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H19.2.13福岡高裁脳脊髄液減少症否定判決全文紹介1

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平成21年 3月 5日(木):初稿
○「H19.2.13福岡高裁脳脊髄液減少症否定判決紹介1」に記載したとおり、この高裁判決の判断は,今後、交通事故による頸椎捻挫受傷後の各種症状を原因とする損害賠償請求に当たっては極めて重要な示唆に富んでおり、相当の長文ですが、何回かのコンテンツに分けてその全文を紹介します。

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主文
1 本件控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。
(1) 控訴人らは,被控訴人に対し,各自,430万4974円及び内392万3272円に対する平成15年10月10日から,内38万1702円に対する平成16年9月29日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
2 本件附帯控訴をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じて,これを2分し,その1を被控訴人の,その余を控訴人らの各負担とする。 
 
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 控訴人ら
(1) 原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。
(2) 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
2 被控訴人(附帯控訴)
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 控訴人らは,被控訴人に対し,各自1039万3613円及び内392万3272円に対する平成15年10月10日から,内647万0341円に対する平成16年9月29日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,自動車を運転していた被控訴人が,停止中に後続車から追突されるという交通事故により人身損害を被ったとして,控訴人ら(後続車の運転者及び保有者)に対し,損害賠償金1040万7441円及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。
 原審が,請求の一部(465万4338円)を認容したところ,控訴人らが控訴し,その後,被控訴人も附帯控訴(ただし,上記第1の2(2)のとおり,請求を減縮)した。

1 前提事実
(1) 平成15年2月8日午前0時40分ころ,a県b郡c町d丁目e番地f先の国道10号線上において,被控訴人運転の普通乗用自動車(以下「被控訴人車両」という。)が前方赤色信号に従って停車しているところに,後続車である控訴人g運転の普通乗用自動車(以下「控訴人車両」という。)が追突するという交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(2) 控訴人hは,控訴人車両の保有者である。

(3) 被控訴人は,当初,i病院で,頚椎捻挫等の診断を受けたが,その後,近所のj医院に転院し,さらに,k病院のl医師により,低髄液症候群,外傷性脊椎髄液漏が認められると診断されて,以後その関係の治療を受ける一方,頚椎の専門医であるm医院やカイロプラクティック,鍼灸院等で頚椎捻挫の治療も継続し,また,漢方治療を試みるなどしている。

2 争点及びこれを巡る当事者の主張
(1) 被控訴人が本件事故により受傷したかどうか。特に,被控訴人に外傷性脊椎髄液漏,低髄液症候群の症状があるかどうか,これがあるとして,それは本件事故によるものであるか。

(被控訴人)
ア 被控訴人は,本件事故により,外傷性頚部症候群(頚椎捻挫),外傷性脊椎髄液漏,低髄液症候群の傷害を受けた。
(ア) 被控訴人は,本件事故の翌日から首や背中のこわばりを感じ,翌10日には痛みが激しくなってi病院に,さらに近医のj医院に転院したが良くならず,n医師に「低髄液圧症候群」の可能性を示唆されて,k病院の専門医であるl医師を受診したところ,上記の診断を受けたものである。その後は,その治療に当たってきたが,その間に,その診断を疑問視する医師はいなかった。

なお,外傷性脊椎髄液漏とは,外傷が原因で脊椎レベルから髄液の異常漏出をもたらしている状態をいい,低髄液症候群とは,何らかの原因で脳脊髄液が減少(漏出)し,その絶対量が不足している状態で引き起こされる多彩な症状を呈しているものをいう。そして,後者は,従来「低髄液圧症候群」といわれていたのが,髄液の漏出はあっても髄液圧は正常な例が多いことから,上記のように称されるようになったもので,現在ではさらに「脳脊髄液減少症」と称することが提唱されている。

(イ) 控訴人は,被控訴人には起立性頭痛が見られないとか,髄液圧はほぼ正常であるとか,さらには髄液漏自体の医学的根拠が乏しいとまで主張するが,それらは,今日の医学が認めている低髄液症候群とは異なる過去の理解に立った指摘であって,その病像に対する正確な知識が不足した,いわば控訴人の御用医師の偏頗な見解を根拠とするものであり,不当である。現に症状に苦しんでいる患者がいるのに,自分の限られた医学知識で分からなければ,詐病であるかのようにいうのは許されない。

イ(ア) 被控訴人は,本件事故の際,停車した被控訴人車両の車内でたまたま横を見ていたとき,突然に控訴人車両に追突され,自車が約40センチメートル前に押し出されたもので,相当の衝撃があった。

(イ) 控訴人は,双方の車両に損傷がないとか,軽微であることを指摘するが,控訴人車両のバンパーは弾力性があるウレタンバンパーであるから損傷が少なかったとしても,被控訴人車両が受けた衝撃が少ないことにはならないし,被控訴人車両はリヤバンパーの修理をしている。

 (控訴人ら)
ア 被控訴人が本件事故により受傷したことは否認する。本件事故の態様は,被控訴人車両の約2.4メートル後ろに停車した控訴人車両が,控訴人gの足がブレーキから離れたために前に進み,同控訴人が咄嗟にブレーキをかけたが間に合わず,被控訴人車両に追突したというもので,その衝突時の速度は時速1,2キロメートルであり,控訴人車両は衝突と同時に停止し,両車両はほとんどくっついた状態であったし,車両にほとんど損傷はなかった。したがって,衝突の衝撃はごく軽微であり,被控訴人が受傷するはずはない。

イ(ア) 低髄液圧症候群は,脳脊髄液が漏出して脳脊髄液が減少し,脳が沈下して頭蓋内の痛覚の感受組織が下方に牽引されて生じる頭痛を特徴としており,国際頭痛学会の特発性低髄液圧性頭痛の診断基準も,低髄液圧症候群の最も特徴的な症状を起立性頭痛としている。また,その他の診断基準として,画像所見や髄液圧が一定の数値より低いことなどの他,硬膜外血液パッチ(ブラッドパッチ)後72時間内に頭痛が解消することが挙げられている。

 ところが,被控訴人には,起立性頭痛の症状が見られないし,硬膜外血液パッチの効果もなかったから,被控訴人は,低髄液圧症候群ではないことになり,また,画像所見からも疑問がある。被控訴人の主張は,低髄液圧症候群の定義を理由なく拡大しているだけで,医学的根拠がない(被控訴人の主張の根拠となっている見解の診断基準は曖昧で,他の疾病との区別すらできない。
)。

(イ) 仮に,被控訴人が低髄液圧症候群であったとしても,同症状はくしゃみやいきみなどの原因でも生じるので,本件事故後にその症状が発生した可能性があり,本件事故によるものとはいえない。

ウ 上記のような本件事故の態様からして,被控訴人には外傷性頚部症候群の発生もない。仮に,その発生があるとすれば,被控訴人の場合,バレー・リュー症候群か頚椎神経根症が考えられるが,通常3か月の通院治療で十分である。

(2) 本件事故により生じた被控訴人の損害
ア 被控訴人
 (ア) 治療費 109万5341円
 (イ) 入院雑費 14万4000円
 (ウ) 通院交通費 33万1830円
 (エ) 文書料 2万8400円
 (オ) 休業損害 559万4042円

 被控訴人は,本件事故のころ,母親の看病をしていたものであり,母親を看取った後は当然就職するつもりであったが,本件事故による傷害のため,平成15年4月2日に母親が死亡した後も就職できなかった。平成15年の賃金センサス女子労働者全年齢平均の年額340万0300円を基礎に,平成15年2月9日から平成16年9月15日までの585日間の休業損害は,上記のとおりとなる。
    (カ) 傷害慰謝料 230万円
    (キ) 弁護士費用 90万円
    (ク) 合計 1039万3613円

イ 控訴人ら
 否認する。本件事故により被控訴人が何らかの傷害を負ったとしても,それはごく軽微なものであった筈である。しかるに,被控訴人の症状は,異常に長期化しており,それは心因的要素が影響しているものと思われる。また,仮に髄液漏が生じているとしても,それは被控訴人が通常人に比べて髄液漏れが生じやすい体質であるためであることが考えられる。
 本件事故による被控訴人の損害を算定するに当たっては,以上の事情を考慮して民法722条の類推適用をすべきである。


以上:3,590文字

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