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ツイッターなりすまし者情報開示請求を棄却した地裁判決紹介

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令和 1年11月20日(水):初稿
○原告になりすましてツイッター上にアカウントを開設したことにより、氏名権及び肖像権を侵害されたとする原告が、発信者に対する損害賠償請求権の行使のために、ツイッターの運営会社から開示されたIPアドレスの保有者である被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づき、発信者の氏名又は名称及び住所の開示を求めました。

○この請求について、各送信は、原告の主張する侵害情報である投稿の後にログインがされたものであることが明らかであるから、被告の管理する特定電気通信設備が当該侵害情報の流通に供されたとは認め難く、被告を投稿との関係で「開示関係役務提供者」であると認める余地はないとして原告の請求を棄却した平成29年11月24日東京地裁判決(判時2418号7頁)を紹介します。この判決は控訴審で覆されており別コンテンツで紹介します。

特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律

第1条(趣旨)

 この法律は、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった場合について、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示を請求する権利につき定めるものとする。
第2条(定義)
 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 特定電気通信 不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第一号に規定する電気通信をいう。以下この号において同じ。)の送信(公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信を除く。)をいう。
二 特定電気通信設備 特定電気通信の用に供される電気通信設備(電気通信事業法第2条第二号に規定する電気通信設備をいう。)をいう。
三 特定電気通信役務提供者 特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいう。
四 発信者 特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し、又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力した者をいう。
(中略)
第4条(発信者情報の開示請求等)
 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
2 開示関係役務提供者は、前項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならない。
3 第1項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。
4 開示関係役務提供者は、第1項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該開示関係役務提供者が当該開示の請求に係る侵害情報の発信者である場合は、この限りでない。


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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。

第2 事案の概要
 本件は,氏名不詳者が原告になりすましてツイッター(Twitter。ユーザーが「ツイート」と呼ばれる140字以内の短文を投稿し,他のユーザーがそれを読んだり,返信したりすることができるインターネット上の情報サービス)上にアカウントを開設したことにより,氏名権及び肖像権を侵害されたとする原告が,上記の氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)に対する損害賠償請求権の行使のために,ツイッターの運営会社から開示されたIPアドレスの保有者である被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき,本件発信者の氏名又は名称及び住所の開示を求める事案である。

1 前提事実
(1)原告は,宗教法人であるワールドメイトの代表役員であり,「C」という通称を使用して書籍の出版等の活動を行っている者である(甲2,6,7,10)。

(2)被告は,特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し,その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信事業法所定の電気通信事業者であり,法2条3号所定の特定電気通信役務提供者に当たる(弁論の全趣旨)。

(3)本件投稿者は、ツイッター上に,アカウント名を「C」,ユーザー名を「@○○○○○○○○○」,プロフィールを「Cのプライベートアカウントです。基本知合い以外フォロリク許可しません。その他お仕事のご依頼はDMまで。関係の無い内容は即ブロ。」とするアカウント(以下「本件アカウント」という。)を開設した(甲1)。 

(4)原告は,東京地方裁判所に対し,ツイッターの運営会社であるツイッター,インク.(米国法人。以下「ツイッター社」という。)を相手方として,本件アカウントにログインした際のIPアドレス及びタイムスタンプのうち,平成27年12月1日以降のもので,ツイッター社が保有するもの全てにつき,仮の開示を求める仮処分を申し立て(平成29年(ヨ)第847号),同裁判所は,平成29年4月12日,その旨の仮処分決定を発令した(甲3)。

(5)ツイッター社は,平成29年4月20日,原告に対し,上記仮処分決定に基づき,IPアドレス及びタイムスタンプを開示した(甲4の1,2)。
 開示されたIPアドレスのうち,別紙発信者情報目録中の「別紙IP・タイムスタンプ目録」記載のものは,被告が保有するものであり(甲5の1,2),同記載の各年月日及び時刻(「タイムスタンプ(UTC)」欄に記載された年月日及び時刻が協定世界時であり,「(参考)タイムスタンプ(JST)」欄に記載された年月日及び時刻が日本標準時である。)に,これに対応する同記載の各IPアドレスを割り当てた各送信(以下「本件各送信」という。)は,被告の提供するインターネットサービスによるものであった。

2 争点
(1)被告の保有する情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当し,被告が「開示関係役務提供者」に該当するか。

(原告の主張)
 本件において,ツイッター社から開示されたタイムスタンプは,投稿時のものではなく,本件アカウントでログインした際のものである。すなわち,本件は,いわゆるログイン型投稿に関する発信者情報開示請求である。ログイン型投稿においては,投稿するためにはログインをすることが必要不可欠の前提となる。すなわち,〔1〕設定されたアカウントにログインする(ログイン情報の送信),〔2〕ログインされた状態で投稿する(侵害情報の送信)という2段階の手順が必要となる。

 別紙投稿記事目録記載の投稿(以下「本件投稿」という。)は,甲1における原告肖像部分及びその下のプロフィール部分を指している。これらの部分は,ツイッターにログインすることで編集することができるものであるから,仮に特段の変更をしなくても,ログインするごとに当該内容の投稿を繰り返していたということができる。したがって,本件投稿は,別紙発信者情報目録中の「別紙IP・タイムスタンプ目録」記載の各IPアドレス及びタイムスタンプそれぞれに紐付くものであり,当該IPアドレスに係る情報は,「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当する。

(被告の主張)
 法4条1項所定の「開示関係役務提供者」とは,他人の権利を侵害したとされる情報が流通することとなった特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者であると解されるところ,本件各送信は,原告が主張する権利侵害情報(本件投稿)が投稿された後にログインしたものにすぎず,当該侵害情報そのものの送信ではないことから,本件において,被告は,「開示関係役務提供者」には当たらない。

(2)権利侵害の明白性が認められるか。
(原告の主張)
ア 氏名権侵害
 原告は,本件アカウントの開設や使用について,何ら関与していない。すなわち,本件アカウントは,いわゆる「なりすまし」によるものである。したがって,本件アカウントは,原告を表すものと一般に認識されている「C」を冒用するものであり,原告の氏名権が侵害されている。そして,冒用である以上,原告がこれを許諾しているということはあり得ず,違法性阻却事由が存在しないことは明らかである。

イ 肖像権侵害
 本件アカウントにおいては,原告の肖像が原告の許可なく使用されている。肖像権は,撮影に関する諾否の自由,掲載に関する諾否の自由などを含む人格権であると解されているところ,本件アカウントは,いわゆる「なりすまし」によるものであり,このようなものに原告がその肖像を用いることを黙示的にも許諾しているということはあり得ない。したがって,原告の肖像権が侵害されている。そして,肖像の利用を正当化するべき事情は何ら存在していないのであるから,違法性阻却事由も存在しない。

(被告の主張)
ア 氏名権に関する権利侵害の明白性は認められないこと
 通称を使用する権利について,氏名権と等しくその権利が保護されるものではなく,通称の使用が人格権の一内容を構成するとはいえない。よって,本件投稿において,原告の許可なく通称が使用されていたとしても,これをもって,原告の人格権が明らかに侵害されたものとはいえない。

イ 肖像権に関する権利侵害の明白性は認められないこと
 通称と共に公開する画像が真実原告の容姿を写したものであるかは明確でない。また,上記画像について原告が広く通称と共にプロフィール写真として公開している場合には,これを用いる行為がプライバシー権の一部としての意義を有する肖像権を侵害するものといえるか疑義があり,これを被侵害権利とする権利侵害の明白性が認められるということは困難である。

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告の保有する情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当し,被告が「開示関係役務提供者」に該当するか)について

(1)法は,4条1項において,特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は,侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであり,かつ,当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるときに限り,当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(開示関係役務提供者)に対し,当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報の開示を請求することができる旨を規定する一方で,同条2項において,開示関係役務提供者がそのような請求を受けた場合には,原則として発信者の意見を聴かなければならない旨を,同条4項本文において,開示関係役務提供者が上記開示請求に応じないことによりその開示請求をした者に生じた損害については,故意または重過失がある場合でなければ賠償の責任を負わない旨をそれぞれ規定している。

 以上のような法の定めの趣旨とするところは,発信者情報が,発信者のプライバシー,表現の自由,通信の秘密に関わる情報であり,正当な理由がない限り第三者に開示されるべきものではなく,また,これが一旦開示されると開示前の状態への回復は不可能となることから,発信者情報の開示請求につき厳格な要件を定めた上で,開示請求を受けた開示関係役務提供者に対し,上記のような発信者の利益の保護のために,発信者からの意見聴取を義務付け,開示関係役務提供者において,発信者の意見も踏まえてその利益が不当に侵害されることがないように十分に意を用い,当該開示請求が同条1項各号の要件を満たすか否かを判断させることとし,さらに,開示関係役務提供者が慎重な判断をした結果開示請求に応じなかったため当該開示請求者に損害が生じた場合に,不法行為の一般原則に従って開示関係役務提供者に損害賠償責任を負わせるのは適切ではないと考えられることから,その場合の損害賠償責任を制限したものと解される(最高裁平成22年4月13日第三小法廷判決・民集64巻3号758頁参照)。

 そして,このような法の定めの趣旨に鑑みると,法4条1項所定の発信者情報開示請求の要件は厳格に解すべきであり,「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」(開示関係役務提供者)に当たるというためには,当該特定電気通信役務提供者が用いる特定電気通信設備が当該侵害情報の流通に供されたことが必要であるというべきである。

(2)これを本件についてみると,本件各送信は,原告の主張する侵害情報である本件投稿の後にログインがされたものであることが明らかであるから,被告の管理する特定電気通信設備が当該侵害情報の流通に供されたとはおよそ認め難く,被告を本件投稿との関係で「開示関係役務提供者」であると認める余地はないといわざるを得ない。

 この点につき,原告は,本件投稿は,ツイッターにログインすることで編集することができるものであるから,仮に特段の変更をしなくても,ログインするごとに当該内容の投稿を繰り返していたということができる旨主張する。しかしながら,本件において,原告の主張する侵害情報は,飽くまで本件投稿であって,本件投稿の後にツイッターにログインがされたとしても,ログインをする都度,当該内容の投稿が繰り返されていたとみることには論理の飛躍があり,原告の主張は失当といわざるを得ない。
 したがって,被告について,本件投稿に係る情報の流通に供された特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(開示関係役務提供者)ということはできない。

第4 結論
 以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第23部 裁判官 鎌野真敬

発信者情報目録
 別紙IP・タイムスタンプ目録記載のIPアドレスを,同目録記載のタイムスタンプころに使用した者に関する情報であって,次に掲げるもの
1 氏名または名称
2 住所
(別紙)IP・タイムスタンプ目録
以上:6,300文字

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