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マンション管理組合は共用部分占有者ではないとした高裁判決紹介

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平成31年 1月 4日(金):初稿
○区分所有建物の管理組合は,区分所有建物の共用部分について,民法717条の占有者に当たらず、管理組合がその責任と負担において共用部分の管理を行う旨の区分所有建物の管理組合規約は,管理組合の目的・権能を定めたものであって,区分所有者の管理組合に対する共用部分の修繕請求権を定めたものではないとした平成29年3月15日東京高裁判決(判タ1453号115頁、判時2384号3頁)一部を紹介します。

○事案概要は、管理組合が区分所有者に対し、未納管理費・電気料水道料金合計約1671万円と内金約1502万円に対する損害金の支払を求めたところ、区分所有者は、管理組合は、区分所有建物共用部分について,民法717条占有者工作物責任及び債務不履行責任としての損害賠償責任を負い、区分所有者の管理組合に対する損害賠償請求権と未納管理費等債務を相殺するとの抗弁を出して、一審平成28年1月19日前橋地裁高崎支部判決は、区分所有者の主張を認めて管理組合の請求を全て棄却していたものです。

○平成29年3月15日東京高裁判決は、上記の通り管理組合の請求を全て認め、区分所有者の上告受理申立も最高裁の不受理決定により確定しています。本判決ではマンション共用部分占有者は管理組合ではなく区分所有者全員であるとしていますので、民法717条占有者責任は区分所有者全員になりますが、本件事案では、水漏れ事故の原因がハッキリしていないようです。

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主   文
1 原判決を取り消す。
2 第1審被告は,第1審原告に対し,427万4426円及びこれに対する平成22年9月23日から支払済みまで年14%の割合による金員を支払え。
3 第1審被告は,第1審原告に対し,661万3376円及びうち別紙1「請求額」欄記載の金員に対する同「遅延損害金起算日」欄記載の日から各支払済みまで年14%の割合による金員を支払え。
4 第1審被告は,第1審原告に対し,195万3018円及びこれに対する平成22年9月23日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
5 第1審被告は,第1審原告に対し,217万9853円及びうち別紙2「請求額」欄記載の金員に対する同「遅延損害金起算日」欄記載の日から各支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
6 第1審被告は,第1審原告に対し,168万9967円を支払え。
7 訴訟費用は,第1,2審を通じ,第1審被告の負担とする。
8 この判決の第2項から第6項までは,仮に執行することができる。 

事   実
第1 控訴の趣旨

 控訴人は,主文第1項から第6項までと同旨の判決を求めた。

第2 事案の概要
1 本件は,第1審原告肩書地に所在する区分所有建物(建物の名称は「Xビル」。以下「本件建物」という。)についての建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)3条の団体(管理組合)である第1審原告が,本件建物6階の601号室(6階の大部分を占める。以下「被告専有部分」という。)の区分所有権を有する第1審被告に対して,次の請求をする事案である。
(1)第1審原告の規約(以下「本件規約」という。)26条の未払管理費等(平成19年3月分から平成22年8月分まで)427万4426円及び平成22年9月23日(支払期日後の日)以降の約定(本件規約61条2項)の年14%の割合による遅延損害金(主文第2項)
(2)本件規約26条の未払管理費等(平成22年9月分から平成27年12月分まで)及び支払期日の翌日以降の約定の年14%の割合による遅延損害金(主文第3項)
(3)不当利得返還請求権(第1審被告が使用した平成19年3月分から平成22年8月分までの電気料金及び水道料金の第1審原告による立替払を原因とするもの)により195万3018円及び平成22年9月23日(受益日の後の日)以降の民法704条所定の年5%の割合による利息(主文第4項)
(4)不当利得返還請求権(第1審被告が使用した平成22年9月分から平成27年2月分までの電気料金及び水道料金の第1審原告による立替払を原因とするもの)及び受益日の翌日以降の民法704条所定の年5%の割合による利息(主文第5項)
(5)本件規約61条2項の違約金(未納の場合の違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用)168万9967円(主文第6項)

2 本件の主要な争点は,第1審被告主張の相殺関係(被告専有部分の水漏れ被害の発生につき,管理組合である第1審原告が区分所有者である第1審被告に対して,
①民法717条1項前段所定の占有者としての工作物責任,又は
②本件規約22条違反の債務不履行責任
を負うことを前提とするもの)である。

3 第1審判決は,管理組合である第1審原告は,区分所有者である第1審被告に対して,民法717条1項前段所定の占有者としての工作物責任又は債務不履行責任(債務不履行責任を負う具体的根拠の説示はない。)を負うとして,第1審被告の相殺の抗弁には理由があると判断し,第1審原告の請求を全部棄却した。第1審原告が,第1審判決を全部不服として控訴したのが本件である。
 なお,第1審原告は,当審において,請求金額を拡張した。

第3 第1審原告の主張

         (中略)


2 抗弁
(1)相殺

 別紙4の1記載のとおり,本件建物において水漏れ事故が発生し,被告専有部分に水濡れの被害が生じたところ,これらの水漏れ事故は,本件建物の共用部分の瑕疵によるものである。
 本件規約22条1項は「敷地及び共用部分等の管理については,管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする」と規定する。上記の「管理」は占有を含むから,第1審原告は,民法717条1項の占有者に該当し,第1審被告に対し同項に基づく別紙4の1記載の損害賠償責任を負う。

 また,第1審原告は,本件規約22条1項により,漏水の原因となる共用部分を修繕し,区分所有者に漏水被害が生じないよう修繕等を行う義務を負うが,これを怠ったことにより水漏れ事故が生じた。よって,第1審被告に対し,債務不履行に基づく別紙4の1記載の損害賠償責任を負う。
 第1審被告は,上記損害賠償請求権を自働債権として,本訴請求債権と対当額において相殺する。なお,相殺の順序は,「本件水漏れ1,同2・4,同3・5,同6の順に,受働債権額に満つるまで」とする。

(2)相殺契約
 第1審原告は,第1審被告に対し,平成18年8月24日,本件水漏れ1による第1審被告の損害について,賠償責任を認めたが,賠償の資金がないとのことであったため,第1審原告と第1審被告は,第1審原告の損害賠償債務と第1審被告の管理費等の支払債務を相殺することを合意した。
 その後,第1審原告と第1審被告は,本件水漏れ2による損害については平成18年10月5日に,本件水漏れ3による損害については同年9月26日に,本件水漏れ4による損害については平成19年9月16日頃に,本件水漏れ5による損害については平成20年9月1日に,それぞれ本件水漏れ1と同様に管理費等と相殺することを合意した。 

理   由
第1 当裁判所は,第1審原告の請求は,全部理由があるものと判断する。その理由は,次のとおりである。

第2 請求原因(事実欄第3の1)について
1 請求原因(1)の事実は,当事者間に争いがない。
2 請求原因(2)(管理費等)のアからウまでの事実は,当事者間に争いがない。
3 請求原因(3)(不当利得金)について
(1)同アについて,第1審被告は,平成22年4月,5月と2か月連続で水道料金が発生することはないとして,同年5月分の水道料金に係る不当利得の発生を争う。
 しかしながら,証拠(甲36,40)及び弁論の全趣旨によれば,第1審原告は,2か月に1回被告専有部分に係る水道料金を立替払し,第1審被告に対し立替金の支払を求めていたところ,平成22年4月までは,支払を求める水道料金を前々月及び前月分(同年4月請求分でいえば,同年2月及び3月分)としていたのを,同年5月からは,前月及び当月分(同年5月請求分でいえば,同年4月及び5月分)に改めたことが認められる。そうすると,この点に関する第1審原告の主張は正当であり,第1審被告の主張は理由がない。

2)同アのその余の事実及び同イの事実は,当事者間に争いがない。以上によれば,請求原因(3)は,全部理由がある。

4 請求原因(4)(違約金)のア及びイの事実は,当事者間に争いがない。

第3 抗弁について
1 抗弁(事実欄第4の2(1)・相殺)について

(1)工作物責任に基づく損害賠償請求権を自働債権とする相殺について
 第1審被告は,本件水漏れ1から6までがいずれも本件建物の共用部分の瑕疵によるものであるところ,第1審原告は,本件規約22条1項(敷地及び共用部分等の管理については,管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする)により共用部分の管理を行うものとされており,その「管理」は占有を含むから,第1審原告は本件建物の共用部分について民法717条1項の占有者に該当し,第1審被告に対し同項に基づく損害賠償責任を負う旨を主張する。

 そこで検討するに,第1審原告が本件建物の共用部分を占有していることを認めるに足りる証拠はない。本件建物の共用部分の占有者は,管理組合たる第1審原告ではなく,本件建物の区分所有者の全員である。第1審原告は,区分所有法3条の団体(管理組合)であり,本件建物の共用部分を管理しているが,管理責任があるところに占有があるとはいえないのであり,管理組合が共用部分の占有者(民法717条1項の第一次的責任主体)であるとみるには無理がある。したがって,第1審原告が民法717条1項の占有者であることを前提とする第1審被告の工作物責任の主張は,理由がないことに帰する。

(2)債務不履行に基づく損害賠償請求権を自働債権とする相殺について
 第1審被告は,第1審原告が,本件規約22条1項の規定(敷地及び共用部分等の管理については,管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする)に基づき,区分所有者との関係で,漏水の原因となっている共用部分を修繕し,区分所有者に漏水被害が生じないよう修繕等を行う義務を負っているにもかかわらず,これを怠ったことにより本件水漏れ1から6までが生じたとして,第1審被告に対し債務不履行に基づく損害賠償責任を負う旨を主張する。

 そこで検討するに,本件規約(甲1)によれば,本件規約22条1項の規定は,区分所有法3条の団体(管理組合)たる第1審原告の目的・権能を定めた規定であって,第1審原告(管理組合)と本件建物の個々の区分所有者との間の権利義務関係を定めた規定ではないと認められる。したがって,本件規約22条1項の規定が第1審原告(管理組合)と第1審被告(区分所有者)との間の権利義務関係を定めた規定であることを前提とする第1審被告の債務不履行の主張は,理由がないことに帰する。

 区分所有法3条の団体(管理組合)は,区分所有者が共同して建物等の管理を行うための団体であって,区分所有者が拠出した管理費等を原資とする予算の範囲内で,区分所有者の多数の意思に従い,補修工事等を実施することを,その目的の一つとする。しかしながら,区分所有法3条の団体(管理組合)は,建物を建築した建築業者でもなければ,建物の修繕工事を行った修繕業者でもないのであって,建物の建築工事又は補修工事の瑕疵について,これらの建築業者や修繕業者と同様の責任を,個々の区分所有者に対して負うべき立場にはない。

 同様に,区分所有法3条の団体(管理組合)は,建物が瑕疵のない状態にあることを保証すべき責任を,個々の区分所有者に対して負うべき立場にはない。第1審被告の主張する債務不履行責任は,第1審被告(区分所有者)が,区分所有法3条の団体(管理組合)たる第1審原告に対して,建物が瑕疵のない状態にあることの保証責任を負うと主張するに等しいものであって,これを肯定するには無理がある。


(3)事案にかんがみ,若干の補足説明をする。
 区分所有法3条の団体(管理組合)は,区分所有者相互の意見交換を経てその多数の意思に従い,建物の補修工事等を行うものである。区分所有法3条の団体(管理組合)は,その目的の範囲外である営利事業や収益事業を実施することはできないから,その財源は区分所有者が拠出した管理費等に頼らざるを得ないのが通常である。第1審原告がそうであるように,多くの管理組合は,恒常的な支出(管理費用)に充てるべき管理費と,十数年に一度行う大規模修繕に充てるべき修繕積立金を区分所有者から徴収している。管理組合が行うべき様々な管理行為(将来行うべき大規模修繕・トピック的に生じる小規模修繕・定期的に行うべき点検清掃等)を見越して,率直な意見交換を経て,多数の意思に従い管理費及び修繕積立金の額や長期・短期の修繕計画等を定めていくのが,理想的な運営の姿である。

 他方で,管理費の滞納者が出ることは,前記運営の基盤を危うくするものである。したがって,共用部分の瑕疵による被害を受けた区分所有者が,管理組合の行う管理行為が不満であるからといって,管理費の納付を怠ることは,財源不足による共用部分の管理の劣化を招き,区分所有法や本件規約による建物の共同管理を妨げる行為となるのであって,他の区分所有者や管理組合との関係において信義則に違反する行為となる。

 証拠によりうかがわれる本件水漏れに関する個別的事情をみても,第1審原告(管理組合)が第1審被告(区分所有者)に対して債務不履行責任を負うべき特別の事情は見当たらない。

 本件水漏れ1から3まで及び本件水漏れ6については,これらに先立ち同じ箇所から水漏れが生じていたことの主張立証はなく,第1審原告の管理の手落ちを認める余地はない。本件水漏れ4の発生箇所は,これに先立つ本件水漏れ2と同一であるが,第1審原告は,本件水漏れ2の発生原因とみられる7階通路の防水工事を実施したもので(争いがない。),第1審原告の管理の手落ちはないとみられる。平成20年8月頃発生した本件水漏れ5の発生箇所は,これに先立つ本件水漏れ3と同一であるが,当時の第1審原告は,本件建物の3階から5階までの区分所有者であるホテル事業者の経営不振による管理費等の滞納に加えて,第1審被告も管理費等の滞納を行ったため,本件水漏れ3に対応する管理行為を行うための十分な財政的余裕がなかったことが認められる(甲16,証人W1,証人W2)。

 以上によれば,管理費等を滞納する第1審被告(区分所有者)に対する第1審原告(管理組合)の管理の手落ちを認めるべき特別の事情は,ないものというほかはない。


(4)以上によれば,相殺の主張は理由がない。

2 抗弁(事実欄第4の2(2)・相殺契約)について
 第1審被告は,本件水漏れ1から5までについて,第1審原告が第1審被告に対する損害賠償責任を認めて,第1審被告との間で損害賠償債務と管理費等支払債務を相殺する旨の合意(相殺契約)をしたと主張し,第1審被告代表者がこれに沿う内容の供述をする。しかしながら,当該供述を裏付ける証拠はなく,かえって,証拠(甲37,38)によれば,第1審被告代表者が管理費と修繕費が差し引きにならないことを認識していたことが窺われる。以上によれば,相殺契約の主張は理由がない。

第4 結論
 以上によれば,第1審原告の請求原因は全部理由があり,第1審被告の抗弁は全部理由がないから,第1審原告の請求は全部認容すべきであり,これと異なる原判決は取り消すべきである。よって,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 野山宏 布施雄士 大塚博喜) 

 
以上:6,481文字

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