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郵政事業会社の弁護士会に対する報告義務確認請求認容判決紹介2

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平成29年12月27日(水):初稿
○「郵政事業会社の弁護士会に対する報告義務確認請求認容判決紹介1」の続きです。

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4 争点2(2)(控訴人には当事者適格が認められるか。)について
 上記のとおり,本件照会に対する報告義務の存否をめぐる法律関係は,控訴人と被控訴人との間で認められるものである上,本件訴えには確認の利益が認められるのであるから,控訴人に本件訴えの当事者適格がないとの被控訴人の主張は,採用することができない。

5 争点3(本件拒絶に正当な理由が認められるか。)について
(1)23条照会の対象とされた情報について,照会先において,当該情報を使用するに当たり,個人の秘密を侵害することがないよう特に慎重な取扱いをすることが要求される場合もあり得るから,23条照会については,照会先に対し全ての照会事項について必ず報告する義務を負わせるものではなく,照会先において,報告をしないことについて正当な理由があるときは,その全部又は一部について報告を拒絶することが許されると解される。

(2)転居届に係る情報は,憲法21条2項後段の「通信の秘密」及び郵便法8条1項の「信書の秘密」に当たるか。
ア 憲法21条2項後段は,「通信の秘密は,これを侵してはならない。」と規定し,これを受けて,郵便法8条1項は,「会社(被控訴人)の取扱中に係る信書の秘密は,これを侵してはならない。」と規定している。しかしながら,本件で問題となっている転居届は,通信や信書そのものではなく,個々の郵便物とは別個のものである。そして,そこに記載された情報について報告がされても,個々の通信の内容が推知されるものではない。したがって,転居届に係る情報は,憲法21条2項後段の「通信の秘密」にも郵便法8条1項の「信書の秘密」にも該当しないと解するのが相当であるから,被控訴人は,本件照会事項について,「通信の秘密」や「信書の秘密」に基づく守秘義務を負うものではない。


(ア)被控訴人は,転居届に係る情報について,個々の郵便物の受取人の宛て所そのもの,場合によっては宛名ともなることから,現実に郵便物が転送された場合,同情報には当然に「通信の秘密」の保障が及び,これと異なる判断は憲法解釈を誤るものである旨主張する。しかしながら,本件照会事項については,個々の通信とは関係のない情報としての転居届に記載された新住居所等の報告を求めるものであるから,「通信の秘密」の対象となる事項であるとはいえず,その保障が及ぶものではない。

(イ)被控訴人は,転居届は郵便物の転送を前提としており,個々の郵便物と密接に関係せざるを得ないから,転居届に係る情報については「通信の秘密」に準じて取り扱われる必要がある旨主張する。しかしながら,転居届は,郵便物を転送する前提のものであるとしても,具体的な郵便物を離れて転居先を一般的に明らかにするものにすぎず,その存在により直ちに個々の郵便物の転送の有無が明らかになるものではない。また,「通信の秘密」の保障が,通信・信書の差出人・受取人の氏名・住所・居所に及ぶとしても,それは,当該信書等を通じて得た情報に関する積極的知得行為や漏えい行為の禁止を意味すると解されるから,転居届に記載された新住居所と同列に考えることはできない。したがって,転居届に係る情報について現実に転送された具体的な郵便物に関連する情報(個々の通信と結び付いている情報)に準じて取り扱われる必要があるとはいえない。

(ウ)さらに,被控訴人は,23条照会の真の目的が特定の郵便物の転送先を知ることにある場合の不都合性を指摘する。しかしながら,制度の悪用については,その適切な運用を図るべき立場にある弁護士会において,防止措置を講じるなど別途対処すべき問題であり,本件では,そのような照会事項とはなっていない上,Cに対する強制執行手続を行うために必要であるとして本件照会がされているのであるから,上記不都合性と本件拒絶における正当な理由の有無が直ちに結び付くわけではないというべきである。

(3)郵便法8条2項に基づく守秘義務との関係
ア 郵便法8条2項は,郵便の業務に従事する者が,郵便物に関して知り得た他人の秘密を漏えいすることを禁じている。そして,控訴人は,転居届に係る情報が「郵便物に関して知り得た他人の秘密」に当たり,被控訴人が同項に基づく守秘義務を負うことについて争っていないところ,被控訴人は,上記守秘義務が23条照会に対する報告義務に優越すると主張するので,以下検討する。

イ 上記1(1)で説示したとおり,23条照会の制度は,事件を適正に解決することにより,国民の権利を実現するという司法制度の根幹に関わる公法上の重要な役割を担っているというべきである。そうすると,照会先が法律上の守秘義務を負っているとの一事をもって,23条照会に対する報告を拒絶する正当な理由があると判断するのは相当でない。被控訴人は,郵便法8条2項の守秘義務が,憲法21条2項後段を受けて定められていることを殊更に強調するが,国民の権利の実現や司法制度の適正な運営もまた,憲法上の要請にほかならない。したがって,報告を拒絶する正当な理由があるか否かについては,照会事項ごとに,これを報告することによって生ずる不利益と報告を拒絶することによって犠牲となる利益との比較衡量により決せられるべきである。

ウ 被控訴人は,郵便法8条2項に基づく守秘義務が優越する根拠として,(ア)転居届に係る情報が少なくとも通信の秘密に準じて取り扱われる情報であり,守秘義務について明文の根拠があること,(イ)住所情報の開示は本来住民票の写しの交付等に限定され,開示可能な場合も法文上列挙され,DV等の被害者保護の制度があること,(ウ)転居届については,被控訴人の従業員に証言拒絶権があり,文書提出義務除外文書に該当すること,これに対し,(エ)23条照会における報告義務は,明文の規定がなく,拒否事由や除外事由等も規定されておらず,DV等の被害者の保護の制度もないこと,(オ)弁護士会の審査が厳密でない場合もあるが,そのような場合でもペナルティがないこと,(カ)そうであるにもかかわらず,被控訴人が情報を開示した場合には,不法行為責任を負ったり,郵便法8条1項に基づく守秘義務違反について罰則を科されたりする危険があることなどを挙げる。

 しかしながら,(ア),(イ)及び(エ)については,転居届に係る情報が通信の秘密に該当しないことは,上記(2)で説示したとおりであり,守秘義務についての明文の根拠があるからといって,直ちに守秘義務が報告義務に優越するとの結論が導かれるものではないところ,23条照会の制度趣旨に鑑みれば,報告義務が守秘義務に優越する場合もあることは認められる。また,23条照会の場合に,DV等の被害者保護の制度が設けられていないことは,被控訴人の主張するとおりであるが,23条照会は,弁護士が受任している事件について所属弁護士会に対し必要な事項の照会を申し出た上,当該弁護士会がその申出を適当と認めたときにされるものであるところ,弁護士は,受任している事件について必要な場合には,住民票の写しの交付等を職務上請求することが認められ(住民基本台帳法12条の3),DV等の被害者が支援措置の実施を求める旨の申出をした場合であっても,弁護士による職務上の請求であれば,住民票の写しの交付等が認められる場合もあること(甲26,乙2),他方,日本弁護士連合会は,23条照会の申出に対する審査基準のモデル案を作成し,控訴人は,これに基づいて,照会事項が個人の高度な秘密事項に関わるときは,〔1〕当該秘密の性質,法的保護の必要性の程度,〔2〕当該個人と係争当事者との関係,〔3〕報告を求める事項の争点としての重要性の程度,〔4〕他の方法によって容易に同様な情報が得られるか否かを総合的に考慮して,照会申出の必要性及び相当性を判断すること等を規定した基準を設けて23条照会の申出に対する適否を審査していると認められること(甲27,28),したがって,住民票の写しの交付等に関する弁護士による職務上の請求に対する審査基準より,23条照会の申出に対する弁護士会の審査基準が緩いということはできず,他にそのように認めるに足りる証拠はないことに照らしても,DV等の被害者保護に欠けるということはできない。

(ウ)については,仮に,被控訴人が主張するように,その業務に従事する者について,証言拒絶権に係る民訴法197条1項2号が類推適用されるとしても,同号所定の「黙秘すべきもの」とは,一般に知られていない事実のうち,弁護士等に事務を行うこと等を依頼した本人が,これを秘匿することについて,単に主観的利益だけではなく,客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいう(最高裁平成16年11月26日第二小法廷決定・民集58巻8号2393頁)。したがって,転居届に係る情報であるとの一事をもって,直ちに同号に基づく証言拒絶権があるとか,同号を前提とする同法220条4号ハに基づいて文書提出義務を負わないということにはならない。

(オ)については,特定の情報について守秘義務を負う者は,当該情報を使用するに当たり,個人の秘密を侵害することがないよう特に慎重な取扱いをすることが要求されるというべきであるから,漫然と23条照会に応じ,その全てを報告した場合,守秘義務に違反したと評価されることもあり得るところである。しかしながら,23条照会については,照会先に対し,全ての照会事項について必ず報告する義務を負わせるものではなく,報告をしないことについて正当な理由があるときは,その全部又は一部について報告を拒絶することが許されると解されることは,上記のとおりである。そうすると,守秘義務を負う照会先は,23条照会に対し報告をする必要があるか自ら判断すべき職責があるといえる。弁護士会の審査に不備があり得るとしても,被控訴人において,この職責を放棄し,常に守秘義務を優越させて報告を拒むことを肯定する理由にはならないというべきである。被控訴人は,不当な23条照会をした弁護士会にはペナルティがないというが,審査に不備があれば,照会先から責任を追及され得るところであるし,弁護士会に対する信頼の失墜を招き,照会の権限を弁護士会に与えた現行の23条照会制度の存続自体にも影響しかねないのであるから,弁護士会においても,厳密な審査をする動機付けは働くといえる。

(カ)について,特定の情報に守秘義務を負う者が漫然と23条照会に応じた場合に,守秘義務違反と評価される場合があること,転居届に係る情報が,侵害について罰則の定めがある郵便法8条1項の「信書の秘密」に該当しないことは,いずれも上記のとおりである。また,事業者である被控訴人は,通信の秘密の保護の対象であるか,個々の通信とは無関係の情報であるかについて,自ら識別して情報を取り扱うべき立場にあり,かつそれが可能な立場にあるといえる(甲8,41,42)。
 被控訴人の主張は,いずれも採用することができない。

エ 本件についての検討
(ア)報告することによって生ずる不利益について
 本件照会事項は,個々の郵便物の内容についての情報ではなく,住居所や電話番号に関する情報であって,上記(2)のとおり,憲法21条2項後段の「通信の秘密」や郵便法8条1項の「信書の秘密」に基づく守秘義務の対象となるものではない。また,住居所や電話番号は,人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には開示されることが予定されている情報であり,個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえない。そして,控訴人を含む各弁護士会は,会員である個々の弁護士に対し,23条照会により得られた報告について,慎重に取り扱うよう求め,当該照会申出の目的以外に使用することを禁じ(甲16,17),依頼者により情報の漏えいや目的外の使用がされることがないよう配慮することを求めるなどしているのであるから(甲58),本件照会事項に係る情報が不必要に拡散されるおそれは低いと判断される。しかも,Cは,訴訟上の和解によって自認した債務を履行すべき義務を負いながら,住居所を明らかにしないで義務の履行を免れている状況である一方,転居届をしていたならば,義務の履行を免れつつ郵便サービスの利益は享受しようというのであるから,Cの転居先という情報に限ってみても,報告することによって生ずる不利益を重視すべき理由は乏しいということができる。

 この点に関し,被控訴人は,転居届に係る情報については開示が予定されていない旨主張する。しかしながら,転居届に係る情報は,公的な開示手続の面において,住民基本台帳に記載された住所情報とは異なるとしても,特定の郵便物の送付先を離れた情報としての住居所(郵便法35条によれば,転居届は,郵便物の送付先(転送先)を任意に指定するものではなく,転居先の住居所を届け出るものである。)や電話番号である以上,社会生活において一定の範囲の他者には開示されることが予定されているといえる。

(イ)報告を拒絶することによって犠牲となる利益について
 本件照会の目的は,AがCに対し強制執行手続(動産執行)をするため,Cの住居所を知ることにあったと認められる。そして,動産執行を申し立てるに当たっては,債務者であるCの住所を明らかにする必要があるところ(民事執行規則21条1号),当時,Cは,住民票上の住所には居住していなかったのである(乙1)。そうすると,本件照会に対する報告が拒絶されれば,Aの訴訟承継人は、司法手続によって救済が認められた権利を実現する機会を奪われることになり,これにより損なわれる利益は大きい。そして,本件照会事項〔1〕ないし〔3〕は,転居届の有無及び届出年月日並びに転居届記載の新住居所であり,強制執行手続(動産執行)をするに当たり,これを知る必要性が高いといえる。この点につき,被控訴人は,本件照会事項は,将来にわたり強制執行手続をするために必要不可欠とはいえない旨主張するが,採用することはできない。

 これに対し,本件照会事項〔4〕は,新住居所の電話番号であるところ,これを知れば,さらに通信事業会社に照会するなどして,住居所についての情報を取得することができる可能性があるとしても(甲46),住居所を知る手段としては間接的なものである。そして,B弁護士において,過去にCの電話番号を知っていたのであれば(甲2によれば,B弁護士は,別件訴訟の和解の際にCと対面しているから,これを知る機会が全くなかったわけではないといえる。),これに基づいて照会をすべきである。他方,これまで知らなかったのであれば,上記のような手段としての間接性からしても,Cの電話番号を知る利益について,被控訴人の守秘義務に優先させるのは相当でない。しかも,動産執行を申し立てるに当たって,債務者の電話番号は記載事項とはされていない(民事執行規則21条)。そうすると,本件照会事項〔1〕ないし〔3〕について報告を求めている本件照会において,さらに同〔4〕について報告を求める必要があったということはできない。 

オ 上記エの(ア)と(イ)を比較衡量すれば,本件においては,本件照会事項〔1〕ないし〔3〕については,23条照会に対する報告義務が郵便法8条2項の守秘義務に優越し,同〔4〕については,同項の守秘義務が23条照会に対する報告義務に優越すると解するのが相当である。したがって,被控訴人には,本件照会事項〔1〕ないし〔3〕について,控訴人に報告すべき義務があるというべきである

 なお,被控訴人は,昭和56年最判の基準に当てはめれば,本件拒絶には正当な理由があった旨主張するところ,昭和56年最判の事案では,23条照会に対する報告が違法であり過失があるとの判断がされているけれども,その判決の要旨は,前科及び犯罪経歴に係る23条照会を受けた政令指定都市の区長が,照会文書中に照会を必要とする事由としては「中央労働委員会,京都地方裁判所に提出するため」との記載があったにすぎないのに,漫然と照会に応じて前科及び犯罪経歴の全てを報告することは,前科及び犯罪経歴については,従来通達により一般の身元照会に応じない取扱いであり,23条照会にも回答できないとの趣旨の自治省(現在の総務省)行政課長回答があったなどの事実関係の下においては,過失による違法な公権力の行使に当たるというものである。したがって,同判決は,当該事案についての事例判決というべきであるから,転居届に係る本件照会について,同判決への当てはめをするのは相当でない。被控訴人の主張は,採用することができない。

カ 被控訴人は,本件拒絶に正当な理由があったことについて,その他るる主張するが,いずれも上記判断を左右するに足りない。

第7 結論
 よって,当審における控訴人の予備的請求については,主文の限度で理由があり,その余は理由がないから,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第3部  裁判長裁判官 揖斐潔 裁判官 池田信彦 裁判官 蛯名日奈子

(別紙につき省略)

以上:7,086文字

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