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観光用庭園内通路上での転倒事故と土地工作物管理瑕疵判断判例紹介

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平成30年10月 7日(日):初稿
○商業施設内通路の工事中養生部分の僅かの勾配がある箇所で躓いて転倒したと主張し工作物の設置保存瑕疵を理由に損害賠償請求をされている事件を取扱い、参考判例を集めています。「側溝蓋段差つまずき転倒負傷事故と道路管理瑕疵判断裁判例紹介」から「スーパー水濡れ床滑り転倒事故と土地工作物管理瑕疵判断判例紹介」まで5件の判例を紹介していました。

○元々の自然の地形を利用した観光用庭園内の通路について,通路の形状等の事実に照らして,これが民法717条1項の「土地の工作物」に当たるとしながら、観光用庭園内の通路における来園者の転倒事故につき,各種の事実を認定した上で,同通路の設置又は保存に瑕疵があるとは認められないとした平成29年10月6日東京地裁判決(判タ1451号200頁)一部を紹介します。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求の趣旨

 被告は,原告に対し,360万1708円及びうち300万1708円に対する平成26年4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告がその所有する土地において経営する観光用庭園内の通路で転倒し,傷害を負ったという事故について,〔1〕同通路には設置又は保存の瑕疵があると主張して,民法717条に基づき,又は〔2〕被告には同庭園の観光客らの安全を確保する義務があるにもかかわらずこれを怠ったという不法行為が存すると主張して,民法709条に基づき,360万1708円の損害賠償及びこのうち弁護士費用を除く300万1708円に対する上記事故の日である平成26年4月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(工作物該当性)について

 証拠(甲9,乙8の1,3,乙9,証人P3)及び弁論の全趣旨によれば,東口から原谷苑内に入ってしばらく通路を進行したところに小さな広場(以下「本件広場」という。)が存在するところ,東口から本件広場前までの通路(このうち東口側14.5メートルが本件通路である。)は,アスファルト等による舗装こそされていないものの,東口付近において退苑口に接続するように南側が拡幅されているほかは2メートル強の一定の幅員を保ちながら,ほぼまっすぐの形状をした土道であって,その上には砕石が撒かれるなどしており,また,東口から本件広場に至るまでの間には通路を横断するように3か所の排水溝が設置され,さらに,入退苑口付近には北側の入苑口から接続する部分と南側の退苑口へ接続する部分を仕切るように木柵が設置されており,この状況を被告において維持管理していることが認められ,これらの事実に照らせば,本件通路を含む上記の東口から本件広場までの通路は,自然そのままの状態にあるものではなく,本件土地に人工的な作為をもって現在の形状にされた上,人の手によって維持管理されているものであって,民法717条にいう「土地の工作物」に当たるというのが相当である。

2 争点(2)(設置又は管理の瑕疵)について
(1)民法717条にいう「土地の工作物の設置又は保存の瑕疵」とは,当該土地の工作物の設置又は保存について,工作物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい,このような瑕疵があったとみられるかどうかは,当該工作物の構造,用法,場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的,個別に判断するべきものである(国家賠償法2条1項についての最高裁判所昭和42年(オ)第921号同45年8月20日第一小法廷判決・民集24巻9号1268頁,最高裁判所昭和53年(オ)第76号同年7月4日第三小法廷判決・民集32巻5号809頁)。
 以上を前提に,本件通路につき設置又は保存の瑕疵が存するかについて検討する。

(2)認定事実
 前記前提事実,末尾に掲記した証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 本件土地は,元々自然に存する小高い山のような地形になっており,本件土地内に存する原谷苑も起伏に富んだものとなっている。原谷苑には昭和30年代から被告の祖父ないし父が桜の樹や紅葉樹等を植え始め,これを被告が引き継いで現在に至っている。[乙12]

イ 原谷苑では,毎年いわゆる観桜シーズンに一般公開して来苑者から入苑料を収受しており,本件事故のあった平成26年は,3月30日から4月26日までの間に少なくとも3万4352人(うち中学生以下291人)が来苑し,4200万円超の入苑料を収受しており,少なくとも平成18年以降は毎年同程度ないしそれ以上の来苑者数がある。[乙11の1ないし11]

ウ 原谷苑の一般公開の開苑時間は,午前9時から午後5時までであった。[甲3]

エ 原谷苑には東西に入退苑口が1か所ずつ存在するが,多くの来苑者が東口から入苑し,苑内を周遊して,東口から退苑する状況であった。[甲4,証人P3]

オ 本件通路を含む東口から本件広場前までの距離は39.78メートル,水平距離は39.24メートル,高低差は6.47メートルで,本件広場前から東口へ向かって下り坂となっている。[甲9,乙8の2]

カ 本件通路の平均縦断勾配は16.4パーセントであり,このうちX地点付近である通路中央部で東口より距離12メートルから12.5メートルの間の縦断勾配は17.6パーセントであり,他方,Y地点付近である通路の中央から1メートル南側で東口より距離4.5メートルから5メートルの間の縦断勾配は21.7パーセント,5メートルから5.5メートルの間の縦断勾配は10.7パーセントである。[乙9]

キ 本件通路はアスファルト等による舗装がされていない土道であり,本件事故の発生した平成26年4月当時は,その上に砕石が撒かれている状態であった。[甲9,証人P3]

(3)上記認定事実に照らせば,原谷苑は,自然の地形を利用したものであり,そのことは一般の来苑者においても一見して明らかであるから,その苑内の通路については,市街地における道路や都市公園における通路と同様に考えることは相当ではないものの,いわゆる登山道のように当該通路を通行する者が相応の装備と技術等を有していることが期待されるものとは異なり,軽装備の不特定多数の者が通行することを前提にその通常有すべき安全性を検討するのが相当である。

 そして,原谷苑は,自然の地形等の中で被告の祖父や父が植樹した桜等を観賞することがその醍醐味ともいえる施設であるから,むやみにその苑内通路をアスファルト等で舗装するなどして景観を損ねることは相当とは言い難いものの,上記認定事実に示した本件通路の勾配が15パーセント以上のものであることに照らせば,景観を損ねないように配慮しつつも,階段ないし段差を設け,あるいは手すりを設置するなどして転倒防止の措置を講ずることが望ましいということができる。

 しかしながら,証拠(甲9,甲51)によれば,本件通路の形状等を視認するのに障害となるようなものは見受けられないことが認められ,また,上記認定事実のとおり,原谷苑の開苑時間は日中のみであることに照らせば,本件通路を通行する一般の来苑者において,本件通路の勾配や土道の上に砕石が撒かれている状況等を容易に認識することができることに加え,証拠(甲9,乙9)及び弁論の全趣旨によれば,本件事故発生の翌年である平成27年4月の時点においても,本件通路のうち東口から距離6メートル程度のところまでは砕石が撒かれており,通路の中央から1メートル南側で東口より距離4メートルから4.5メートルの間の縦断勾配は19.5パーセント(同地点は東口付近に設置された入苑者と退苑者とを仕切るための木柵の西端付近である。),4.5メートルから5メートルの間の縦断勾配は21.7パーセントであるが,同所を通行する来苑者において特別の装備を身につけることも特別の注意を払うこともなく無事に通過している様子(例えば,甲9号証の写真番号〔5〕及び〔7〕)が認められ,このような事情を併せ考慮すると,X地点を含む本件通路について,原谷苑のような自然の地形に手を加えた苑内を来苑者を周遊させる方式の観光用庭園の通路として通常有すべき安全性を欠いているとまでいうことはできず,他に本件通路の設置又は保存に瑕疵があったと認めるに足りる証拠はない。

 なお,本件通路上に砕石が撒かれていることについては,現地における検証やその他これを補うような証拠の提出等はされておらず,少なくとも本件証拠上(例えば甲9号証の写真〔1〕)は,砕石の存在により転倒しやすい状況にあったと認めるに足りない。加えて,一般の来苑者において砕石が撒かれている状況も含めて本件通路の状況等を容易に認識可能であったことは,上記に判示したとおりである。

 また,原告は,本件通路は縦断勾配が大きく,砂利がまばらに撒かれたままであって,被告がこのような危険な状態を警告していれば本件事故が発生する可能性は低かったとも主張するが,本件事故発生時に本件通路(X地点付近)に注意を喚起する旨の立札等が設置されていなかったことについては,これを認めるに足りる証拠はなく(なお,証人P4及び被告本人は,いずれも尋問において,毎年観桜シーズンには注意喚起をする立札等を設置している旨を証言ないし供述している。),仮に当該立札等が設置されていなかったとしても,上記に判示したとおり,一般の来苑者において本件通路の状況等を容易に認識可能であったことに照らせば,当該立札等がなかったからといって,これが直ちに本件通路につき保存の瑕疵があるとまではいえない。

3 争点(3)(安全管理義務違反の不法行為)について
 原谷苑の経営者である被告のおいて,原谷苑内の通路につき来苑者が安全に通行できるように管理する義務があること自体については,被告も争わない。
 しかしながら,上記2で判示したところに照らせば,被告において原告主張の措置を講じなかったことが,民法709条の不法行為であるとまでいうことはできない。

第4 結論
 以上によれば,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求は,理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第26部 裁判官 瀬沼美貴

(別紙)物件目録
所在 京都市α区β
地番 ××番
地目 原野
地積 12849平方メートル
以上
(別紙)図面

以上:4,348文字

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