものと認められる。しかしながら、これを超える等級は認めるに足りない。

③ 上記のとおり、原告の後遺障害等級は、頸部重苦感、両上肢痺れ感については第14級9号に、統合失調症については第9級10号にそれぞれ該当すると認められるところ、本件交通事故による労働能力の喪失としては、重い方の後遺障害の該当する等級である第9級10号により、35%と認めるのが相当である。

 労働能力喪失の期間については、頸部重苦感、両上肢痺れ感の後遺障害の程度及び前記のとおり統合失調症について本件交通事故に関する係争が落着すれば、ストレスから解放されて症状の改善を期待できることを考慮すると、前記(カ)で休業期間の終期とした本件交通事故後3ヶ月経過時点である平成18年5月(原告は35歳)から10年間とするのが相当と認められる。

④ もっとも、本件交通事故の軽微な態様に照らせば、原告の統合失調症の発症には、原告の側に素から備わっていた脆弱性(統合失調症の罹患のしやすさ若しくは発病準備性のこと。)がかなり寄与していると認められ、その寄与割合は60%とするのが相当と認められることから、原告の逸失利益を計算するにあたっては、素因減額として60%を控除するのが相当と認められる。

b 以上により、原告の逸失利益は、平成18年賃金センサス高専・短大卒35~39歳年収額536万1,600円を基礎収入として、10年間のライプニッツ係数7.7217を用いて、次の計算式により、上記認定額が相当と認められる。
 536万1,600円×35%×7.7217×40%=579万6,093円

(ケ) 後遺障害慰謝料 276万円(請求1,100万円)
 上記(ク)で検討した本件交通事故による後遺障害の程度と原告の素因(統合失調症発症に寄与した脆弱性)を考慮すると、上記認定額が相当と認められる。

(コ) 物損 12万7,628円(請求同額)
 証拠(略)により上記認定額が認められる。

(サ) 弁護士費用 120万円(請求600万円)
 (ア)ないし(コ)の認定額の合計(1,227万8,455円)からすると、上記認定額が相当と認められる。

(シ) (ア)ないし(サ)の合計額 1,347万8,455円(請求6,774万9,205円)

(ス) 既払金 184万7,429円(請求同額)
 原告に対しては、
① 平成21年2月13日に原告契約保険会社である訴外E保険会社より人身障害補償保険金として 109万7,429円
② 平成21年4月3日に被告W保険会社より自賠責保険金 75万円
 の合計184万7,429円が支払われた(争いなし)。
 被告Y保険会社は、上記の他にも238万8,687円が原告に支払われていると主張するが、その内訳(被告Y保険会社の第3準備書面の2項)を精査しても、本訴請求において既に除外されている費目に対する支払いであることが窺われ、本訴請求にかかる損害に充当されるべきものとは認めるに足りない。

(セ) (ス)による填補後の損害額(平成21年4月3日経過時点)
 (ス)の各支払いはいずれも上記(シ)の損害合計額に対して事故発生日から年5分の割合で発生する遅延損害金に充当されるところ、
① 本件交通事故日である平成18年2月15日から(ス)の①の109万7,429円の支払日である平成21年2月13日までの日数は2年と321日(閏年にかかるもの)及び44日(通常年にかかるもの)であるから、その間の遅延損害
金は次の計算式により202万0,148円であり、
 (計算式)1,347万8,455円×5%×(2年+321日÷366日+44日÷365日)=202万0,148円

② 平成21年2月14日から(ス)の②の75万円の支払日である平成21年4月3日までの日数は49日であるから、それまでの遅延損害金は次の計算式により9万0,471円であるから、
 (計算式)1,347万8,455円×5%×49日÷365日=9万0,471円
 平成21年4月3日経過時点での損害額は、損害元本1,347万8,455円、遅延損害金残額26万3,190円(=202万0,148円-109万7,429円+9万0,471円-75万円)である。

3 まとめ
(1)被告Y保険会社に対する請求について

 よって、原告の被告Y保険会社に対する請求は、1,374万1,645円(=損害元本+遅延損害金残額)及びうち1,347万8,455円(=損害元本)に対する平成21年4月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(2)被告W保険会社に対する請求について
 前記2(2)(ク)a①及び②のとおり、原告の後遺障害等級は、頸部重苦感、両上肢痺れ感については第14級9号に、統合失調症については第9級10号にそれぞれ該当すると認められるところ、後遺障害自賠責保険金額は重い方の後遺障害の該当する等級である第9級により616万円となり、そこから既払いの75万円を控除した541万円の限度で、原告の被告W保険会社に対する請求は理由がある。

4 よって、主文のとおり判決する。なお、被告Y保険会社の求めた仮執行免脱宣言は相当でないから付さないこととする。
(口頭弁論終結日 平成24年2月1日)

   仙台地方裁判所第3民事部
       裁判官 渡辺 力

以上:3,124文字

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