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郵政事業会社の弁護士会に対する報告義務確認請求認容判決紹介1

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平成29年12月27日(水):初稿
○「弁護士法照会拒否回答で弁護士会に損害賠償義務を否認した最高裁判決紹介」の続きで、この最高裁判決の「3 報告義務確認請求に関する部分につき,本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。」によって差し戻された平成29年6月30日名古屋高裁判決(判時2349号 頁)裁判所判断部分を2回に分けて紹介します。

○名古屋高裁判決では、郵政事業会社の弁護士会照会に対する報告拒絶には正当な理由がなとして、弁護士会のした照会について郵政事業会社の弁護士会に対する報告義務確認請求を認容しました。この判決の説明は別コンテンツで行います。

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主   文
1 被控訴人が,弁護士法23条の2第2項の規定に基づき控訴人がした別紙の照会のうち,C宛ての郵便物についての転居届の提出の有無,転居届の届出年月日及び転居届記載の新住所(居所)について,控訴人に対し報告する義務があることを確認する。
2 当審における控訴人のその余の追加請求を棄却する。
3 控訴申立て後に生じた第1,2項についての訴訟費用は,これを4分し,その3を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。

事実及び理由

(中略)


第6 当裁判所の判断
1 争点1(1)(本件訴えは行訴法4条の「公法上の法律関係に関する確認の訴え」に該当するか。)について
(1)23条照会制度の趣旨と報告義務の性質

 23条照会制度は,弁護士が,基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命として法律事務を職務の内容とするとともに(弁護士法1条1項,3条),民事訴訟における訴訟代理人(民訴法54条1項)及び刑事訴訟における弁護人(刑事訴訟法31条1項)となることが認められていること等,我が国の司法制度の一翼を担っていることに鑑み,弁護士が受任している事件を処理するために必要な事実の調査及び証拠の発見収集を容易にし,事件の適正な解決に資することを目的として創設されたものと解される。

 また,弁護士会は,弁護士及び弁護士法人の使命及び職務に鑑み,その品位を保持し,弁護士及び弁護士法人の事務の改善進歩を図るため,弁護士及び弁護士法人の指導,連絡及び監督に関する事務を行うことを目的としており(弁護士法31条1項),このような弁護士会の目的に鑑み,23条照会制度の適正な運用を確保するため,照会の権限を弁護士会に付与し,権限の発動を個々の弁護士の申出に係らせつつ,その申出が23条照会の制度趣旨に照らして適当であるかについて,弁護士会の自律的な判断に委ねたものと解される。

 そして,上記のような弁護士の使命及び職務や弁護士会に加え,弁護士の資格並びに権利及び義務等を定める弁護士法は,我が国の司法制度に関与する主体としての弁護士及び弁護士会を規律する点からすると,国法の類型を公法と私法に分かつならば,公法の性質を有しているものと解される。

 そうすると,23条照会は,依頼者の私益を図る制度ではなく,事件を適正に解決することにより国民の権利を実現し,弁護士の受任事件が訴訟事件となった場合には,当事者の立場から裁判所の行う真実の発見と公正な判断に寄与する結果をもたらすという公益を図る制度として理解されるべきであるから,23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,照会事項を報告すべき法的義務があるとともに,23条照会が公法の性質を有する弁護士法により認められた公益を図る制度であることに照らせば,その義務は公法上の義務であると解される(なお,後述するとおり,23条照会を受けた者に報告をしないことについて正当な理由があるときは,照会先は,その全部又は一部について報告を拒絶することが許されると解される。)。

(2)23条照会に基づく報告義務の存否(拒絶する正当な理由の有無)に関する紛争についての訴訟手続
ア もっとも,23条照会に基づく報告義務が公法上の義務であり,弁護士会が司法制度に関与する主体として公共的・公益的な地位にあるとはいっても,弁護士会は国の機関や行政過程の主体となる法人ではないし,弁護士法は,23条照会に関し,これを発した後の照会先との権利義務関係の形成や照会先が報告を拒絶した場合の強制履行ないし制裁の規定を設けておらず,単に「報告を求めることができる。」と規定するにとどまるから,弁護士会が23条照会に関し,公権力の行使の権限を付与されているとはいえず,行訴法上の「行政庁」に当たるとはいえない。また,照会先が公務所や公の団体であったとしても,照会先が23条照会に対する報告を拒絶する行為は事実行為であって行政処分でないことはもちろんのこと,所管する行政過程上の行為ということもできない。したがって,本件における控訴人と被控訴人との紛争が,行政過程における紛争といえないことは明らかである。

イ 次に,「公法上の法律関係に関する確認の訴え」を訴訟手続の面からみると,行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟(抗告訴訟)を中心として定められた行訴法が,行政権行使の過程で生じる行政庁と国民との間で生じた紛争の解決を主眼とした訴訟制度であり,そのような行政権行使の過程の特質に応じて民訴法の特別法として定められたことは明らかである。さらに,平成16年の行訴法改正の際,行政過程の中で多用されながら,抗告訴訟の対象とならない行政の行為を契機として国民と行政主体との間に紛争が生じた場合,実質的当事者訴訟の活用を図るため,実質的当事者訴訟の例示として「公法上の法律関係に関する確認の訴え」が加えられた(甲61,63)ことからすれば,行訴法4条後段にいう「公法上の法律関係に関する訴訟」についても,国民と行政主体との間の紛争を予定していることが明らかであり,「公法上の法律関係に関する確認の訴え」が認められる行政主体との紛争は,行政処分を背景とし,あるいは後に行政処分が控えていることにより,現に存在する不利益を除去するための確認の利益が認められる場合であるということができる。

 また,「公法上の法律関係に関する確認の訴え」には,抗告訴訟の規定の一部が準用されるが(行訴法41条1項。行政庁の訴訟参加〔同法23条〕,職権証拠調べ〔同法24条〕,判決の拘束力〔同法33条1項〕,釈明処分の特例〔同法23条の2〕),本件は,控訴人と被控訴人との間における本件照会事項に対する報告義務の存否をめぐる訴訟であり,かかる個別具体的な事案における判断が求められている事件であるから,他の関係機関なり団体の訴訟参加やこれらに対する判決の拘束力を認めたり弁論主義を排除したりする理由はないし,本件では,釈明処分の対象となる「処分又は裁決」は存在しない。そうすると,行政過程における紛争とはいえない本件において,行政過程の特質に応じた上記規定を本件の訴訟手続に準用する実益や必要性を見いだすことはできない。

ウ したがって,本件訴えは,「公法上の法律関係に関する確認の訴え」に該当するとしてこれに行政事件訴訟手続を適用するのではなく,原則に戻り,民事訴訟であると解するのが相当である。

2 争点1(2)(損害賠償請求に本件確認請求の追加的併合が許されるか。控訴審における訴えの追加的変更が認められるか。)について
 上記のとおり,本件訴えの訴訟類型は民事訴訟であると解され,損害賠償請求訴訟とは同種の訴訟手続であるから,損害賠償請求に本件確認請求を追加的に併合することは許される(民訴法136条)。また,本件において,本件拒絶に正当な理由があったか否かは,損害賠償請求が認められるか否かの判断の前提となっていたことは記録上明らかであるから,損害賠償請求と本件確認請求とは,請求の基礎に同一性(同法143条1項)が認められ,控訴審における訴えの追加的変更に相手方の同意は要求されていない(同法297条,143条)から,控訴人が控訴審において本件訴えを追加的に変更したことは適法である。

 なお,仮に,本件訴えが「公法上の法律関係に関する確認の訴え」に該当する余地があるとしても,上記のとおり,本件確認請求は損害賠償請求の判断の前提となっており,損害賠償請求の判断には本件確認請求の判断を含む関係にあった上,いずれも本件拒絶に起因し,控訴人が被控訴人に本件照会に対する報告を求める手段として提起された訴えであるから,両請求は請求の基礎を同一にするものにして,損害賠償請求に本件確認請求を併合することは,民訴法143条1項による訴えの追加的変更に準じて認められるというべきであるし,上記のとおり,本件では,他の関係機関や団体の訴訟参加を考慮する必要はない上,本件照会に対する報告義務の存否(本件拒絶の正当な理由の有無)は,第1審から審理の対象となっており,被控訴人が審級の利益を害されることはないから,行訴法41条2項,19条1項,16条2項の規定にかかわらず,被控訴人の同意を要しないと解するのが相当である。

3 争点2(1)(本件訴えには確認の利益が認められるか。)について
(1)対象選択の適否

 確認の訴えが適法となるためには,確認の対象とされた法律関係ないし権利義務が具体的であるとともに,確認訴訟を選択したことが紛争の解決にとって適切であり,確認判決が紛争の解決にとって有効であること(即時確定の利益があること)が必要であると解される。
 そして,本件訴えで確認の対象とされたのは,具体的に特定された本件照会事項に対する被控訴人の報告義務であるから,対象の具体性は満たしていると認められる


(2)即時確定の利益
 次に,被控訴人は,控訴人には,23条照会を受けた公務所又は公私の団体から報告を受けることについて,法的に独自に保護されるべき権利又は利益を有しないから,本件訴えには即時確定の利益がない旨主張するので,先にこの点から判断する。
 弁護士法23条の2が,23条照会制度の適正な運用を図るために,照会権限を弁護士会に付与し,権限の発動を個々の弁護士の申出に係らせつつ,その申出が23条照会の制度趣旨に照らして適当であるかについて,弁護士会の自律的な判断に委ねたものと解されることは上記のとおりであり,弁護士会の照会権限は,飽くまでも制度の適正や運用を図るためにすぎないことから,照会先の報告拒絶に対し,弁護士会が独自の損害を被ったと主張してその賠償を受けることができる法律上の利益を有するものではないと解される。しかしながら,23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,公法上の報告義務を弁護士会に対して負い,23条照会を拒絶する照会先に対して報告を促す権限と責務を負うのは弁護士会であるから,23条照会に対する報告義務の存否をめぐる紛争の主体は,弁護士会と照会先であるというほかない。

 そして,上記のとおり,23条照会制度は,弁護士が事件を適正に解決することにより国民の権利を実現し,弁護士の受任事件が訴訟事件となった場合には,当事者の立場から裁判所の行う真実の発見と公正な判断に寄与する結果をもたらすという公益を図る制度として理解されるべきであることに加え,照会先には公法上の報告義務が生じ,正当な理由がない限り,報告を拒絶することはできないと解されることに照らせば,報告義務の存否(拒絶する正当な理由の有無)に関し,弁護士会と照会先の判断が食い違った場合でも,常に照会先の判断が優先されるならば,結局のところ,23条照会に対する報告の拒絶を自由に許す結果を招くことになり,我が国の司法制度の円滑かつ適正な運営に寄与している23条照会制度がその使命を果たすことは困難となる。また,照会権限を付与された弁護士会は,23条照会制度の適正な運用を図る責務を負っているというべきであるから,23条照会制度の使命を実現することができるか否かについては,制度の存続にもかかわる重大な利害関係を有しているといえる。そうすると,23条照会制度の趣旨及び弁護士会に課せられた責務に照らせば,弁護士会が23条照会制度を適正かつ円滑に運営し,その実効性を確保することは,法的に保護された弁護士会固有の利益であるということができるとともに,報告義務の存否(拒絶する正当な理由の有無)に関し,弁護士会と照会先の判断が食い違った場合には,司法判断により紛争解決を図るのが相当であると解される。

 本件においては,本件拒絶により,そのような控訴人の利益に対する現在の危険ないし不安が問題となっているのであるから,控訴人には法的保護に値するほどの具体的かつ現実的な法的地位はない旨の被控訴人の主張は採用することはできない(なお,被控訴人は,23条照会に基づく報告義務は,具体的な法的義務を定めたものではなく,倫理的な指針としての意味しか有しないとも主張するが,23条照会制度の趣旨に照らし,採用することができない。)。

 そして,後述するとおり,控訴人が本件確認請求を選択したことが紛争の解決にとって適切であると認められるところ,本件確認請求が認容されれば,被控訴人がこれに応じて報告義務を履行することが期待できることは、控訴人が主張するとおりであると認められる上,認容判決を受けた上での本件照会事項に対する報告であれば,被控訴人がCから守秘義務違反を理由として損害賠償を請求されても,違法性がないことを理由にこれを拒むことができるし,控訴人は,本件確認請求が棄却されれば,同一の照会事項による23条照会はしない旨明言しているから,本件照会事項に対する報告義務の存否に関する紛争は,判決によって収束する可能性が高いと認められ,本件紛争の解決にとって有効であると認められる。
 そうすると,本件訴えには,即時確定の利益が認められるというべきである。 

(3)方法選択の適否
 一般に給付訴訟が可能な場合には,給付判決を得た上でそれを執行する手続に移行すればよいから,確認の利益は認められない。しかしながら,公法上の義務である23条照会に対する報告義務に基づき,23条照会に対する報告を拒絶する照会先に対して「報告せよ」との給付判決を求めることができるかについては,上記のとおり,弁護士法には報告拒絶に対する強制履行の規定がない上,照会権限についても「報告を求めることができる。」と規定されるにとどまっていることからすれば,その許容性については疑義があるというほかない。仮に,給付訴訟が可能であるとしても,民事執行手続によって公法上の義務の履行を実現することはできないと解されるし,行政庁ではない弁護士会が行政代執行による義務の履行を求めることはできない。また,本件最高裁判決により,本件拒絶に対する損害賠償請求は否定されている。そうすると,控訴人が,訴訟手続を利用して本件照会に対する被控訴人の報告義務の存否の判断を得るには,確認の訴えという方法を採るよりほかないと考えられる。

 もっとも,控訴人が本件確認請求の認容判決を得たとしても,結局のところ,被控訴人の任意の履行に委ねるしかないことは上記(2)のとおりであり,そのような強制力を背景としない確認の訴えを認めることが相当であるかという問題もあろう。しかしながら,本件照会に対する被控訴人の報告義務の存否について現に紛争が生じている上,そもそも本件照会は,Cに対する強制執行手続をするために必要不可欠な同人の住居所を把握して,訴訟上の和解に基づくAないしその訴訟承継人の権利の実現を図るという司法制度の実効性に関わる照会であるから,かかる紛争に対する司法判断が認められないという結論は相当とは解されない。しかも,被控訴人の任意の履行に委ねるしかないとはいっても,認容判決がされれば,その履行の蓋然性が見込まれる上,本件照会に対する報告に関し,Cからの損害賠償請求も阻止することができることに照らせば,本件紛争をめぐる問題の抜本的解決につながるということができる。そうすると,強制力を背景としないからといって,本件訴えを否定する理由はないと考える。


以上:6,566文字

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