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佐村河内守氏対プロモーション会社間訴訟第一審判決紹介2

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平成30年 2月14日(水):初稿
○「佐村河内守氏対プロモーション会社間訴訟第一審判決紹介1」の続きです。

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(2)争点2(原告の損害額)について
【原告の主張】
ア 被告の不法行為によって原告が被った損害は,次のとおりである。
(ア)公演中止による逸失利益 3751万3060円
(イ)プログラム販売不能による逸失利益 262万0800円
(ウ)返金したチケット返送料 5万8560円
(エ)(ウ)を返金する際の振込手数料 2万0300円
(オ)プレイガイドへ支払った手数料等 270万6243円
(カ)(オ)を返金する際の振込手数料 6988円
(キ)公演中止広告費 21万0000円
(ク)会場費 279万3040円
(ケ)広告費 935万2687円
(コ)印刷費 39万1072円
(サ)デザイン費 3万8206円
(シ)弁護士費用 560万0000円
(ス)合計 6131万0956円

イ 原告は,マスコミ,お客様の反応,商道徳,社会通念等に照らして本件公演を中止するしかない状況となったために,中止したものである。原告の中止決定と相前後して,JASRACから被告の作品の利用許諾を保留するとの声明が出され,また,楽譜管理会社からも楽譜の貸出しを禁止するとの措置がされた。したがって,いずれにしても,本件公演の開催は不可能であったものである。

ウ 実施済みの本件公演による利益は,原告が本件楽曲の全国公演を企画し,指揮者・オーケストラ・会場の手配,リハーサルの手配,宣伝広告,プログラムの作成,チケットの販売等その他全ての業務に全社挙げて取り組んだ結果として得たものであり,被告の不法行為により得たものではなく,損益相殺が認められる余地はない。

【被告の主張】
ア 原告の主張は否認ないし争う。

イ 原告は,本件楽曲の著作権者から本件楽曲の利用を許可されたものとして,本件公演を実施することが可能な状態であったにもかかわらず,原告の経営判断において本件公演を実施せず,それにより損害を被ったとしても被告の不法行為との間に相当因果関係を認めることはできない。
 また,原告の「逸失利益」に関する主張は失当である。原告の主張は,将来において公演が実施されていたら原告が得られたであろう予想利益,すなわち契約上の債務の履行利益であり,原告が求める不法行為に基づく損害賠償請求における損害ではない。被告は,原告との間で本件公演の実施についての合意はしておらず,債務不履行責任を負うものでもない。
 そして,他の損害については,原告提出の書面の信用性を争い,また,広告費及び印刷費については,実施された本件公演で十分まかなわれているもので,相当因果関係のある損害であることを争う。

ウ 損益相殺(予備的抗弁)
 仮に,被告の行為が不法行為を構成するとしても,被告の不法行為によって原告が得た利益である6599万3440円(実施した本件公演の総売上げ1億6424万4500円に原告が主張する利益率40.18%を乗じた額)は,被告の不法行為がなければ,得られなかった利益であるから,損益相殺されるべきである。

(3)争点3(被告には本件楽曲に係る損失があるか)について
【被告の主張】
ア 被告は,本件楽曲をP2と共同して創作したものであり,被告とP2との間では,本件楽曲の著作権は,被告とP2とがどの程度創作に関与したかを問わず,楽曲完成時において,P2が原始的に取得した著作権持分を全て被告に譲渡し,その結果,被告のみが楽曲の完全な著作権者になることで合意がされており,本件楽曲についても,P2の著作権持分は被告に譲渡された。両者間ではその確認もされている(乙4)。

 被告は,JASRACとの間の著作権信託契約に基づき,JASRACに対し,本件楽曲の著作権を信託した上で,著作物の使用料の徴収業務等を委託していた。しかし,JASRACは,平成26年12月31日をもって,被告との間の上記契約を解除したため,平成27年1月1日以降,本件楽曲の著作権は被告の下に完全に復帰した。
 したがって,被告は,原告が本件公演につき支払うべき本件楽曲に係る使用料を支払わず利得を得ているのに対し、被告はこれにより同額の損失を受けている。

イ 原告は,被告とP2との間の著作権譲渡がゴーストライター契約であるとして無効であると主張するが,被告とP2との間の契約は,著作権の譲渡を合意しただけのものであり,法的には,P2の氏名表示権の行使(実名を出さない権利の行使)と氏名表示権の代表行使者の合意(著作権法64条3項)にすぎない。 

【原告の主張】
ア 被告が本件楽曲の共同著作者の一人であることは否認する。そもそも被告は本件楽曲の著作権者ではない。被告とJASRACとの契約及び同契約の解除については認める。

イ 著作権の譲渡について
 本件は,P2が本件楽曲を作曲し,被告に対してその著作権を譲渡し,その際,被告の名義のみで本件楽曲を公表し,P2は著作者人格権を行使しないことを約し,被告がP2に対価を支払ったというもので,いわゆるゴーストライター契約である。当該契約は,単なる著作権の譲渡とは異なり,著作者名の詐称を含むもので,著作権法121条において,罰則規定が設けられているような明らかな違法行為である。また,被告は,作曲に至る経緯についての虚偽説明を行い,CDの販売や公演の実施により違法な利益を得ようと考え,これを実行したものである。このような被告の行為は,犯罪に関する行為であり,公序良俗に反し無効であり,したがって,被告が主張する著作権譲渡は無効であるから,被告に何ら損失はない。

(4)争点4(原告の利得額)について
【被告の主張】
ア 原告は,本件楽曲に係る全国公演を企画し,別紙公演目録記載1(1)及び2(1)のとおり,これを実施した。
 原告は,平成26年12月31日まではJASRACに対し,少なくともJASRACが定めた著作物の使用料の算定基準(乙5)に従って算定した金員を著作物の使用料として支払う義務を負っていたところ,原告が支払うべき使用料額は,17公演分合計730万8955円である。

イ 被告と原告との間で,著作物の使用料についての合意は特になく,JASRACの定めに従った額を支払うべきものであるが,当該額からJASRACの管理手数料30%を控除するのは誤りである。JASRACはもはや著作物の使用料を収受する権限はなく,管理手数料相当額も受け取る権利はない。

 また,JASRACとの包括的利用許諾契約を前提とした算定方法を用いることも誤りである。原告は,同契約を意図的に無視し,被告に対してより高額な著作物の使用料を直接支払うことを持ちかけるとともに同契約に基づくJASRACへの本件楽曲利用に関する事前報告及び使用料の支払のいずれをも行わなかったものであるところ,このような原告が今になって同契約による優遇措置の適用を主張することは禁反言の法理に反する。さらに,そもそも,同契約は,演奏会等を継続的に開催する事業者等において楽曲の利用申請を簡便にすることで著作物の管理コスト及び使用料の請求・回収コストを抑える代わりに使用料の優遇措置を受けられるようにするものにすぎず,著作権者が収受する著作物の使用料の金額に直接影響するものではない。同契約の優遇措置は,JASRACと原告との個別契約上の優遇措置にすぎないのであるから,それを一般的な著作物の使用料相場の算定に用いることが誤りであることは明らかである。

 なお,同契約を前提とした場合に,本件公演における本件楽曲に係る使用料の合計額が410万6459円になることは積極的に争わない。

【原告の主張】
ア 原告は,被告と協議した結果,本件公演については,時期をみてJASRACと交渉し,原告が被告に直接著作物の使用料を支払うこととし,本件楽曲に係る支払額については,JASRACからの支払額より高額にすることで合意し,具体的には後日協議することとなった。しかし,原告と被告との間で実際の支払額については合意が成立しないうちに,本件楽曲がゴーストライターにより作曲されたものであることが発覚したため,原告は,被告に対しても本件楽曲に係る使用料を支払うことなく今日に至った。

イ 被告が主張するJASRACの使用料規程に基づく金額は誤りであり,正しくは,別紙著作物使用料算定表のとおりである。
 具体的な算定方法は,次のとおりである。
 まず,入場料単価(税抜き)の平均額を算出し,これに全座席数を乗じて1公演合計額を算出する。

 次に,総入場料算定基準額を算定する。原告は,JASRACと包括的利用許諾契約を締結しているから,その場合は,1公演合計額のうち800万円までは50%の金額,800万円を超える金額については25%の金額となる。その金額に使用料率5%を乗じ,さらに消費税5%を加えて使用料(別紙著作物使用料算定表「Z税込み(5%)」欄記載の額)が算出される(その合計額は410万6459円になる。)。

 そして,JASRACの管理手数料規程によると,管理手数料は30%となっているから,著作権者への分配金は70%となる。
 以上から,仮に被告に何らかの損失が生じるとしても,その金額は,1公演当たり6から7万円であり,仮にそうでなくとも,別紙著作物使用料算定表「分配金(Z×70%)」欄記載の合計287万4521円を上回るものではない。

以上:3,889文字

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