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高低差のある土地の境界擁壁修繕費用負担に関する判例紹介3

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平成29年 2月20日:初稿
○「高低差のある土地の境界擁壁修繕費用負担に関する判例紹介2」の続きです。
傾斜地等においては、そのまま何もしないで放置しておくと、土砂の崩落が起こる場合が少なくないところ、一般的な物権的請求権の観念からすれば、このような場合、下方の土地の所有者、占有者は上方の土地の所有者に対しその費用負担において妨害予防請求等をなしうるとも言えます。しかし、その結果は上方の土地の所有者に酷な場合が少なくなく、このような場合、妨害予防等の請求はなしえず、相隣関係の規定を類推し、共同の費用をもって予防の措置を講ずべきであるとした昭和58年3月17日東京高裁判決(判タ497号117頁)全文を紹介します。

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【判旨】
一 防護擁壁設置請求について
1 控訴人が控訴人所有地(一)及び(二)を所有し、その両地上に控訴人居宅を、控訴人所有地(一)上に控訴人工場をそれぞれ建築所有して、右両土地を占有していることは当事者間に争いがない。

2 控訴人は、右両土地の所有権又は占有権を妨害されるおそれがある旨主張するので、これを検討する。
 被控訴人が右両土地に隣接してその北西側上段に位置する被控訴人所有地を所有しているが、同所有地は被控訴人が昭和30年に訴外Aから買受け、以来これをみかん畑として占有耕作してきたこと、被控訴人所有地のうち控訴人所有地(一)及び(二)に隣接する部分は控訴人所有地(一)及び(二)側に向け急傾斜しており、その表層は俗に「まぐそ岩」と呼ばれる極めて風化し易い土層であること及び昭和49年7月7日の夜の豪雨に際し被控訴人所有地の土砂が控訴人所有地内に流入したことは当事者間に争いがない。

 右の事実に、〈証拠〉を総合すると、控訴人所有地(一)及び(二)と被控訴人所有地とはもと一筆の土地で、訴外Aの所有であり、そのうち山裾に当る部分はほぼ平坦で野菜畑となつており、その北西側上段の傾斜面(山側)に当る部分はみかん畑となつていたが、控訴人は昭和26年秋ころ右土地のうち山裾に当る公道沿いの部分を買取り控訴人所有地(一)及び(二)と分筆のうえ所有権移転登記を経由し、昭和28年ころ同土地のうち北西側山裾の傾斜面に接する部分の土を削り取つて整地したうえ、同年12月ころその地上に控訴人居宅を建築し、次いで控訴人所有地(一)上に木造二階建工場(以下、「旧工場」という。)を建築し、次いで昭和45年旧工場を取毀し、同年中にその跡地に現存の控訴人工場を建築し、同工場で印刷業を営んでいること、他方、被控訴人は昭和30年7月Aから前記土地のうち控訴人所有地(一)及び(二)の北西側上段の傾斜面(山側)に当る部分を買い取つて被控訴人所有地として所有するにいたり、以来これをみかん畑として占有耕作していること、被控訴人所有地のうち控訴人所有地(一)及び(二)と隣接する部分は従来から土砂崩落を繰り返えしており、殊に昭和41年秋ころには同地の土砂が控訴人所有地(一)内に崩落し、これにより同所内の被控訴人所有地との境界付近に植栽してあつた檜一本が旧工場の裏に倒れたことがあり、昭和43年には同様に控訴人の旧工場内に土砂が流入し工場内の印刷機械に被害を生じたことがあり、昭和46年5月ころにも同様に控訴人の居宅の床下に土砂が流入し、控訴人方の水道管が切断されるなどの被害があつたことがあつたところ、昭和49年7月7日夜本件事故の際には被控訴人所有地内に地滑りが生じ、被控訴人所有地内の土砂、水など大量が控訴人所有地(一)及び(二)内に崩落流入するなどし、控訴人が多大の財産的損害を蒙つたこと、被控訴人所有地内にはその後も時々小規模の土砂の崩落が生じていること、以上の事実が認められる。

 右の事実によれば、被控訴人所有地内の土砂等が将来大量の降雨の際などには再びかなりの規模による崩落を生じ、これが控訴人所有地(一)及び(二)内に流入する危険があることを推認するに難くなく、これを覆えすに足りる証拠はない。してみれば、控訴人は被控訴人所有地内からの土砂等の崩落により控訴人所有地(一)及び(二)の所有権又は占有権の円満な状態が侵害される危険があるということができる。

 ところで、およそ所有権又は占有権の円満な状態が他から侵害される危険があるに至つたときには、所有権又は占有権を有する者は、その効力として、権利の円満な状態を保全するため、現にこの危険を生ぜしめつつある者に対しその者の費用において危険防止の措置を請求することができ、しかも当該危険が右の者の行為に基づくと否とを問わず、又、その者の故意、過失の有無を論じないものというべきであるが、右の危険が相隣地の関係にある場合に、それが土地崩落を内容とするものであり、しかも隣接土地所有者の人為的作為に基づくものでないときには、前記の請求をなし得ないものと解するのが相当である。

 けだし、相隣地の関係にある場合には、右のような危険は相隣地両地に共通に同時に発生する特性を有するものであり、右予防措置を講ずることは相隣地両地にとつて等しくその必要性があり利益になるものといえるうえ、これを実施するには多大の費用を要することが一般であるから、このような場合において、一方の土地の所有者又は占有者にかかる請求権を認めることは著しく衡平に反するものといわねばならないからである。そして、このような場合には、むしろ土地相隣関係の調整の立場から民法223条、226条、229条、232条の規定を類推し、相隣地所有者が共同の費用をもつて右予防措置を講ずべきである(なお、予防措置のための工事の実施、費用分担などについては、まず相隣地当事者間で協議し、もし協議が調わないときは、一方でこれを施工したうえ、他方にもその分担すべき費用の補償を請求すべきである。


 そこで、本件において前示危険が被控訴人の人為的作為に基づくものであるか否かの点につき審究する。
〈証拠〉によれば、被控訴人は前示のように、昭和30年7月被控訴人所有地を買受けて以来、これを占有、耕作するに至つたものであるが、買受後間もない頃それまで同地上に生立していたみかんの古木約20本を伐り倒し、その跡地及び空地に3年生のみかんの苗木約50本を植栽し、その際深さ約30センチメートル、直径約50センチメートルの植穴を掘り、その間右みかん栽培のため肥料、農薬を搬入しこれを施したこと(被控訴人がその所有地にみかんの木を植栽し、肥料を搬入したことは当事者間に争いがない。)、昭和49年7月7日の本件事故に際しては、降雨は同日午後8月30分ころ強くなつたものであつて、それ以前はそれほど強くはなかつたところ、午後8時ころ被控訴人所有地内の土砂が控訴人所有地(一)内に崩落し始め、午後9時過ころ更に被控訴人所有地内の土砂と水が控訴人所有地(一)及び(二)内に急激に崩落したものであることが認められるので、本件事故の原因は前示七夕豪雨にあるのではなく、したがつて被控訴人の右行為が前示危険の原因であると考えられる余地もあるかのようであるが、他方、〈証拠〉によれば、被控訴人所有地のうち控訴人所有地(一)及び(二)に隣接する部分は傾斜は急であるが、階段状をなし、いわゆる段畑となつていたこと、被控訴人は前示みかんの植栽に際し、他から土砂を搬入したり、機械を用いて他に大穴を掘つたり、必要以上に耕土を掘り起こしたりしたことはなかつたこと、被控訴人所有地内には右みかん畑以外に工作物は一切存在せず、また被控訴人は右みかん植栽には施肥・剪定・採取などに機械力を用いず、すべて手作業で行い、更に前記段畑の法面には野草をもつて表土を保護するように配慮していたこと、前示数度にわたる被控訴人所有地内からの土砂の崩落はいずれも降雨の際であり、殊に前示本件事故の際にはその約1週間以前から降雨が断続的に存した状況にあつたことが認められ、これに前示被控訴人所有地の表層は「まぐそ岩」といわれる極めて風化し易く、風化するともろく崩壊する性質を有するものであること、被控訴人が被控訴人所有の占有耕作及びみかんの植栽に際し、とくにその崩壊を招くような行為をしたことを認めうる証拠がないことを併せ考えると、前認定の被控訴人所有の占有管理の方法など人為的作為が本件事故はもちろん将来における被控訴人所有地からの土砂の崩落の危険の原因となつているものということは困難であり、みしろ右危険は主として被控訴人所有及び控訴人所有地(一)及び(二)の存する位置、地形、土質の状況に降雨の自然条件が加わつて出現するに至るべきものと考えるのが相当である。

 被控訴人は、被控訴人所有地内からの土砂の崩落の危険は、控訴人がした本件事故後の復旧工事施工によつて原状を大きく変形させ新たに作出された旨主張するのであるが、〈証拠〉によれば、控訴人は本件事故後の復旧工事施工を訴外B建設株式会社に依頼し、控訴人居宅及び工場裏から土砂を排出するとともに、同所に再び土砂の流入の生ずることを防ぐための応急措置として、同所に接する被控訴人所有地内の崩落し易い表層土をかなり大量に削り取つたことが認められるが、前掲各証拠によれば、右復旧工事も被控訴人所有地内の一部について施工されたに止まることが認められるから、前示危険は依然として存することが明らかであり、右復旧工事をもつて新な危険を作出したということはできない。

 そうだとすれば、本件において、被控訴人所有地内から控訴人所有地(一)及び(二)に土砂崩落流入の危険が依然として存在するものの、被控訴人所有地と控訴人所有地(一)及び(二)とは相隣地関係にあるところその危険は被控訴人の人為的作為に基づくものということはできない。しかも、被控訴人所有地はみかん畑であり、控訴人所有地(一)及び(二)は宅地であつて被控訴人所有地内からの土砂崩落防止の必要と利益は被控訴人と控訴人とに共通にかつ等しく存するところであり(被控訴人所有地は収益がそれほど多くないとみられるみかん畑であるのに対して、控訴人所有地は公道沿いの宅地であつて、同地上の本件工場で現に印刷業を営む工場用地兼住宅用地であるから、崩壊を予防することの必要と利益は被控訴人の方がはるかに大である。)、更に右危険防止措置としての防護擁壁設置工事を施工するには多大の費用を要すること〈証拠〉によれば、右工事には少くとも900万円程度の費用を要することが認められる。)からしても、控訴人が被控訴人に対しその費用のみをもつて右防止措置を求める請求権を取得することはできないものというべきである。

 以上のとおりであるから、被控訴人に対し本件防護擁壁設置を求める控訴人の請求は理由がない。
(岡垣學 磯部喬 大塚一郎)

以上:4,443文字

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