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刑事収容施設内医療記録不開示決定を支持した東京地裁判決全文紹介

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平成29年10月18日(水):初稿
○ある交通事故損害賠償請求事件で治療期間の途中で刑務所に収監され、刑務所内医療施設で治療を受けました。その刑務所に文書送付嘱託で医療記録取寄を試みたところ個人情報を理由に拒否され、本人名義で行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律に基づく開示請求をしたところ、同法45条1項の「刑事事件に係る裁判に係る保有個人情報」及び「刑の執行に係る個人情報」に該当するので開示できないとされました。

○そこで、同法に関する判例を調べると、残念ながら、平成20年1月25日東京地裁判決で、拘置所に収容されている死刑確定者である原告が、同拘置所において原告が受けた医療に関する保有個人情報の開示請求をしたところ、その全部を開示しない旨の決定がされ、当該不開示決定の取消しを求め、刑事収容施設の被収容者に対して講じられた医療上の措置に係る個人情報で刑事収容施設が保有するものについては、それが受刑者又は死刑確定者に係るものである場合には、行政機関個人情報保護法45条1項の「刑事事件に係る裁判に係る保有個人情報」及び「刑の執行に係る個人情報」に、その他のものである場合には、同項の「刑事責任に係る裁判に係る保有個人情報」に、それぞれ該当し、開示請求に関する法の規定の適用から除外されるとして請求を棄却していました。

○全く納得できない判決ですが 以下、その全文を紹介します。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 処分行政庁が原告に対し平成17年10月5日付けでした,同年9月5日受付の原告からの開示請求に係る別紙記載の保有個人情報の開示をしない旨の決定を取り消す。

第2 事案の概要
 本件は,東京拘置所に収容されている死刑確定者である原告が,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「法」という。)の規定に基づいて,処分行政庁に対し,同拘置所において原告が受けた医療に関する保有個人情報の開示請求をしたところ,処分行政庁が,当該保有個人情報は,法45条1項の刑事事件に係る裁判,刑の執行等に係る保有個人情報に該当し,開示請求等の法の規定の適用から除外されているとして,その全部を開示しない旨の決定をしたことから,原告が当該不開示決定の取消しを求める事案である。

1 法の定め
(1)法2条2項は,法において「個人情報」とは,生存する個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することができ,それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいうと定め,同条3項は,法において「保有個人情報」とは,行政機関の職員が職務上作成し,又は取得した個人情報であって,当該行政機関の職員が組織的に利用するものとして,当該行政機関が保有しているものをいう(ただし,行政文書に記録されているものに限る。)と定めている。

(2)法12条1項は,何人も,法の定めるところにより,行政機関の長に対し,当該行政機関の保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求することができると定めているが,法45条1項は,法第4章の規定(12条ないし44条)は、刑事事件若しくは少年の保護事件に係る裁判,検察官,検察事務官若しくは司法警察職員が行う処分,刑若しくは保護処分の執行,更生緊急保護又は恩赦に係る保有個人情報(当該裁判,処分若しくは執行を受けた者,更生緊急保護の申出をした者又は恩赦の上申があった者に係るものに限る。)については,適用しないと定めている。

2 本件の経緯に関する事実((2)ないし(4)の事実は当事者間に争いがない。)
(1)原告は,▲年▲月▲日,前橋地方裁判所において,死刑の判決を受け,▲年▲月▲日,未決勾留中の被告人として東京拘置所に移監され,▲年▲月▲日,同判決が確定したことにより,同日以後は死刑確定者として同拘置所に収容されている者である。(弁論の全趣旨)

(2)原告は,処分行政庁に対し,法の規定に基づき,東京拘置所が保有する自己を本人とする保有個人情報である別紙記載の保有個人情報(以下「本件保有個人情報」という。)の開示請求をし,処分行政庁は,平成17年9月5日付けでこれを受領した。 

(3)処分行政庁は,原告に対し,平成17年10月5日付けで,本件保有個人情報は,法45条1項の刑事事件に係る裁判,刑の執行等に係る保有個人情報に該当し,開示請求等の法の規定の適用から除外されているとの理由により,その全部を開示しない旨の決定(以下「本件不開示決定」という。)をした。

(4)原告は,本件不開示決定を不服として,平成17年11月28日,法務大臣に対し,審査請求をし,法務大臣は,平成18年8月18日付け(送達日は同年8月21日ころ)で,原告に対し,当該審査請求を棄却する旨の裁決をした。

(5)原告は,平成19年2月19日,本件不開示決定の取消しを求めて,本件訴えを提起した。(当裁判所に顕著)

3 争点及び当事者の主張
 本件の争点は,本件保有個人情報が法45条1項所定の保有個人情報に該当して開示請求に関する法の規定の適用から除外されているか否かである。
(1)被告の主張
 法45条1項が,刑事事件に係る裁判,刑の執行等に係る保有個人情報を開示請求等の法の規定の適用から除外したのは,これらの保有個人情報が,個人の前科,逮捕歴,勾留歴等を示す情報を含んでいることから,開示請求等の対象とすると,例えば,雇用主が,採用予定者の前科の有無やその内容をチェックする目的で,採用予定者本人に開示請求をさせるなどの方法で,前科等が明らかになる危険性があるなど,被逮捕者,被疑者,被告人,受刑者等の立場で刑事収容施設に収容されたことのある者等の社会復帰や更生保護上問題となり,その者の不利益になるおそれがあるからである。したがって,法45条1項により適用除外とされる保有個人情報は,開示することによって当該個人が被逮捕者,被疑者,被告人,受刑者等であること又はこれらの者であったことが明らかになる情報を広く含むと解すべきである。

 本件保有個人情報は,原告が現に収容されている刑事施設の医務部における原告の診療に際し作成された文書に記載されている情報であり,原告が刑事施設に収容されていることを前提として作成されたものであるから,これを開示することによって,原告が死刑確定者等の立場で刑事施設に収容されたことが必然的に明らかになる情報ということができる。そして,死刑確定前の未決時における収容は,勾留の裁判の効力により,また,死刑確定後の死刑執行に至るまでの収容は,死刑を言い渡した確定裁判の効力により,かつ,死刑の執行行為に必然的に付随する前置手続として,それぞれ執行されるものであることから,本件保有個人情報のうち,原告に対する死刑判決が確定した▲年▲月▲日より前の記録に係るものは,法45条1項の「刑事事件に係る裁判に係る保有個人情報」に,また,同日以後の記録に係るものは,同項の「刑事事件に係る裁判に係る保有個人情報」及び「刑の執行に係る保有個人情報」に,それぞれ該当し,法の適用除外となると解すべきである。

(2)原告の主張
 法45条1項の解釈適用は,刑事施設等に収容されたことのある者等に社会復帰や更生保護上の不利益を与えないという立法趣旨に照らし,必要かつ合理的な範囲内で厳格に行われなければならない。
 本件保有個人情報は,刑事施設における被収容者に対する医療に関する情報であるところ,刑事施設における被収容者に対する医療は,拘禁に従属しこれに必然的に付随する事務ではなく,拘禁作用から独立したものである。したがって,被収容者に対する医療情報は,「刑事事件に係る裁判に係る保有個人情報」又は「刑の執行に係る保有個人情報」のいずれにも当たらない。

 特に,死刑確定者の拘置は,刑の執行行為ではないから,この意味からも,死刑確定者の拘置に係る情報は,「刑の執行に係る保有個人情報」に当たらない。また,被収容者は,自己の健康の維持管理等のために,自己の医療情報を必要とするのであり,自己の医療情報の開示が,本人の利益にこそなれ,社会復帰や更生保護上の不利益になるおそれはない。さらに,被収容者が刑事施設内で医療を受けた場合には情報が開示されず,たまたま刑事施設外の病院等で医療を受けた場合にのみ情報が開示されるというのでは不合理であるし,保安等に関する情報が診療録等に記載されているのであれば,部分開示で対応すれば足りる。
 したがって,本件保有個人情報は,法45条1項所定の保有個人情報に該当せず,開示請求に関する法の規定の適用から除外されない。

第3 当裁判所の判断
1 法45条1項が,刑事事件若しくは少年の保護事件に係る裁判,検察官,検察事務官若しくは司法警察職員が行う処分,刑若しくは保護処分の執行,更生緊急保護又は恩赦に係る保有個人情報のうち,当該裁判,処分若しくは執行を受けた者,更生緊急保護の申出をした者又は恩赦の上申があった者に係るものについて,開示請求等の法の規定を適用しないと定めた趣旨は,これらの保有個人情報には,本人の前科,前歴,逮捕歴,勾留歴等を示す情報が含まれており,これらの保有個人情報を開示請求等の対象とすると,本人の前科等が本人以外の者に明らかとなる危険性があり,本人の社会復帰や更生保護を図る上で本人の不利益になるおそれがあるため,このような弊害を防止しようとするところにあるものと解される。なお,死刑確定者として刑事施設に収容されている者についても,再審等による社会復帰の可能性があることを考えると,上記のような不利益を受ける危険性がないとはいえないから,同項の適用があるものと考えられる。

 そうすると,死刑確定者を含め,刑事収容施設における被収容者の処遇に係る個人情報で刑事収容施設が保有するものについては,これを開示請求等の対象とした場合,そのような個人情報を刑事収容施設が保有していることが明らかとなり,これによって当該被収容者本人が被疑者,被告人,受刑者,死刑確定者等として刑事収容施設に現に収容され,又はかつて収容されていた者であることが明らかとなり,その者の社会復帰や更生保護を図る上でその者の不利益になる危険性があるから,まさに法45条1項の適用によって本人の利益を保護すべき保有個人情報に当たるというべきである。したがって,同項の規定が,このような保有個人情報の一部について,あえて同項に定める保有個人情報から除外しているとは解し難い。

 また,法45条1項の文言をみても,刑事収容施設における被収容者の処遇は,勾留状の発付や懲役刑等を言い渡す判決などの刑事事件に係る裁判の内容を実現させるための被収容者の収容に必然的に付随する作用であるから,そのような処遇に係る保有個人情報は,同項の「刑事事件に係る裁判に係る保有個人情報」に該当すると解することができ,また,刑事収容施設における被収容者の処遇のうち,受刑者に対するものは,刑の執行としての刑事施設への拘置に必然的に付随する作用であり,死刑確定者に対するものは,死刑の執行行為に必然的に付随する前置手続としての刑事施設への拘置に必然的に付随する作用であるから,受刑者又は死刑確定者の処遇に係る保有個人情報は,同項の「刑の執行に係る保有個人情報」にも該当すると解することができる。

 そして,以上のことは,当該個人情報に係る処遇の内容が,刑事収容施設の被収容者に対して講じられた医療上の措置に係るものである場合でも,何ら他の場合と別異に解すべき理由はない。

 以上によれば,刑事収容施設の被収容者に対して講じられた医療上の措置に係る個人情報で刑事収容施設が保有するものについては,それが受刑者又は死刑確定者に係るものである場合には,法45条1項の「刑事事件に係る裁判に係る保有個人情報」及び「刑の執行に係る保有個人情報」に,その他のものである場合には,同項の「刑事事件に係る裁判に係る保有個人情報」に,それぞれ該当し,開示請求に関する法の規定の適用から除外されるものと解するのが相当である。

2 原告は,自己の医療情報の開示が,本人の社会復帰や更生保護上の不利益になるおそれはないと主張する。しかしながら,前示のとおり,自己の医療情報であっても,それが刑事収容施設の被収容者としての立場において受けた医療上の措置に係るものであり,かつ,当該情報を刑事収容施設が保有している場合には,これを開示することによって,本人の刑事収容施設への収容歴が明らかとなり,その社会復帰や更生保護上の不利益になるおそれがある。

 すなわち,証拠(乙4,7)によれば,法45条1項は,たとえば雇用主が,採用予定者の前科の有無やその内容をチェックする目的で,採用予定者本人に開示請求させることなどを慮って法第4章の適用除外としたものであると解されるところ,雇用主が,採用予定者の前科の有無やその内容をチェックする目的で,刑事収容施設の被収容者として受けた医療上の措置に関する情報を採用予定者本人に開示請求させるならば,本人が刑事施設に収容されていたことが明らかになるのであって,本人の社会復帰や更生保護を図る上で本人の不利益になるという弊害を防止しようとする趣旨がこの場合にも当然に当てはまるものと解される。

 また,原告は,被収容者が刑事施設内で医療を受けた場合には情報が開示されず,たまたま刑事施設外の病院等で医療を受けた場合にのみ情報が開示されるというのでは不合理であると主張する。しかしながら,被収容者が刑事収容施設外の病院等で医療を受けた場合の当該病院等が保有する当該被収容者に係る個人情報は,これを開示しても,必ずしも直ちにその者の刑事収容施設への収容歴が明らかとなるものではない場合があるのに対し,被収容者が刑事収容施設の被収容者としての立場において受けた医療上の措置に係る個人情報で刑事収容施設が保有するものは,これを開示することによって,直ちにその者の刑事収容施設への収容歴が明らかとなるものであるから,これらの個人情報の間で開示不開示の取扱いを異にすることは前記の立法趣旨に照らして不合理であるとはいえない。

 さらに,原告は,刑事収容施設が保有する診療録等の部分開示の可能性も指摘する。しかしながら,診療録等の部分開示によっても,それが刑事収容施設の保有する診療録等である以上,当該刑事収容施設が本人の処遇に係る情報を保有していることが明らかとなり,本人の刑事収容施設への収容歴が明らかとなってしまうことに変わりはないから,この点に関する原告の指摘も失当というべきである。

3 以上検討したところを本件についてみると,たしかに,原告主張のように,本人が受けた医療に関する情報を入手したいという要請は十分に理解できるものではあるものの,前記の立法趣旨に照らせば,それを特別に許容すべき法律上の手当が何ら存在しない以上,刑事収容施設の被収容者に対して講じられた医療上の措置に係る個人情報で刑事収容施設が保有するものについては,法45条1項の対象となるといわざるを得ない。

 そして,本件保有個人情報は,別紙のとおりの情報であり,刑事収容施設の被収容者に対して講じられた医療上の措置に係る個人情報で刑事収容施設が保有するものであることが明らかであるから,本件保有個人情報のうち,原告に対する死刑判決が確定した▲年▲月▲日より前の措置に係るものについては,法45条1項の「刑事事件に係る裁判に係る保有個人情報」に,同日以後の措置に係るものについては,同項の「刑事事件に係る裁判に係る保有個人情報」及び「刑の執行に係る保有個人情報」に,それぞれ該当し,開示請求に関する法の規定は適用されないというべきである。
 したがって,本件保有個人情報の全部について,法45条1項該当を理由に開示しないこととした本件不開示決定は,適法である。

第4 結論
 以上によれば,原告の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 定塚誠 裁判官 古田孝夫 裁判官 工藤哲郎

(別紙)
 東京拘置所が保有する原告に関する下記情報
1 ▲年▲月,○○の訴えにより○○検査が実施されたが,これに関する一切の記録(診療録,検査結果を含む)
2 ▲年▲月▲日,○○の訴えにより○○CTが施行されたが,当該検査に関連する一切の記録(診療録,検査結果(CTフィルム)を含む)
3 東京拘置所への入所以来,現在に至るまでの○○科受診に関する一切の記録 以上
以上:6,894文字

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